大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第36回

2011年03月08日 14時39分37秒 | 小説
僕と僕の母様 第36回



「ホイ、今度は片付けを手伝う。 今出したの順番に渡して」 そう言われて 何故か片付けを手伝わされてしまった。 仕方ないか。

部室に戻ると 一年サックスは さっきの状態のままで 僕の方を見ている。 普通なら他の子と 喋って待ってたりしそうなものなのに。
 
手に持っているサックスを 少し上に上げて「あったよ」 と言い 一年サックスの方へ歩いて行き 机の上に置いて ケースを開けて中を見てみた。 

僕のサックス君より サビがひどい。

先生が最初に言った「それよりすごいのがある」 と言った意味が分かった。

僕のほうを 譲らなければいけないかなあ と思いながらも 音階からずっと一緒に 練習を付きあってくれた サックス君と別れるのは寂しさがあるし これはあまりにもサビが酷すぎるからイヤだ。

なんて言おうか迷いながらも「サビがひどいね。 どうする?」 遠回しに聞いてみた。

「嬉しいです。 私これでアルトやっても良いですか?」 すごく嬉しそうに 声のトーンもそれまでより高く こっちを見てそう言った。

思いもしない返事が返ってきた。 そうなると僕にも余裕が出てきて

「うん、良いけど なんなら僕の吹いてるほうが サビが少ないし くすんでないし こっちの方を吹く?」 そう言って僕のサックス君を指差した。 あの喜びようだと絶対に「はい」 なんて返事が返ってこないことを予想して 先輩らしく余裕をかもし出して聞いてみた。

「あ、いいです。 それは先輩が吹いてきたアルトだから 私はこっちで十分です。 アルトが吹けるだけで 嬉しいんです。」 内心ホッとした。

ああは言ったものの 言ってる途中から もし「はい、交換して下さい」 なんて言われたらどうしようと 不安になってしまっていたのだ。 

「じゃあ、今日からこのアルトサックスが マイ楽器になるからね。 いつでもこれを使うと良いよ」 先輩ぶって言ってみた。

一年サックスは ニコッと笑いながら嬉しそうに「はい」 と言って ずっとアルトを磨いていた。

その姿を見ながら 僕はなんて根性が悪いんだろう。 あの時何も考えず すぐにサビがひどいから 僕のサックス君でやってみる? ってどうして聞けなかったんだろう。

しばらく自己嫌悪に陥った。 ふと母様から「陵也は根性が悪い」 と言われたセリフを思い出した。

「先輩、今度の練習から教えてくださいね」 僕の心の内を何も知らない 一年サックスが嬉しそうにそう言った。

僕は先輩といえど 一年サックスの方が 音楽暦は僕よりずっと長い。 僕なんてまだ数ヶ月しか経っていない。

変に見栄を張って 新しい種類の自己嫌悪に 陥りたくなかったので 正直に言った。

「僕は入部してそんなに経ってないから 人に教える程のことは出来ないの。 まだまだ下手だしね。 顧問の先生に教えてもらうと良いよ。 あの先生は何でも出来るけど アルトをずっと吹いてたらしいから」

「そうなんですか。・・・分かりました。 先生に聞いたりもしながら 私も頑張りますから 分からない所があったら 聞いて良いですか?」 多分、僕も分からないと思う。

「うん、その時は二人で考えようか」 そう言ってみた。

僕ってつくづく 先輩になれないみたいだ。



最後まで読んで頂き 有難う御座いました。

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