大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第112回

2014年06月27日 14時15分00秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第110回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第112回



「二人で何話してるのよ。 琴ちゃん運ぶの手伝って」
 
「うん」 母親の顔を見てすぐに台所に向かいそして夕飯を運びながら

「あ、そうだったわこれを聞かなくちゃ。 お父さんうちって何宗なの?」

「何だよ急に・・・浄土宗だよ」

「知恩院派? 西山派?」

「え!?・・・そんな事知らないよ。 浄土宗に派閥なんてあったのか? あ、待てよ・・・確か知恩院って聞いた覚えがあるなぁ」

「知恩院派ね。 まっ、どっちにしても法然上人ね」

「へぇー琴音がそんな事を言うのかい?」

「えへへ ちょっとね。 それと、ここの氏神様は?」

「春日神社だよ。 驚いたなぁ、何があったんだよ」

「春日神社って・・・天兒屋根命じゃない・・・」 琴音の言うように 春日神社の祭神は 天兒屋根命と姫大神、武甕槌命、経津主命の四柱だ。

「うん? 何か言ったか?」

「うううん。 何でもない」 今までの琴音が琴音だ。 
変わった自分を見せたくないと心の片隅で思ったのか、無意識なのかそれ以上何も聞かなかった。

そして正月以来の両親との食事の時間を楽しんだ。
食事のあとは母親と洗い物を済ませゆっくりとした時間が流れた。 すると急にあの5月の連休の事を母親が聞いてきた。

「いったいあの時どうなってたの?」

「うわ、そんな事聞くの・・・」 ポツポツと話す琴音の話に両親は大笑いをしている。

「事故にでもあったのかと思って心配したじゃない」 

「ごめんなさーい。 5月の時は私もあんな事になるなんて思ってもしなかったんだもの。 でも、お母さんが暦のおばさんに言ってくれて助かったわ」

「暦ちゃん良くしてくれたみたいね」

「当分暦には頭が上がらないわ」 

「え? 琴ちゃん今、5月のときって言った?」

「あ・・・」

「どういう事?」

「実は8月にも・・・」 また登りに言った事を告げると

「もう琴ちゃんも若くないんだからそんな無茶しないでよ」 若くないと言いながらも母親はいつまでたっても子供のことが心配なのである。


4日間の連休。 二泊三日で帰ってきた。


『太上神仙』 会社の帰りにすぐ図書館へ寄りそれらしい本を探すが見当たらない。

「どうやって探せばいいのかしら」 この日は諦めてマンションへ帰った。

「どう考えてもあれはお経じゃないわよ。 でも、もし呪文や・・・陰陽関係だとしたらどうしてそんなものをお爺さんが持っていたの?」

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第111回

2014年06月24日 14時13分57秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第110回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第111回



連休になり朝早く車で実家へ向かった。

「真夏に帰るよりこっちの方が風景も綺麗だし断然いいわね」 正面に見える風景を楽しみながら車を走らせた。

実家に着くと待ってましたとばかりに母親が話し出した。 電話で何度も聞いた話だが まぁ、仕方の無い事と相槌を打って聞いていると父親が

「お母さん、そんなに弾丸みたいに話しててよく口が疲れないなぁ」

「お父さんがちゃんと聞いてくれないから琴ちゃんに話してるんでしょ」 少し喧嘩腰に母親が言うと

「琴音、お父さんが毎日聞かされているのを知ってるだろ?」 父親が琴音のほうを見たが琴音はクスクス笑っているだけだ。

「ほら、琴ちゃんが返事をしないでしょ。 お父さんが聞いてくれてないのは琴ちゃんも知ってるのよ」 どんなもんだと言わんばかりに母親が言うと

「知ってる、知ってる。 お母さんがお父さんに話してるのを知ってるわよ」

「ほら、琴音もそう言ってるだろう」 鬼の首を取ったかのように父親が言うと

「でもお父さんが真剣に聞いてないのも知ってるわよ。 だから二人とも正解よ」

「もう! 琴ちゃんはどっちの味方なの?」 

「どっちもの味方よ」 琴音が宥め賺しながら楽しい会話が続き母親の機嫌も直った。

「ね、琴ちゃん 今日は何が食べたい?」 

「うーん、何でもいいわよ。 私が作ろうか?」

「何言ってるのよ。 たまにはお母さんの作ったご飯を食べてよ」

「じゃあ、煮物がいいわ。 一人だと煮物もそんなに作らないから」

「偏った食事をしてるんじゃない?」

「うーん・・・ちょっと偏ってるかもしれないかな?」

「そんなんじゃ、お嫁に行けないわよ」 そういい残して母親が台所へと向かった。

「だから行かないってば」 母親に聞こえないように小さな声で言う琴音であった。 それを聞いた父親は笑っている。 父親というのはいくつになった娘でも手放したくないのであろう。

琴音も腰を上げ母の後ろを歩き台所へ向かった。

母親は琴音の注文どおり芋の煮転がしを作り出した。 他にも野菜不足であろうと菜っ葉や大根を使った料理とまさにお袋の味だ。 母親の横で琴音も手伝いをしている。

おかずも出来上がりご飯が炊けた。 そしていつものように炊き立てのご飯を母親が神仏のお椀によそい、父親がご飯を供え手を合わせる。 
琴音はその様子を見ていた。 

いつも見慣れた父親の姿であった。 先に神棚にご飯を供え次に仏壇に供えると 父方の祖父母の遺影と一緒に飾られてある少し小さな掛け軸。 その前で手を合わせた父親を見てふと気になった。

父親が手を合わせ終わった後にその掛け軸を見に行くと何かが書かれているが薄くてよく見えない。

「ねぇ、お父さん この掛け軸ってなんなの?」 今まで掛け軸など見もしなかったのだ。

「ああ、琴音のお爺さんの遺品だよ」

「お爺さんって、お父さんのお父さん?」 琴音が生まれる前に亡くなっている。

「そうだよ。 琴音はお爺さんを見たことないな」

「うん」

「これ、薄くなって読めないけどなんて書いてあるの?」

「掛け軸の下の額に入っているのがそうだよ。 まだ掛け軸が綺麗な時にお父さんが写して書いておいたんだ」 額には半紙が入っていてその半紙には綺麗な墨書きで漢字が書かれてあった。

「これ何?」

「お経だよ」

「お経?」 じっと見たが到底お経には見えない。

「太上神仙(だじょうしんせん) って言うんだよ」

「お父さんこれってお経じゃない気がするんだけど」

「ええ? お経だよ。 お父さん昔は毎朝唱えてたんだよ」

「これ・・・呪文?」 小さな声で言った。

「なに? 何か言ったか?」

「陰陽関係?」 一人呟いている。

「何ボソボソ一人で言ってるんだよ」 今度は父親に聞こえるような声で

「今度図書館で調べてみるわ。 きっとお経じゃないと思うわよ」 そこへ母親がお盆に乗せた夕飯を運んできた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第110回

2014年06月20日 14時25分26秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第110回



翌日からは あっちの事務所こっちの事務所と 5人の社員と社長がバタバタしている。 今まで別の事務所で過ごしていただけに 琴音も勿論、他の社員もお互いがどこかぎこちなく会話をする。

「あの、お手伝いはありませんか?」 琴音が一人を捕まえて聞くと

「えっとー、今の所大丈夫です」 毎日何度かそう言って聞いているうちに少しずつ慣れてきたようで

「じゃあ、ここの拭き掃除お願いします」 や「ちょっとこれ持っててもらえますか?」 そんな返事が返ってくるようになったのだが 社長だけは拭き掃除を頼む事はあっても絶対に本一冊でも琴音には持たせない。 

それどころか琴音が社長の隣にいるにもかかわらず 

「オイ誰か! そっちの端を持ってくれ」 みんなの手がふさがっていてもこれだ。

「私が持ちます」 琴音がそう言っても

「織倉さんは物を持たなくていいから 女の人は重いものを持たなくていいからね。 それにあとでこれを移動するからここは危ないよ。 向こうの事務所に行っておきなさい」 そう言うのである。

女性としてこんなに嬉しいことはないだろう。 琴音も

「本当に大切にされるってこういう事なのかしら・・・」 今までに経験のない喜びであった。

1週間ほどで移動は終わり これからは琴音一人の事務所ではなくなった。

社員達と会話ができるかどうかと不安になっていたが、そんな不安は必要なくみんなが色んな形で社長のように大切にしてくれる。 

琴音が少しつまずいただけで

「大丈夫ですか?」 この一言をかけてくれるのだ。

「大丈夫です」 と返事をしながらも

(あら? もしかして年寄り扱いなのかしら? クス・・・この歳だものね) この頃になると発想に今までのような重たさが無くなって気軽に物を考えられるようになってきた。

「何にしても 嬉しい限りだわ。 ふふふ、和尚様の仰ってた事が少し分かってきたみたい。 自然と皆さんに感謝の気持ちが沸いてくるわ」 


9月に入り連休が近くなってきた。

会社から帰り何気なくカレンダーを見ると

「あ、そうだわ。 そんなに大型じゃないけど連休があるじゃない。 実家へ帰ろうかしら」 すぐに電話を手に取った。

「あ、もしもしお母さん? うん、元気よ。 ねぇ、8月に帰られなかったから 今月の連休に帰ろうと思うんだけど何か用事ある?」 電話の向こうでは母親が父親に 何か出掛ける用事があるかと尋ねている。 

特に何も無いらしい。

「そう、何も無いのなら連休に帰るわ。 いつもみたいに長い連休じゃないからすぐに帰らなくちゃいけないけど・・・うん・・・うん」 母親の長話に付き合っているようだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第109回

2014年06月17日 14時59分08秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第109回



「仏教のお話じゃなかったけど、でも久しぶりに和尚様のお話を聞けたわ」 満足げにコーヒーカップを両手で包んだ。

「あ、もう冷たくなってるじゃない」 一気に飲み干し、また次を作りにキッチンへ向かった。


その夜、布団に入りウトウトして意識が遠のいていきかけた時、急に『シャン』 という音が聞こえた。 いや、頭に響いた。 その音で意識が戻った。
「まただわ。 何の音かしら? いっぱい鈴が付いてるような音だったわ」 神楽鈴である。

「・・・寝よ」 



会社で 男性人が奥の事務所に行かず 営業社員も一緒に 琴音のいる表の事務所で朝のコーヒーを飲みながらなにやら話をしている。

「じゃあ、そうしましょうか」 いつもとなりの事務所で仕事をしている社員の一人が言った。

「ああ、暫く仕事と平行で大変だろうけど みんな時間を作ってやってくれ」 社長がみんなの方を見渡していい、続けて琴音のほうを向き大きめの声で

「織倉さん、そういう事だから」 琴音にそう言いかけた途中でさっき話した社員が

「社長、織倉さんは何も知りませんよ」 笑いながら言った。

「あ、そうか。 何も言ってなかったな」 琴音がキョトンとしている。

「あのね、大きな声じゃ言えないけど 会社も業績が上がらないから経費の削減を考えようと思ってね」

「はい」 琴音が相槌を打つ。

「それでまずは光熱費の削減で奥の事務所でしていた仕事を全部こっちの事務所でしようと思うんだ。 これから奥の事務所の書類やPCの移動を仕事の合間にするから ちょっとガタガタするけど織倉さんは気にしなくていいから、ただ拭き掃除なんかは手伝ってやってくれるかい」

「はい。 分かりました。 でも指示を出していただいたら他にもお手伝いします」 

「じゃあ、そのときはお願いするね」 社長がそう言い、続けて

「どうする? 今からちょっとづつでもやっていこうか?」 そう言うと

「急なことだし今日はみんな無理でしょう。 明日からはどうですか?」 さっきの社員だ。

「そうか、じゃあ明日から少しずつでもいいから始めよう。 移動にかかわるのは奥の事務所で仕事をしていた5人だけだ。

営業の社員は営業に出て行き、先程の社員はこの事務所に残り 他の社員4人と社長が奥の事務所に行き仕事の傍ら机や棚の片付けをし始めだした。


残った先程の社員が移動の殆どを仕切るようで 琴音が立った時にチラッと机に向かっている男性の手元を見ると どこに何を置くかを書き出していた。 PCや電話の配線の関係があるのであろう。 そういう事はこの社員がいつも仕切っていた。

ただこの社員にも仕事がある。 いつまでも表の事務所でそんな事をしていられないので キリがついたときに奥の事務所に行き仕事を始めた。

「はぁ、すごく急な話しなんだけど。 ・・・私ちゃんとみなさんと会話が出来るかしら」 長い間一人で事務所で過ごしていたが故、不安が襲ってきた。

午前中の仕事を一通り終え、あと15分で昼休みだ。

「これからまた違う事をするにも中途半端よね。 それにこうして一人でゆっくりしていられるのももう少しでお終いなのよね」 大きく息を吸い深呼吸のようにした。

すると閉じられた瞼の中は急に真っ白になった。

「あら? きれいな白だわ」 その途端、瞼の向こうでレーザーショーが始まった。

「うわ! キレイ」 琴音の瞼の向こうではまるで舞台を照らすかのように色とりどりのレーザーが照射されていたのだ。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第108回

2014年06月13日 15時05分33秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第108回



テレビに映し出された画面を見ているが琴音の目にはただ画像が流れているだけだ。 何も頭に入っていない。 耳においては閉ざされている。

その耳が「はぁー」 と言う自分の溜息に反応した。 それがきっかけとなり頭が蘇ったようだ。

「ああ、ボォッとしてたわ。 ・・・昔の事・・・変なことを思い出しちゃったわ・・・」 大きく深呼吸をして

「それより、和尚様のお話」 リモコンを持ってテレビを消した。

和尚の話を思い出そうと記憶を辿る。

「たしか・・・肉眼で見えないものが見えるって・・・」 考えた。

「あ・・・あれの事?」 そうだよ、あれのこと。 肉眼で見えない色んなものを見たよね、何度も。

「そうよ、どうして私にそんなものが見えたの?」 ま、文字は怖かったかもしれないけど綺麗だったろ? 

「それにあの女性が言ってた守護して下さってる方の声? あれって愛宕山で聞こえたときの声の事?」 金平糖もあっただろう? 琴音が覚えていないだけで他にもあるんだよ。

「あ、それに空也滝で感じた誰か・・・。 もしかしたら守護霊様だったの? っていう事は私の守護霊様は着物を着ているの? あ、違うわ着物じゃなかったんだわ。 ああ 混乱してきたわ」 大きく溜息をついて

「えっと他に何があったかしら」 思い出そうと頭を抱える。

「あ、そうだわ。 チャ・・・なんだったかしら? 第何とかで・・・何とかが閉じてて・・・えっと・・・平均的にって・・・」 思い出せそうに無いかい?

「あ、人間不信が良くないって仰ってたんだわ」 あー、そっちへ行っちゃったか。 まあ、悪いわけではないけどね。 

「確かに人は苦手だけど・・・そういえば文香にもよく言われるわね・・・人間不信がよくないか・・・」 冷めたコーヒーを一口飲んだ。

「そうだわ。 その時がきたらって 『きちんとした師に付きなさい』 って・・・『それが今日の目的』 って・・・。 うーん、何の事かしら? あ、それにチラシを見て来たって言った時、たしか『貴方でしたか』 って仰ったわよね。 それに・・・確かあの女性が火曜日の夕方に予定がキャンセルになったって言ってたけど『貴方と話をする事になった』 とも言ってたわ。 それってどういう事なのかしら・・・」 少し考え、気付いた。

「えっと、待ってよ」 誰も急かしてないよ。

「カウンセラーよね。 カウンセラーが私を見てとっても気になったとか、話しかけなきゃって思ったっていう事は・・・私の顔って悩み顔なのかしら?」 それってどんな顔だい?

「あ! あの日・・・確か生ゴミの日の前日だったわ。 だから火曜日よ、そうだわ。 また前日にゴミを出してるわって思ったのよ。 会社から帰ってちょっと神社まで行って・・・帰ってきたのは夕方だったわ・・・あの女性が言ってたときと同じタイミング?」 鳥肌が立ちそうになった。

「こんな事ばっかり考えてると肩が凝ってきそうだわ」 自分の肩を揉みかけて

「あ、そうだわ肩凝りがなくなったんだったわ。 見ただけで肩凝りってどうして分かったのかしら? 私の顔って肩凝り顔をしてるの?」 またかい? 皺が増えるよ。

「そうだわ、流れを滞らせちゃいけないんだったわ。 もっと気楽にならなくっちゃ。 肩凝りになるのはコリゴリだわ。 考えても分からない事は考えないでおこうっと。 あるがままよね。 それに和尚様も言ってらしたものね、その時がいつか来るんでしょうから 考えても考えなくても一緒よね」 ちょっとは考えておくれよ。

「あ、チラシ・・・」 鞄からチラシを出しよく見てみた。

「うそー・・・。 ちゃんと大きな字で『セミナー、ワーク』 って書いてあるじゃない。 どうして気付かなかったのー?」 気付いたら行かなかっただろう?

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第107回

2014年06月10日 14時33分35秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第107回



いつからか琴音はどこかで視線を感じていた。 不気味な視線。

最初は会社にいるときだけだったが その内、通勤時間にも。 
そしてとうとうその不気味な視線は 朝起きて部屋を出るときから始まった。

「まただわ・・・いったいどこから」 あたりを見渡すがどこにもその姿が見えない。

それは段々とエスカレートしていきマンションに戻れば電話が鳴る。 電話に出ると無言だ。
朝、会社に行こうとドアを開けるとドアノブにプレゼントがかけてあったり ポストを見るといつ写されていたのか琴音の写真が封筒に入れられていた。

「どうして・・・」 怖さや悲しさ色んな気持ちが押し寄せる。

全て双葉がしているということはすぐに分かっていたが 琴音にはどうすることも出来ない。
そしてとうとう琴音は会社を辞めて逃げるように引越しをした。 

新たに就職をした会社では 双葉との事、平塚とのことも勿論あったが 同時に入社以来の虐めの事もあり人を信用するのが怖くなり 必要以上には誰とも話さず一人で黙々と仕事をこなしていた。

2ヶ月経ったとき、勤めていた営業所から本社に移動してくれないか という話が出た。

「織倉さん悪い。 営業所募集で入ってきた織倉さんには本当に悪いんだけど 本社で急に一人辞めたらしいんだ。 それでこっちの営業所から一人回してほしいという事になったんだけど 織倉さん頼めない?」 本社は営業所と比べると前の会社と似た方向になる。

「あの・・・」 返事に困る。

「こう言っちゃあ悪いんだけど 他の子はもう何年もここにいてくれてるから・・・ね」

「・・・はい・・・」 シブシブ返事をしたが 心の中ではまだどうしようかと迷っていた。

「良かったー。 それじゃあ、今の仕事は今日まででいいから、明日から頼むね」

「え? 明日からですか?」

「急で悪いね。 本社がうるさくて。 仕事の続きは他のにさせるから安心していいよ」 迷って考える時間もなかった。 

翌日、仕方なく本社に向かうためマンションを出たが 駅のホームでは自分を言い聞かせている琴音がいた。

「大丈夫よね。 そんなに簡単に逢わないわよね。 同じ場所じゃないんだから」 気持ちを切り替えて電車に乗り込んだ。 

そしてその本社で文香と出合ったのだ。 

人間不信から最初は警戒していた琴音も アッケラカンとしている文香にだけは心を開いて話すことが出来た。 勤めているうちに後輩も出来てくる。 
文香のお陰で溶けだした心は段々と後輩達も可愛がるようになっていた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第106回

2014年06月06日 14時38分21秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第106回



「織倉琴音さんですね」

「・・・はい」

「私、今妊娠3ヶ月です。 あちこちの病院を主人と廻ってやっと授かった子です・・・邪魔をしないでください」 プツ。 電話が切られた。

「課長 家庭内離婚って言ってたのに・・・」 受話器を置いた途端内線が鳴った。 

偶然にも平塚からの食事の誘いであった。 
ことの真意を確かめたくてその日の約束をし電話を切った。 

食事の席に行き琴音はすぐに今日の電話の事を言ったが
「え? そんな電話をして来たのか? まぁ、病院廻りは確かにさせられてたけどね、そんな事気にしなくていいよ。 勝手に言わせておけばいいから」 琴音にしてみれば言いたい事が沢山あったが その言葉を聞いた途端自分の言葉を全て飲み、食事を注文する事もなく無言でその場を立った。

「え? おい、琴音!」 その言葉を背に店を出た。

後になり平塚から何度も社内電話がかかってきたがすぐに電話を切っていた。

そんな事が続き一ヶ月が経った。
双葉が平塚のフロアーへ行くと平塚の回りに人が集まっているのが目に入った。 それを横目に用事を済まそうと一人の社員の元へ行き

「さっき電話で言ってたこの書類頼むね」 書類を渡しながら

「課長の席賑やかだけど何かいいことでもあったの?」

「やっと子供さんが出来たみたいですよ。 妊娠4ヶ月ですって。 安定期に入って安心できるって大喜びですよ」 それを聞いた双葉の頭の中はすぐに琴音のことが浮かんだ。 その足で琴音の席に向かい

「琴ちゃん」 仕事をしていた琴音が顔を上げ双葉を見ると。

「あ、双葉さん。 どうしたんですか?」 いつもの双葉の目ではない。

「知ってたの?」 双葉が言おうとしていることがすぐに分かりコクンと頷いた。

「ちょっと一緒に来て」 双葉がスタスタと歩き出した。 慌てて琴音が後ろを歩くと双葉はそのまま非常階段に向かった。 琴音も非常階段に行き双葉がドアを閉めたかと思うと

「いつから知ってたの?」

「一ヶ月程前から」

「そんなに前から?」 下を向いてる琴音が更に下に頷いた。

「どうして・・・どうして相談してくれなかったの!」 双葉の声が大きくなった。

「言っても始まる事じゃないし・・・それに私が悪いのは分かっていますから」 双葉はただ琴音を見つめている。

「それに冷めちゃった所もあります」 双葉にはその言葉が強がっているようにしか聞こえなかった。

「琴ちゃん・・・我慢する事なんてないよ」

「我慢だなんて・・・そんなことはないです・・・」 するとその言葉に思わず

「琴ちゃん」 言うと同時に琴音を抱きしめた。

「わ、双葉さん!」

「僕じゃ駄目なのか! ・・・ずっとずっと好きだった」

「離して下さい!」 抵抗するもその力は全く通用しない。
琴音にしてみれば双葉は兄貴分以外の何者でもない。 それ以上の関係を望んでいるわけではないが双葉はそうではない。

「離さない! 琴ちゃんは僕だけのものだ。 ずっとずっと琴ちゃんだけを見てきた・・・僕が琴ちゃんを幸せにする」 双葉の力が緩んだ時、なんとか手を振りほどき

「双葉さんは・・・お兄さんとしか思えない。 だから・・・」 そう言い残してすぐさま非常階段を出、デスクに戻った。

その言葉を聞かされ呆然自失となった双葉。 琴音を追うこともなく立ちすくんだままだ。 そして気を取り直したときには

「最後には僕のところに来るはずだったのに・・・どうして・・・。 いや、今のは琴ちゃんは訳が分からなくなっているだけだ。 きっとそれだけだ」 そんな風に考えていた。

その後何度も双葉から連絡が入り その度に琴音が「双葉さんとは付き合えない」 そう言うが、今まで長い間 琴音を想う気持ちを我慢してきた分、その想いを簡単に諦めきれない。

それどころかその想いは段々と歪んだものとなっていってしまった。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

みち  ~未知~  第105回

2014年06月03日 13時10分53秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第100回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ






                                             



『みち』 ~未知~  第105回



「あ、そうだ。 僕、双葉史朗。 以前織倉さんがいたフロアーの下の階に居たんだ。 ちなみに平塚課長は今もそのフロアー。 それで僕は今、織倉さんと同じフロアー」

「え? 同じフロアーですか?」

「うわ、やっぱり覚えてないんだ」

「わ、すいません。 あの、私 人の顔を覚えるのが苦手で」

「いいよ、いいよ。 今日でもう覚えてもらった?」

「はい」

「良かった。 絶対、明日無視しないでよ」 二人で歩いて行った先のロビーのソファーに平塚が座っていた。

「課長、お待たせしました~」 双葉がおどけて言った。 顔を上げた平塚が

「お、織倉さん私服もいいね」

「いえ、そんなこと・・・」

「何が食べたい? ・・・っと、とにかく駅の方に行こうか」

「織倉さん食べたい物を言うといいよ。 平塚課長のおごりなんだから」


こうして知り合った双葉と平塚。 このときを切っ掛けに時々三人で退社後食事や飲みに出かけることがあった。

人見知りのあった琴音も段々と慣れてきて 忙しい平塚抜きで双葉とランチに出かけることもあった。 琴音にしてみれば双葉は良い兄貴分であった。

そして琴音が選んでしまったのは妻子ある平塚であった。 平塚への想いはずっと心に秘めていたのだが ある日、社内電話で平塚から退社後の食事の誘いがあった。

「課長から言ってくるなんて珍しいわね。 いつもは双葉さんから連絡があるのに。 双葉さん忙しいのかしら?」 琴音にしてみればいつものように三人と思っていたのだ。

だがその日は双葉抜きで平塚と琴音の二人だけであった。

「双葉さんは来られないんですか?」

「今日は双葉には声をかけてないだ」

「え?」 この日から始まった琴音と平塚の人目を忍んだ交際。 

だが誰にも言わないでいたこの事を双葉は察していた。 平塚だけではない双葉も琴音を想っていたのだ。 双葉にしてみればすぐに自分の所に来るだろうという思いがあったが二人の関係は続いた。 双葉は遠くから見ているしかなかった。

琴音にしてみれば心の中はいつも「奥様に申し訳ない」 その思いに縛られていたが ある日、平塚が

「家の中はもう冷め切ってるんだ。 家庭内離婚の状態だから早く離婚をしたいけれど なかなか家内が別れてくれない」 そんな事を言い出した。

それを聞いた琴音はいくらか気が楽になり、そして平塚との結婚を意識しだした。

そして平塚も

「琴音、離婚が成立したら僕と結婚してくれるかい?」 恥かしげに頷く琴音を見て嬉しそうにしていた平塚。

そんな関係が2年経った頃、琴音に外線が入った。 琴音の仕事上、外線など入ってくるわけがない。

電話交換手は「平塚様から織倉さんにお電話です」 と言うが

「課長が外からかけて来たのかしら?」 そう思い、切り替わりを待ち

「お待たせいたしました。 織倉でございます」 電話の向こうは無言である。

「あの? ・・・もしもし?」 すると少し間を置いて

「平塚の家内でございます」

「あ・・・」 顔色が一気に青ざめた。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする