大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第78回

2014年02月28日 14時44分14秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 第51回からは以下からになります。

第51回第52回第53回第54回第55回第56回第57回第58回第59回第60回
第61回第62回第63回第64回第65回第66回第67回第68回第69回第70回




                                             



『みち』 ~未知~  第78回



座椅子にキチンと座りなおすと

「身体がだるいも何も、もうどうでも良くなってきちゃった・・・コーヒーでも飲もう・・・」 コーヒーを入れにキッチンに立った。

テーブルを見ると会社の帰りに買ってきたサンドイッチと菓子パンがある。

「パンを見ちゃうとお腹が空いてきちゃうわ」 コーヒーとサンドイッチを持って和室の机に置き、カーテンを開けるといい天気だ。

「わぁ、いいお天気」 空を見ていると玄関で新聞の入った音がした。 玄関まで取りにいき新聞を片手にサンドイッチを食べ始めた。

「面白そうな番組はないわねぇ。 ダラダラ過ごすと今日は一日退屈な日になるのかしら」 そして今度はとっておいた旅行会社の滝の広告を見た。

「やっぱり行こうかしら。 山の中で森林浴もいいし滝でマイナスイオンを浴びるのもいいわよね」 じっと広告を見る。

「・・・おかしいわ・・・どうしてなのかしら・・・」 そこじゃないからだよ。

何度広告を見てもそこへ行きたい気になれない。

「・・・ここじゃないわ。 ・・・あっちよ!」 やっと気付いたみたいだね。

腰をあげたと思ったら

「あっと、その前に滝で思いっきり遊びたいからお腹が空いても困るわよね。 菓子パンも食べていきましょう」 コーヒーカップを手に持ちキッチンで菓子パンを食べ始めた。
ああ、そんなに食べちゃあ・・・。

コーヒーにサンドイッチ、菓子パンを食べて出かける準備を始めた。

家を出てバス停へ向かうと 朝早くにも関わらず両手を杖の上に置いた老人が先にバス停のベンチに座っていた。

「おはようございます」 軽く会釈をしてベンチの横に立った。

「おはようさん。 朝は涼しおすなぁ。 こんな早ようからお出掛けどすか?」 関西の人間のようだ。

「はい。 京都の方へ」 

「京都どすか。 お盆やさかいになぁ。 ご実家か親戚さんのおうちどすか? わたし、京都の嵐山の出身ですんや」

「そうなんですか。 残念ながら京都に親戚がいるわけじゃないんです。 愛宕山の方にある滝に行こうと思いまして」

「愛宕山の方?・・・はぁ、はぁ、愛宕山の空也(くうや)滝どすか」 

(空也滝って言うのね) 滝の名前も覚えていなかったようだ。 ここも琴音のアバウトさだが、今またもう一つ琴音のアバウトさが出た。 老人の言葉をキチンと聞かなかったようだ。 老人は『愛宕山の空也滝』 と言ったのだ。

「その滝ご存知ですか? まだ一度も行った事がないんですけどいい所ですか?」

「あそこはよろしおす。 行くに値する人には・・・」 優しかった目が前を見据えて厳しくなったが

「あ、すんませんな。 ええとこどすえ」 元の老人の表情に戻った。

「そうですか。 良かった」

「愛宕山もよろしおすけど、嵐山には行ったことはあらしまへんのか?」

「はい、一度もありません」

「そうどすか。 せやけど、どうせ行かはるんやったらいっぺんぐらい嵐山にも行かはったらどうどすか?」

「あ、そう言えば 京都駅から清滝に向かうバスに乗ったときに嵐山を通りますよね」

「そうどすなぁ、そこでいっぺん降りはってもよろしおすけど・・・そやなぁ、阪急乗る言うても、ややこしおすしなぁ・・・帰りにでも途中で降りはって渡月橋(とげつきょう)・・・ほう、今やったらきっとみんな足漬けて桂川を渡ってますわ。 行きか帰りか、どっちかを嵐山で降りはって裸足で桂川を渡らはったらどうどすか? 暑い時は気持ちよろしおすえ」

「夏の暑い時に素足で川・・・素敵! そうですね。 やってみようかしら」

「はいな。 あ、堪忍やで。 お若いんやから嵐山の賑やかな方がよろしおすなぁ。 渡月橋の向こうは静かでちょっとのお茶屋があるだけどすさかいに お若い人が好むようなもんはなんもあらへんなぁ」 朝が早い。 バスのエンジンの音が聞こえる。

「静かなほうが好きですから。 賑やかな方は沢山お土産物屋さんがあるんですか?」

「ようさんありますで。 神社もありますし・・・せやけどそっちの方は今は人だかりで動くんも大変なんと違うかいなぁ。 あらま、行け言うたり行くな言うたりややこしい事言いましたな」

「そんなことないです。 参考になりました」 バスが停留所に着いた。

「バスが来ましたな。 ほな、行ってらっしゃい」 老人はベンチに座ったままだ。

「乗らないんですか?」

「散歩の途中どすんや」

「あ、休憩されてたんですね。 お話を聞かせていただいて有難うございました。 じゃあ、行ってきます」 一人バスに乗り込んだ琴音。

「早すぎるくらい早いんだから 寄り道してもいいかもね」 バスの中も琴音一人だ。 

琴音気付いてるかい? 今日もバスの時刻表を見てこなかっただろう? それなのにナイスタイミングでのバスだっただろう? それに老人に教えてもらった事、忘れるんじゃないよ。 必ず実行するんだよ。

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みち  ~未知~  第77回

2014年02月25日 14時15分33秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第77回



翌日会社の昼休みにPCで調べてみた。 すると確かに「滝」 と書かれてあった。 だがここで琴音のアバウトさが出た。

「あ、やっぱり書いてあったわ。 愛宕山の方に行けば滝があるのね」 それで終わってしまったのだ。

「一応此処にもあったという事で あとは当日まで他にいい所があったらそこに行けばいいわね」 その後、旅行会社の広告で2ヶ所ほど気に入った滝があった。 何処も軽いハイキングコースとなっている。

「遠い所にいくわけじゃないんだから 旅行会社を通さなくてもこれくらいなら自分で行けるわよね」 極力近場を見ていたのだ。


明日からはとうとう盆休みだ。
夏という事もあって寒いわけではない。 会社から帰ってすぐに風呂は沸かさずシャワーを浴びた。 濡れた髪の毛をタオルで拭きながら和室に腰を下ろした。

「はぁ、明日から連休か。 早速明日行こうかしら」 机に置いてあった滝の広告を見て

「どっちに行こうかしら。 どっちも山の中、気持ちよさそうでいいわね」 滝があるんだからそりゃ山の中だろう。

「決めかねちゃうわ・・・ま、明日になってからでもいいわよね」 行くルートは両方とも既に分かっている。

「ちょっと早めに起きてゆっくりと風景を楽しみながら行けばいいわよね。 ってことで今日は本を読まないで早めに寝ましょうか」 ドライヤーを当てに洗面所へ向かい その後、軽く夕飯の準備をした。
夕飯を済ませテレビを点けると仏像が映し出されていた。 十二神将を題材にしていたのだ。

「へぇー、みんな怖い顔をしてるのね・・・薬師如来を守っている?・・・へぇー、そうなんだぁ」 仏教の勉強をしてきたからか少々興味があるようだ。

「・・・伐折羅大将(バサラ大将)!? ふーん、この仏像昔は色がついていたのね。  あ、そう言えば前に仏像の本を見たときに凛とした感じを受けたあの仏像よね。 へぇー、色がつくと全然イメージが違うわ。 結構カッコイイじゃない」 仏像に対してカッコイイとは無礼な。

慌てて携帯を出し、テレビに映し出された仏像の写真を撮った。

「待ち受けにしちゃおっと」 他の人に見られないようにね。

暫くテレビを見ていたが 仏像の番組が終わると

「うーん・・・。 まだ寝られそうにないわ」 会社の鞄の中から本を出して

「1時間くらいなら読んでもいいわよね」 本を読み出したがふと気がつくと午前2時になりかけていた。

「あ!もうこんな時間じゃない。 明日は早いんだからもう寝なきゃ」 歯磨きをしてすぐ布団に入った。


翌日5時に目が覚めた。

「えー、どうしてこんなに早く目が覚めるのよ。 いくらなんでも早すぎない? それに3時間くらいしか寝られてないじゃない・・・なのに全然眠くないって・・・」 まだ鳴っていない目覚ましのアラームをオフにし、キッチンに向かった。

「コーヒー・・・まだいいか。 このままちょっとゆっくりしてよう」 座椅子に座りテレビを点けかけたが

「朝のテレビはいいか・・・」 まだカーテンも開けていない。 薄暗い部屋の中にカーテンの向こうから朝日の光がわずかに感じられる。

「あーあ、出かけるのが億劫になってきたわ。 寝不足だから身体もだるい」 座椅子に座っていてもしっくりこないようで座椅子をずらし横になった。

「今日はこのままダラダラ過ごそうかしら」 目を瞑った途端 

「あら、今日の瞼の裏はドットが粗いわね」 だが良く見るとドットが荒いのではなく 瞼の裏に沢山の正方形の形が見えたのだ。

「正方形? 正方形がずっと並んでいるの? 瞼の裏全部、正方形? 何かの模様かしら?」 いくら見ても分からない。

「もう、瞼の裏の相手をしてるとずっと目を開けてるみたいだわ。 気にしないでおこう」 そう言って右に寝返りを打った。 すると今度は

「あら、今度はドットが細かいのね」 見ないでおこうとしても見えてしまう。 そしてついうっかりじっと見ていると段々と鮮明になってきた。

「何かしら?」 見ようとするとつい目に力が入る。 
より一層見たいと思えば目を開けるという条件反射。 琴音の目が開いた。 だがその寸前に見えたものがあった。

「水面?」 ギリギリ寸前で見えたのだ。 
もう一度目を瞑ってみたが今度は何も見えない。 再び目を開け身体を起こし見えたものを整理しだした。

「そうよ、水面の揺らめきを見たわ」 水面に風が当たるとほんの少し揺らめく。 それを見たのだ。

「最初に見えたのは・・・砂利・・・そうだわ。 水面が見える前には水の中に沈んで川の粗い砂をアップで見てたのよ。 川の砂だからドットが細かいと感じたのよ。 砂利を柄のドットと勘違いしてたのよ。 それから・・・そうよ・・・段々視野がひいてきっと水の上から見たのね。 それで水面が風に揺れる所を見たんだわ。 ・・・でもこれが見えて何なの? 見えたからって今日に何か関係があるの?」 大きく溜息をした。

「私何やってるのかしら。 こんな話をしても誰も信じてくれないでしょうし。 うううん、それ以前よ。 これが見えたからって何なのよ」 また溜息がでた。

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みち  ~未知~  第76回

2014年02月21日 17時56分37秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第76回



小さい頃から当たり前にずっと見えてきたものにも拍車がかかってきたものがあった。
今までは目を開けていても目を瞑っても 光の粒が見えていたのだがその光がもっと輝きだしピカピカと点滅をしだした。
それに目を瞑ると見えていた色んな色が今までは優しくジワッと広がったり閉じていったり形を変えたりと穏やかだったものが まるでボカンボカンと爆発をするように見え出した。
ただ、何においても今度見えたらそれを解明しようとか、もっと見てやろうと思う邪心が働くと見ることが出来なかった。 見えている途中に少しずつフェードアウトして真っ暗になる。
それだけに不意を突かれた時に見えるので 

「はぁ、気軽に目も瞑れないわ」 と、こんな感じだ。


夜、電話が鳴った。

「もしもし? あ、お母さん?」

「どう? 元気でやってるの?」

「うん、大丈夫よ私は元気よ。 お父さんとお母さんはどうなの? どこか具合が悪くなったりしてない?」

「うん、元気、元気。 琴ちゃんもあとちょっとでお誕生日ね。 お誕生日の日に電話をしようと思ったんだけどね」

「別にいいわよ、それより今度の8月の連休には必ず帰るからね」

「そのことで電話したのよ」

「何? どうしたの?」

「それが急にお盆に本家の方にみんなで集まる事になっちゃったのよ」 本家というのは母親の実家だ。

「あら、そうなの。 せっかく5月に行けなかったから今度こそはって思ってたのに」

「急な話でね」

「また今度の連休に帰るから気にしないで行ってきて」

「ごめんね」

「お父さんもお母さんも元気にいてくれてるんだったらそれでいいから。 岡山の叔父さんと伯母さんも来るの?」 連休に帰る事が出来なくなったのだから 母親と沢山話をしようと長い会話を続けた。

電話を切った琴音。

「さて、長い連休が退屈になっちゃうわね」 他の誰かを誘おうにもみんな連休は既に予定が立っているであろう。

「まぁ、先の話なんだから 何とでもなるわよね」 まだ7月だからね。 それに連休の計画は整っているから退屈にはならないよ。

7月も終わりに差し掛かってきたが 目に見えたり耳に聞こえたりすること以外は特に変わったことはなく毎日を過ごしていた。


琴音41歳。
携帯を見るとおめでとうメールが幾つか入っていた。

「あーあ、41歳かぁ・・・」


8月に入るとさすがに暑さに鈍感な琴音であっても 自転車をこいで会社まで行くとなると少しは汗も出てくる。

「あつーい」 信号で止まっては手で顔を扇いでいる。 

日焼け防止に長袖を着、手には紫外線防止の手袋だ。 

「顔も焼けそうだわ。 大きな帽子を買おうかしら」 朝は朝日に向かって、仕事帰りは夕日に向かって自転車をこぐ。 日差しが気になるのは仕方がないか。

「こう毎日暑いと 水に浸かりたいわね」 ふと滝が頭に浮かんだ。

「滝・・・そうね、連休のいつでもいいから一度滝に行ってみたいわ」 滝に遊びに行った事はない琴音。 何処に滝があるのかも分からない。

それからは軽い気持ちで新聞広告や、旅行会社の広告を滝を目当てに見ていた。

「あら、ここ良さそうね」 旅行会社の広告。 ハイキングがてら行ける滝である。 じっと広告を見るが

「うーん、何かが違うわねぇ・・・」 その何かが分からない琴音。

「あ、そう言えば愛宕山に行った時どこかに滝って書いてあったような気がするけど」 記憶を辿るが全く覚えていない。

「明日会社のPCを借りましょう」


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みち  ~未知~  第75回

2014年02月18日 15時16分34秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第75回



本を鞄に入れて家に帰った琴音。 

「でも確かにテープを流していた事は本当だったのね。 テープのノイズが聞こえてもおかしくはなかったという事。 ・・・待ってよ、どう考えても分からないわ。 大体テープのノイズなんてそうそう聞こえないじゃない。 それにテープの録音が終わる音まで聞こえるなんて」 考え込むが分からない。 だから今はまだ考えても無理だって。 それに考える必要もないよ。

「あーあ、考えても分からないわよね。 第一、どうして鐘の音があんなに大きく聞こえたのかも分からないのに。 ・・・悪い事が起きた訳じゃないんだから考えるだけ疲れるわ」 色んな音、目に見えるものに慣れて・・・ではなく、投げやりにも認めだしてきた琴音。


では、これはどうかな?

出勤日、いつもより早く目が覚めた。

「あー、こんなに早く目が覚めちゃった」 布団の中でゴロゴロし、もう一度寝ようとしても寝付けない。
仕方なく目覚ましのアラームをオフにしてキッチンに行きコーヒーを入れた。 コーヒーを持ち和室へ行きカーテンを開けた。

「わぁ、いいお天気」

テレビのスイッチを入れ座椅子にもたれながら早朝のテレビ番組を見たが

「朝の番組って面白くない・・・」 テレビを切り座椅子をずらして横になった。

「あーあ、どうやって時間潰そうかしら」 うん、琴音は本を読むと時間を忘れて読み入ってしまうからね。 そうなると会社に行くことを忘れてしまうから本は読まない方がいいね。

「でもこうやって朝早くからダラダラするのもいいかもしれないわね」 自分の考えに呆れて笑みがこぼれ大きく溜息をつきながら目を瞑り身体の向きを右へ向けた。

すると目の前に いや、瞼の向こうにリアルな現実らしきものが見えた。
一瞬、全体が見えたようだったがすぐある一点だけにズームアップになり辺りは見定められなかった。

「これは・・・何? 現実のどこかが見えてるの?」 焦ってしまって冷静に考える事ができない。

最初に見えたのは石段の様な所が見えたのだ。 そしてそこを見ている視線は今の琴音のように寝転んで見ている角度だ。 上からでも前からでもない。 石段の右隅には一輪の花が咲いていた。
ただズームアップになったのは石段だけで 一瞬見えた花が何の花だったのかを確認したくなった琴音、右隅を見ようと意識するが意識すればするほど左から視野が失っていき暗く、黒くなってしまう。 最後には何も見えなくなり瞼の裏には何も見えなくなってしまった。
思わず跳ね起きた琴音。

「今のは何処だったの? それに石段? 石垣だったのかしら・・・うううん、もしかしたら何かの塔のような物の下の方の段だったかもしれないわ。 少なくともブロックじゃなかったわ。 石と石の隙間にお花・・・黄色だったかしら・・・」 記憶を辿ろうとするがあまりの一瞬で辿ろうにも辿れない。

「ああ、駄目だわ、分からない。 でも何かが全然違うわ。 ・・・そうよ、現実に見るよりも、もっとはっきりと綺麗に見えたんだわ」 そして

「今まではもしかしたら私の勘違いかもしれないってどこかで思ってたけど今度は違うわ。 はっきり見たわ」 布団の中で見るとどこかで寝ぼけていたかもしれないと考えていたのだが これだけ朝の太陽の射す中ではっきりと見ると疑いようもないわけだ。

それからは 目を瞑ると今回の見え方とは違って上から何かを見ているという事が数回あった。
それも時には時代を超越して・・・。

何度か見たのは中世のヨーロッパらしき時代だ。
幼い二人が手を取って路地を逃げている様子をかなり上から見ている。
他には貧しそうな家の雰囲気を漂わす部屋。 その部屋の木のテーブルに置かれた白い紙。 男性がその紙に何かを書こうとしているが何を書こうか発想が出てこず頭を抱えている様子。
またある時は、大きな宮殿の天井から見ている。 奥の扉から貴婦人がつかつかと歩いてきた。 その貴婦人の顔を見たいと思った瞬間、貴婦人のほぼ斜め上に視野が移った。 するとその貴婦人が歩を止めたかと思うと琴音のその視線をキッと睨んだように見えた。 驚いた琴音はそこから意識を外すと目の前がスッと真っ暗になった。

いろんなことが急に見え出して驚く反面、全てを受け入れだした琴音。 だが腑に落ちないことがある。
「どうしてこんな場面が・・・時代が見えるのかしら・・・」

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みち  ~未知~  第74回

2014年02月14日 13時10分25秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第74回



「そう言えばいつからだったかしら 瞼の裏が3Dみたいな感じになってきてたわよね」 そう思った瞬間
(ここは宇宙だわ) そう感じた。

「何て綺麗なのかしら」 もう常識では考えられない事を簡単に受け入れていくようになってきた。

「でもこれって 瞼の中だけなのかしら」 目を開けて見てみたいという気持ちがあるが

「目を開けたいけどもし見えなくなっちゃったら・・・」 そう思う気持ちがあったが 

「私の単なる思い込みじゃなければ目を開けても見えるはずよね」 確かめたい気持ちの方が大きくなってきてそろっと目を開けてみた。 すると

「わぁ、なんて綺麗なの」 目を開けるとそこは琴音の部屋ではなく宇宙だった。

あまりの美しさに身体を起こしてあちこちを見るが 何処を見ても琴音の部屋の家具などはない。 ただただ綺麗な宇宙が広がっている。 
ベッドの上に立ち上がり両手を広げた。 すると感情が混みあがってくる。

「宇宙ってこんなに広くて・・・」 その時に涙が出てきた。

「こんなに美しくて優しい空間に抱かれていたのね・・・人間って何てちっぽけなのかしら。 言葉では知ってたけど・・・。 何に悩んで何を考え込むのかしら・・・。 あるがままに生きればいいのよね」 心の中は綺麗だなどという思いはなくなり、感謝と安堵の念が広がった。

座りなおしその想いに暫く浸っていたが、また横になり部屋中の宇宙を見ているうちに眠りについた。



瞼の中や目を開けて見える物も色々あったが 耳に聞こえる方にも 琴音の勘違いではない事が証明されるような事があった。

会社の帰りに図書館へ寄った。 この頃には古事記・日本書紀に書かれている神々の事を読み出していた。 
本を選びカウンターへ向かう途中、図書館のキッズコーナー横を歩いた時 子供達の声が耳に入った。

「ねぇ、ねぇ 知ってる? あそこのお寺の話」 小学生達の会話だ。

「知ってるー お寺の鐘打ってないんでしょ」 琴音はあの日のことを思い出し、つい話しに入ってしまった。

「ねぇ、女の子達 何処のお寺の話してるの?」 子供達はちょっとビックリした様子だったが

「あっちのほうにある お寺」 指を指した方角は琴音のマンションの方角だ。

(あ、もしかして・・・あのお寺?) 思い当たるお寺があり一瞬考えたが続けて

「ふーん、そうなんだ。 そこが鐘を打ってないってどういうことなのかしら? 教えてくれない?」

「あそこのお寺6時になると鐘の音がするんだけど それって本当に打ってるんじゃなくてテープを流してるんだよ」 するともう一人が

「そうだよ、私見たもん。 音がしてるのに誰も鐘をついてないんだよ」

「でもそれって他のお寺が鳴らしてるとかじゃないの?」

「違うよ。 あそこのお寺だけがずっと昔から鳴らしてきてたんだよ。 でもみーちゃんが生まれるずっと前にテープに変わったっておばあちゃんが言ってたもん」

「お婆ちゃんが言ってたの?」 するともう一人が

「みーちゃんのおうちはずっと昔から住んでるから みんながみーちゃんのおばあちゃんに分からない事を聞きに行くの。 だからみーちゃんのおばあちゃんのいう事はホントの事だよ」

「おばあちゃん凄いんだよ。 何でも知ってるもん」

「そうなの、お婆ちゃんは物知りなのね。 お話ありがとう」 そう言ってその場を立ったのだが

「いくらなんでも 直線距離にして300メートル以上は離れてるわ。 あそこのテープのノイズが聞こえるなんて・・・」 カウンターに本を置きながらも心は上の空だ。


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みち  ~未知~  第73回

2014年02月11日 14時30分49秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第73回



「なに? どうしたの?」

「うん。 ちょっと待ってね」 目を凝らしている。

その琴音の姿に見入る文香。 琴音は目を凝らして前を見ていたかと思うと何度か目を開けたり閉じたりとしている。 そしてやっと

「ああ、収まったわ」

「どうしたのよ」

「うん。 ここで今みたいに目を閉じていると色が見えなくなっちゃうの」

「色が見えない?」

「他の所ではそんな事はないんだけどね」

「色が見えないってどういう事?」

「上手く言えないけどモノクロになっちゃうって言うのかな」

「どうして?」

「分からない」

「いつから? 初めてここに来てから?」

「よく覚えてないわ。 でも途中からだと思うわ」

「やっぱりここに何かあるんじゃない?」

「どうなんだろう・・・でもどっちかって言ったらそれも右脳開発っていうのかもしれないわね」

「ね、ね もう一度目を瞑ってみて」

「また?」

「いいじゃない、お願い」

「仕方ないわねぇ」 そう言って5分ほど目を瞑ってまた目を開けた。 すると

「あら?」

「なに? どうしたの?」 文香のその声を無視しそしてまた目を瞑った。 

2、3分してまた目を開け あちらこちらを見る琴音。 その様子を伺っている文香。

「あ、ごめん」 我を戻して琴音が言った。

「何がどうしたの?」

「うん。 最初はね何かが違うと思ったんだけど何が違うか分からなくて それで一つの風景だけを覚えてまた目を瞑ったのね。 それでまた目を開けて同じ所を見たらやっぱり足りないものがあったの」

「足りない? ・・・うん、うん。 それで?」

「雑草が見えなかったみたいなの・・・あ、ちょっと待ってね」 不動明王の前に供えられていた生花に意識を集中した。

すると生花以外に見える風景がスーッと色褪せていき雑草は視界から消えていったのだ。 意識を外すと今度は目の端から色が戻ってきて雑草も見え出した。

「意識を集中すると見たいもの意外は目にはっきりと映らないみたいだわ」

「それってどういうこと?」

「分からないわ。 見たいものに集中をするとそれ以外は色褪せたり見えなくなったりするわ」 琴音自身も狐につままれたような口調だ。

「私何て返事をすればいい?」

「その返事にどう返事すればいい?」 二人で顔を見合わせて笑った。

「有ることはあった。 それだけだわ。 文香、何か分かったらまた教えてよ。 帰ろうか」 開き直りの琴音だ。

「そうね。 今は何を考えても分からないものね」 駐車場に向かい帰路に向かった。

右脳開発ねぇ・・・。 まっ、人間的にはそうなるのかな?



それから数日後

また寝付けない夜だった。

「ああ、寝られない」 右、左と寝返りを打つが 一向に寝られそうにもない。

目を開けて薄暗い中 天井、壁を見るが時間潰しにもならない。 

「目を開けてちゃ余計と眠れないわよね・・・」 そしてまた目を瞑ったのだが 暫くして

「え? これって何?」 瞼の裏には無限大に広がる空間があった。

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みち  ~未知~  第72回

2014年02月09日 22時29分58秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第72回



門前で一礼する琴音を見た文香が驚いている。

「あの琴音が門前でお辞儀?」

「冷やかさないでよ」

「信じられない」 琴音が社寺仏閣に対してどれだけ変わったのかを文香は全く知らない。

「一応案内するわね」 

「琴音がお寺の案内・・・」

「まだ言ってるの! 案内しないわよ」

「ゴメン、ゴメン。 案内してください」 決して広い寺ではないがあちらこちらと説明をしていった。

そして本殿の前に立ち静かに手を合わせ 前回、伯母の病院での出来事のお礼を言った。 文香も隣で手を合わせている。

「ベンチに座らない? いつもあのベンチに座ってるの」

「座る」 二人でベンチに座り

「何てことないお寺でしょ? 大きいわけでもないし」

「でも琴音はここで色んなことを経験したんでしょ? 何かあるところよ、きっと」

「じゃあどう? 今日、来てみて文香何かある?」

「だから私は鈍感だから何もわからないって」

「そんなの私も同じよ」

「琴音はそんな事ないって。 あ、そうだ、お礼を言うって言ってたわよね。 それって何なの?」

「実はね・・・」 伯母の時の事を話し出した。

「えー! そんな事があったの? 嘘でしょー」

「まぁ、私の気のせいかもしれないんだけど」

「でも 実際に軽くなったんでしょ?」

「そうなのよねぇー。 それがあるのよね」

「とってくれたのよ、きっと」

「そうね、そうかもしれないわよね。 それとね・・・」 瞼の中に見える色んな模様や光のこと、文字のようなもののことを話した。 すると文香が

「あ、待ってね」 少し考え込んで

「それって右脳開発じゃない?」

「右脳開発?」

「やだぁー 琴音ったらそんな方向から攻めてるのー?」

「なによ何の事?」

「えっとね、右脳を発達させるって言うか、俗に右脳開発って言うんだけど 右脳を鍛えると色んなものが見えたりするらしいわよ」

「私そんなのやってないわよ」

「琴音が何をしてなくてもきっとそっちの方面から開発されていってるのよ」

「右脳ねぇ。 確か芸術とかって右脳だったわよね。 あ、耳ってどうなの?」

「耳?」

「左耳から聞こえた物はどっちの脳で処理してるの?」

「えー! 耳って・・・そう言われればどうなんだろう」

「右の脳で処理してるのかしら?」

「分からない。 でもいいなぁ、羨ましいなぁ」 文香のその言葉を聞き琴音がクスッと笑いながら

「暦の言ってた通りだわ」

「なに? 彼女がどうかしたの?」

「今言った事を暦にも言ったのね、そしたら文香が解決してくれるんじゃないかって言ってたのよ」

「あら、そうなの? 右脳開発の事? でも耳のことは分からないわよ」

「それはいいの。 ただ暦にも文香にも勝てないなぁ」 そうして目を瞑った。 それを見た文香が

「気持ちいい風ね」 そう言いながら文香も同じように目を瞑った。

そのまま暫く静かに風を感じていた二人。 先に文香が目を開け

「そろそろ帰ろうか」 その言葉を聞いて琴音が静かに目を開けた。 すると

「ああ、まただわ」 言葉が漏れた。

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みち  ~未知~  第71回

2014年02月04日 21時04分35秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

第51回第52回第53回第54回第55回第56回第57回第58回第59回第60回
第61回第62回第63回第64回第65回第66回第67回第68回第69回第70回




                                             



『みち』 ~未知~  第71回



金曜日夜

「あ、そうだわ 文香に明日の事もう一度言っておかなくちゃ」 文香の携帯に電話をすると留守電になっていた。

留守電に明日の時間のメッセージをいれ携帯を切った。

「留守電になってるって、こんな時間に何をしているのかしら?・・・え? もしかしてデート? 明日聞かなくちゃ」


翌日早朝

「ふわ、眠い・・・何時?」 目覚ましのアラームより先に目が覚めた。

「6時・・・か・・・まだ寝られるけど・・・もう起きようか」 アラームをオフにした。

「時間はあるからゆっくり出来るわね。 とりあえずコーヒーを飲んでからね」 コーヒーを飲みながら

「文香の家に8時着だから、30分で充分着くわよね。 でも余裕を見て7時15分に家を出ようか」

テレビを見ながらコーヒーを飲み干し今度はトーストを焼きながら2杯目のコーヒーを作り出した。
トーストを食べ終えると歯磨き洗顔と朝の用意だ。

「お化粧は・・・日焼け止めでだけで充分よね。 相手は文香なんだもんね」 着替えて時計を見るとまだ7時になったところだ。

「いくらなんでも今から出るのは早いわよね」 テレビを見て時間を過ごし7時10分

文香に連絡を入れた。

「文香? おはよう」

「おはよう」 寝起きの声だ。

「寝起きね」

「今まだお布団の中」

「あと少しして家を出るから準備しておいてね。 二度寝しないでよ」

「しないー。 ちゃんと起きて待ってるー」 今にも寝そうだ。

携帯を切り、残っていたコーヒーを飲んで忘れ物がないかチェックをして車のキーを持ち部屋の鍵を閉めた。
車に乗り込みエンジンをかけ文香の家に向かう。 休みの日の朝は道も込んでいなく思ったより随分と早く着いた。
文香も玄関で待っていたようで琴音のエンジンの音を聞いて玄関から出てきた。

「おはよう」 助手席のドアを開けて文香が寝起きとは思えない声で言った。

「おはよう。 ちゃんと起きてたみたいね」

「いくらなんでも寝ないわよ」 文香がシートベルトを付けるのを見て琴音が車を出した。

「あ、そうだ メッセージありがとう。 ごめんね携帯に出られなかったの」

「そうよ、聞こうと思ってたの。 まさかデート?」

「あるわけ無いって。 仕事よ、会議」

「えー! あんなに遅くまで会議なの?」

「何言ってるのよ、琴音もそうだったじゃない」

「あ、そう言われればそうだったわ。 そんなに遅くまでって、すっかり忘れてたわ」

「今のところは残業とかってないの?」

「ない。 それどころか就業時間も暇だもの」

「会議で休日出勤とかは?」

「ナイ、ナイ。 そんな事とは無縁の会社よ」

「そんな所ってあるのねー」

「そうね、私も以前だったら想像も出来なかったわ。 まぁ、町の中小企業だからね」

「よく前の会社からかわれたわね」

「そうよね、人間何がきっかけでどうなるか分からないわね。 文香は彼氏を作る暇もないってことね」

「そういう事」 色んな話をしながらも車を走らせている。

インターを下り乙訓寺へ向かう。

「どう? 懐かしい風景とかってあるの?」

「うーん、子供の頃だからなー。 行動範囲が狭いでしょ、それにこっち方面じゃないから」

「あら? そんなに違う方向なの?」

「だってここは長岡京市でしょ? 私がいたのは向日市だもの」

「そうなの? 他の土地はよく分からないわ。 でもどうして違う市なのに乙訓寺のことを知ってるの?」

「琴音が言ってたからじゃない」

「え? 以前から知ってたんじゃなかったの?」

「琴音のスピリチュアルな土地に私も行きたくなっちゃっただけよ」

「なんだ、そうだったの」 そうこうしている間に駐車場に着いた。

車を止め 歩いて行った。

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