大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第95回

2014年04月28日 14時04分02秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

第51回第52回第53回第54回第55回第56回第57回第58回第59回第60回
第61回第62回第63回第64回第65回第66回第67回第68回第69回第70回
第71回第72回第73回第74回第75回第76回第77回第78回第79回第80回
第81回第82回第83回第84回第85回第86回第87回第88回第89回第90回




                                             



『みち』 ~未知~  第95回



要領を得ているグループの一人が

「和尚、この間から足の冷えが酷くて」

「どれどれうつ伏せて横になってみて下さい」 寝転んだ若い女性の足先を触った和尚が

「ありゃりゃ、これは相当冷えてるなぁ」 そして和尚が手かざしをしたと思ったら

「これで少しは楽になるはずですよ」 それだけで終わった。 
そして続けて順番待ちをしている女性が不調を訴え寝転ぶ、その箇所に手かざしを次々とし、残るは琴音だけだ。

「あなたは肩凝りが酷いみたいですね」 琴音を見ていった。

「え? あ、はい」

「他に具合の良くない所はありますか?」

「特に今は感じていませんが・・・」

「じゃあ、とにかく血の巡りを良くしましょうね。 何においても滞る事はよくないですからね」 琴音も言われるがままに手かざしを受け

「どう? 少しは楽になりましたか?」

「楽って言うのか、肩と背中が温かいです」 そう言って自分の肩を揉むと

「どうですか?」

「どこを押しても何ともない・・・肩凝りがなくなってます!」

「それは良かった」

「あ、あの・・・有難うございました」

「・・・貴方・・・第6チャクラが開きかけてきていますけど 全てのチャクラをもっと平均的にしたほうがよろしいですねぇ。 特に第4、5チ
ャクラが目立ちますねぇ・・・。 人間不信も過ぎるとよろしくありませんよ」

「え?」 思わぬことを言われ驚きが隠せない。 その琴音を見ながら和尚が続ける。

「肉眼で見えないものが見えるでしょう?」 琴音は何が何だか全く分からない。 
そんな琴音を置いたまま和尚が言葉を続ける。

「うん、そうだねぇ・・・」 空(くう)を見ている。 そして今までの優しい顔から一転し厳しい顔になり

「・・・その時がきたらきちんとした師に付きなさい」 琴音の目を真直ぐに見ている。 だがすぐに元の優しい顔に戻り

「・・・うん。 それを伝えるのが今日の目的の一つだったみたいですね」 そういい残して次のグループの方へ行った。

(チャクラ? その時?) 琴音にはサッパリ意味が分からないが、和尚の話を聞いていたグループの一人が

「いいなぁ、何をやっているんですか?」 周りに居た者も食いつくように耳を傍出せている。

「え? 何かって・・・何もしていません。 今のお話も何が何だか分からない状態で・・・」

「エー! 何もしてないのに見えるんですかー?」 和尚の言葉も分からない上に若い子達にそう言われ、今までは人と接する時には『こうであらねばならない』 と思っていた琴音であったが故、若い子達には年上らしくとしてずっと会話してきていたが

「何も分からないー! いったい何ですかー?!」 若い子達に泣きつくように言ったのだ。 
今までの琴音からは想像できない言葉だ。 琴音の人に対する態度が一変した。 『人と話すときはこうであらねばならない』 という不要な箍が外れたのだ。

若い子達が琴音に色々説明をするのだが 何も知らない琴音はどうにもその話についていけない。 

「何のことか分からないー」 殆ど半泣きだ。 そんな琴音を見て若い子達が

「お姉さん可愛い~」 そう言うが、そんな言葉に照れる間もないほど

「やだぁー! 何が何なのー?」 今までの琴音は何処へ行ったのか。 

あははは、まるで駄々っ子だね。 でもそれでいいんだよ。 せっかくの今なんだから。 今の点が沢山出来て繋がるよ。 線になるよ。 頑固なところは手放して楽に生きて大切に生きよう。 いや、生きてくれ・・・線を繋いでくれ。 楽にならなくちゃ大切な物を感じ取れないよ。 今度こそ・・・ね。

周りもワイワイと盛り上がってきているが スタッフと言う男の子がまたもや大声で

「それじゃあ、皆さん終わりましたか? どなたかまだと言う方はいらっしゃいませんか?」 全員を見渡している。

「いらっしゃらないようですね」 その間に和尚は自分の座布団のある方へ歩いていき座っていた。

「じゃあ、皆さんも適当でいいので 座っていただけますか」 和尚が席に着いたのを確認してスタッフの男の子が言った。
ザワザワとしながら座布団の上に座る者、そのまま畳に座る者と、みんな適当に座った。

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みち  ~未知~  第94回

2014年04月25日 14時10分22秒 | 小説
『みち』 目次



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第81回第82回第83回第84回第85回第86回第87回第88回第89回第90回




                                             



『みち』 ~未知~  第94回


「それって? えっと何て聞いていいのかしら・・・」 琴音が言いたい事を察したかのように

「人にはね守護神様や守護霊様が居てくださっているのよ」

「あ、テレビで時々聞きますけど」

「みんなその方々と繋がってるのね。 直接会話が出来ない人が殆どだけど・・・ま、耳で聞く会話でもないんだけどね。 言ってみれば和尚はその方々から色々お話を聞くことが出来るのよ。 色んな閃きやふと頭に浮かんだことなんてない?」 

「閃きですか?」

「ええ、そう。 他には・・・そうねー、歩いているときに声が聞こえたような気がして立ち止まった途端に 車が目の前を暴走して交通事故を免れたとか」

「あ・・・」 愛宕山での『登りなさい』 と言われた声を思い出した。

(あの時、確かに誰もいなかったわ。 それに耳で聞いたんじゃないわ)

「思い当たる事があった?」 琴音の心の中を読んだように聞いてきた。

「無くはないです」 

「でしょ、みんなそれが偶然だとかって思ってるのよ。 閃きをもらってその閃きで成功しても まるで自分の力だけで全て出来たみたいに思ったりね。 感謝が出来てないのよね。 お陰様って言葉を知ってるでしょ?」

「はい」

「お陰様はその方々の事なのよ。 陰で見守ってくださっている方々。 お元気? って聞かれて お陰様で元気です って言うでしょ、お陰様が居て下さるから元気なのにね」

「はぁー」 声にならないため息だ。 

「あ、もう休憩が終わりそうだけどお手洗い大丈夫だった?」

「はい大丈夫です。 教えて下さって有難うございました」

「うううん。 多分感謝をしなくちゃいけないのは私の方だと思うわ」 

「え?」

「あのね、私本当は今日来られないはずだったのよ。 それが急に火曜日の夕方、予定がキャンセルになってこっちへ来る事になったんだけど 多分貴方と話をする事になったのね。 もし今日ここで貴方が何かを得て帰ってくれたら私はそのお役に立てたって事で嬉しいわ。 ありがとう」

「はぁー」 まただ。 ぐうの音も出ないようだね。

「みなさーん、そろそろ時間です」 スタッフの男の子が最初と同じように大きな声で指示を出してきた。

「両手を広げても隣と当たらないように広がってください」 みながゾロゾロと位置をズラして間隔をとった。 琴音も壁際にズレていった。
休憩時間も和尚はずっと同じ所に座っていたままだったがゆっくりと立ち上がり

「大丈夫ですか 当たりませんか? それではまずリラックスしましょう。 はい両手をグルグルと回して肩の筋肉の緊張を解きましょう。 次に腕の緊張を解きましょうねー。 ブラブラー」 和尚が腕をブラブラさせ今度は足もブラブラさせた。 それを見ていた全員が真似ている。

「体をリラックスさせて血の巡りを良くしましょうね。 次ぎはリンパの流れも良くしましょうか」 体をさすりだすのを見てまたみなが真似た。 勿論琴音もだ。

「はい、リラックスできましたか? ではいったん皆さん後ろを向いてください」 皆が方向を変えた。

「そのままじっとしていてくださいね」 ほんの少し時間が過ぎた。

「はい、いいですよ。 今皆さんにエネルギーを送りましたからね」 皆が前に向き直ると

「はい、じゃあ次に5、6人程度でまとまってください」 みな知り合い同士でまとまり始めたが 琴音はどうしていいか分からずキョロキョロとすると 

「いっしょにしませんか?」 後ろにいた若い女の子達が声をかけてきた。

「あ、お願いします」 それからは和尚が1グループずつ回り始めた。 

座布団を縦長に何枚か敷き、その上にバスタオルを広げうつ伏せや仰向けに寝ている全員の体に手かざしてをしているのだ。

(ああ、そのためにバスタオルが必要だったのね)

1つのグループの全員への手かざしが終わるとそのグループでお互い同じような事をしている。 和尚は次のグループを回っているがそれを見た琴音は

(うわ、変な宗教みたいだわ) 今頃の言葉で言うと『ドンビキ』 をした。 でもよく考えてごらん。 琴音の思っている和尚の説教も宗教なんだよ。

いくつかのグループを回り終え とうとう『ドンビキ』 をしている琴音のグループにやって来た。

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みち  ~未知~  第93回

2014年04月22日 14時30分21秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 第51回からは以下からになります。

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『みち』 ~未知~  第93回



「はい、いいですよ。 あ、足を崩してくださいね。 それではお話しますね」 クリアファイルから紙を出して読み始めた。

琴音は何を言われているか全然分からない。 ただ聞き取れたのは言葉の端々に縄文の神々の名や仏教の菩薩の名が出てきているという事だけだ。

(何? 神様とか菩薩様って。 菩薩様は分かるわよ、和尚様なんだから。 でも神様ってどういう事? それにお話がお説教じゃないじゃない) 縄文の神々の本を沢山読んだお陰でその名がすぐに神々の名と分かった。

話を聞こうとはするが、琴音にとっては話がポンポンと飛んでいるようにも聞こえ、頭の中はお説教という観念があったからか、やはり話し自体にピントが合わない。

(ああ、全然何が何だか分からないわ)

「・・・と言うわけですね。 昨日の夜にこの文章が降りてきました」 和尚が読み終えクリアファイルに今読んでいた用紙を入れている。
琴音があれやこれやと考えている間に話が終わってしまったようだ。

「一つ一つが今日来られている全てのどなたかに必要なお話でしたからね。 よくご自分に当てはめて考えてくださいね。 それにしても今日は神々の名前が多かったなぁ。 神様の事をよく知っている人が多かったのかなぁ?」 琴音はドキッとした。

(まさか私のことじゃないわよね)

「それじゃあ、15分ほど休憩を挟んでから次を始めましょうか」 琴音が時計を見るともう2時間が経っていた。

(もう2時間も経っていたの? でもこれってなんなの? 和尚様のお説教じゃないじゃないの) 周りではトイレに行ったり、お茶や水を飲みながら談笑している姿が見える。

(お説教を聞けないのならもう帰ろうかしら) そんな風に思ったとき

「どう?」 さっきお茶を入れてくれた女性が話しかけてきた。

「あ、えっと、どう言っていいのか」 どう? と聞かれても帰ろうとしていただけに答えにくい。

「あの、てっきり和尚様のお説教かと思って来たものですから・・・普通のお説教と違いますよね」 尻すぼみに聞くと

「和尚のお説教?」 女性がキョトンとしている。

「はい。 法事などで和尚様がお説教をされますよね、あんな感じかと思っていて」

「ええ? そうなの? 全然、違うわよ」

「やっぱりそうですよね。 聞いていて何が何だか分からなくてもう帰ろうかと思ってたんです」

「確かに以前はお寺の和尚だったのよ。 でもこのセミナーをするのに・・・」 琴音が驚いて思わず聞いた。

「え? セミナー?」 

「そうよ、お説教じゃないわよ」 クスクスと笑っている。

「そうだったんですか。 チラシに書いてあったのかしら」 恥ずかしそうに下を向いた。

「まぁ、来たんだからいいじゃない。 これもご縁よ」

(あ、そう言われれば ハローワークでもご縁って言われたんだったわ)

「和尚はヒーリング能力もあってね あ、息子さんにお寺を任せて完全に和尚業は引退してるの。 さっきのお話は和尚を守護している方々から降りてきたメッセージなのよ」

「守護? ヒーリング?」 思ってもいない言葉に驚いた。

「あ、もしかしてこういう話を疑ってる? 否定派?」 しまったと言う風に聞いてきた。

「いえ、そう言うわけじゃないですけど・・・」

「こんな話は無理強いしたくないから耳障りだったら帰った方がいいかもしれないわね。 でもさっきも言ったけどご縁があって今日あなたは来たんだと思うのよ。 否定派じゃないのなら後半のヒーリングまで居たほうがいいと思うんだけど。 どう?」

「はい、別に疑ってもいないので。 あ、勿論否定派でもないですし、ただ思ってもいなかったからビックリして」

「そうなの? よかった。 否定派の人だったらとんでもない話だからお勧めできないんだけど そうじゃないなら是非体験していくべきよ」

「体験ですか?」

「そう、後半はヒーリングの実践なの」

「実践・・・ですか」

「あ、やっぱり疑ってるの?」

「いえ、そうじゃなくて どうしても頭からお説教というのが離れなくて」

「頭を柔軟にしなきゃ」

「クス、そうですね。 石頭では何も出来ませんよね」

「そうそう」

「あの、一つ聞いていいですか?」

「何? 答えられるかしら、自信がないけど言ってみて」

「さっき守護って仰いましたよね」

「ええ、言ったわよ」

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みち  ~未知~  第92回

2014年04月18日 14時44分22秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第92回



「あ、有難うございます いただきます」

「お茶でいいですか?」 いろんな種類のお茶や水のペットボトルが置かれてある。

「はい」

「どのお茶を飲みます?」

「どれでもいいです」

「じゃ、私と同じものを入れますね」 そう言って紙コップにお茶を入れだした。

「あの、私チラシを見て初めて来たんですけど 皆さん何度も来られてるんですか?」

「私は・・・うーん何回目かな? 沢山来てるわ。 でも、へぇー珍しい、今回はチラシなんて配ったんですねぇ。 どうぞ」 琴音にお茶の入った紙コップを差し出した。

「有難うございます」 お茶を受け取り
「普段はチラシを配られないんですか?」

「私は聞いた事はありませんね。 ふぅーん チラシを見てねぇ・・・。 皆さん最初に知るのはクチコミなんじゃないかしら? 」

「そうなんですか。 何回もお話をされている和尚様なんですか?」

「そうですね、一つの地域では続けてやらずに 一年は空けてらっしゃるみたいですけど あちらこちらでされてるんですよ。 ですから私も今回は1年半ぶりなんです」

「そうなんですか。 お若い方が多いんですね」

「最近は若い子の方がこの手は多いんじゃないかしら。 私ももっと若い時に知っていればよかったって思ってますもん」 この言葉を聞いて琴音の頭にやっと疑問符が出てきた。

「この手ってどういう・・・」 琴音が聞こうとしかけた時

「皆さん時間になりましたから 端に置いてある座布団とバスタオルを持って集合してください」 さっきのスタッフと言っていた男の子が大きな声で呼びかけた。

「行きましょうか」 女性が琴音に言った。

「はい」 お茶を一気に飲みお盆の上に置いた。

「今はまだそんなに間を空けなくていいですけど 適当に間隔をとって座ってください」 琴音も座布団を持ち みんなの輪の中に入った。 と言ってもどうして良いのか分からず端に座った。

少しすると正面の扉からクリアファイルを持ちGパンを履いた70歳前後の体の小さな男性が出てきた。

(え? Gパン? このお爺さんもスタッフ?)

「えーっと、僕にも座布団をもらえませんか?」 そのスタッフらしき男性の第一声だ。

「あ、すいません!」 さっきの男の子が慌てて座布団を取りにいき渡した。

「有難う。 さ、それでは始めましょうか」

(ええ? この人が和尚様なの?)

「今日が初めての方っていらっしゃいますか?」 みんなを見渡している。

琴音がそっと手を上げた。 和尚の見渡している目が琴音で止まった。

「ああ、初めてお見かけしますね。 今日はよろしくお願いしますね。 初めての方はお一人だけかな? あ、貴方もそうですか。 よろしくお願いいたします。 いいですねぇ。 こうしてご縁を頂くのは嬉しい事です。 他には・・・と、いらっしゃらない・・・みたいですね」 和尚の話し方にクスクスと笑いが漏れる。

「今日の事はどうしてお知りになりましたか?」 琴音を見ている。

「ポストにチラシが入っていたので」 すると和尚の顔に笑みが広がり

「そうですか、貴方でしたか」 一人納得をした。 琴音は何が何だか意味が分からない。

「ああ、ごめんなさい気にしないで」 あまりの琴音のキョトンとした顔に和尚がなだめるように言った。

「貴方は?」 もう一人を見て言うと

「この人に話を聞いて一度来たくなって」 隣の人を指差した。

「ああ、そうですか。 話を聞いて来てくださるなんて嬉しいですねぇ。 ご期待に沿えるよう頑張りますね」 またクスクスと笑いが漏れた。

「それでは今度こそ始めましょうか。 皆さん気を楽にして まずは大きくゆっくりと呼吸をしてください」 2、3分続いた。

琴音も言われるがままにしていたが全く的を得ない

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みち  ~未知~  第91回

2014年04月15日 13時00分24秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第91回



週末。 チラシに載っていた文化センターへ出かける準備を始めた。

「えっと、バスタオルも持った。 忘れ物はないわね」 チラシにはバスタオルと書かれていたのだ。

「どうしてお話を聞くのにバスタオルがいるのかしら?」 チラシをちゃんと読んでいないから分からないんだよ。 ま、読んでしまうと行かなかったかもしれないけどね。 琴音のいい加減な性格がここでもまたラッキーとなったね。

「それじゃ・・・行きましょうか。 久しぶりに聞けるお説教だけど ふふ、どうしてこんなに楽しみなのかしら」 エアコンのスイッチを切り部屋を出た。 
車では行かずバスに乗って行く事にしたようだ。 暑い中を歩いてバス停に向かった。
やって来たバスに乗るとクーラーが効いている。 汗がスッとひいた。 

『文化センター前』 で降りるとすぐ前に文化センターがあった。
 
「ここなの? 大きくて綺麗な所。 まだ出来て間もないのね」 文化センターの中に入ると涼しい空気と供に広い空間が目の前に現れた。
辺りを見渡すと白い壁はまだその白さが光るようだ。 大きな花瓶に花も生けてある。 そして人がチラホラといる。

「綺麗なお花。 あ、見とれてちゃいけないわね、どこのお部屋だったかしら?」 鞄からチラシを出し

「えっと、2階の和室第3研修室ね」 チラシをまた鞄にしまって案内板を見ると

「あら? 駐車場が地下にあるんじゃない。 収容台数も沢山だわ。 車で来ればよかったわ。 ま、後の祭りね。 えっと和室第3研修室はっと・・・」 確認をして研修室へ向かった。

研修室の前には長机が置いてあり一人若い女の子が座っていた。

「あ、あそこよね」 そこと分かっていても確認を得たい。

「ここは和室第3研修室しょうか?」

「はいそうです。 おはようございます。 今日はご苦労様です」 手元を見ると名簿のようなものがあった。

「お名前を教えていただけますか?」 名簿にチェックを入れようとしているが 琴音は自分の名前を言った覚えなどないものだから

「あの、チラシを見てきたんですけど」 

「あ、初めての方でしたか?」

「はい」

「それでは申し訳ありませんがここで参加料を頂いて宜しいでしょうか?」

「はい、3000円でしたよね?」

「はい、そうです」 鞄から財布を出し3000円を支払った。

「有難うございます。 確かに頂戴いたしました。 どうぞ、中に入ってください、もう何人かお見えですよ」

「有難うございます」 そう言い残して研修室のドアを開けると既に来ていた何人かが 入ってきた琴音を見て「おはようございます」 と声
をかけてきた。

「おはようございます」 琴音も挨拶をしたが

(若い方も多いのね。 どう見ても20代よね) 心の中で呟いた。 そこへその20代の内の一人の男の子が琴音のほうに寄ってきて

「始めてお見掛けしますよね」 そう声をかけてきた。

「はい、初めて来ました」

「今日一日、宜しくお願いします。 僕はスタッフですから分からない事があったら何でも聞いて下さい。 それと荷物は邪魔になりますから バスタオル以外はあちらの端に置いておいてください。 まだ時間もありますからお茶でも飲んでゆっくりしていてくださいね。 おやつも皆さんからの差し入れですからどうぞ自由に食べてください」 何人かの荷物が端に置かれてありその横のテーブルにはペットボトルが何本か置かれ紙コップもあった。 勿論その横には美味しそうなおやつも一緒に置かれている。 

鞄と羽織っていたものを端に置き腕時計を見ると、あと20分ほどで始まるようだ。

「20分。 本が読めなくもないわね」 鞄から読みかけの本を出して邪魔にならないよう部屋の隅に行き本を読み出した。
それから10分くらい経ったころだろうか 次々と人が入ってきた。

「久しぶりー」 「どう? 上手くいってる?」 「あれからどうなった?」 そんな会話が飛び交っている。

「ガサガサしてきたわ」 本を閉じ鞄に入れて代わりにバスタオルを出した。 するとテーブルでお茶を入れていた一人の女性。
琴音より少し年上であろうか

「なにか飲みませんか?」 琴音に声をかけてきた。


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みち  ~未知~  第90回

2014年04月11日 14時07分56秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第90回



お弁当とコップを持ち表の事務所にやって来た琴音。 引き出しにお弁当を片付け湯呑みを洗い席に着くと

「ああ、PCを凝視しすぎたわ。 目が疲れちゃった」 PCの文字と言うものは 気合を入れて読んでしまうと瞬きをしないせいか目が渇く。 その上、前の会社を辞めてからは長い時間PCを見ることも無かったのが 昼休みの1時間、ずっと見通しだったのも手伝って目がかなり疲れたようだ。 

緑を見て目の疲れを少しでも取ろうと表と奥の事務所の境にあるいつも見ている絵を見に立った。

「いつ見ても優しい緑・・・。 え?」 気付いたね。

「どうして・・・?」 偶然ではないよ。

「雨の小屋根って・・・天兒屋根(あめのこやね)・・・」 そうだよ。

「そうだったわ、初めてこの絵を見たときにこのタイトルを見たんだったわ。 漢字は違うけど・・・」 漢字が問題じゃないんだよ。

「偶然って恐いわね」 だから違うって・・・。


席に着きゆっくりと仕事を始めだしたら一人の社員が帰ってきた。

「ただいま、何かありましたか?」 琴音を心配して一人先に帰ってきたのだ。

「お帰りなさい。 大丈夫です。 特に何の電話もありませんでした」

「そうですか。 じゃ、僕奥の事務所に居ますから 何かあったら全部僕に回してください」

「はい」 すると暫く時間がたったとき奥の部屋で大きな声がする。

「あら? 社長の声だわ。 帰ってきたのかしら?」 耳を澄ますと社長の声しかしない。

「誰かと電話をしているのかしら?」 聞き耳を立てていると電話が切られた。 ちょっと気になって奥の事務所を見に行くと社長が居ない。

「あら?」 さっきの社員が一人座っているだけだ。 

「あの、今社長がここにいらっしゃいました・・・か?」

「え? 何言ってるんですか?」

「今社長が誰かと電話をしていた声がしたんですけど」

「織倉さん寝ぼけてる? 今社長と電話をしていたのは僕ですよ。 社長はまだ帰ってきてないですよ」

「あ、気のせいだったのかな」 その場はそう言って誤魔化して去ったのだが

「どういうこと? 話している方の声が聞こえなかったのに電話の向こうの人の声が聞こえたっていう事? ・・・」 気味悪い声より社長の声の方がいいでしょ?

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みち  ~未知~  第89回

2014年04月08日 14時43分44秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第89回



全員でワイワイと賑やかに事務所を出て行った。

「さて、一人でちゃんとお留守番できるかしら?」 昼休みといっても注文の電話が入ってくる時もあるが 現物在庫の具合など分からず伝票以外はチンプンカンプンなのだ。

「為るようになるわね」 肝が据わってきたね。

「・・・え? 今までこんな風に考えた事なかったわ。 頼れるのは自分だけだったからかしら。 そうね、きっとそうよ。 ここのみんなは何においても支えてくれるから 何とか為るって思っちゃうのね。 きっと前までの私ならこんなシチュエーションに遭遇したら 机の上隙間なく資料を置いてるわね。 あ、待ってよ 資料の見方も知らないんだわ。 どこにあるのかも知らない・・・。 ふふふ なんて気が楽なのかしら」 

椅子に座り仕事の続きをしたがさほど忙しいわけでもない。

「あ、そうだわ ホツマツタエ」 席を立ちそっと奥の事務所を覗くと時々琴音が使わせてもらっているPCが立ち上がっていた。 見てみると何も開けてある形跡はない。

「使っても大丈夫よね」 表の事務所に人が入って来たらすぐに分かるよう 表と奥の事務所の境のドアを開けたままにして PCの前に座りすぐに検索をかけ、以前見ていた画面を探した。

「えっと、どこだったかしら。 うーん、どんな感じのトップ画面だったかしら・・・ここも違うわよね・・・」 あちらこちら開けて見ていると

「あ、確かここだったんじゃないかしら」 画面を開いていくと

「やっぱりここだわ。 ここのを読んでいたんだわ。 でもまた最初から読み直すの? 何度読んでも何も分からないわよ。 朝のあれはなんだったのかしら」 溜息をつき腕組みをしながら画面を見据えそのまま少し待ち、そしてソロっと上を見た。

「・・・今度は何も降ってこないのね」 また文字が降ってきて何か言ってくるのかと思っていたようだ。

「じゃあ、私が決めるわよ。 文句言わないでよ。 最初から読み直さないで続きから読むわよ。 いい?」 上を向いて問いかけるが何の返事もない。

「私ったら誰と喋ってるつもりかしら」 得意の大きな独り言を言いながら以前読んでいたと思われるところまでページを進めていった。

「分からなかったんだからどこまで読んだのかもよく覚えていないわ」 何ページか進めて

「確かこの辺りまでは読んだ記憶があるから ここから読もうかしら。 あ、今何時?」 時計を見ると 丁度、昼休みに入った時間だ。

「あ、お昼休みだわ。 お弁当を食べながら読んじゃお」 表の事務所に帰ってお茶を入れ、机の引き出しから弁当を出し 両手に弁当とお茶を持ってまた奥の事務所に戻ってきた。

弁当を広げて画面に映し出されている文字を読んでいった。 何ページかを読み進めて

「はぁー やっぱり全然分からないんだけど。 って言うか覚えられないんだけど」 途中で投げ出そうかとも思ったが また金平糖がコツンコツンと落ちてきてもと考えるとまた上を見て

「お昼休みの間は読みますよ。 でもお昼休みが終わったらもう読みませんからそれでいいですか? 文句があったら返事をしてください」 上を見たままだ。

「・・・文句はないですね」 人が見てたらなんと思うだろうね。

仕方なく弁当を食べてお茶を飲みながら ダラダラと形だけ読み進めていき、何ページ目かをめくった時

「え? ウソ!」 口に入れたご飯が飛び出しそうになった。

画面には 『天兒屋根命』 と言う文字が書かれていたのだ。
天兒屋根命の前に座る皆の質問に丁寧に答えている様子が書かれてあった。

「え? そんなに物知りな神様なの?」 書かれている言葉が少し分かりにくい事もあり 内容を全て把握する事はできないがある程度の事がわかった。

「もしかしたら本が見当たらなかったからここを読むように教えてくれたの?」 そうだよ。 これで切っ掛けが出来ただろう? まぁ、この事はこれからの琴音にとっての本筋ではないからね。 気付くという事を知るための事だからそんなにのめり込まないでいいよ。

天兒屋根命のことが書かれたところを読み終え今度は『天兒屋根命』 を検索してみた。 するとそこには祝詞の神様と書かれていた。

「祝詞の神様・・・春日権現。 え? 天岩戸から天照大神が出てきたときに岩戸の前で祝詞を唱えた・・・ああ、そうなんだ。 その時の神様だったのね。 中臣氏の祖・・・そうなんだぁ」 画面をじっと見ていると1階の工場で始業のベルが鳴っているのが聞こえた。

「あ、戻らなくちゃ」 画面を消そうとした時にふと

「色んな神話を読むのも面白そうね」 クリックをして元のスタート画面に戻した。

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みち  ~未知~  第88回

2014年04月04日 14時57分55秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

第51回第52回第53回第54回第55回第56回第57回第58回第59回第60回
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『みち』 ~未知~  第88回



数日後、本の返却があったので図書館に向かった。 そのまま次を借りようと『天兒屋根命』 の本を探すがその神の名の本がない。
「はぁー、あんまり有名な神様じゃないのかしら」 神様に有名も無名もないよ。 それに他の方面から調べられるだろ、よく考えてみなさい。


翌朝、布団の中で目が覚めたと思った途端 『ホツマツタエ』 と頭に浮かんだ。

「え? これって何?」 布団から出ても何をしていても頭から離れない。

「どうしてこんな事が思い浮かんだの?」 思い出さないかい?

「あん、もう! 頭から離れてよ」 歯を磨いていても、朝のテレビを見ていても、朝のトーストを食べていても頭から離れない。

「あ、そう言えば・・・思い出したわ。 確かPCで読んだけど何が書かれてあるか分からなかったあれよね。 どうして急にそんなものを思い出したのかしら。 それも目が覚めてすぐになんて・・・。 あれは何度読んでも意味が分からないわよ。 頭から消えてちょうだい」 自分の頭から追い払うように手で扇いだ。

だがそんな事をしても頭から離れない。 その上、いざ出勤しようと玄関に向かう廊下を歩いていると『ホ』『ツ』『マ』『ツ』『タ』『エ』 と一文字一文字がまるでカタカナの形をしたブロックのように その文字の形をもって琴音の頭にコツンコツンと降ってきた。 いや正確にはそんな気がした。

「ちょっと何なのよ。 しつこいわね」 玄関で靴を履こうとすると幾つも幾つもその文字がスピードを増して降ってくる。 コン、コン、コン、コン、コン・・・まるで少し大き目な金平糖が降ってきているようだ。

「もう! 痛いわよ!」 頭の上を振り払うが コン、コン、コン、コン、コン・・・一向に止まない。

靴を履き終えた琴音が上を見て

「痛いわねー、分かったわよ! 読めばいいでしょ!」 そう大声で言うと 大きな金平糖はすぐに止んだ。

「え? 何なのこれ?」 甘いお菓子だよ。



昼近くになると事務所のドアが開き客が入って来た。

「こんにちは」 たまたま表の事務所に居た社長を見て客が声をかけた。

机の上に置かれた資料を見ていた社長が顔を上げると満面の笑みで

「やぁ、お久しぶりです。 どうされてたんですか。 うわ、何年ぶりかなぁ」 琴音は始めて見る客であったが 社長の言葉を聞いてすぐに長い付き合いだった取引先の客だと分かった。

「いや、急にすみません。 近くまで来たものですからちょっとお顔だけ拝見しようかと。 お元気そうですね」

「いやいや、もう歳です。 身体のあちこちにガタがきてますよ。 それよりお急ぎですか? これから何か予定があるんですか?」

「いえ、もう用が終わってあとは新幹線で帰るだけです」

「新幹線の時間は?」

「まだまだです。 社長のお顔を拝見してからちょっと観光でもして帰ろうかと」 冗談めいた会話が続いた。

「それならもう昼になりますから昼ごはんでも一緒にどうですか?」

「あ、お忙しいんじゃないんですか? お元気そうなお顔さえ拝見出来ればと寄っただけですから」

「忙しかったらこんな暇そうな顔をしていませんよ」

「ほんとに不景気で、お互い様です」 社長がお茶を入れようとしていた琴音のほうを見て

「織倉さん、お茶はいいですから奥のみんなを呼んで来てもらえますか」

「はい」 手を止め、奥の事務所に入って行った。

PCに向かって仕事をしている者、資料を広げている者、みんな仕事をしている振りをしていたが実際にはさっきまでPCでゲームをしていたのだ。 琴音の足音に気付いて慌てて仕事のふりだ。 

「あの、お客様が来られていて社長が皆さんをお呼びです」

「客ですか?」 PCの前に座っていた一人の社員が振り返って聞いた。

「はい」

「誰です?」

「あ、すみません。 お名前は聞いていません。 社長がお久しぶりと言ってらっしゃいました」

「誰だろ? あ、いいですよ。 すぐ行きます」

「お願いします」 その会話を聞いて資料を広げていた一人が歩き出し表の事務所に入った途端

「あれー! どうしたんですか? お久しぶりです」 大きな声が聞こえた。 すると残っていた社員が気になったようで PCもそのままに全員すぐに表の事務所に歩き出した。

「わー、 久しぶりです!」 全員同じ事を言っている。 奥の事務所からみんなに遅れて表の事務所にやって来た琴音。

「みんな知ってる方なのね」

「久しぶりだから みんなで昼を食べに行かないか?」 社長がみんなの方を見て言うと

「行きます、行きます」 みんな弁当持ちだが今日は残して帰るのだろう。 帰って嫁の頭から角が生えても知らないよ。

「織倉さんそう言う事だから。 ちょっと昼休みには早いけどみんなで食べに出るね。 昼休みを過ぎて帰ってくるかもしれないけど 事務所、一人で大丈夫かい?」 社長が琴音を気遣ってそう言ってきた。

「はい、大丈夫です」

「じゃあ、頼むね。 何かあったらすぐに携帯に電話をして来るんだよ」

「はい」 気遣ってもらっている事に心が温まる。

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みち  ~未知~  第87回

2014年04月01日 20時23分51秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 第51回からは以下からになります。

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『みち』 ~未知~  第87回



翌日、会社の帰り

「今日は図書館に寄らなくてもいいから・・・神社・・・探してみようかしら」 今までずっと家とバス停の往復、悠森製作所に入ってからは会社と家の往復、それと図書館までの寄り道だけしか通らず スーパーも図書館の近くにある。 
それが為、近所をあまり知らなかった琴音。  自転車をこぎながら今まで通ったことのない道に入ってみたが 神社らしき建物が見当たらない。 

「暑ーい。 顔も焼けそうだわ。 もう諦めようかしら」 グルグル回りながらも段々とマンションに近づいて来た時 地域の掲示板が目に入った。 西日が当たりジワッと背中に汗が滲む。

「あら、こんな所に掲示板があったのね」 地域のイベント予定などのお知らせが貼られてある。

「あら? お祭り? お祭りがあるの?」 よく見ると神社の名前が書いてあった。

「此処に貼られてるんだからここが氏神様の神社よね。 何処にあるのかしら」 庭いじりをしていた老人が見慣れない人間が掲示板を見ていると不審に思い琴音に声をかけてきた。

「何処の人かね?」 

「あ、この先を行ったところのマンションに住んでるんですけど 此処の辺りの神社を探してるんです。 あの、ご存知ありませんか?」

「ああ、そういう事。 氏神さんに逢いに行くのはいいことだ。 暑い中ご苦労さんだね。 歩いて行くにはちょっと遠いけど自転車ならすぐだよ」 年寄りにとって若い者が神社を捜しているということは嬉しくある事。 その上不審な人物ではない事を知って丁寧に道を教えた。

「今から行ってみます。 ありがとうございます」 琴音は自転車をこぎ始めた。

丁寧に教えてもらえたものだから言われたとおりの道を行くと 迷うことなく目の前に鳥居が見えた。

「鳥居だわ」 だが鳥居に向けて自転車をこいだがそこに神社はない。

「鳥居の向こうが普通に道路ってどういう事? それに色んな会社もあるって・・・」 辺りをキョロキョロと見回し 疑問に思いながらもそのまま老人に言われたようにまっすぐ自転車をこいでいくと二つ目の鳥居が見えた。 今度こそ神社が見える。 

「あ、あったわ」 鳥居の前に自転車を止め一礼して鳥居をくぐった。
中に入っていくと決して大きな神社ではない。 

「小さな神社・・・こんなに小さな神社なのにお祭りをするのかしら?」 辺りを見ると由緒書きが書かれた木の板があった。

「読みにくいわね」 そう思いながらも読んでいくと

「ああ、そうなの。 昔は今より随分と大きな神社だったのね」 年月が流れ神社の敷地が狭くなっていたのだ。

「御祭神は・・・天兒屋根命(あめのこやねのみこと) ふぅーん、誰なのかしら。 今まで色んな本を読んだつもりだったけどこの神様は知らないわ。 気になるわね」 神代・縄文時代から平安時代の本を読み漁った中に 神代・縄文時代の神々の名を読んだが、この神には記憶がない。 

「末社に住吉神社、他にもあるわ」 賽銭を入れて二礼二拍手一礼をし神社を後にした。 自転車をこぎながら

「天兒屋根命・・・調べなくちゃ」 琴音のそのクセ、とってもいいよ。


マンションに帰り自転車置き場に行くとゴミ捨て場が目に入った。

「あ、まただわ。 明日が資源ゴミの日なのにもう誰か出してる」 ゴミの日は守らなくちゃね。

マンションに入りポストを見るとチラシが入っていた。

「あら? 何かのイベントかしら?」 手に取り階段を上がりながら読むと

「うん? これって和尚様のお名前? なんて読むのかしら」 チラシには小難しい名前が書かれてあり袈裟を着た和尚の後姿があった。

「へぇー 和尚様のお話が聞けるのね、懐かしいわ。 3000円かぁ・・・どうしようかしら」 それくらい出すに値するよ。 いやそれ以上の収穫があるよ。

「それに場所が遠くちゃ嫌だし・・・あら? お寺ではやらないのね」 駅からそう遠くない文化センターの地図が書いてある。

「駅の停留所の一つ向こう。 ふーん、近くでやるのね・・・和尚様のお話も聞きたいし・・・今週末。 そうね、行ってみようかしら」 畳んで鞄に入れ、逆に今度は鞄から部屋の鍵を出した。 部屋に入りいつものように下駄箱に鍵を置き

「駅の向こうに文化センターなんてあったのね知らなかったわ。 どのみち小さな会館だろうから駐車場なんてきっと無いわよね。 あっても数台しか入られなかったらどうしようもないし。 どうしようかな、バスで行こうかしら・・・でも停留所まで暑いし・・・」 行く気になったね、和尚の話は何年ぶりだろうね。 でもね・・・。

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