大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第81回

2011年05月11日 13時34分54秒 | 小説
『僕と僕の母様』  目次

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僕と僕の母様 第81回



そして前奏から 弾き始めた。 とたんに止まる。 弾き直す、止まる。 その繰り返しで 前に進まない。

「ダメだ弾けない。 陵ちゃん弾いてみて」 お願い事をするときは 大抵「陵ちゃん」 とチャン付けで呼ぶ。

「イヤだよ」 僕は人前で弾くのが苦手だ。 だからピアノを弾く時は いつも誰もいない 僕一人の時なのだ。

「何でよ、弾いてよ お母さん歌うから」 単に歌いたいだけなのかい?

「もういいよ。 今日から毎日部活なんだから 僕はイヤでも 毎日吹いてこなくちゃいけないんだからね」

「いいじゃない、いいじゃない。 一回で良いからお願い」

「もういいって、それよりお腹空いた」

「人間食べなくても 生きていける。 ネー弾いてよー」 ピアノの椅子に座りながら 子供みたいに足をバタつかせてる。 ・・・母様 大人でしょう。

「お腹空いた」 話すんじゃ無かった。

「もう、けちんぼ」 ソロの話は 当分しないでおこう。



次の日 僕は誰よりも早く 部室に入った。

誰も居ないから 部室の中で いつも通り 基礎からやっていく。 そして曲の練習に入ろうとした時に みんなゾロゾロとやって来たから 外の練習に変えようとした。

今日はあまり一年サックスに 付き合っていると 僕のやりたいように 練習が出来なくなっても 困ってしまうので いつもと違う渡り廊下に出て 練習をしようと思い 譜面を持って 部室を出ようとしたら 同級生トランペット達が 部室に入ってきた。

昨日話したのが いいきっかけとなったのか

「何? もう練習始めてたの?」 と聞かれた。

「うん 掃除当番じゃなかったから 早く来れたんだ」 練習したくてとは 恥ずかしくて言えない。

「ああ、そうなんだ。 これから外行くの?」 昨日一度話しただけで こんなに会話が増えるとはすごい。

「うん」 あ、でも次の言葉が見あたらない。

「俺達は限界ピークだけど お前は頑張れよ」 そう言ったかと思うと もう一人が

「今度の三年生を送る会が終わったら 俺等破裂するかもしれない」 どういう意味だろう? 喧嘩するって事かな?

「えー 何言ってんの」 それ以外の言葉が出てこない。

すると 最初に話しかけてきた方が もう一人に向かって

「あいつが来る前に 俺等も外に出てやんない?」 と言い出した。 

「お前なー 昨日充分恥かいたろ 俺達のはまだまだなんだから それにまた冷やかされるじゃんか」

「はは、そっか言えてるな」 何のことだ?

「え、いつも中庭で 練習してるんじゃなかったの? 昨日中庭に居たよね」 あれ? 見間違いか? そんなはずはないよな。

「ああ 昨日? 昨日は勇気を振り絞って あとの2人と4人で中庭に出たわけよ。 知らない間にアイツも ついて来てたけどね。 それはいいんだけど ・・・ああ、良くない 思い出しただけで ムカつく」 もう一人の方が そう言うと 最初に話しかけてきた方が

「昨日初めて 外で吹こうって事になって 4人で中庭に出たんだけど 俺達のレベルって 聞けたもんじゃないじゃんか 通るヤツみんなに冷やかされてさ 恥ずかしかったの何のって 二度とゴメンだよ」 笑いながら言ってるけど 相当恥ずかしかったんだろうな。

そして続けて 

「じゃ、俺等は部室でやるから頑張れよ」 

「おう」 そう返事して僕は部室を出て いつもと違う渡り廊下で 練習を始めた。





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