大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第146回

2014年10月31日 14時38分12秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第146回



年末 会社の大掃除。

何とか仕事を切りよくつかせ年末を迎える事ができた。

「さぁー 大掃除、大掃除。 今年はどこをどうやろうか」 社長がみんなに声をかけると

「奥の事務所はもうしなくていいですよね?」 一人が言うと

「そうだな。 引越しのときに充分きれいにしてそれから使ってないからな。 もうこっちだけでいいか。 じゃ、こっちだけをサッと済ませようか」 朝から大掃除が始まった。

雑巾掛けをしながら様子を見ていると誰も窓を拭く様子がない。 

「窓、かなり汚れてるわよね」 奥の事務所から脚立を持ってきて窓を拭こうと脚立に上がりかけると

「あ! 織倉さん何するの。 そこは危ないから。 3階から落ちたなんてシャレにならないよ。 蛍光灯を降ろしていくからそれを拭いて下さい」 社長にそう言われ次々と天井から降ろされてきた蛍光灯を雑巾で拭き始めた。 それが終わると日頃拭かないような場所の雑巾掛けをし始めた。

そして12時に近くなりそろそろ掃除をするところがなくなってきた。

「社長、もういいんじゃないですか? 下も終わったみたいですよ」

「そうか、じゃあ、全員下に集合」 全員で1階に降り社長の締めくくりの挨拶だ。

「昨年に続いて今年も酷かった。 まぁ、そんなことを言ったら昨年今年に関わらずだけどな。 と言う事で忘年会もありません。 この一年ご苦労様でした。 ってことで解散」 なんとも軽い挨拶だった。


今年は仕事が無いにも関わらず年末ギリギリまでの出勤だったので部屋の大掃除をする間がない。 このまま実家に帰るしかないのだ。
マンションに帰ると買って帰ったおにぎりをサッと食べてすぐに実家へ帰る用意を始めた。 

「さ、これで準備は良しっと・・・何時に出発しようかな」 ゆっくりとお茶を飲んでいると電話が鳴った。

「もしもし」

「琴音か?」

「あ、お父さん どうしたの?」

「いや、特に何っていう事はないんだけどな何時にそっちを出るんだ?」

「どうしようかと思って、あまり早く出ても高速が混んでるだろうし」

「そうか、でもさっき天気予報を見てたら今晩は相当冷えるみたいだから道路が危ないぞ。 早目に出たらどうだ?」

「そうなの? それなら早く出るわ」

「じゃあ、気を付けて来るんだぞ」

「うん。 待っててね」 電話を切った。

「さて、どうしようかな・・・混んでてもいいか・・・急ぐわけじゃないものね」 残っていたお茶を飲んで家を出た。


実家では台所からお盆にお茶を乗せてやってきた母親が父親に話しかけている。

「お父さん今電話してた?」 

「ああ、琴音に電話したよ」

「琴ちゃんに?」 お盆を机に置き座った。

「夜は冷えるみたいだから早目に出たらどうだって言ったんだよ」

「どうしてこっそり電話するんですか!」 父親の前に湯呑みをドンと置いた。

「別にこっそりじゃないだろう」

「私に一言 言ってからでもいいじゃないですか!」 

「何をそんなに怒らなくちゃならないんだよ」 父親がお茶を冷ましながら軽く一口飲むと

「琴ちゃんだって向こうで色々都合があるんだから早く来いだなんて可哀想な事言わなくてもいいじゃないですか」

「冷え込んだら道路が危ないだろ。 車で来るんだから琴音の身体の方が心配だろ」

「もし今日、彼氏とデートだったらどうするんですか!」 自分の湯呑みを両手で包む。。

「いつまでも何を言ってるんだ。 琴音は結婚しないって言ってるだろ。 彼氏もいないよ」

「縁なんていつ何処にあるか分からないんですからね! 熱っ!」 熱いお茶を口に入れてしまった。


そんな話をされているとも知らず琴音は渋滞の中、車を運転していた。

「ああ、やっぱり混んでるー」 車の流れが完全にストップした。。

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みち  ~道~  第145回

2014年10月28日 14時17分17秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第145回




会社に行けば年末も押し迫りいつもの仕事よりはるかに忙しい。

「いつもが気楽すぎるだけに年末となると厳しいわ」 あれやこれやと伝票が飛び回り税理士とのやり取りもしなければいけない。

「もしもし、お世話になっております悠森製作所でございます。 急がせて申し訳ないのですが、もうそろそろ年末調整の額が出ましたでしょうか?」

「はい 出ていることは出ているんですけど この数日、先生が留守をしておりましてまだ先生の判子をとれていないんです。 申し訳ありません」 そこまで聞くと 

「もしかして悠森製作所さん?」 電話の向こうで話しかける声が聞こえた。

「あ、少しお待ちください」 琴音の電話相手がそう言うと

「はい」 何だろうと 琴音が電話の向こうに耳を澄ますと少し離れた所からのようで大きな声で話しかけているようだった。 それによく聞くと少し前までの悠森製作所の担当の声だった。

「悠森製作所さんは先生の判子が無くてもいいわよ。 私がちゃんと目を通したからすぐにファックスを送ってあげて」 そんな声が聞こえてきた。 そして

「あ、もしもし お待たせしました。 今からすぐにファックスでお送りします」

「有難うございます。 じゃあ、お願いします」 すぐにファックスが送られてきた。 それを見て

「全員、還付。 徴収は無しね。 早く計算しなきゃお給料日に間に合わないわ。 それにしても今までの担当さんお偉いさんになったのかしら?」 ファックスを持ち席に着こうとすると

「織倉さん、織倉さん」 小さな声で琴音を呼び止める声がした。 

事務所には琴音の他に男性社員が2人居るだけだ。  呼び止めたのは武藤と話をしていた社員だ。

「はい、何でしょうか?」

「年末のボーナスどうなってますか?」

「あ、ボーナスは残念ながら・・・」

「やっぱり。 あー、帰って奥さんに何て言おう」 天を仰いだ。

「仕方ないよな。 これだけ暇なんだもんな」 話を聞いていたもう一人の社員が会話に入ってきた。

「期末のボーナスも無かったですもんね。 男性は大変ですね」

「あー、この何年まともにボーナス無いじゃんかよー」 今度は机にうなだれた。

「え? でも去年はあったんじゃないんですか?」 ハロワークの求人募集には年に2回と書いてあったことを覚えていた。 

するとうなだれている社員に代わってさっきの社員が椅子を滑らせてきて説明を始めた。

「昔は年に3回出てたんですよ。 それも1回が4か月分とかね。 それが10年位前から 減ってきて5年前くらいからはボーナスもあったり無かったり。 出ても2か月分も無くてね」

「3回も出てたんですか?」 琴音のその言葉を聞いて机にうなだれていた社員が

「そうですよー、 夏もあったんですよ。 それがこんなになって家追い出されますよー」

「あ、でも今月は皆さん還付金がありますからいつもよりはお給料が多いですよ」

「そんなの慰めになりませんよ。 ああ、家に帰るのが怖い」

「お前の奥さん気が強いもんな」 今度は自分の席に戻ろうとヨイショヨイショと足を使って椅子を滑らせた。

「どこも不況ですから奥さんも分かってくださいますよ」

「駄目・・・今はもう話しかけないで下さい」 机に再度うなだれた。

笑ってはいけないと思いながらも子供のような仕草にクスッと笑いながら琴音も席に着き給料計算を始めた。

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みち  ~道~  第144回

2014年10月24日 15時00分59秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第144回




「さ、これでやっと落ち着いた。 話の続きですけど織倉さんは奴奈川姫の事に詳しいようでしたけど他には?」

「詳しくはありません。 少し知っているだけです。 でも他には瀬織津姫(せおりつひめ) も大好きです」

「おおー、そう来ますか」

「野瀬さんは?」

「そうですねー、ニギハヤヒかな?」

「あー、いいですね。 私は最初ニニギの命から知ったんですけど。 どうもニギハヤヒの方が良く感じたんです」

「嬉しいなぁ こんな会話できるのは織倉さんだけだなぁ」 

「私もですよ。 でも神々の事は難しいですね。 古事記や日本書紀に書かれていることを鵜呑みにも出来ないしあまりにも諸説あり過ぎて・・・」

「そうなんですよね。 大体、スサノオの命にしてもそうですよ。 神話ではその名前でボロカスに書かれているのに別の名前では持ち上げられてって」

「私、最初神々のことは神話から入ったんですね。 だからどうしてもそのイメージが抜けないんですけど 全員とはいえないけど神話の神々って実在人物ですよね?」

「僕もそう思ってます。 時の権力者がその人物の名を消すためにとんでもない出鱈目を書いたんだと思ってます。 そう思うと瀬織津姫もその一人ですよね」

「そうなんですよね。 瀬織津姫は出鱈目こそ書かれていませんけど、そのお名前を完全に消されていますから寂しいですね」

「確か瀬織津姫の名前は大祓の祝詞にしか残されていなかったんですよね」

「そうみたいですね。 そう思うと菊理姫(くくりひめ) も神話でちょっと出てくるだけですし 多分まだ他にもそのお名前が消されている神々が沢山いると思います」

「日本書紀は藤原不比等が絡んでますけどきっと古事記にも絡んでるんじゃないかなぁ」

「あ、私もそんな事を書かれた 本を読んだことがあります」

「やっぱりそうですか。 藤原不比等にしたら瀬織津姫や菊理姫に居てもらっては困ったんでしょうね」 そこへ料理が運ばれてきた。

もちろん野瀬は相変わらずステーキだ。 琴音が頼んだ白菜のグラタンのセットにはサラダが付けられている。 サラダを見た野瀬が

「ちょっと寒いですけど旬の生野菜もいいでしょ?」 

「はい 美味しそうです」 そのサラダに一際目立つ綺麗な赤があった。

「あら? これは金時人参ですか?」 皿を並べているウエイターに聞くと

「はい。 とても美味しい時期ですからポタージュにしても美味しいんですけが 生も甘みがよく分かって美味しく出来上がっております。 どうぞお召し上がり下さい」

「有難うございます」 

「じゃ、食べましょうか」 琴音とウエイターの会話が終わったのを見て野瀬が言った。

「はい。 金時人参なんて私のお給料じゃ高くてなかなか買えないんですよ。 実家のお節でしか食べることがないんですね。 それをサラダだなんて贅沢だわ」 そして頂きますと言って金時人参を口に運ぶと

「わ、甘~い。 美味しい」 琴音の幸せそうな顔を見て

「本当に連れて来た甲斐があるなぁ」 それからも食事をしながらの縄文の神々の話は続き食後のコーヒーを飲みながら

「さて、織倉さん明日はまた仕事ですね」 

「あと二日頑張らなくちゃです」

「じゃ、今日はそろそろ帰りましょうか」

「はい。 ご馳走様でした」

「僕に言わないでください。 言ったでしょ、経費だって」

「分かってますけど言わなくちゃ」

「ほら、貧乏性が出た。 ドシンと構えるんでしょ」

「ご挨拶はちゃんとしなくちゃですよ」

「織倉さんって・・・」

「はい?」

「ある意味、更紗さんと似てますね」

「え?」

「さ、帰りましょうか」

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みち  ~道~  第143回

2014年10月21日 14時39分55秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第143回




「助手席に移動してもらってもいいですか?」 後部座席に座っている琴音を覗き込んで言った。

「え? はい、いいですけど・・・」 車から降りると野瀬が助手席のドアを開けた。

「どうぞ」 琴音を助手席に座らせたかと思うとドアを閉め、すぐに運転席に戻りシートベルトをして車を走らせた。

「あの? 頭が痛いのは?」 今度は後頭部ではなく、前を向いて運転をしている野瀬の横顔に話しかけた。

「あははは! まだ気付いてないんだ。 縄文談義もいいけど織倉さんの天然を聞くのも面白い」

「天然って?・・・」 分けがわからなそうにしている琴音をチラッと見て

「後部座席に居た時、ずっと僕の後頭部を見ながら話してたでしょ」

「はい」

「その視線が突き刺さって痛かったんですよ」

「え!? あ、ごめんなさい。 全然気付かなかったわ」

「いいですよ、いいですよ。 きっと更紗さんもこんな所の織倉さんも気に入ったんだろうな」

「考えが浅いだけです」 前を向き直った琴音を見て

「落ち込まないでくださいよ。 僕が苛めてるみたいじゃないですか」

「深く考えられないんですよね。 どうしてなのかしら」 視線が下に落ちた。

「それが織倉さんの良い所なんですよ。 それに織倉さんのそれって聞いてる方からしてみれば 『和む』 なんですよ」

「言い方にも色々ありますね」 

「捻くれないでくださいよ。 褒めてるんですから素直に受け取ってください」

「じゃあ、とりあえず褒めていただいたんでしたら有難うございますという事で」 やっと野瀬を見た。

「はい、それでいいんですよ。 何の話だったっけ? あ、そうだ 糸魚川の翡翠でしたね」

「はい」

「織倉さんなら糸魚川、翡翠と言ったら何を連想します?」

「すぐに浮かんでくるのが・・・奴奈川姫(ぬなかわひめ) なんですけど・・・」 琴音が全て言い終わらないうちに

「わぉ! 期待通りの答えだ!! もしかしたら縄文の神々の事も知ってるんですか?」 少し興奮気味に聞いた。

「え!? 私、今とっても言いにくかったんですけど野瀬さんも縄文の神々のことを知ってるんですか?」

「もう、嬉しいなぁ。 運転なんかしてられないですよ。 早く着かないかなぁ」 ハンドルを空で右に左に切るように触りだした。 

「子供みたいですね」 

「え? そんなこと言われたの初めてですよ。 恥ずかしいなぁ」 車はスピードを上げようやく店に着いた。

「何食べます?」 ウエイターが持ってきたメニューを琴音に見せた。

「そうですねぇ・・・あ、これが美味しそうだわ。 白菜のグラタンこれにします」

「身体も温まりそうですね。 セットでいいですか?」

「はい。 野瀬さんは・・・」

「僕は肉です」

「やっぱりそうですか」

「あー、もう嫌だなぁ。 更紗さんに言われてるみたいじゃないですか」 そう言いながら野瀬が注文をした。

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みち  ~道~  第142回

2014年10月17日 14時44分46秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第142回




社長が2人の社員を連れて1階へ降りて行ったと思ったら1階の工場に置いてあった幾つかの大型のストーブのうちの一つを持って上がってきた。

「おーい、これからエアコンは使わないでストーブだからな。 経費節約だ。 会長から何も言わせないようにしていこうな」 工場長から聞いて行動に出たのであろう。 

だがコレは琴音にとってはとても有難い事だった。 エアコンは事務所が暖かくなっても芯からは暖まらない。 それに比べてストーブは身体の芯から暖まる。 コレで足元の寒さもいくらかは回避できる。

琴音の仕事は年末の準備を始めなければいけない。


仕事を終え ロッカーを開けた途端『007』 の着メロが鳴った。

「あ、野瀬さんだわ」

「もしもし」

「あ、織倉さん? 仕事終わりました?」

「はい。 丁度ロッカーに居る所です」

「今日時間あります?」

「沢山有り余ってます」

「彼氏とのデートも無いんですね?」 笑っている様子が携帯から伺える。

「そんな物ありませんよ」

「じゃ、僕近くに来てるんですけど縄文談義しませんか?」

「縄文談義という事は更紗さんは?」

「更紗さんは今日、和尚と会ってるんですよ」

「そうなんですか」

「あ、僕と二人じゃ嫌ですか?」

「そういう意味じゃないです」

「良かった嫌われていないんですね。 それじゃあ、どうしましょう。 部屋にお迎えに上がりましょうか? それとも会社に伺いましょうか?」

「自転車で会社に来てますから置いていくのも後で困っちゃいそうなので部屋で待ってても良いですか?」

「はい。 それじゃあ・・・そうですね、あと40分くらいでお迎えに上がってもいいでしょうか?」

「はい。 それでお願いします」 携帯を切った琴音は急いでマンションに向かった。

着替えを済ませ一段楽した頃にチャイムが鳴った。 ドアを開けると野瀬が立っていた。

「今回は大人しく部屋に居てくれましたね」 野瀬の第一声だ。

「この間野瀬さんに貧乏性って言われましたから」 クスッと笑った。

「あ、根に持ってるんですか?」

「そうじゃないですよ。 ただ、ちょっと位はドシンと構えていようかなと思って」

「これ位でドシンとは言いませんよ。 まだまだ更紗さんのドシンの足元にも及ばないな。 それじゃあ、行きましょうか」 クスクスと笑いながら車に向かった。

「何か食べたい物はありますか?」 先を歩く野瀬が少し振り返って聞いた。

「特には無いです」

「経費だから遠慮しないで言ってくださいよ。 更紗さんからも織倉さんの食べたい所に連れて行くのよ! って言われてますから」 後部座席のドアを開けた。

「それじゃあ、この間のお野菜の美味しい所でもいいですか?」 車に乗り込む前に琴音が答えた。

「あ、あそこが気に入りました?」

「はい。 とっても美味しかったんですもの」

「それじゃあ、あそこにしましょうね」 後部座席のドアを閉め運転席に乗り込んだ。

「今度はどんなお野菜があるのかしら 楽しみだわ」 

「そう言ってもらえると お連れする甲斐がありますね」 シートベルトを締めた野瀬がアクセルを踏んだ。

そして車中から既に縄文談義が始まった。 運転をしている野瀬の後頭部を見ながら

「縄文人はかなり広い範囲を移動していたみたいですけど今の時代みたいに車も無いのにすごいですね」

「あ、それって勾玉の事ですか?」 バックミラーで琴音を見た。

「はい。 東北や北海道でも糸魚川の翡翠で作られた勾玉が見つかったって読みました」 相変わらず野瀬の後頭部を見ている。

「やはり日本人なら 翡翠といえば糸魚川ですよね」 チラチラとバックミラーの琴音を見るが琴音はずっと野瀬の後頭部を見ている。

「あ、野瀬さんもそう思います?」 嬉しそうにした視線がやはり野瀬の後頭部だ。

「後頭部が突き刺さるなぁ」

「え? 頭痛ですか?」 野瀬の後頭部に話しかける。

「ほんとに織倉さんは天然なのか何なのか」 そう言いながら車を道路の端に寄せ、シートベルトを外し車を降りたかと思ったら後部座席のドアを開けた。

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みち  ~道~  第141回

2014年10月14日 14時10分36秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第141回




「そこが私達凡人の考えるところよ。 超お金持ちなんだからお手伝いさんも居るわけよ」

「あ、そういう事ね。 でもどうしてわざわざなのかしら・・・ペットショップに行けばお高い犬でも簡単に買えそうなのにね」

「でしょ? だから以外だったのよ。 まぁ、深く聞く事はしなかったからどうしてなのかは分からないけどね」

「ふーん・・・凡人生活の私達には理解できない考えがあるのかしらね。 私達とは考えどころか世界も何もかものレベルからして違うのね」

「そう言う事。 結構面白いわよ」

「度胸が据わってないと出来ないわね。 私には無理だわ。 でも文香にも無理な筈なのにね」

「でしょ、それが意外といけるのよ。 もしかしたら琴音もいけるかもよ。 無理って言うのが思い過ごしかもしれないわよ」

「私は100%無理」 

「もう、琴音ったら・・・でもその人見知りじゃ無理かもね。 琴音はまだ乙訓寺に行ってるの?」

「あれから何度か行ったけど、そう言えば最近は行ってないなぁ」

「どうして?」

「なんだろう・・・気が済んだのかしら?」

「気が済んだ!?」

「上手く言えないんだけどそんな感じ。 あ、それより聞いて」

「何? また何かあったの?」

「違うわよ。 あのねすごく良い人と知り合えたの」

「男!?」

「バカ! それは無いって言ってるでしょ」 そして更紗たちのことを話した。

「エー! そんな人たちと知り合ったの? でも人見知りの琴音がどうして?」

「そうなの。 今までじゃ考えられないわ。 会った途端に話が出来たの。 それにね色んなことを助言してくれるのよ」 色んな不思議なことを経験し、それに対する更紗との会話を話した。

「それって その更紗さんとかって言う人の職業を考えても普通ならカウンセリング代を払わなくちゃいけないんじゃないの?」

「そう言われればそうよね。 でもお支払いどころか食事させてもらってるわ」

「わぁ、いいなぁ。 私もそんな人たちとお知り合いになりたーい! それにそんな色んな経験、琴音の力がこれからどんどん開花するのね」

「それは無いわよ。 私は普通だもの」

「それのどこが普通なのよ」

「普通よ。 文香だって耳を澄ませたら何かの音が聞こえたりするわよ」

「そりゃ、勿論聞こえるわよ。 でもね近くの音しか聞こえませんよー」

「なによー その言い方」

「羨ましいのよ」

「音がして 夜眠れないのが?」

「それは嫌だけど。 あ、それにそれは無いわ」

「どういう事?」

「ほら、私って熟睡タイプじゃない? 少々の音では起きないわよ。 地震、雷でも起きないんだから」

「そういうんじゃないのよ。 何て言っていいのかなぁ? ま、その時になったら分かるわよ」

「私には その時が来ないのよ。 だから羨ましいんじゃない」

「人間どこでどうなるか分からないわよ。 あ、もうこんな時間じゃない。 文香、明日仕事は?」

「休み。 だから時間を気にしなくていいの。 琴音も明日お休みでしょ? ね、久しぶりに長話しようよ」 

「久しぶりの長話か、いいわね」 これまでも長く話していたのにそれからも何時間も話をしていた。 よく受話器を持っている手が疲れないものだ。

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みち  ~道~  第140回

2014年10月10日 14時27分25秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第140回




「営業職なんて好きじゃないけど琴音みたいに人見知りは無いからね」

「それは否定しないけど、どんな感じでやってるの? 文香の年齢でいくと指示を出すほうなの?」

「私の年齢じゃなくて私達のでしょ」

「細かいことはいいじゃない。 まさか? 若い子を使ってるの?」

「うん。 一応、・・・営業長だからね」

「ええ! ウソー! 凄い昇進じゃない」
「まだまだこれからだからどうなるか分からないし 営業長って言っても営業の中だけよ。 プロジェクトの中に入れば一社員みたいなものよ」

「うわ、余裕のセリフじゃない。 手当てとかも付いてお給料も変わったんじゃない?」

「うん。 かなり」

「私の薄給とは雲泥の差なんだろうなぁ」

「お給料もあり難いんだけど でもね、違う世界を見られて楽しいのよ」

「文香の喜ぶ違う世界って、変な事?」

「ちょっと、それどういう意味よ」

「ほら、パワースポットとか何だとかって言うじゃない。 そっち系なの?」

「それだったらもっと嬉しいけど多分ついていけないと思うのね。 でもそうじゃなくて現実世界よ。 超お金持ちとお話したりするのよ。 着ていく服もそうだけど感覚についていくのに大変よ。 って、それも楽しいんだけどね」

「超お金持ちさんとお話しするの? へぇ・・・私には無理だわ。 多分何もついていけないわ」

「お互い平凡家庭で育ったもんね。 ま、だからその分こんな時に夢の世界を見させてもらおうかと思ってね」

「へぇー、大きな会社とかに行くの?」

「それも最初はあるけど最近は自宅へ呼ばれるのよ。 まぁー、何処も豪邸よ」

「玄関にトラの絨毯か何か敷いてある感じ?」

「言ってみればそんなところね。 玄関だけで私の部屋がいくつ入るのかって大きさよ。 見たことも無いシャンデリアだったり外車も何台もあったりさ」

「キャー、それってテレビの世界だけじゃなかったのね」

「そうなのよ。 現実の世界にあったのよ」

「一度でいいからそんな生活してみたいなぁ」

「でしょ、そう思うでしょ。 優雅に犬を片手に抱っこしてさ」

「ドレスなんか着ちゃったりして?」

「琴音も夢が膨らむわねぇ。 でも残念、いくらなんでもドレスまでは着てないわよ」 電話の向こうで笑っている。

「じゃあ、どんなお洋服を着て犬を抱こうかしら? あ、大きい犬を横に連れてもいいかもね」 今度は琴音が受話器を持ちながら笑い出した。

「あ、そう言えば・・・」 琴音の笑い声を耳にしながら文香が話し出した。

「なに? どうしたの?」

「それがね、昨日行ったところが意外だったのよ」

「以外って?」

「うん・・・大抵、何処のお宅も犬を飼ってるんだけど大型だったり小型だったり色々なのよ。 それに有名どころの犬の種類を飼ってて毛艶もいいのよ」

「ま・・・まぁ、そうでしょうね。 お金持ちなんだもん」

「それがね、昨日行ったそこは毛艶はあんまり良くなかったり目が見えない犬だったりを数頭飼ってたのよ。 で、どうしてかなと思ってたら奥様が話してくださったんだけどね、お知り合いにボランティアをされている方がいてその方から引き取っていらっしゃるらしいの」

「え? 目の見えない犬をわざわざ? それって飼うのって大変じゃないの?」

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みち  ~道~  第139回

2014年10月07日 15時06分21秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第139回




季節は寒さを感じるようになってきていた。
この時までに何度も愛宕山を上り、空也滝に出向いていたが

「そろそろ雪が積もりそうね」 山道を登れば上るほど端にチラホラと雪が見える。

「足元が危ないから今年はもうこれが最後ね・・・って、どうしてこんなに何回も登りに来てるのよ。 もう、意味が分からないわ・・・あ、更紗さんの言ってたお陰様? その方が登れって言ってらっしゃるのかしら・・・」 何回も登ったお陰で体力も付き、声をだす余裕ができた。 


週末、夕飯を食べ終えた時 家の電話が鳴った。 文香だ。 

「久しぶり~。 どうしてる?」

「元気にしてるわよ。 文香こそどうなの?」

「もう毎日仕事でクタクタよ。 琴音のほうは仕事どう?」

「暇を持て余してる」

「わぁー、羨ましい」

「何言ってくれてるのよ、暇を潰すのって結構疲れるわよ」

「それって贅沢な悩みじゃない」


「まぁね、お給料も削られるわけじゃなくて、ちゃんと貰えてるから有難いとは思ってるんだけどね」

「暇ってどれくらい暇なの?」

「一日の仕事をゆっくりやっても半日で終わっちゃうわ」

「えー! そんななの?」

「酷い時には 1時間もあれば終わっちゃうもの」

「それでお給料もらってるって給料ドロボーじゃない」

「何てこと言うのよー。 気にしてるのにぃー」

「あははは、気にしてるんだぁー」

「薄給とは言えやっぱり気になるわよ」

「でもそんなので会社、よくやっていけてるわね」

「儲かってた時の貯金の切りくずしよ」

「へぇー 儲かってた時があったんだ」

「その時は凄かったらしいの。 でも考えたら今の会社に入社してその勢いのままだったら きっと仕事の失敗が多かったと思うわ。 暇だから一つ一つを丁寧に出来て失敗がないんだと思うわ」

「琴音の性格からしたらきっとそうね。 一つの事を何度も見直すもんね」

「そうなのよ。 特に何の慣れも無い職種だけにね。 それよりどうしたの? 何かあって電話してきたの?」

「うううん、特には何も無いんだけど」

「だけどって?」

「うーん、別に不服があるわけじゃないからいいんだけどね。 職場の移動辞令が出たの」

「移動って、いつから移動なの?」

「もう2ヶ月ほど前から移動してるんだけどね」

「えっ? そうなの? 何処に移動なの?」

「営業・・・」

「ええ! 文香が営業? どうしてまたそうなったのよ。 何か大きな失敗でもしたの?」

「失礼ね違うわよ。 失敗なんかしてません! それと逆に買ってもらったって言う感じみたいなのよ。 私も辞令が出る前に話を聞いたときには営業なんて性に合わないから断ろうと思ってたのね。 でも詳しく話を聞くと営業って言っても普通の営業じゃないみたいだったから ちょっとやってみようかなって思ってね」

「普通の営業じゃないって?」

「新しくプロジェクトが出来たのよ。 ま、その内容は言えないんだけどね。 今はまだそのプロジェクトの下準備って言うのかな・・・結構楽しくてやめられないかも」

「へぇー、文香の口から営業が楽しいなんて意外だわ」

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みち  ~道~  第138回

2014年10月03日 14時42分54秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第130回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~道~  第138回




「奴のせいって言っちゃあ駄目なんでしょうけどね。 奴の独立は大きくひびいてますよ」 持っていたボールペンを上手に指で回している。

「そうなんですか。 ・・・あの、普通って言ったら駄目なんでしょうけど 大体、独立すると元の会社には姿を見せないって聞きますけど・・・」

「社長が出入りを許してるんですよ。 普通独立するって言ったら内緒でするでしょ? そんなことをしたら来る事なんて出来ないだろうけど 辞める時にちゃんと話し合いをして形よく辞めたからじゃないかな。 それにうちの社長って人が良いでしょ?」 眉毛を上げて琴音を見た。 
その眉毛に反応するかのように琴音の口角が上がった。 そして少し間を置いて

「そうですか。 色んな形があるんですね」

「でもあいつら二人最近ちょっとおかしいなぁ」 奥の事務所をチラッと見た。

「おかしい? ですか?」

「最近の様子がちょっとね・・・仕事の話ならここですればいいのに今も二人で場所を変えたでしょ?」 ボールペンで奥の事務所を指した。

「・・・はい」 この社員が琴音に何を言おうとしているのか琴音には分からなかった。

「あ、会長だ」 話していた社員が小声で言った。

琴音が振り向くと久しぶりに会長が事務所に入ってきた。 会長は席に着きながら

「社長はどうした」 持っていたスポーツ誌を机に投げ機嫌が悪そうだ。

「先程外に出られました」 琴音が答えた。

「仕事もないのに外に出て何をやってるんだ。 ・・・みんなをここに呼んでください」 会長の椅子に座った。

「はい」 慌てて1階へ降りて行き全員を事務所に呼んだ。 

武藤と社員も奥の事務所から裏階段で工場に降りていた。 全員が事務所に入りそれぞれ空いている椅子に座ったことを確認した会長が

「みんな分かっているだろうけど儲けがぜんぜんない。 これはどういう事だ」 全員が黙っている。

「営業も営業だが、お前達も仕事がないんだったら外へ仕事を取りに行く位の気はないのか!」 琴音が会長の机にお茶を置いた。

「外へ出なくても電話もあるだろ!」 誰も何も言わない。

「経費を無駄に使ってる位ならそれ位しろ! それと営業に言っておけ。 仕事を取れないんだったら無駄にガソリンを使うんじゃないとな!」 お茶を一口飲んで事務所を出て行った。 

皆が会長の降りていく靴音に耳をそばだてている。 階段を降りて出て行ったようだ。

「何なんだよあれ!」 一人の社員が口を切った。 その言葉に乗って皆が口を開きだした。

「絶対自分の虫の居所が悪かったから憂さ晴らしに来たに違いないよなー」

「社長が居たら一言も言えないくせにさ」 

「経費を使うな、ガソリンを使うなって それで仕事を取って来いってどういう事だよなー。 電話なんかで仕事が取れるわけないだろって言うんだよ!」 全員が口々に文句を言う中、工場長が

「まぁまぁ、抑えろよ。 使われる身は何を言われても仕方がないだろう」

「社長の車がないのを確認してから事務所に上がって来たに決まってるんですよ。 やり方が汚いんですよ!」

「仕事がなくて時間を無駄にしてるのは確かなんだから文句ばかりも言えないだろう。 まぁ、会長もいつものように今日言ったことは明日には忘れているだろうからみんなもあんまり気にするな。 一応このことは俺から社長に言っておくから全員仕事に戻ろう」 工場長が席を立つと不服そうな顔をしながらもバラバラと他の者も持ち場に帰っていった。

さっきまで琴音と話していたいた社員が

「あんな性格だから嫌われるんですよ。 暫く見なかったからイライラしなくて済んでたのに」 今までの会長は事務所に入ってきても席に着いたかと思うとすぐにグーグーといびきをたてて寝ているという姿は何度か見ていたが、今日のような会長を初めて見た琴音であった。

そして皆の反応を見てこのとき初めて森川が言っていた皆が会長を嫌っているということに納得が出来たのであった。

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