大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~未知~  第70回

2014年01月31日 13時51分26秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~未知~  第70回



夜 会社から帰り夕飯も風呂も済ませてコーヒーを片手に本を読んでいたら携帯が鳴った。

「あら? 文香だわ」 携帯を手に取ると思わず携帯を眺めながら 

「暦お婆ちゃんって凄いわね」 暦がお婆ちゃんになったようだ。

「もしもし、文香?」

「久しぶり、 どう元気してた?」

「元気よ。 この間、文香の噂話をしてたところよ」

「なに? どんな噂?」

「暦の話をした事あるわよね? 覚えてる?」

「覚えてるわよ。 琴音の同郷の子でしょ?」

「そうそう。 暦が文香の再婚話はないのかって言ってたの」

「ナイナイ! ちゃんと言っておいてくれたの?」

「言ったわよ。 家事が嫌いだから結婚は出来ないって」

「もっといい言い方してくれてもいいじゃない」

「事実だもん」

「ま、確かにそうだけど。 ね、それより今週末ってヒマ?」

「うん、土日とも会社はお休みよ」

「乙訓寺どうしてるの?」

「乙訓寺?」

「うん、前に言ってたじゃない」

「うん、時々行ってるわよ」

「今週末は行かないの?」

「なに? 文香行きたいの?」

「えへへ、久しぶりに京都方面に行きたくて。 もし琴音が乙訓寺に行くんだったら一緒したいなと思ってね」

「行ってもいいけど文香は乙訓寺じゃなくて・・・・えっと、何処だったっけ・・・」

「向日神社の事?」

「あ、そうそう。 そこの方が懐かしいんじゃないの? そっちへ行こうか?」

「いいの、いいの。 暦が行くついででいいの。 それに乙訓寺には行った事がないからそっちのほうが興味があるわ」

「そうなの・・・そうね・・・私もお礼を言いに行ってないから今週末行こうか」

「お礼?」

「ま、そのことは車の中で話すわ」

「わ、お楽しみ。 また何かあったのね」

「残念ながら楽しい事じゃないわよ。 じゃあ今度は私が運転して行くから文香を迎えに行くわ」 

「やった、今度こそは完全に助手席に座れるのね」

「慣れた道だから任せて。 帰りに混むのは嫌だからちょっと早めに出たいんだけどいい? 文香の所に8時ごろとか」 

「うん、いいわよ。 それと一応、琴音が部屋を出る前に電話くれる?」

「OKよ、でもモーニングコールにならないことを祈るわ」

「今度は寝坊しないわよ」 その後少し話をして電話を切った。


それから2日後の夜中。 また違和感を感じ目を開けると

「あら、久しぶりじゃない」 余裕だ。

部屋中に例の文字のようなものが見えた。 だが今度は乱雑に見える。 右に傾いていたり左に傾いていたりキチンと整列もせずアチコチに散らばっている。

「今度はポロポロしているのとはちょっと違うわね」 じっと見ているとその文字のようなものがまるで意識を持っているかのように動き出した。

「あら? 可愛い。 お散歩ですか?」 少しずつアチコチで動き出した。

琴音がそれをじっと見ていると どうも文字たちは整列を始めたようだった。 キチンと並びかけた時に今がチャンスと琴音が目を凝らして見た。 するとその文字らしきものはスーッと消えて見えなくなる。

「あ、どうして?」 琴音が意識をはずすとまたスーッと出てくる。 

あちこちで試みるが琴音が見ようとするとみな同じようにスーッと消えて 琴音が目をはずすとスーッと出てくる。

「これじゃあ分からないわね。 もういいわ。 早く寝なくちゃ」 また布団に寝なおした。 

少々の事では驚かなくなったようだ。 寝坊して遅刻してもいけないからね。 それにそんなに気にしなくてもいいよ。

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みち  ~未知~  第69回

2014年01月28日 14時48分38秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第69回



「私にしたら実験よ。 文香を見てて分かったわ」

「あ~あ、どうしてこんなにひん曲がってるのかしら。 ま、そのうちその文香さんから連絡があるかもよ」

「どうして?」

「今彼女の話をしたじゃない?」

「うん」

「呼ぶより謗れ って聞いたことない?」

「知らない」

「その人の噂をすると呼ばなくても向こうからやって来るとかって言うらしいわよ」

「へぇー そうなんだー。 それっておばあちゃんの知恵袋?」

「何言ってんのよ! 常識よ!」

「だって暦のいう事は 結構言い伝えが多いんだもの」

「うちのお婆さんがよく言うからね」

「そういえば暦のお母さんもみんなが見えないこととかをよく見たって言ってたわよね」

「あのお婆さんは昔の言い伝えもよく言ったけどそう言えば不思議なこともよく言ってたわね」

「和尚さんみたいな格好をした人とお話して話し終わって背を向けた後に振り返ったら誰も居なかったとかってね」

「ああ、そんな事も言ってたわね」

「それって何のお話をしたんだっけ?」

「えー、なんだったっけ・・・あ、そうそう。 その和尚さんみたいな人に箒を貰ったって言ってたんだわ」

「ああ! そうだったわね、思い出したわ。 朝、庭掃除をしていた暦のお母さんに この箒で毎日掃除をしなさい って手渡されたのよね」

「そう、そう。 その箒で掃除をしたらお金に困ることなく病気知らずになるとかって言われたって言ってたかしら?」

「大当たりよね」

「そんなことないわよ。 貧乏だったもん」

「だって、立派な家に立て替えてお兄ちゃんが継いで、おじさんもおばさんも安泰じゃない。 それにおばさんが病気したって聞いたことないわよ」

「まぁ、それは言えてる。 お兄ちゃんが結構立派に建て替えたし、家族みんな大病どころか風邪もひかなかったかなぁ?」

「でしょ? 私の実家なんて築何十年の家かしら。 ねぇ、暦はそんな事ないの?」

「そんな事?」

「おばさんみたいなこと」

「全然ないわよ」

「現実的だもんね。 お化けより人間が恐いんだもんね」

「刃物が一番怖いの。 刺されたら最後じゃない」 話は尽きる事とがない。

「あ、ゴメンもういい時間ね。 明日もお仕事頑張ってね」

「ああ本当、もうこんな時間になっちゃったのね。 それじゃあ、時間が空いたら教えてね。 ちゃんとランチおごらせてよ」

「うん、連絡するわ。 そのときにはお腹いっぱいご馳走になるわよ。 じゃあね、お休み」

「お休み」


その夜、寝ようとして布団に入り目をつぶった。 暫く寝付けないでいると瞼の裏に綺麗な模様が見えた。

「わぁ、なんて綺麗な模様なの!」 目を瞑りじっとその模様を見ている。

もう少々の事ではびっくりしなくなったようだ。
その模様は万華鏡のようにクルクルと模様を替えて動き出した。 あまりの美しさに見入る琴音。 
一瞬パッと消えた模様。 

「あ・・・」 だがすぐにもう一つ違う模様が見えた。

「この模様も綺麗だわ」 これもくるくると回りだした。 

模様といっても光り輝く色だ。 じっと見入る琴音。 最初は興奮するように見ていたがあまりの美しさに惚れ惚れとしながらうつらうつらと意識が遠のき寝入った。


朝、目覚め

「あれって夢じゃないわよね。 ちゃんとリアルに覚えているものね。 うん、綺麗だったものね」 布団から起き、朝の仕度を始めた。

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みち  ~未知~  第68回

2014年01月24日 14時14分28秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第68回



「うん、そう。 命よ」

「ああ、そういう事」

「ああ、って。 お金より何より命は大切なのよ」

「分かってるけど・・・知ってて大事な物や貯金を取られるって、それもどうなのかしら・・・」

「何言ってるのよ。 琴音の言う大事な物もお金も何もかもその命があってのことでしょ?」

「うん・・・まぁ・・・」

「自分の大切な人が目の前からいなくなることを考えてよ。 もし旦那さんがいたら格闘して万が一があったかも知れないじゃない」

「そう言われればそうね」

「でしょ?」

「でも気になるのは現金だわ。 現金とか盗られたの?」

「もう! だから誰かと結婚しなさいって言うの! お金より、愛する人や子供でしょ?」

「え? 暦、何だかんだ言って旦那さんのこと愛してるの?」

「はぁ? 旦那のことは置いておいても子供は愛してるわよ。 私の宝よ。 子供が私の目の前からいなくなるなんて考えもしたくないわ。 って、私のことはいいの。 ああ、そうじゃなくて。 結構盗られたみたいよ。 だけど聞くとそのほうが良かったんですって」

「え? どうして?」

「少ししか盗る事ができなかったら 腹いせにまたやって来ることもあるんですって」

「ええー! そうなの?」

「そうらしいわよ。 警察の人がそう言ってたんだって」

「でも腹いせって 逆切れじゃない」

「まあね。 どう? こんな話聞いて夜一人で恐くない?」

「え・・・あ、」

「あ、何? 怖いの? ストライク?」

「うううん、そういう事じゃなくて」

「なに?」

「実はね・・・」 文字のようなものや音の事、身体が揺れた話などを暦に言った。

「それってドロボーとは世界が違うわよね」

「うん、まあそうなんだけど」

「でも良かったじゃない」

「なにが?」

「生身の人間が一番怖いのよ」

「どうしてよ。 理解に苦しむ現象のほうが恐いわよ」

「だってそれって何の悪さもしてこないでしょ?」

「そうね、せいぜい睡眠妨害かな」

「でしょ、生身の人間は刃物を持ってるんだから」

「あははは 暦には勝てないわね」 心に引っ掛かりがあったものが外れたように笑った。

「え? そう?」

「そうよ、簡単に解決してくれるのね」

「事実を言ったまでよ。 それにそういう事って・・・えっと・・・」

「なに?」

「誰だったかしら・・・ほら、琴音の昔の仕事仲間の・・・」

「ああ、文香?」

「そうそう、彼女なら何か知ってるんじゃないの?」

「そう言えば長い間連絡してないわ」

「彼女はどうなの? 彼氏」

「居ないみたいよ」

「えー 彼女も琴音派なの?」

「違うの。 結婚はしたくないけど彼は欲しいみたいなの」

「確か離婚してバツ1だったっけ?」

「そう、すぐに別れちゃった」

「再婚はしたくないのかしら」

「家事全般が好きじゃないみたいでそれがコリゴリなんだって」

「あ、それじゃあ結婚は厳しいかもね・・・って、私も家事なんて好きじゃないわよ。 特にアイロンがけなんて気が狂いそう。 うちの旦那スーツだから仕方なくアイロン当ててるけどね」

「そう言えば旦那さんスーツだもんね。 それでもちゃんとやってるじゃない」

「仕方なくよ。 それに1週間分溜めてるわ」

「私も文香も仕方なくも出来ないのよ」

「琴音はまだ結婚した事ないんだから分からないじゃない」

「だってそんな実験しなくても充分嫌いだもの」

「実験って・・・結婚って言いなさいよ」

「あれ? どこかで聞いたセリフ・・・」

「何?」

「ああ、何でもない」

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みち  ~未知~  第67回

2014年01月22日 16時14分06秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第67回



また、耳だけではない。

夜目をつぶり瞼の裏を見ているとき 光の粒のようなものが見え出していたのだ。
最初は目が少し開いて電気が漏れ入っていると思っていたのだが よく考えると電気を点けて寝ているわけではない。
それに今までずっと瞼の裏に見えるのは黒い影のような色だったのがここの所、色が良く目立つ。 紫からはじまり緑、ピンクだ。

「いったいどうなっているのかしら。 私の瞼、最近賑やかだわね」



電話が鳴った。

「もしもし」

「ハーイ」

「暦?」

「どう? 大人しくしてるの?」 

「してる、してる。 もうあんな無茶な事してないわよ。 それよりどうしたのこんな時間に。 夕飯の時間じゃないの?」

「いつもならね。 でも今日はみんな出はらってて誰もいないの。 だから退屈なの」

「子供達がこんな遅くに?」

「そうなのよ。 何かの打ち上げで夕飯もいらないんだって」

「打ち上げって・・・会社みたいね」

「でしょ、最近の子供のする事は分からないわ」

「旦那さんの夕飯は?」

「今日は飲んで帰るんだって」

「毎日キチンとしている暦だから、それじゃあ退屈になっちゃうわよね」

「キチンとなんてしてないけど夕飯の用意がいらないのは大きいわね。 退屈限界で電話に手が伸びちゃった」

「いいわよ話し相手になるわよ。 そうだ、あの時のお礼まだだったわ。 ランチのできる日ある?」

「うーん、今月は予定がいっぱいかなぁ・・・ま、またそのうちおごってよ」

「忙しいんだ」

「平日の昼間は結構、融通が利くんだけどね 土日、祝日となるとなにかとあるのよ」 暦は子供の学校の役員をしている。

「それってどういう事? 平日の夜は?」

「またこれが町内のことがあるのよ」 ちなみに町内の役員もしているのだ。

「どれだけ忙しいのよ」

「学校も町内も旦那の関係で断れないからね」

「はぁー 色々あるのねー」 琴音には想像ができない。

「琴音はどうなの? 新しい仕事は慣れた?」

「うん何とかね」

「新しい男性は?」

「居ないわよ」

「会社にいい人居ないの?」

「お母さんみたいなこと言わないでよ」

「だってお母さんだもん」

「私のじゃなくて子供達のお母さんでしょ」

「はいそうですー。 でも心配なんだもん」

「心配ご無用よ。 一人でやっていくから」

「あんなロボットが一人でやっていけると思うわけ?」

「あの時は仕方がないじゃない。 まさかあんな事になるなんて思いもしなかったんだもの」

「ぷぷぷ・・・思い出しただけで笑えてきちゃうわ」

「止めてよー。 もう二度と山になんか登りに行かないんだから忘れてよー」

「分かった、分かったわよ。 でもいつまでも一人はねぇ・・・実はね、この間ご近所にドロボーが入ったのよ。 そのとき運悪く・・・あ、良くになるのかな? ご主人が出張でお留守だったのね、だから奥さん一人が家にいたわけなのよ」

「それのどこが運がいいの?」

「奥さんがドロボーに気付いたんだけど一人だったから恐くて息を潜めてたんだって」

「でもそれって知ってて何か盗られたってわけでしょ?」

「そうなるけど一番大事なものを盗られなかったじゃない」

「一番大事なもの?」

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みち  ~未知~  第66回

2014年01月17日 22時34分53秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第66回


 
ある日 お風呂にゆったりと浸かり目を閉じていると

・・・チリンチリン・・・左の耳に鈴の音が聞こえた。

「綺麗な澄んだ鈴の音・・・」 そのまま耳を澄ませていたが

「鈴の音?」 ビックリして目を開け身体を起こした。

「どうしてお風呂の中で鈴の音がするの?」 お風呂の中に鈴などないものね。

「・・・猫?・・・そうよね、どこかの飼い猫の首輪にでも付いていたのよねきっと」 そんな事で納得するのかい? 耳の真横で聞こえたんだろう? それにここは2階だろう? 風呂の窓の向こうには何もないんじゃないのかい?


それから数日後

夜中、ガチャンという音で目が覚めた。 沢山の鍵をつけていてそれを落としたような音だ。

「なんなの? この夜中に鍵なんて落とさないでよ」 それが初めての日であったがそれからも度々色んな音で目が覚める事が続いた。

「お願い夜中なのよ、起こさないでよ」 何日も夜中の音に起こされたある日の夜、この日も眠りについていた琴音であったが夜中にまたガチャン! という今までに無い大きな音で目が覚めた。 
音はすぐ横で聞こえたようだった。
聞こえたのは左の耳からだという事が分かっていたので咄嗟に左を見た。 だがそこには割れたものも、何かが落ちた跡も何もない。

「まさか双葉さん・・・」 初めて社会人となって務めていた会社の事を思い出したが

「そんなはずないわよね。 もう何年も前の事なんだもの。 泥棒?」 布団から身体を起こして薄暗い中、周りを見渡したが特に変わった様子はないようだった。

「夢じゃなかったわよね」 立ち上がり電気をつけたがやはり何も変わった様子はない。

玄関の鍵を確認してもちゃんと鍵がかかっている。 ベランダの鍵もかかっている。 カーテンをそっと開けベランダを確認するがここも変わった様子はない。

「何もない・・・すぐ耳の横であんなに大きな音がしたのに・・・何だったのかしら」 そう思いながらもまた布団に入った。 


ある日、会社から帰り昨日の続きを早く読みたいと 夕飯の準備もしないで座椅子に座って本を読んでいたが その日の仕事はいつになくトラブルがあったりとかなり疲れていたからなのか いつしかウツラウツラとなってきたときキッチンに置いてあるパイプ椅子を動かし床に擦ったような音がした。

「え!?」 慌てて目を開け身体を起こしキッチンのパイプ椅子を見たが動いてはいない。

「そうよね。 誰も居ないんだものね」 だが納得がいかない。

「あ・・・待って・・・今、耳に聞こえなかったわよね・・・」 よく考える。

「距離感もなかったわ・・・頭・・・そう、頭に聞こえたわ・・・」 そして

「あの時の鈴・・・お風呂の中で聞いた鈴の音は確かに左の耳に聞こえたわよね。 夜中の音もみんな左の耳に聞こえたわよね・・・え? 左?」 考えるか?

「どうしてかしら。 ・・・どうしてでしょうね。 分からないわね。 そうですね」 またかい。 


だがそれだけではなかった。

会社の休みの日。 座椅子にもたれて本を読んでいたのだが夕方またウトウトとし始めた。
丁度意識が遠のいていきかけた頃、耳元で大きな鐘の音がした。 目を閉じた状態のまま意識だけがはっきりと目覚め

「あら? 今の鐘の音・・・ああ、夕方6時の鐘が鳴ったのね。 もうそんな時間になってたのね・・・あ、そうじゃないじゃない。 どうしてこんなに大きな音で聞こえるの?」 するとその後にノイズが聞こえた。

「え? これってカセットテープのノイズの音?」 そのままじっとしているとまた耳のすぐ横で大きな鐘の音が聞こえた。 そしてノイズ。 それが3回繰り返されてプツっと録音の終わるテープの音がした。 琴音が目を開けた。

「何? どうしてあんなに大きな音で鐘の音が聞こえるの? それにテープのノイズって どういうこと?」 窓は閉まっている。 いつもなら窓が閉まっていれば耳を澄まさないと鐘の音は聞こえない。 窓が開いている時でも気にしていなければ全く気付かないほどである。 

「なんだったの?」 なんだろうね。 考えても分からないよ。

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みち  ~未知~  第65回

2014年01月14日 14時21分53秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第65回



読んでいる本が段々と変わってきていた。

古代史から 今度は超古代史を読み進めていた。 今の琴音にとって紀元後は現代の感覚だ。

「シュメール文明って凄かったのね」 所々にシュメール文明の石版を訳してある本を見つけそれを何度も読み返し

「・・・本当なのかしら・・・人間はダーウィンの進化論で言われる原始人から人間になったんじゃなくて 宇宙人の実験の結果生まれた生き物って・・・でも確か進化論のうち一つは発見されていなくて想像だって聞いたことがあるわ・・・でも、このシュメールの文字を読めるのは世界に数人だけ・・・真実かどうかは分からないわよね」 それに関する惑星ニビルに住むアヌンナキの本などを読んだが琴音に知ることは出来ない。 仕方なくその後の文明を読み始めた。


それから暫くしてまた同じような時間にあの違和感だ。 目を開けると

「あ・・・」 今までキチンと並んでいた文字らしきものが ポロポロと崩れている。

「キチンと並んでいないわ・・・」 その上、琴音が見ようとして凝視すると余計にポロポロと崩れる。 しっかり見ることが出来ないのだ。

「ちゃんと見られないじゃない」 辺りを見回したが琴音が目をやると崩れていたものが更にポロポロと崩れる。 その様子を見て

「クスクス・・・可愛い・・・。 無理ね。 もういいわ、寝ましょう」 根性が付いてきたね。


そんな夜中の時間があるかと思えばある日は2日続けて同じ夢を見たりという事もあった。

見覚えのある坂道。 坂道の上にある大木。 琴音の実家近くの道だ。

夢の中の琴音は坂道を上がって大木の向こうに行きたかったようだが その大木には琴音の苦手な虫が沢山ぶら下がっていた。
その虫を気持ち悪く思った夢の中の琴音。 大木の向こうへ行くのを諦めUターンして坂を下りて行くと 坂の途中で右の腕の付け根にその虫が1匹ポトっと落ちてきたのだ。

虫が落ちてきたのを認めると同時に先の尖ったような物でそこをグッと押される痛みを感じ目が覚めた。 認めるが先か痛みが先かはほぼ同時だった。

目が覚めてからもその痛みは1日目はかなりの痛みとして感じ 数分痛みが残っていたが 2日目に見た同じ夢では1日目に比べるとそんなに大きな痛みとしては感じなかった。
どちらかといえば 「ここだよ」 とツンとされた程度で後に残るほどの痛みではなかった。

「同じ夢を続けて2日見るなんて初めてだわ。 それに夢なのにどうして痛みを感じるの。 ・・・無意識のうちに自分で突いちゃったのかしら・・・」


どんな事があっても 朝はやってくる。

「ううう・・・」 アラームを消し大きく伸びをした。

「はぁ、夜中に起きると朝が辛いわ」 今日も仕事だ。

会社では仕事にも慣れ、引継ぎノートを見なくとも毎日の仕事や月一の仕事が出来るようになってきた。

「ちょっとは頭が動いてくれるようになったわ」 だがそうなってくると業績が芳しくない状態、仕事時間が余ってくるというわけだ。

「えっと・・・何をしようかしら・・・」 そうなるよね。

「掃除でもしようかしら・・・でも朝、掃除したものね」 誰もいない事務所、何をしようと自由だ。

「いくらなんでも本は読めないわよね」 大きく溜息をつき目を瞑って瞼に見える模様を見ていたが誰かが来てはいけないと 耳は完全にドアの向こうの足音に集中していた。

15時のコーヒーを奥の事務所に持っていってからは入ってくるファックスを配ったり電話を取ったりする以外はほぼ毎日こんな状態だ。

「こんな事 前の会社じゃ考えられなかったわ」

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みち  ~未知~  第64回

2014年01月10日 14時20分31秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第64回



丁度体の痛みも取れてゆっくり寝る事ができた頃。 早朝に近い夜、もう少しで明るくなってくるという時まだ暗い。 
身体に違和感を覚え目が覚めた琴音。 目を開け何かが違う事に気付いた。 
目が覚めた時は横を向いて寝ていたのだが その目の先にはカーテンがあるだけなのに何かがいつもと違う。

(カーテンが変になってるのかしら?) だが良く見るとカーテンの縦横の模様に沿ってキチンと何かが書かれてあるようだ。 そのままの状態で目を凝らして見た。

(なに? 字? 違うわ・・・模様?) 身動き一つしないで見ていたが顔だけ動かし他の所を見た。
すると壁にもそれが書かれてあった。

(・・・・・) ぐうの音も出ないようだね。

「誰かの落書き?」 やっと言葉が出たね。 出た言葉がそれかい? 琴音以外誰も居ないこの部屋で誰が書いたって言うんだい?

「誰かって誰よ・・・気のせいよね・・・うん、そうよね・・・寝ぼけてるのよね、寝よ」 あまりの恐さに布団を頭までかぶってまた寝てしまった。 

だが、朝起きてもやはりどうも気になるようだ。 
目覚ましが鳴ってアラームを消す。 カーテンを見るが何も書かれていない。

「何も無い・・・でも昨日、確かに見たわよ。 寝ぼけてなんかなかったわよ。 ・・・何が書かれてあったかしら・・・」 すぐに寝てしまったから良く覚えていないようだ。

「文字だったかしら・・・模様?・・・象形文字?」 思い出そうにも思い出せない。

「あ、会社に行かなくちゃいけないのにこんな事考えてたら遅刻しちゃうわ」 だが、こんな事といいながらも気になるようだ。

「えっと、今週末何も予定は入っていなかったわよね」 予定があるときにはカレンダーに書き込んでいるが今週末は空白だ。

「乙訓寺に行こう」 やっぱり気になっているんだね。 でもちょっと違うな。 乙訓寺に行ってもわからないよ。  



週末、乙訓寺に行きいつものベンチに座りいつもと同じように風を感じ小鳥の声に耳を傾けるが 何も変わった事も感じなければ分かったこともない。

「やっぱり乙訓寺が全てって言うわけじゃないのかしら・・・」 暫く考え考えがまとまったようだ。

「肝が据わったわ。 絶対恐くなんかないわ! 今度また何かが見えたら突き止めるわ」 肝が据わったってそういう事?・・・単に見えたことが恐かっただけのようだね。 


その2日後 

また早朝に近い夜、前と同じだ。 違和感を感じ目が覚めた琴音。 開けた目の先にあの時と同じように違うものを感じた。

「まただわ」 その文字と思われるものをじっと見る。

「今度はちゃんと見るわよ」 上半身を起こし、座った。

部屋の壁全部を見渡すと全ての壁に書かれてあった。 勿論天井にも。

「まるで陰陽師の世界じゃないの」 唖然としてもう一度部屋を見渡した。
その文字らしきものの色は黒に近い。 だがはっきりと黒ではない。 もっと分かりやすく言うと少し日が照っているときに出来る影のような色だ。

「沢山ありすぎて覚えられない・・・」 圧倒されている。

「とにかく一部でも」 一部に目を凝らし覚えた。

「これを調べれば分かるわよね。 待っていなさい、解明するからね」 そしてそのまままた寝入った。
あーあ、寝ると忘れてしまうっていう事が分かっていないようだ。

朝、いつものように目覚まし時計のアラームを止めすぐに見たことの記憶をたどろうとした。

「あら? どうだったかしら? えっと・・・あそこに書かれてた一列目がMみたいな文字だったかしら? MMMMMって繋がってたかしら・・・違う、似てるけど 違うわ・・・」 寝ちゃったからね。

「悔しい・・・せっかく覚えてたのに!」  

そして その日の夜

「今度こそ突き止めるわよ」 スケッチブックと鉛筆を枕元において寝た。
だがそうなると現れなくなる。

その代わりに朝ウトウトとしていると両掌がピリピリしてそのうちに両足の裏までがピリピリしてきたが 不快な物ではないのでそのままずっとウトウトとしている。 これは朝、寝起きのウトウトしている時にはその後もずっと続いた。

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みち  ~未知~  第63回

2014年01月07日 15時15分52秒 | 小説
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『みち』 ~未知~  第63回



「はぁー 暦は偉いなぁ・・・やっぱり私に結婚は無理ね」 うん、そうだね。

お腹もいっぱいになりミルクも飲んで気持ち良くなった琴音、テレビのスイッチを入れてボォッと見ていると またもやうつらうつらとしてきた。

「あ、ダメダメ。 歯も磨かなきゃ、鍵も閉めなきゃ」 重い身体をギシギシといわせて立ち上がりまずはキッチンに向かった。

テーブルの上を見るとクリームドッサリのパン、ピラフ、オムライス、おにぎり、煮物などがラップをされて置いてあった。 コンロには味噌汁の入った鍋があり、冷蔵庫を開けてみると生野菜サラダ、パスタサラダ、コーンスープがカップに入っていた。

「もう! 暦ったら、私がお味噌汁も煮物も苦手なの知ってるくせに。 ・・・でも他は私の好きなのばかり。 あの短時間で・・・まるで食堂のオバちゃん並みね」 褒めているのか貶しているのか。 でも琴音、もっと日本食を見直そうね。

そのまま玄関の鍵をかけ歯を磨き顔を洗い またキッチンに戻ってきて程よく冷めてきた料理を冷蔵庫に入れた。

「おにぎりはこのままで明日食べよう」 寝室へ戻るとまたすぐに寝てしまった。 

さすがに疲れた肉体といえど何時間も寝ていたわけだ。 翌日は朝早くに目が覚めた。

「ううう・・・やっぱり寝起きは辛いわ」 固まった筋肉が痛い。

少しずつ動かすが昨日より少しましなくらいだ。

「これって、もしシップを貼らなかったらどうなってたのかしら。 もしかしたら昨日より酷くなってたのかしら」 歳がいくと筋肉痛も後に出てくるからね。

「とにかく動かなきゃ。 このまま固まっちゃう」 動こうとするが

「無理・・・いたーい」 この連休の間はちょっとゆっくりしていなさい。

「アキレス腱、伸びないじゃない」 だからアキレス腱も膝も炎症を起こしてるんだから大人しくしていなさい。

アチコチに貼っていたシップをなんとか剥がし

「皮膚呼吸もしなきゃ」 確かにね。 エラ呼吸も・・・エラはなかったね。

結局、連休の間は一歩も家の外に出る事はなく それどころかずっと家の中で寝転んでいた。

「暦のご飯とシップに感謝だわ。 それに・・・頭のボォッとした感じも大分ひいてきたわ」 シップだけで飲み薬に頼らなかった琴音。 

そうだよ、よくジッとしていたね。 それに飲み薬はいけない。

「あ、よく考えたら 頭痛の薬を飲んだら良かったわ。 頭痛の薬って鎮痛作用だから少しは身体の痛みももう少し早くマシになっていたかもしれないのに」 駄目だって。

「ま、大分楽になってきたから薬を飲まなくても明日は何とか出勤できるわね」 そうしておくれ。


翌日、連休明け出勤日。

朝起きると昨日にまして身体が動く。 とは言え、全く痛くないわけではない。 化粧をし着替えて いざ玄関に行きヒールを履くとさすがに

「うう・・・ヒールはきついわ」 ローヒールであるが足首周りや脹脛の筋肉に痛みが走る。

「でもこの靴、会社用にしてるし他にこの服に合う靴もないものね」 制服のない会社。 琴音は自分の中で この服を制服のつもりにしようと似たような3種類のブラウスとスラックスを買い交互に着ていた。 
着替えはせず、その服のまま通勤をしていたのだ。

琴音のマンションは2階建てだ。 エレベーターなどはない。 2階の部屋から下りる階段も一際足に来る。 会社までの自転車も足や腰や背中に痛みが走る。

「早めに出てよかったわ」 ゆっくりとこいでいった。

会社に着き3階の事務所までも大変であったが家にいたときと違い会社に来てしまうと 何かと動き回る事が多い。 椅子を立ったり座ったり、それだけでも最初は痛い思いで身体もだるかったのが何度も繰り返していくうちに筋肉も温まってきて筋肉を伸ばす事も苦ではなくなってきていた。

「まだ痛いけど家にいたときほど歩けないわけじゃないからいいわよね」 とは言え、誰も見ていない階段では手すりにしがみついてヘッピリ腰で降りている。

この日は家に帰りいい時間を見計らって暦に電話をした。 この間の礼と身体の報告だ。

何日かが過ぎようやく完全に痛みが取れた。 やっぱりかなり運動不足だよ。

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みち  ~未知~  第62回

2014年01月05日 16時14分04秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第50回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

  『みち』リンクページ



『みち』 第51回からは以下からになります。

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『みち』 ~未知~  第62回



「子供じゃないわよ」

「充分子供みたいな事してるじゃない。 それっと・・・琴音の連休はいつまで?」 キッチンに帰った暦が聞いた。

「えっと、今日で2日目だからあと3日で終わり」 

「それじゃあ その様子だと多分連休の間ずっと動けないだろうから 適当に何か作って冷蔵庫に入れておくから食べるのよ」 続けて料理を始め

「その乙訓寺の話の続き聞かせて」 料理をしながら琴音の話を聞いていた。

聞き終わって

「それっていったい何なの? その色んな話もそうだけど何より出発点は山にもお寺にも急に行きたくなったっていうのが不思議よ。 それも大嫌いなお寺でしょ? それと今まで琴音が山なんて言葉を言った事なかったじゃない。 あ、それとも行きたかったけど言わなかったの?」

「うううん、山なんて考えた事なかったわよ。 まぁ、山頂の神社はここまで来たんだからって意地でお参りした様なものだけどね」

「意地? 意地だけであの社寺仏閣嫌いがお参りする?」

「あ・・・そう言われれば・・・今までの私じゃ考えられないかも」

「でしょ、いったい何があったのかしらね。 心当たりはないの?」

「うーん、分からないわ。 それにそれを言ったらどうして前の会社を辞めたのかも分からないし、他にも分からないことだらけなのよ」

「40歳になると人が変わるのかしら?」

「歳のことは関係ないわよ」 

「他にも分からない事って、まだ何かあったの?」

「小さな事よ。 今までの自分じゃないみたいな行動をとったり、言ったり」

「例えば?」 悠森製作所やハローワークでの事を話した。

琴音の話を聞きながらも次々と手早く料理を作っていった暦。

「ま、これだけ生きてたら分からない事の一つや二つあってもおかしくないわよね」 そして続けて

「さ、出来た。 今冷蔵庫に入れられるものは入れておくけど まだ暖かいものはコンロとテーブルに置いていくから冷めたら冷蔵庫に入れておいてね・・・あっと、入れに来られる?」

「大丈夫よ。 それに少しずつでも動かないといつまでもこれじゃね」

「じゃ、2,3日分くらいあるからチンして食べてね。 あ、おにぎりは早めに食べちゃってね。 言っとくけど 琴音の好きなのばかり作ると偏っちゃうから苦手な物も作ってるからね。 全部ちゃんと食べるのよ。 じゃあ 帰るけど・・・あ、そうだ 忘れるところだったわ」

「なに?」

「今日お風呂に入るの?」

「どうしようかな ・・・どうして?」

「シップを持ってきたんだけど もしお風呂に入らないのなら今貼ってあげるけど お風呂に入るんだったらまだ貼れないと思って」

「あ、貼って欲しい。 今日はお風呂に入らない」

「じゃあ 貼ろうか」 シップを琴音のほうに持ってきて背中や足、腕あちこちに貼った。

「ありがとう。 これで明日は大分楽になるわ」

「白いロボットの出来上がり・・・って言うより、ミイラ女みたいよ」 シップを貼っていない所がないほどだ。

「もう!」

「残りは置いていくから明日からは自分で貼ってね」 立ち上がった暦。

「あ、今日の食材とシップ代、いくらかかった?」 慌てて琴音が聞いた。

「私が勝手にやってるんだから気にしないで」 キッチンへ歩きながらそう返事をすると

「それは駄目よ、旦那さんのお給料なんだから。 それにシップもこんなに沢山高いじゃない」

「シップは前に実家からもらってきてたものだからお金がかかってないの。 それに食材代って言っても家からも持ってきてるからいくらもかかってないわよ」 キッチンのテーブルの椅子にかけてあった上着と鞄を持ち帰る準備だ。

「そんなわけにいかないじゃない」

「じゃあ 今度ランチおごってちょうだい」

「それでいいの?」 

「充分よ、お釣りが出るくらいよ。 ホントにそんなにかかってないのよ」

「じゃあ、今度ランチおごらせてね」

「うん、楽しみにして待ってる。 じゃ、今度こそ帰るわね」

「有難う、ゴメンね遅くなっちゃったわね」 立ちかけた琴音に

「今はそのままでいいから。 私が帰った後、ちゃんと鍵かけてね」 手を振りながら部屋を出て行った暦であった。

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