大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

『みち』 を書き終えて

2015年11月17日 22時24分48秒 | ご挨拶
長きに渡り『みち』 を読んでいただきまして有難うございました。


最初考えていたものが、書くうちに段々とお話が増えていきまして途中で楽しくなってきていました。


『みち ~満ち~』 は琴音の下り、その道に歩きだしたところがそれに当たるつもりでした。 下書きもそこまでしか書いておりませんでした。

琴音のお話で完結するつもりでした。


それがまさか、過去とリンクするとは思ってもいませんでした。

琴音の下りで風狼が琴音に話している言葉がありますが、当初は単なるツッコミを入れる程度の解説のようなもので書いていました。


それが、いつからか頭の中に風狼と風来の存在が浮かんできて、そのうちに更まで出てきました。

下書きも何も無く、話が進んでいく中で投稿する日と追いかけ合いで書いていました。

もっと、人物の目に映る風景や、心の思いを書けていたら。 と、今更ながら思います。


その追いかけ合いの中でどうしても木ノ葉という名の存在を書きたくなってきました。

その為にどうするか・・・どういう風に登場させようか、そしてこの木ノ葉という女の子はどんな子なのか。。。


木ノ葉を登場させるのに勝流の手を借りました。 それが後になり、勝流の想いのなかに住んでいく事になるとは木ノ葉の事を書いているときには思ってもいませんでした。


書いていくうちに勝流が悪者になっていくのが・・・悪者にしていくのに心が痛みましたが
何故だか、そういう風に進んでいき、書く度に「勝流ごめん・・・」 と謝っていたものです。

血という文字を使うのにもあまりいい気はしませんでした。
もっと他にいい進め方はないのか? と何度も考えましたが、残念ながら思い浮かばず。



次はまだ何も頭に浮かんでおりません。
また当分空きそうです。



最後にもう一度


本当に、長いお付き合いを有難うございました。

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みち  ~満ち~  第252・最終回

2015年11月13日 14時47分07秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第252最終回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~満ち~  第252最終回



主は風狼に「筋がある」 と言った。 だが、勝流より優れているなどとは言っていない。
主の言葉を勝手に作ってしまったのか、それとも そう思うように、そう聞いたように思わされたのか。

あの邪に・・・。


平太と同じように始めた修行。 平太が己より伸びているのが分かる。 だが、平太は年上だ。 今は差がついても背と同じ、いずれは追いつくはず。

なのに、後からやって来た年下の、背の低い風狼に追いつかれてきている。
何故だ。 どうしてだ。 
どうして己は年下の風狼より劣るのか。
修業に励む、励む、励む。 なのにどれだけ励んでも劣る。

主が言った・・・風狼には筋があると。 だから己には筋がないのだ。 励んだとて空回りでしかないのか。
母の傍に居たかった。 なのに捨てられた。 傍に居たいという思いが空回りをした。
憎い母。 憎い風狼。


負の念は同調する。 同じ負の念を持つものを呼び込んでしまう。 邪を呼び込んでしまう。 

同調した相手の念が大きければ、己の負の念、気をどんどん喰われる。 喰った相手はどんどん大きくなっていく。
喰われた勝流。 段々と自分の意識が薄くなっていく。 
徐々に支配されていく。

心まで喰われた。 
強くなれなかった。 優しくなれなかった。



「風狼、そんなに揺すっては風来が可哀想ぞ」 その声に気付き振り向く。

「主様・・・主様!! 風来が、風来が! 風来が血だらけだ! 息をしてない、目を開けてくれない! 俺を見てくれない!」

「風狼・・・」

「もう一度、あの時みたいに主様の力で風来を助けてくれ!」

「風狼、落ち着け」 主のその言葉も耳に入らない。 風来のダラリとした腕をとり

「この手で、この手で俺に抱きついて 帰ったぞって言うんだ!」 

もう一方の手には放すことなくしっかりとウサギが抱きかかえられていた。
横には鹿が悲しげな目をして立っていた。


チリン・・・。



風来・・・あの時から俺は抜け殻になってしまったよ。 お前がいなくて寂しくて寂しくて・・・お前を守ってやれなかった自分が情けなくて・・・。
あの時は分からなかったけど、きっとそんな俺をお前はずっと見てくれていたんだよな。 今の俺の様に・・・。
あの時は心配かけたな。 でも、ちゃんと立ち直っただろ? 見ててくれてたんだろ?
後を継げたぞ。 きっとお前が助けてくれてたんだよな。 
風来・・・やっとあの時の続きが出来るな。



「風狼」 琴音(風来)を見ていた風狼が振り返る。

「こ、これは主様!」 先ほどまでの優しげな表情が一転し、驚きを隠せないようだ。

「うむ」 ただ、そう言って風狼を見、頷いた。

主の目を見、風狼もまた深く頷き少しの間を置いて言葉を続けた。

「やっと、やっとでございます」 主には風狼のこの言葉の重さが手に取るように分かる。

「長い間よくぞ風来を見守ってきたな」 主の言葉に小さく首を振りながら下を向き、大きく息を吸うとゆっくりと吐き、己の気持ちを落ち着かせた。

「主様のお導きがあってのことでございます」

「そうか? わしは何もしておらんぞ」 イタズラな目で首を傾げる。

「いえ、今までの風来は私一人で支えきれませんでした。 琴音としての生で主様が愛宕のお山にお呼び下さり風来・・・琴音の力を呼び起こして下さったからこそ、何とか辿り着けることが出来たのでございます」

「ははは、わしは時々遊ばせて貰うただけじゃ」 

「・・・ですがどれもこれも、琴音には良い刺激になったかと」 

「そうかのう」 またしてもイタズラな目をして首を傾げ、言葉を続けた。

「・・・風狼、気付かんかったか?」

「は? はて、なんの事でございましょうか?」 思い当たる事が全くない、それどころか何の事かすらも分からない。

風狼が眉根を寄せて考えるが分からないようだ。 その様子を見て主が言った。

「風来にはそなたの上にまだ見守って下さっているお方が居られる。 そのお方が一番手を添えてくださったんぞ。 愛宕のお山に、滝に導かれたのもわしではない、そのお方じゃ」 主の言葉を聞いて目を見開いた。

つゆとも気が付いていなかったようだ。 だか、暫くして「ああ」 と言葉が漏れた。

「そうでございましたか。 風来・・・琴音が聞いた優しい女子の声というものに腑に落ちぬ事がありましたが・・・そうでございましたか」 

琴音が愛宕のお山を下りようとした時に聞いた <登りなさい> と言う優しい女性の声。

「ああ、あの時か。 あの時は想いを風来(琴音)に届けられたり、虫を使われておられたな」 

「虫? でございますか? ・・・あっ、あの時、滝でのことでございますね。 あの時は私もどうしようかと思いました。 
あれ以上あの場にいると、あまりの気の強さに琴音の肉がもたなくなると・・・そうでしたか、あの虫の声もそのお方で御座いましたか。 
虫の声をお使いになるとは・・・」 どれだけの力を持ったお方なのだろう、そう考えはするが、己には窺い知れぬ程の力をお持ちなのだろう。

「風来との縁に・・・まぁ、その頃は風来ではなかったんじゃが・・・風来としての生以前に縁にがおありのようじゃ。 そして、その縁には蛇が関係しておられるようじゃ」 

「そうで御座いましたか。 ずっと琴音の後ろに蛇を感じておりましたが、深い理由がわかっておりませんでした。 そういう事で御座いましたか。 
あ、あの時・・・私も感じましたが琴音が愛宕のお山を降りたとき膝下を見た・・・感じたというお方はいったいどなた様でございましょうか? 
そのお方と関係が?」 風狼にとってこの事も分からない一つであった。

「うむ。 風来の生以前は毎回神仏に関わる道を歩いておったようじゃが、その頃は祭祀の道に携わっていたようじゃな・・・」

「祭祀・・・でございますか?」

「うむ。 風来の生のずっと前・・・そのお方とのご縁は祭祀の道のようじゃ。 
そして横に立って下さったのは、その頃よりずっとそのお方に寄り添っておられる方のようじゃな。 
そのお方の代わりに琴音と言う女子の横に立ち、当たりすぎた気を調整して下さっていたようじゃ」

「それで・・・私に理解できない所が分かりました」 

風狼としての生を終え、風来のその後の生をずっと見守ってきた。
それまで神仏などというものにかすりもしなかったのに、琴音としての生で何故か神仏が見え隠れしていた。

幼い頃より説教を聞く事が好き、陰陽道の本を読み漁っている時期もあった。 そしてあるときを切っ掛けに仏像の本を見たり、祝詞を覚えてみたいと思ったり、見守っている風狼にはそれが何故なのか全く分からなかったのだ。

「今回の生では過去の浄化に導かれたようじゃな。 謙虚なお方であり風来のことをとても大切に思っておられる。 
時には深い縁のある場に行き、浄化に努めたことへの感謝を蛇を使って伝えられておられたが、まさか愛宕のお山も浄化の対象であったとはわしも知らんかったがな」 

「愛宕のお山でございますか?」

「風来の生の前に愛宕のお山で辛い事があったようじゃ」 そう聞いて思い当たる事があった。

「もしや・・・風来が愛宕のお山の修行でいつも辛そうな顔をしていたのは・・・」

「うむ。 その記憶がどこか片隅にあったのかも知れんな」

「そうでございましたか」 琴音が愛宕のお山に行ったときにも蛇と縁があった事を思い出した。

「辛い過去を乗り越えたのですね」 ポツリと言う風狼。

少し間をおいて主が言う。

「・・・風狼」

「はい」

「風来のことは彼の方にお任せして、そなたも肉を持たぬか?」 

「・・・」 思いがけない言葉であった。

「いつまでも風来といてどうする。 そなたにはそなたの学びがまだまだあるのじゃぞ」

「・・・」 頭を垂れる。

「あの時、もう少し早く風来の元に行っておれば・・・今でもそう思うておるのか?」

「・・・」 思い出しただけで後悔の念に襲われそうになり、唇をギュッと噛んだ。

「全てが必要じゃったんぞ。 まだ分からんわけではなかろう?」

「分かっております。 ・・・分かってはおりますが・・・」 見守りたい、今度こそ。

「そなたの心配事の一つ・・・確かにこの生でも勝流と会うとは思うてもおらんかったがな・・・」

「ご存知でしたか」 思わず顔を上げた。

「勝流の念・・・心の奥底の想いは全て風来に塗り替えられているようじゃな」

「勝流・・・あの、双葉という男、琴音の前にまたいつ出てくるか・・・また同じ事を繰り返してはいつまで経っても風来の想いが叶いません」 
今度こそ、今度こそ、風来の願を叶えてやりたい。 微力な己だが、なんとしても守ってやりたい。

「そなたの心配は分からんでもない。 じゃが、今の生で風来の想いが全て叶うかどうかなどわからん。 また次の生に持ち越すかもしれん。 
じゃから、そう思うのならそなたが肉を持ち、勝流と対峙せねばならんと思わんか? そうでないといつまで経っても終わらぬことぞ」

「・・・はい」

「風来のことを想っておるのなら肉を持て」

「主様・・・」

「案ずるな。 風来には彼の方が居られる。 彼の方は、風来のことを見守っておったそなたに感謝されていると共に心配もされておられるぞ」



「あら? この香りは? ・・・菜の花の香りだわ・・・懐かしい。 そう言えばすっかり忘れていたわ。 いつも小学校に行く時に、菜の花を見てこの香りを感じていたんだったわ。 優しい温かなとてもいい香り・・・えっ? でも今は車の中よ。 それに高速よ。 ・・・外に菜の花も無いわよ・・・」



「ほれ、風狼。 彼の方が琴音と言う女子を使ってそなたに心配するなと言っておられる」

「・・・はい」 俯く。 分かってはいる。 

このままではいけないことは充分承知している。
そして終わらせなくてはいけないことも。

風来の為、己の為。 
そして勝流の為に。

「主様・・・」 目を合わせる。

「うむ」 風狼の全ての想いを受け取った。

主に向って片膝をつき、もう片方の膝に腕を置くと下を向いた。 その風狼の姿が段々と霞んでいき、小さな光り輝く粒となった。 
主の前でゆっくりと輪を描き、暫く止まっていたかと思うと、意を決したように遥かかなたに飛んで行った。

その光り輝く粒をじっと見送る主。

「そなたの時、満ちたぞ」




             完

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みち  ~満ち~  第251回

2015年11月10日 14時39分14秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第250回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~満ち~  第251回



「どうして蹴ったりするんだ!」 怯えた目をして動けずにいる獣達。 

腹を蹴られたのか、横たわっている獣もいる。 

その中で、足から血を流している獣がいた。 その傷を見ると何かに気付いたのか傍へ行き屈んで傷をよく見た。

「この傷の入り方・・・」 お山を出る前にずっと見てきた傷と同じ入り方。

「俺の居る間からずっと獣達を傷つけてきたのか!」 睨みつけた。

その睨みつけられた相手が言葉を吐く。

「おお、怖い顔だ。 そんなに大したことじゃないだろう。 ちょっとした遊びだよ。 ・・・それより、随分と背が伸びたんだな」 横にあった岩の上に座って悪びれる様子もなく言う。

「背? 背なんてどうでもいい。 獣を傷つけて・・・どれだけ痛い思いをしたか、怖い思いをしたか・・・」 癒していた時の事が頭をかすめた。 

不安そうに傷口を舐めていた獣達・・・胸が詰まって一瞬次の言葉が口から出なかったが、それでも口を引き結んだ後、続けて口にした。

「こんな事をして・・・獣を馬鹿にするんじゃない!」 見開かれた瞳に閃光が走る。

だが、その瞳で睨まれても何も動じない。 何も感じない。 呆れたような顔をするだけ。

「何を息巻いてんだよ。 それになんだよ、その口の聞き方。 ずっとお前を可愛がってきてやったこの兄様に言う言葉か?」 兄様・・・勝流。

「今は獣の話だ!」

「獣? そんな事はいい。 出来の悪いお前を誰が一番可愛がってきてやったと思ってんだ。 少しの間此処に居なかったからって忘れたんじゃないだろうな?」 

親指に人差し指を引っ掛けて人差し指を弾いた。 すると崖の端に前足から血を流して、動けなくなっていたうり坊の後ろ足の付け根の肉がスパッと切れたかと思うと、血が吹き出て倒れこんだ。

「何を!!」 すぐにうり坊に駆け寄った。

「上手いもんだろ。 骨は残してやってんだぞ。 まぁ、練習の成果ってやつだ。 加減してやってるんだから、それくらいの傷でどうこうなるもんじゃないだろうよ」 段々と無表情に、虚ろになっていくように見えるが、反対にどこか奥底で血を楽しむような感覚が伝わる。

うり坊を抱え傷を手で押さえると、勝流の顔をじっと見る風来。

「勝流兄・・・顔がおかしいぞ」

「俺の顔がおかしい? 何を言ってるんだ? 俺を馬鹿にしてるのか?」 無表情のその顔に冷たさが表れ片眉を上げて問うた。

「違う! いつもの勝流兄の顔じゃないって言ってるんだ。 あの優しい勝流兄じゃない・・・勝流兄、いったいどうしたんだ!?」

「はっ、何も出来ないお前が俺の事を何をとやかく言うんだ?」 

「勝流兄・・・憑かれてるのか?」 睨みつけていた風来の目は哀れみの目と変わった。



(ああ、うっとうしぃ・・・。 なぁ、今度はコイツをやろうじゃないか)



「何だと? 俺が、俺様が誰に憑かれるって言うんだ? この俺様に誰が憑けるって言うんだ?」 声に心が乱される。 だが、その自覚が無い。

立ち上がり、にじり寄る。

「争いたくない、落ち着いてくれ」

「お前が俺と争う? はっ、阿呆が」



(なぁ、早くやれよ。 獣よりこっちの方がやり甲斐があると思わんか?) 



「・・・お前にしろ木ノ葉にしろ・・・」 

可愛がっていたのに・・・手を握ってやってたのに、遊んでやったのに、慰めてやったのに、笑わせてやったのに、褒めてやったのに・・・今は必要とされていない。



(もう腕一本位は簡単に出来るんだ。 いや、腹から二つに割れるぞ。 やってみなよ。 楽しいぞ。 くくく)



「木ノ葉? 木ノ葉は関係ないじゃないか」 

「お前も木ノ葉も誰に一番可愛がってもらったんだ? 風狼だってそうだ、俺より後にやって来たくせにっ!」 拳を握り締めた。

「風狼? 勝流兄、何を言ってるんだ?」

「この俺様にお前如きが! お前みたいないつまで経っても何も出来ないひよっこに・・・何を言われなくっちゃいけないんだよー!」 勝流の気がいっきに上がり獣達の危険を感じた。

「みんな逃げろ!!」 その声と共に獣達の声や蹄の音が響いた。 



「主様これは!」

「うぬ、行くぞ!」

「はっ!」 とてつもない気を感じ取り、主と浄紐(じょうちゅう)が山に出た。



ずっと耳を澄ますようにしていた風狼・・・どこからか声はする。 会話は聞こえない。 どこか分からない。 

そこに獣達の蹄の音が響いてきた。 

「獣の走る音・・・上だ!!」 見上げ、一気に崖を駆け上がった。 

崖を上がりきったそこには獣達を守り、逃がしている風来の姿とその前に仁王立ちの勝流の後姿があった。

「風来!」 血だらけのうり坊を抱え、反対側の崖の端に立つ風来がすぐに風狼を見た。

「風狼!!」 風狼と風来の間には勝流が立っている。 

後ろをチラと見た勝流。

「チッ、風狼か。 何しにきたんだよ」

「勝流兄・・・いったい何が・・・」

「風狼、危ない! 逃げるんだ!! 勝流兄がおかしくなってる!」

「俺がおかしい? 俺のどこがおかしんだ? えっ? 言ってみろよ。 お前如きが俺の何を分かってるって言うんだっ!」 

腕を斜め一直線に動かしたかと思うと太い木の幹が落ち、余波で怯えて逃げる事が出来なかったうさぎの身体から血が噴出し倒れた。

「勝流兄! もう止めてくれ!」 うり坊を抱きながらうさぎに近づこうとすると、勝流が風来ににじり寄ったかと思うと、先に倒れていたうさぎの耳を掴み

「言ってみろよー!」 うさぎが風来の頭上高く放り投げられた。

「なにを・・・!」 風狼が思わず叫ぶ。

「風狼こいつを頼む!」 そう叫ぶや、風来が抱いていたうり坊を下に置き、うさぎを追って地を蹴り上げた。

「なっ!! 風来! 無理だ!」 風狼の言葉も遅く崖を飛んだ風来。 空中でうさぎを受け止め、胸に抱え体勢を立て直そうとした。

その姿を追いながら風来の飛んだ崖に走り風来を追おうとした風狼の後ろから

「生ぬるい事言ってんじゃないよー! お前に何が出来るって言うんだよー!」 その声と共に殺気を感じ振向いた。

勝流が大きな石を持ち上げ風来めがけて投げようとしている。

「止めろー!!」 風浪がすぐに勝流に向かって止めようとしたが、時既に遅くその石は勝流の手から離れた。

「風来ー!!」 風来の姿を追って風狼が飛びかけたその時、勝流が風狼の腕を掴んだ。

「風狼・・・どうして俺がお前に抜かれなくっちゃいけないんだ? どうしてだ? 俺よりお前のどこに筋があるってんだよー!」 その言葉を聞いて目を見開いた。

あの時、主が言ってくれた言葉。 何よりもの励みとなった言葉。 ずっと忘れず覚えている。

主との、その会話を聞いていたのか。

「離せー!」 勝流の手を振りほどき風来のあとを追って崖を飛んだ。 

崖の下は木の藪。 既に風来の姿は見えなくなっていた。

「風来! 風来! どこだー!! どこに行ったー!!」 風来の姿を探す風狼のその下を一直線に崖を駆け下りる一匹の鹿がいた。



疾風の如く山を駆け上がり、風狼の元に着くと血だらけの風来を抱きかかえる傷だらけの風狼の後ろ姿が目に入った。 風狼は木の藪に飛び込んだ。 

「風来! 風来!! 目を開けるんだ!! 俺だ! 帰ってきたんだろ!! 俺を見てくれよー!!」

「風来・・・!」 思わず浄紐が叫んだが、その姿に息がないことは充分見て取れる。

「浄紐! すぐに勝流の元に向かえ」

「はっ」 浄紐は目を瞑り、人差し指を額に当て勝流の気を追う。

いや、もう勝流の気は薄すぎる。 浄紐にも感じる事が出来ないほど勝流の気は無いに等しかった。 切り替え、勝流に憑いた気を追う。

そしてすぐに崖を駆け上がって行った。

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みち  ~満ち~  第250回

2015年11月06日 14時54分06秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第250回




「風来が帰ってきてるんだよ」 振向いた風狼に深堂(しんどう)がもう一度言う。

「風来が?!」 思わず立ち上がり、目の色を濃くして深堂を見た。

その深堂の横で木ノ葉も同じように目を丸くしている。 風来が帰ってきた事を知らなかったようだ。

「風来の気を感じられんのか?」

「どこ? どこに居るんだ?」 深堂の言葉を他所に辺りを見回した。

「獣のところに居るよ」 その会話を聞いていた主が

「風狼、もうよいぞ。 風来のところへ行ってくるがよい」

「はい!」 すぐに足早に出て行く。

主にお辞儀をしたかと思うと、風狼のその後ろを木ノ葉が追ったが、修行をしている筈もなく、ついて行けるものではなかった。

「ははは、あんなに走って」 深堂のその言葉を打ち消すかのように

「深堂、わしの居らん間に何があった」 厳しく低い小声で聞くと

「はっ」 深堂がすぐに難しい顔に戻り主の横に座ると、同じように小声で答えた。

「主様・・・いや、特に浄紐兄様(じょうちゅうあにさま)が出られてからでしょうか。 勝流の様子がおかしく感じまして。 
浄紐兄様から勝流をみているようにとは言われていたのですが、どうも捉えきれないところがありまして・・・。 
それに今日は朝から探してはおるのですが、どこにも勝流の気が感じられず、どうにも見つからず・・・。 
それと、勝流が関係しているやどうかは分かりませぬが、風来の話では帰ってきたかと思うとすぐに獣達の様子がおかしいというのです・・・それにこの念、今朝からなのですが」


荷を片付けていた平太、聞くとはなしに「勝流」 と言う言葉が耳に入った。 それに、小声で話している、聞かれたくない話なのであろう。

荷を片付ける手を止め、ソロっと小屋を出ると戸の横に立ち、気が沈んだように小屋にもたれた。

「勝流・・・いったいどうしたんだ・・・」 ずっと様子がおかしいことは分かっていた。 

何とかしようと話しかけていたが、でも、最近は声をかけても何も話してもらえなかった。

「・・・勝流・・・」 平太には小屋の中に残っていた念が歪んだ勝流のものだと分かっていた。


「そうか。 これほどの念をここに残して誰も気付かぬとでも思うたのであろうか。 それにしてもこれは・・・うむ、事が起こる前にどうにかせんとな・・・」 その時、外で子供達の喜ぶ声がした。

「浄紐兄様が帰ってこられたようです」

「そのようじゃな」 

浄紐が子供達を制して足早に小屋にやって来ると平太の姿が目に入った。

「平太、どうした?」 様子のおかしい平太に声をかけた。

「あ、浄紐兄様、お疲れでございました。 いえ、何でもありません」 浄紐は今気になっていることに急いている。

「そうか、なら良いが」 それだけ言い残すと、すぐに小屋に入った。

浄紐のその姿を目で追い、平太は自分達の小屋に歩を向けた。

その気配を背で確かめながら、浄紐は小屋に入るやいなや片膝をつき

「主様、お疲れでございました」 

「そなたの方こそご苦労であったな。 荷を下ろして上がってくるがよい」 

「はい」 荷を下ろし、すぐに深堂が空けた主のそばに座ると

「主様・・・」 浄紐の目が鋭く光った。

「うむ。 勝流のようじゃな」

「私が発つ前はこんなことはなかったのですが・・・いったいどうしてこんなに急に・・・」

「勝流の念以外のものが分かるか?」

「はい、しかと。 かなり性質が悪うございます。 早急に何か講じなければと・・・ん? うぬ?」 何かに集中する。

「どうした?」

「はい・・・これは・・・」 念をもっと細かく感じようとする。

その様子に眉間を寄せる主。

「この念は・・・里にございました・・・うむ。 間違いございませぬ」

「なんと!? いったい里で何があったのじゃ」 はい、と答えると言葉を続けた。

「不可思議な事が続いているという話でございました。 里へ下りてみると、急に奇声をあげて走る者がおりました。 頭を抱えて「死ぬる死ぬる」 と叫ぶ者。 夜な夜な出歩いては物取りをしたりする者もおったそうです。 
皆、いつもはその欠片も見られないという事でした」

「里でそんな事が・・・」 二人の様子を見ていた深堂が外に出て、子供達が入って来ぬよう閉めた戸の前に立った。

「要らぬ念が大きくなったようでございました」

「元は持っていたという事か」

「多少なりとも。 ですが、どうして急にそれが大きくなったのか・・・それも一斉に」

「うーむ・・・」

「解せませぬ・・・」 

「・・・まさか」 声と共に主が顔を上げた。

「は? なんと?」 浄紐が主を見る。 

「わしが居ぬ間、そなたを里へおびき出せば好き勝手が出来る」 前を見据えている。

「このお山ででございますか?」 浄紐のその声に前を見据えていた主が浄紐を見て続ける。

「うぬ。 これだけ性質の悪い念じゃ。 里で何やら陰を持つ者に次から次へ憑いて切っ掛けを作った・・・そなたをおびき出す為に」

「・・・何故にこのお山で?」

「勝流じゃ。 勝流に憑きたかったのじゃろう」

「まさか!」 目を見開く。

「そなたも分かっていよう、あの勝流の念。 
その念に今朝、誰にも分からぬように憑いたのじゃろう。 それもこの念じゃ、勝流の念を更に扇ぐ様にしたのであろう」 

「くぅ・・・」 嵌められたのか、と唇を噛み頭を垂れる。

「いや、誰にも分からぬよう前から憑いておったのかも知れぬ」 思いもしない言葉に浄紐が垂れていた頭を起こし、主を見た。 

その主は正面を見て言葉を続ける。

「気を感じられぬ所・・・このお山から離れた所で憑かれては誰も気付かん。 憑いては離れを繰り返しておったのじゃろう。 離れられてはわしにもそなたにも分からぬ。
徐々に徐々に、勝流を取り込んでいったのじゃろう。 勝流の様子がおかしくなってきた事を考えれば納得がいく」

「何故、勝流に・・・」

「里の者に憑いたとて、その肉は知れたもの。 簡単には移動も出来ぬ。 それこそ、まともに山を越える事も出来ぬ。 
じゃが、勝流に憑けばその肉を使って自由に動き回れる。 それに修行をしている身じゃ、里の者にない力もある。 やりたい事が出来る」

「なんと・・・」



山を駆け上がり風来の元へ向かう風狼。

「風来の後ろから驚かしてやろうか。 きっとすごく驚くぞ。 
驚いて・・・あいつ泣き虫だからな、ビービー泣いて鼻水垂らして俺に抱きついて 「風狼ただいま、ただいま。 風狼が居なくて寂しかったよー」 って言うに決まってるな。
あー、あいつの鼻水が俺の顔に付くのか・・・まぁ、それでもいいか。 今日だけは許してやろうか」 喜び勇んで走る風狼の耳に獣の声が聞こえ、同時に崖の上から小石が落ちてきた。 

「ん? 風来か?」 喜んで歩を止め、崖を見上げると人影が見えた。

「あれ? 風来じゃない。 あれは勝流兄?」 勝流の姿を見たがその姿はすぐに見えなくなった。 

「あんなところにどうして勝流兄が? 主様のお迎えがあるのに・・・まっ、いいか。 とにかく風来を驚かせなくっちゃな。 
愛宕のお山の土産話もいっぱいあるんだからな。 ああ、それに礼も言ってもらわなくちゃな。 俺がずっと獣達を見てきたんだからな」 風来との楽しい会話を想像しながら先を急いだが暫くして

「何をしてる! 止めろ! 触るな!」 大きな声が聞こえた。

「風来の声? ・・・どこからだ?」 今までの気持ちが一転し胸騒ぎがした。

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みち  ~満ち~  第249回

2015年11月03日 14時47分20秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~満ち~  第249回




愛宕のお山を下り、連なる山々を長く走り、飛び、歩き続けるとやっと皆が待つお山に足を踏み入れた。

「たぁー、やっとお山に着いたー」 バテかけている風狼が膝に手をついて背を曲げる。

「お前・・・ホンットに体力がないな」 後ろを歩いていた平太が突き出された風狼の尻を蹴った。

つんのめって前にこけかけるのを何とか止めると、振り返り平太に文句を垂れる。

「痛ってー、何すんだよ。 修行で疲れてんのに、お山に帰ってくるまでも修行並みだったんだぞ。 疲れるに決まってるだろー」 

「何言ってんだよ。 俺も同じようにしてるだろ。 お前だけじゃないだろーよ」

二人の言い合いを空で聞いていた主が風狼に話しかけた。

「風狼」 振り返る事をせず前を見たままだ。

「はい」 慌てて振り返り主を見る。

「帰ると驚く事があるぞ」

「驚く事ですか?」 風狼が主の後姿に問うと、その会話を聞いていた平太が思わず主の後姿に話した。

「主様、もしや・・・」 平太のその声に主がやっと振向いた。

「そうじゃ。 流石は平太じゃの。 分かったか?」

「はい。 まだまだ薄いのですが」

「なに? なに? 平太兄、教えてくれよ」

「お前、分からんのか?」

「分かんないから聞いてるんだろ」 ふて腐れて言う。

「帰ると分かるよ」 クスッと一笑いしてそう答えた。

「ちぇっ。 まっ、いいか。 帰ったら分かるんだから」 

「それじゃからいつまで経っても分からんのじゃがのう」 どうしたものかと主が溜息をつく。

それを聞いて平太が笑い、風狼は口を尖らせている。

三人でお山を登り、やっと着くと皆が出迎えた。

「主様ー! お帰りなさいー」 小さい子供達が主に飛びついた。

「おお、おお。 皆元気じゃの。 どうじゃ、怪我などはせんかったか?」 一番小さな子を抱き上げ子供達を見ながら話しかける主。

「こけたけど深堂(しんどう)ちゃまが治してくれたー」 「俺は峻柔(しゅんじゅう)ちゃまに治してもらった」 小さい子らが皆口々に主に話しかけた。

「そうか、そうか。 優しい兄様たちじゃのう」 子供達の後ろに立つ深堂。

「主様、お疲れでございました」

「うむ。 子達の世話、ご苦労であったな」 

「皆が手を貸してくれておりましたので」 すると主の後ろに居た峻柔が横に回り「お疲れでございました」 と言うと手を伸ばして言葉を続けた。

「涼乃(すずの) 主様はお疲れぞ。 こちらにおいで」 幼子を主の手から引き上げた。

「風狼兄ー。 遊ぼう」 今度は子供達が風狼にまとわりついた。 

「そうか。 みなもご苦労であったのう」 弟子達や、少し大きな子供達を労う。

「子供たちのことは風狼に任せて、中で木ノ葉が茶を入れております故」 深堂が言うと

「木ノ葉の入れる茶は美味じゃからのう」 そう言って小屋に向かって歩き出しながら

「それで、いつ帰ってきたのじゃ?」 深堂に聞くと

「少し前でございます」 風狼は子供達とじゃれあっていて会話を聞いていない。

「そうか。 どこにおるのじゃ?」 

「それがすぐに獣のところに行きまして・・・主様が帰ってこられる気も感じられぬとは修行が足りませぬな」

「ははは、言ってやるな。 獣に夢中なのであろう」

「そのようです」

「浄紐(じょうちゅう)と勝流が見当たらんな」

「はい、浄紐兄様は主様が出られた後暫くして里で不可思議な事があると助けの求めがあったので、それからずっと出ておられています」

「そうか・・・それでか・・・」

「何か?」

「いや、それで勝流は?」

「主様が帰ってこられたというのに、どこへ行ったのやら」 深堂の表情が曇った。

「そうか・・・」 その時、子供達と遊んでいた風狼が

「主様! 俺の驚く事ってなに? 何も驚く事なんてないけどなぁ・・・」

「主様? 風狼は知らないのですか?」 深堂が主に尋ねた。

「ああ、何も言っておらん。 風狼も何も気づいておらぬ。 いつになったら分かるのやらのう」

「言ってもよろしいのでしょうか?」

「そうじゃの、そろそろ教えてやろうかのぅ。 教えてやってくれるか?」 そう言うと座布団の上に座り難しい顔をしかけたが、すぐに木ノ葉から茶を受け取ると木ノ葉に優しい笑顔を返した。

「風狼、お前分からんのか?」 荷を下ろしている風狼が顔を上げ深堂を見る。

「え? 深堂兄まで平太兄と同じことを言うのか?」

「なんだ、平太も同じことを言ったのか?」 同じように荷を下ろしている平太の方を見て言うと

「深堂兄様、こいつ本当に何にも分かってないんです。 風狼、お前普通以上に鈍感じゃないのか?」

「けっ、そんな言い方しなくていいだろ」 口を尖らせている風狼を見て深堂が思いがけない言葉を発した。

「風来だよ」 

「え?」 袋から荷物を出しかけていた風狼の手が止まった。

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