大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~道~  第154回

2014年11月28日 14時24分44秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第154回



ある日の夜、夕飯も済ませ風呂にも入り、落ち着いて本を読んでいるとき『007』 が鳴った。

「あ、野瀬さんだわ」

「夜分に申し訳ありません。 野瀬です」

「こんばんは」

「こんばんは。 今日は更紗さんに頼まれてお電話をお入れしました。 更紗さんからお話をしたい事があって織倉さんのご都合のいい日をお聞きしたいのですが」

「都合ですか? 会社に行く以外は何も予定はありませんからお休みの日ならいつでもいいですよ・・・あ、平日の方がいいんですか?」

「いえ、特にいつの方がいいという事はありませんので・・・それじゃあ、お休みはいつでも良くて平日なら退社時間の後が空いているんですね」

「はい」

「それではその様に更紗さんに伝えますが、更紗さんのスケジュールの都合で急にご連絡を入れても宜しいでしょうか?」

「はい。 大丈夫です」

「では その時にまた宜しくお願いします」

「はい」

「って言う事で、業務連絡はこれで終わりです」 これを聞いて琴音がクスッと笑った。

「あれからどうです? 縄文勉強は捗ってますか?」 はじめて野瀬と縄文話をしてからも数回会っていたのだ。

「頑張りたいんですけど図書館に縄文時代の本ってそんなに無くて今はちょっとストップ状態なんです」

「そうなんですよね。 やっぱり縄文時代の本ってあくまでも憶測でしかないから文献が残されている時代に比べてそんなに無いんですよね」

「それで今・・・あ・・」

「え? なんですか?」

「偏ってるって言われるかもしれないので止めておきます」

「何言ってるんですかそんなこと言いませんよ。 何ですか? 言ってみてください」

「弥生時代なんですけど」

「はい」

「弥生時代に大陸から渡ってきた人たちのことなんですけど・・・そちらの方が気になってきて今そっち方面を読んでいるんです」

「あー、その気持ち分かります」

「え? 野瀬さんも?」

「そうなんですよ。 調べちゃいますよねー」 そこへ電話の向こうで更紗の声が聞こえた。

「あ、クライアントがお帰りになるので また今度」

「はい」 携帯は切られた。

「こんな時間まで仕事だなんて身体は大丈夫なのかしら。 それに更紗さんが改まって時間を取るってどんな話なのかしら?」 独り言を言いながら本の続きを読み出した。

「イスラエル、六芒星かぁ・・・安倍清明は五芒星よね」



琴音にとっては2度目の決算が近づいてきた。

「決算月・・・今月末にまたみんなバタバタだわね」 そう思いながら机に向かって朝の仕事を始めた。 するとお昼前になった時、朝一番に出て行った営業の社員が

「やったー! 契約とって来ました!」 若い社員が事務所のドアを開けるなり大きな声で帰ってきた。

「おお! 決まったか?」

「はい、やっと決まりました」 嬉しそうな顔をして社長の席に近づいていき契約書を見せた。 他の社員も覗き込みに行った。

「もう駄目かと思っていたんだがよく粘ったな」

「あの時、社長が電話に出てくれたのが効いたんじゃないでしょうか」

「あんなもので話しがまとまるわけ無いだろう。 お前の力だよ。 オイみんな、ファイナルさんと契約が取れたから忙しくなるぞ。 現場にもよく言っておけよ」

(あ、ファイナルさんって あの時社長が話してた会社じゃない)

「織倉さんも忙しくなるのは初めてだろうけど次々に仕入れの伝票が入ってきますから頑張ってやってくださいね」

「はい。 でも期末も近くなってきているのに皆さん大変になりますね」

「あ、そうか、期末だったな・・・まぁ、嬉しい忙しさだからいいだろう」 社長の周りでは契約を取ってきた若い社員が 「やったじゃないか」 とみんなに頭を押さえつけられていた。

「イタタタ・・・もっと優しく褒めてくださいよ」 事務所の空気が今までと一転した。

その日から会社では男性社員が夜遅くまで働きだした。

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みち  ~道~  第153回

2014年11月25日 14時23分33秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第153回



事務所に居る社員にコーヒーを出したものの応接室に入っていいものかどうか迷い他の社員に聞いた。

「応接室に入っていいんでしょうか?」

「どうしてですか?」

「朝のコーヒー、どうしたらいいのかわからなくて」

「ああ、そうですね。 そうだなぁ・・・どっちがいいかなぁ」 社員が考えている時に応接室のドアが開き

「織倉さん、すみませんがコーヒーを入れてもらえますか?」 社長が顔を出して言った。

「・・・だそうです。 持って行っていいみたいですよ」

「はい」 琴音が社長と社員のコーヒーをお盆に乗せ応接室に入るとそこには重い空気があった。

「まぁ、お前の言ってることも充分わかるけどなぁ」

「申し訳ありません」

「考えは変わらないのか?」

「はい」

「これ以上言ってもお前を責めてしまうだけか・・・」 琴音はコーヒーをそっと置いて応接室を出た。



翌日

「織倉さん、ちょっと応接室に来てくれる?」 社長が琴音を呼び出した。

すぐに応接室に入ると社長がソファーに座り

「織倉さんも座って」 そう促され琴音がソファーに座ると少し間を置いて社長が話し出した。

「昨日ねちょっと色々あって、そこの所はまぁいいんだけど 今日、芹沢が来てないでしょ?」 芹沢というのは昨日社長と応接室にいた社員だ。 ちなみに年末、琴音にボーナスがないか聞いていた社員でもある。

「急な話で悪いけど今日付けで退職という手続きをとって欲しいんだけど・・・」

「あ・・・はい。 今日付けですね」 あまりの急な話に驚いたが、昨日の会話を思い出すと何かあったのかと察した。

「急で悪いね。 退職手続きは初めてだよね」

「森川さんがお辞めになる時に森川さんの退職手続きを一緒にしました」

「そうなの? 知らないのかと思って・・・それじゃあ全部任せていいかな?」

「はい。 退職金の方は規約に基づいてで宜しいでしょうか?」

「うん、そうして下さい。 お金のないときに悪いね。 それとこの話は他の社員と話さないように」

「え? ・・・皆さんご存じないんですか?」

「いや、芹沢が辞める事は全員知ってるよ。 でもちょっと気のいい話じゃないから他の者にもこの話はもうしないように言ってるんだ」

「分かりました」

「じゃあ、頼んだよ。 それだけだからもういいよ」

「はい。 失礼します」 応接室を出ようとしたとき

「あ、ゴメン 織倉さん」

「はい?」

「コーヒーを入れてきてもらえますか? 甘目でお願いします」

「はい」 いつもより甘くコーヒーを入れて応接室に持っていったが、暫くの間 社長は応接室から出てこなかった。

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みち  ~道~  第152回

2014年11月21日 14時34分30秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第152回



マンションに帰った琴音は明後日から仕事だ。

「明後日から仕事かぁ・・・」 座椅子に座りお茶を一口飲んだ。

「そう言えば昨年始めてこの時期に乙訓寺に行ったのよね」 乙訓寺で経験した事を思い浮かべていた。

「何回か行って急に行かなくなったけど・・・更紗さんが言っていたように私の中で清算が終わったのかしら」 湯飲みを両手で包む。

「過去の浄化・・・」 じっとお茶を見つめながら

「囚われてるつもりはないけど心のどこかでまだ囚われてるのかしら・・・そうよね。 いつまでも昔に囚われてちゃいけないのよね・・・」 運転に疲れたこともあり炬燵の暖かさも手伝ってその内ウトウトとしだした。


年始出勤。

社長の年始の挨拶も終わりそれぞれが席に着き仕事を始めた。

琴音の仕事がいつも暇なわけではない。 年末年始はさすがに忙しい。

「月初めの業務を早く片付けなくちゃ。 支払日に間に合わないわ」 机にしがみついて伝票を切り始めた。 他の社員は年始の挨拶に追われている。


支払日にも無事間に合い一区切りがついたがこれからは月初めの業務に追われていた間止めていた毎日の業務をこなしていかなければならない。

「はぁ、疲れる。 あ、そうだわ お給料計算もしなくちゃいけないじゃない。 急がなきゃ」  暫くは仕事に追われるようだ。


ある日の朝、前日から続く雨の中を合羽を着て出勤。 

「わぁ、きつい雨だったわ」 自転車を止め、合羽を脱いだ。

合羽を着ていても濡れる所はある。 更衣室に入り足元をタオルで拭き、雨に濡れない様にビニール袋に入れて持ってきた靴に履き替えた。

「寒―い。 冬の雨は冷たすぎるわ・・・早く事務所に入って掃除を終わらせて暖房入れて暖まろう」 階段を上り事務所のドアを開けた。 すると えも言われぬ何かを感じた。

「やだ、何これ? まともに息が出来ない・・・」 息だけではない身体をまっすぐにも出来ない。 あまりの重たさに腰が曲がってしまっているのだ。

「何なのよ、いったい」 事務所を見渡すが何もない。

「苦しい・・・とにかく窓を開けなくちゃ」 毎日のクセか、何かを感じてなのか曲がった腰の姿勢で全ての窓を開けた。

「何なの? これって、何?」 腰が曲がったまま、息もまともにできず窓際から離れる事が出来ない。

すると暫くして息もしやすくなり身体も楽になった。

「あー、苦しかった。 いったい何だったの・・・」 琴音には分からないだろうけど念だよ。 念とは恐ろしい物だね。

「あ、キャー! 雨が入ってきてる!」 慌てて窓を閉じた。


そして琴音の仕事がやっと落ち着いた時には2月になっていた。

「売上もそんなに無いのにどうしてこんなに忙しかったのかしら?」 やっと一息つけるようだ。 それに今年はストーブのお陰でシモヤケに悩まされなかった。 

だけど・・・社内の様子が少しおかしい。


マンションに帰るとすぐに部屋を暖める。 そして温かいお茶を入れそれを持って部屋が充分暖まるまではコタツに入って待つ。 いつしかコーヒーからお茶に変わっていたこの数ヶ月の光景だ。

「うー・・・寒い。 早く暖かくならないかしら」


数日後

出勤をし、掃除を終わらせ時計を見ると男性人の出社時間の9時を過ぎていた。 

「あ、もう9時を過ぎてるじゃない。 今日はいつもと違う所も掃除をしちゃったから遅くなっちゃったのね。 もうみんな事務所に上がって来るわ。 早くコーヒーの用意をしなきゃ」 急いでコーヒーの用意をしたものの10分経ち、20分経っても誰も事務所に上がってこない。

「どうしたのかしら?」 その時、外線が鳴った。

「お早うございます。 悠森製作所でございます。 あ、いつも有難うございます。 はい、はい、少しお待ちください」 社長に電話が入ってきたのだ。 放送で社長に知らせようとした時、階段を上がってくる足音がした。

ドアが開き社員と社長が入ってきた。

「社長、ファイナルさんから1番にお電話が入っています」 ファイナルというのは電話相手だ。

「ああ、有難う」 すぐに電話を取り

「お早うございます、お電話変わりまし・・・え? なんだ、お前か。 あははは・・・そんなこと今まで1回も聞いてなかったぞ。 おう、おう。・・・そうだったのか・・・笑えるなぁ。 まぁ、俺とお前の事は関係なくよろしく頼むよ。 ああ、じゃあまた来週だな」 電話の様子を聞いていた琴音には何のことか全く分からなかった。 

電話を切った社長が琴音を見て

「織倉さん少しの間、電話を取り次がないでください」 そう言って以前、武藤と話をしていた社員と応接室に入っていった。

他の社員を見るとみんな不自然な顔をしている。

(どうしたのかしら?)

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みち  ~道~  第151回

2014年11月18日 14時56分18秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第151回




翌日の夕飯。 皿を並べ終えた時、ふと思い出した。 

「あ、そうだお父さん あの掛け軸なんだけどね」 座っていた父親に話しかけると

「うん、どうした?」 何のことかと琴音を見上げた。

「あれって 言ってみればお札みたいよ」 掛け軸の前に立ち父親が写し書いたという額を見ながら言うと

「お札?」 父親は座ったままだ。

「うん。 ほら、お父さんが書いた額には 『太上神仙』 としか書いてないけど掛け軸をよく見ると 『太上神仙鎮宅霊符』 って書いてあるでしょ?」

「ああ、そう言えばそうだったかなぁ」

「調べてみたら色々書かれててよくは分からないんだけどね。 でも見てここの文字、妖しいって文字が書かれてるでしょ」 琴音の隣に立った母親が覗き込み

「あら本当だわ。 今まで気付かなかったけどお経にそんな文字って使わないわよね」

「元が道教とかっていう事も書かれてたわ。 まぁ、陰陽師以外にも神道や仏教も使ってたとも書かれていたから何とも言えないんだけどね。 それにまだ続きがあるみたいなことも書かれていたわよ」

「続きって?」 母親が聞くと

「これはまだ半分なんだって。 まだ残りの半分もあるらしくってそれを3回唱えるといいとか色々書かれてあったわよ」

「へぇー そうなのか?」 座ったままではあるが琴音の話に耳を傾けている。

「琴ちゃん、冷めちゃうわよ座って食べましょう」

「あ、うん」 席に着きご飯を食べながら

「江戸時代に流行ったらしいんだけど何かお爺さんから聞いてない?」

「何もそんなことを聞いてないなぁ」

「前に来た時にうちは浄土宗って言ってたけど 昔、陰陽師に関係とかはしてないの?」

「昔って?」

「お爺さんのお爺さんの時とか」

「お父さんが生まれる前の話なんか知らないよ」

「ま、そうよね・・・」

「でもどうしたんだ? この前来た時から琴音の話す内容が今までと全然違うじゃないか」

「歳をとったから宗教に興味が出てきたのかしらね」 答えにくい事を聞かれて誤魔化すようにいった。

「何を情けないことを言ってるんだよ」

「琴ちゃん、そんなことばっかり言ってると誰も彼氏になってくれないわよ」

「それは関係ないでしょ」 琴音のルーツを知る手段が途絶えてしまったようだ。 

自分のルーツを知る事、途絶えてしまったのなら今の自分をよく見よう。 そこにはルーツのヒントが隠されているかもしれない。


年が明け元日。 

いつもなら母親の作ったお節料理が並べられるはずだったが今年は出来上がったお重を並べた。

「美味しいかどうか分からないけど注文しちゃったの。 もうお父さんもそんなに食べなくなったから作るのも面倒になってね。 ねっ、お父さんも琴ちゃんも早く食べてみて」 

「そんなに急がなくても料理は逃げないだろう。 ほら琴音」 そう言って琴音に杯を渡した。 そしてその杯に御屠蘇を注ぎ母親にも同じように杯を渡し注いだ。

「それじゃあ、明けましておめでとう」 父親のその言葉に続いて母親と琴音も同じように言い御屠蘇を飲んだ。

「どれ、それじゃあ何を食べてみようかな・・・」 父親が蓮根を一つとって食べた。

「うん。 いいんじゃないか?」

「そぉ? 琴ちゃんは?」

「じゃあ、私は金時人参」 口に入れお店で食べた物と味を比べるとやはり甘みが全然違ったが

「美味しいわよ」 味付けは良かったようだ。

父親が黒豆を食べると

「黒豆は美味しくなくもないけどお母さんの作った方が美味しいな」 それを聞いた母親が喜んで

「そう? 黒豆は炊いたの。 今もって来ますね」 嬉しそうに歩く母親の後姿だ。 そして冷蔵庫から黒豆を持ってきたが

「はい、お父さん黒豆。 琴ちゃんは金時人参ね」 琴音用に金時人参も持ってきた。

「え? 金時人参も煮たの?」

「だって琴ちゃんったらいつも金時人参ばっかり食べるじゃない」

「え? そうだった? でも嬉しい」 一口食べると

「うーん、こっちの方が美味しい」 母親はその姿を満足そうに見ながら

「さ、お餅いくつ食べる? 沢山買ってきてあるわよ」

「ああ、お正月ってだから太るのよね」 贅沢病だよ。



親子水入らずの日が過ぎ琴音は実家を後にした。

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みち  ~道~  第150回

2014年11月14日 14時23分21秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第150回




実家に着くと母親が跳んで出てきた。

「わ! 何? お母さん、なにお洒落してるの?」 母親が一張羅を着ている。

「え? 琴ちゃん一人なの?」 琴音の後ろを見るが誰も居ない。

「何言ってるのよ一人に決まってるじゃない。 ただいま」

「なんだ、そうなの。 お帰り」 肩を落として琴音をおいたまま玄関に向かった。 その後姿を見ながら

「なんだって何なの?」 車から荷物を出し家に入ると父親が新聞を広げていた

「お父さん ただいま。 電話ありがとうね」

「お帰り。 道は大丈夫だったか?」

「うん。 何ともなかったわ。 それよりお母さんどうしたの?」 琴音のその言葉に母親が着替えている部屋の方をチラッと見て小声で答えた。

「笑うぞ。 琴音が誰か男の人を連れてくるに決まってるって着替えまでして待ってたんだ」 

「ええ? どうしてそんな話になるの?」

「知り合いと会ったからちょっとお茶を飲むって電話を入れてきただろう」 新聞を畳みだした。

「うん」

「それをお母さんに言ったらきっと男の人を連れてきていてうちに帰る前にその人とお茶を飲んでるんだってきかなかったんだよ」

「ちゃんと知り合いに会ったって言ってくれたの?」

「言ったよ。 それなのにそれは嘘で絶対だれか連れてきてるってきかなかったんだよ」 綺麗に畳んだ新聞を横に置いた。

「もう、お母さんったら。 連れてくる時にはちゃんと言うわよ」

「え? 琴ちゃん、やっぱりそんな人が居るの?」 着替えを終え、割烹着を片手に母親が会話に入ってきた。

「居ないわよ。 もう、お母さんお洒落までしてって・・・」

「こんな格好で迎えられないでしょ。 お父さんにも着替えなさいって言ったのにこの格好よ」

「結局は着替えが必要なかっただろう?」

「そりゃそうですけど、いざとなったらどうするんですか」

「いざの時はちゃんと言います」 溜息混じりに言うと

「そんなことを言うって事はやっぱりいい人が居るんじゃないの?」

「居ないってば」 琴音の返事を背中で聞きながら母親が割烹着の後ろを結びながら台所に向かった。

「ねぇ、お父さん お母さんってこの一年で若くなってきてない?」

「若いって言うか・・・口うるさくなってきたな。 琴音に今日の夜は冷えるって電話をしたのもお母さんに言わないで電話をしたもんだから気に入らなかったみたいだしなぁ。 後でグチグチ言われたよ」

「なに二人で人の悪口を言ってるの? お腹空いたでしょ? 琴ちゃん台所手伝って」 台所から大声で母親が叫んだ。

「はい、はい」 思いもしない迎えられ方をして年末年始の実家での生活が始まった。



夜、布団に横になろうとした時

「あ、野瀬さんの伝言 忘れてたわ」 携帯で野瀬の伝言を聞くと

『野瀬です。 今仕事が一段楽したんですけどお時間がありましたら縄文談義をしませんか?』 こんなメッセージが入っていた。

「更紗さんも言って下さってたし、もう返事はいいわよね」 携帯を閉じ

「さ、野瀬さんとちゃんとお話が出来るように明日から本を読まなくっちゃ」 今日はもう疲れたようでそのまま寝入った。


実家での生活は母親の話し相手が主な目的だがいつも通りしっかりと本を持ってきていて読書の時間もとる。

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みち  ~道~  第149回

2014年11月11日 14時48分05秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第149回




「そう。 正道さんが帰られてから正道さんをどう感じた? って聞いたら柔らかいとか細かいとか温かいものを感じたって言ったじゃない?」

「はい。 確かに言いました」 その言葉に何があるのかが分からない。

「それが正道さんの波動なのよ」 それを聞いた正道が

「ほほぅ、そんな風に感じ取ってくださったんですか?」 その言葉を聞き、まるで琴音を自慢するかのように正道を見て更紗が言葉を続けた。

「そうなんです。 琴音さんってなかなかのものなんですよ」 そう言った時、更紗の携帯が鳴った。

「あ、ちょっとごめんなさい」 携帯を見ると

「あら、笑っちゃう野瀬君だわ。 噂をすれば何とやらだわ」 琴音のほうを見て言った。

「もしもし、野瀬君? うん、うん。 ・・・そう、分かったわ、ご苦労様。 でも今日は早く終わりなさいって言ってたのにまだやってたの? ・・・え? そうなの? そんな話聞いてないわよ」 琴音の顔を見た。

「聞いてないってどういう事ですか?」 電話の向こうの野瀬の声だ。

「だって今、琴音さんと一緒だもの」 キョトンとしている琴音にウインクをした。

「え? 今日は正道さんと出かけてるんじゃないんですか?」 野瀬が話を続ける。

「正道さんと琴音さん、今三人一緒なの」

「うわ! 信じられない。 僕だけ仲間はずれですか!?」

「何 子供みたいなことを言ってるのよ」

「納得いかないなぁ。 帰ったらちゃんと説明してくださいよ」

「分かったわよ、じゃあ切るわよ」 携帯を切りながら正道の方を見て

「すみません」 そして琴音を見て

「野瀬君が琴音さんの携帯に伝言を残しているそうよ」 

「え? そうなんですか?」 慌てて鞄から携帯を出して見てみると

「あ! さっき見た時は全然気付かなかったわ。 急ぎの用だったって仰ってました?」

「縄文話をしたかったみたいよ」 それを聞いた琴音は

「じゃあ、伝言は後で聞きます」 携帯を閉じた。

「私から琴音さんが気付いてなかったって言っておくし、今の電話で状況も分かっただろうから返事はしなくていいわよ」 二人の会話を聞いていた正道が

「野瀬君も忙しそうですねぇ」

「よく働いてくれますわ。 休みなさいって言うのに年末も年始もないんじゃないかしら」

「ちょっと強制的にでもお休みをあげないと身体を壊しますよ」

「そうなんです。 それが気になって私がどれだけ休みなさいって言ってもどうもじっとしていられないみたいなんです。 でも今日は琴音さんに会おうと思っていたみたいですよ。 それが琴音さんと連絡が取れなかったからこの時間まで働いていたみたいよ」 正道の方を見ていた目が琴音に移った。

「悪いことをしちゃいましたね」

「いいのよ。 ちゃんと事前に連絡を取らなかった野瀬君が悪いんだから」

「やっぱり野瀬君もなかなか見る目がありますな」

「ええ。 野瀬君も私も忙しくなると琴音さんに会いたくなるんです」

「分かりますなぁ。 琴音さんは人を癒せる人ですな」

「ええ? そんなことないです」 否定をする琴音に更紗が説き伏せるように

「そうなのよ。 だから私も野瀬君もどれだけ忙しくて疲れていても琴音さんに会ったあとはまた仕事に戻れるのよ」

「恥ずかしい」 顔を赤くして下を向いた。

「わははは コロコロと色んな表情が出て見ていて飽きませんな。 お、もうこんな時間になってしまって、更紗さんそろそろ出ましょうか帰りが遅くなってしまう」

「あら本当。 でも今日は良かったわ正道さんに琴音さんを会わせられて」

「いや、本当にそうですな。 琴音さん今日はお付き合い下さって有難うございました」 深々と頭を下げた。

「いえ、こちらこそ有難うございました」 琴音も思わず頭を下げた。

「これからご実家へ帰られるんですね」

「はい」

「親孝行ですなぁ」

「とんでもないです。 一緒に暮らせばいいのに離れて暮らしている親不孝者です」

「色々あるわよね。 それじゃあ出ましょうか」 更紗が立ち上がり先を歩いた。

駐車場へ向かうと正道と更紗を見送り琴音も車に乗り込んだ。

「あ、電話をしておこう」 実家に電話を入れた。

「あ、お父さん? 今からそっちへ向かうから。 30分ほどで着くと思うわ」 携帯を切り

「あら? そう言えばどうして正道さんと更紗さんがここに居らしたのかしら? ・・・ま、いいか」 エンジンをかけ車を走らせた。

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みち  ~道~  第148回

2014年11月07日 14時43分13秒 | 小説
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『みち』 ~道~  第148回




「すみません。 お待たせしました」

「もういいの?」

「はい」 更紗の隣に座った。

「じゃ、琴音さん何飲む?」

「ずっと渋滞だったからスッキリしたいので・・・ちょっと炭酸系がいいかな。 えっとソーダ水にします」

「クリームは付かなくていいの?」 わざと子ども扱いするように更紗が聞いてきた。 その雰囲気を感じ取った琴音が

「はい、お子様じゃないのでいいです」 二人でクスッと笑う。 その様子を見ていた正道が

「お二人は双子のようですな」

「まぁ! そうですか? それなら嬉しいわ。 あ、琴音さんはご迷惑かしら?」

「いえ、迷惑だなんてそんなことないです。 それどころか嬉しいより先に畏れ多いです」

「私そんなに怖くないわよ」

「え? そんな意味じゃないです」 慌てて否定すると

「分かってるわよ」 今度はさっきより大きく二人で笑った。

「いいですなぁ。 女性がこうしてコロコロ笑うっていう事は何よりです。 お二人からは同じ物を感じますよ」

「ま、あんまり見ないでくださいよ。 琴音さん気をつけなくっちゃ底の底まで見られてしまうわよ」

「え?」

「あら、あら。 更紗さん人聞きの悪いことを言わないでください。 織倉琴音さん安心してください」 そこまで言うと更紗が

「あの・・正道さん、ちょっと気になっているんですが その織倉琴音さんってフルネームでお呼びになるのは少々長くはありませんか?」

「そうですか?」

「琴音さんはどう?」

「フルネームで呼ばれることは初めての経験かもしれません」 更紗を見てクスッと笑った。

「うーん・・・じゃあ何とお呼びしましょうか?」

「私と同じように下の名前だけの琴音さんでいいんじゃありませんか?」

「じゃあ そうしましょう。 琴音さん・・・で良いですか?」

「はい。 苗字で呼ばれるより下の名前の方が嬉しいです」

「って言うことは野瀬君が呼ぶより正道さんや私が呼ぶほうが嬉しいってことね」

「あ、野瀬さんからだと苗字の方がしっくりきます」

「・・・何かしらこの野瀬君に勝ったような優越感」 悪戯な目をした更紗だ。

「やだ、何言ってるんですか」 また二人で笑い出した。

「いいですなぁ、いいですなぁ」 二人を見て納得するように正道が独り言を言っている。

「きっと今頃 野瀬君くしゃみをしているんじゃないかしら? あ、有難う」 運ばれてきた紅茶をすぐに一口飲んだ。

「更紗さんの時はフルネームで呼ばれなかったんですか?」 琴音が正道に尋ねた。

「更紗さんには逢ってすぐに 『更紗って呼んでください』 と言われましたからな。 苗字を言う暇もなかったんですよ」

「あ、私の時もそうでした。 自己紹介のときにすぐにそう仰いましたよね」

「ええ。 下の名前で呼んで欲しい人には必ずそう言うの。 ま、言わなくても下の名前で呼ぶ人もいるけどね。 あの時のタヌキとか」

「もうヤダ、返事のしにくいことは言わないで下さい」 また二人でコロコロと笑い出す。 それを温かい目で見守る正道の目があった。

「あ、ごめんなさい。 正道さんが琴音さんとお話をしたかったんですわね。 私ちょっとお喋りしすぎちゃいました」

「いいんですよ。 お二人の笑い声を聞いてるだけでこちらが幸せになりますから。 それに私が直接何かを聞くよりお二人の波動を感じている方が分かりやすいですからな。 更紗さんもいつもとは全然違う気を発しておられて新しい更紗さんを見ているようです」

「本当にスイッチ入れてません?」 正道を覗き込んだ。

「これくらいは入れてなくても分かりますよ。 更紗さんも琴音さんもそうでしょう?」

「え? 更紗さんと違って私は何も分かりません」

「そんなことはない筈ですよ」

「そうよ、琴音さん思い出してよ。 正道さんと初めて会った時のこと」

「あの時ですか?」

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みち  ~道~  第147回

2014年11月04日 14時50分20秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~道~  第147回




高速を降り国道を走っていると

「最後に飲んだお茶が効いたのかしら・・・おトイレに行きたい・・・どこかにコンビニが出来てないかしら」 実家に行くには国道から外れなければいけないが国道を外れるとコンビニはない。 

仕方なく国道を外れずそのまま走ってキョロキョロとしていると丁度コンビニがあった。

「あ、あった! あそこで借りよう」 駐車場に車を停めると見覚えのある車が止まっていた。

「あれ? あの車って・・・まさかね」 そう思いながらコンビニに入りトイレを済ませて出てくるとレジに更紗が見えた。

「更紗さん!」 聞き覚えのある声に更紗が振り返るとそこに目を丸くした琴音が居た。

「え! 琴音さん!?」 

「どうして?」 二人が同時に言った。 そして顔を見合わせて笑い、先に更紗が話し出した。

「正道さんも一緒なのよ」

「正道さんとですか?」

「ええ。 琴音さんはどうして此処へ?」 レジでは次々とピッピピッピと音を鳴らしている。

「私の実家、こっちなんです」

「え? そうなの?」

「はい、今から実家に帰るんです」

「わ、信じられないことってやっぱりあるのね。 ね、時間ある? 急いで実家に帰らなくちゃ駄目なの?」 店員が商品を袋に入れだした。

「いえ、ここからだと30分くらいで着きますから時間ならありますけど正道さんもいらっしゃるんですよね」

「だからよ」 ふと店員の視線を感じ

「あ、ゴメンなさい。 おいくらだったかしら? 琴音さんちょっと待ってね」 支払いを済ませ

「お待たせ、琴音さんは何か買うの?」

「おトイレを借りたお礼に何かおやつでも買おうかと思ってるんですけど」

「ふふ、私と同じじゃない。 じゃあ、今私が買ったからそれでいいんじゃないかしら?」 両手に持ったコンビニの袋を軽く持ち上げて琴音に見せた。

「え? おトイレを借りただけでそんなに買ったんですか? 私なんておやつ1つくらいと思ってたのに」 

「それじゃあ、これで充分二人分のお礼が出来てるわね。 行きましょ」 コンビニを出て更紗の車に向かった。 

車の中を見ると正道がいない。

「あら? 正道さんが居ないわ何処へ行かれたのかしら?」 辺りをキョロキョロとしていると道路の方から着物を着た正道が歩いてきた。

「正道さん、何処へ行かれてたんですか?」

「いやぁー 本当に此処はいいなと思ってね。 あれ? 織倉琴音さん?」

「今日はお久しぶりです」

「偶然ここで会ったんです。 実家がこちらだそうですよ」

「そうなんですか? 奇遇ですなぁ」 驚いたような顔をしている。

「でしょ。 私も今聞いてビックリしたんです」

「時間はございませんか? 宜しければちょっとお話がしたいんですが織倉琴音さん駄目ですか?」

「実家はもうすぐそこですから大丈夫ですけど私なんかで何かお話できますでしょうか・・・」

「あ、そういう言い方は宜しくないですよ。 私なんかではありませんよ。 大切な私ですよ」 優しい笑みを浮かべている。 

二人の顔を見た更紗が

「それじゃ決まりね。 どこかこの辺にお店がないかしら?」

「ファミレスでよかったらこの先にありますよ」

「充分よ。 琴音さん先導してくれる?」

「はい」 琴音の後に更紗の運転するフェラーリがついて走った。 バックミラーを見ながら

「やっぱり目立つわよねー」 少し走ってファミレスに到着し、3人で中に入ると中途半端な時間なのか店内は空いていた。 

その様子を確認して

「すみません、ちょっと実家に電話を入れておきます。 先に座っててください」

「あ、そうよね。 心配されるかもしれないものね」 一旦店を出て鞄から携帯を出しすぐ実家に電話を入れた。

「あ、お父さん? 私。 もう近くまで来てるんだけど偶然、知り合いに会ったからちょっとお茶してから帰るわ」

「そうか、近くまで来てるんだったら安心だ。 ゆっくりしておいで」 

「うん。 じゃあね」 携帯を切り更紗と正道の待つ席に向かった。

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