大福 りす の 隠れ家

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みち  ~未知~  第1回

2013年05月30日 17時30分00秒 | 小説
『みち』 ~未知~  第1回



独身を貫き通し あと数ヶ月で40歳を迎えようかという年、突然今まで勤めていた会社を辞め 新たに就職活動をしだした。


織倉琴音(おりくら ことね)39歳9ヶ月。


「あと3ヶ月で40歳。 履歴書を書くのも憚ってしまうわ・・・39歳か40歳。 でも3と書くのと4と書くのって雲泥の差よね」 溜息をつきながらも そんな思いがあったのだが その思いは結果的に不要なものとなってしまうのだ。


会社を辞め1ヶ月間はゆっくりと求人を見ていて その後、本格的に腰を上げようと計画をし 就職もすぐに決まるつもりでいたのだが 思ったように事が運ばない。

「どうしてこの年になると こんなに仕事が無いの? どういう理由で35歳までの募集ばっかりなのよ」 年齢に引っかからないことも勿論だが 琴音が気付いていないピンとくるものが見当たらないのだ。

それにもし琴音が34歳で同じように仕事を探していても きっと「どういう理由で30歳までの募集ばっかりなのよ」こんな風に言うだろう。 人間とは自分勝手なものだ。  

ゆっくり求人を見ているだけのつもりの1ヶ月が 不服の1ヶ月に変わってしまった。

最初は新聞広告のチラシや 求人雑誌を見ていたのだが 1ヶ月が過ぎたことをきっかけに

「ああ、もう1ヶ月過ぎちゃったじゃない。 あとちょっとで40歳って書かなくちゃいけなくなるじゃない。 余計と募集がなくなってくるわ。 ・・・明日にでもハローワークに行ってみようかしら」 そんなことを考えていた日の夜、8時を過ぎて電話が鳴った。 

「誰かしら?」 電話に出てみると親友からであった。

「あら、久しぶりじゃない」 電話の相手は 元同僚の文香(ふみか)であった。

「どう? 仕事見つかりそう?」

「ぜんぜん。 世の中どうしてこんなにアラフォーに厳しいのかしら」

「じゃ、当分暇そうね」

「暇になりたくないけど そうなりそうよ。 あーあ、ドライブにでも連れて行ってパッとさせてよ」

「あ、それ本気?」

「なあに? どうしたの?」

「実はさ、会社の人が有給使って三重県の伊勢神宮に行ってたんだけど 凄くよかったから行ってみなさいよって言われたの。 それで行ってみたくなったんだけど ドライブがてら一緒してくれない? どうせ暇でしょ」 

文香は中学生の頃まで 京都は乙訓の地で過ごしていた。 京都という土地柄か 社寺仏閣が好きなようで 中学生の時には向日神社でよく遊んでいたと琴音は聞いている。 

琴音が働いていた会社で 文香も一緒に働いていたのだが 結婚退職をしたものの すぐに離婚をして 今はまだ一人で再婚もせずに働いている。

「はぁ?! 神宮って神社? 私が社寺仏閣が嫌いなの知ってるでしょ。 それにまだ39歳よ、神社へ行くなんて歳じゃないわよ。 行かない」 そっけなく答えた。

文香と相反して琴音は全く社寺仏閣に興味が無いのだ。 それどころか仕方なくお寺に行った日には どうしていいか分からず取りあえず「南無阿弥陀仏」 と唱えるだけだ。 その他の事を少しでも考えたり心で言ったりすると 何かありそうで漠然と怖いのだ。 それにそういう所は年寄りの行く所と どこかで決め付けていた。

「なんだぁ、せっかくチャンスと思ったのに」

「ごめん。 他の子誘って」

「うん。 じゃあそうする。 ねぇ、それより聞いてよ うちの職場の上司ったら・・・」 と文香の会社話が始まり それに相槌を打っていた琴音であった。

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