大福 りす の 隠れ家

小説を書いたり 気になったことなど を書いています。
お暇な時にお寄りください。

みち  ~満ち~  第248回

2015年10月30日 14時45分38秒 | 小説
『みち』 目次



『みち』 第1回から第240回までの目次は以下の 『みち』リンクページ からお願いいたします。

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『みち』 ~満ち~  第248回




愛宕のお山では今までになく厳しい修行となったが、風狼は平太に負けじと励み通した。

愛宕のお山を駆け巡る。

「ちっ、さっき差をつけたところなのに、もう後ろに居やがる」 平太がチラと後ろを見ると意地でも離されるものかと風狼が必死についてきている。

ふと、上から何かが落ちてくる気配を感じた。

「くそっ! こんな時に石なんか落ちてくるんじゃないよ!」 獣が駆けた時に蹴ってしまった小石であろうか。 

平太のスピードが一瞬弱まった。

「へっへー、平太兄、もうバテたのかー?」 風狼が平太を抜いたその時

コン!コン!コン! 見事に風狼の頭に小石が当たった。

「痛ってー!」 頭を抱えて座り込む。

「情けない。 石が落ちてくることもまだ分からんのか」 後ろ目に見ながらボソッと言いながら駆けて行った。



修行の最後の日を過ごしたその夜。 

まん丸く太った月明かりの元、小さな火をおこしている前で、風狼は疲れ果て大の字で寝ている。 主と平太はまだ起きている。

「平太、そなたかなり気を感じる事が出来てきたようじゃな」

「いえ、まだまだでございます」

「駆けるのに集中している間にも、石が落ちてくるのが分かったであろう?」

「あ・・・今日のことでございますか?」

「うむ」 そう言ってほくそ笑む。

「あ、もしやあの石は主様が?」

「おや? 気付かんかったのか?」 

「あ、・・・はい。 てっきり鹿かなにかが蹴り上げた石かと思っておりました」

「あの時、わしは気を消しておらなんだぞ」

「え? ・・・あちゃー」 頭を抱え込む。

「ほぉー、てっきり平太は気付いておると思うておったのになぁ」 意地悪く、片眉を上げてまだ頭を抱え込んでいる平太を見て言う。

「主様の気が分からなかったとは・・・情けないです」 その様子を面白がりながら主が話を続けた。

「風狼はまだまだのようじゃったがな。 じゃが、あの程度の小石、避けるのではなく手で撥ねればよかったのではないか?」

「撥ねる事は出来ましたが、撥ねてしまって万が一、風狼に当たってはと思い避けようと思いました。 その時に一瞬迷いが出たようで、駆けるのが遅くなってしまいました」

「ほほぅ。 そうか・・・」 先ほどまでと違う表情を浮かべる。

「主様? ・・・あの、何か間違っていたでしょうか?」

「いや、間違えなどない。 そなた・・・心優しく育ってくれたのう」 その目を平太に向ける。

「え?」 パチパチと木が燃える音がする中、顔が一気に赤らむ。

「じゃが」 主のその言葉に背筋を伸ばした。

「咄嗟とは言え、後から来る者がどう動くかを考え、撥ねる方向を自在に操る事を覚えねばな」

「はい」

「まぁ、相手が風狼故、どんな風に動くか分からんところもあるじゃろうがな」 眉尻が下がる。

「はい、風狼の動きは時折掴めません。 思いもしない方向に走って行ったりする事もありますので。 それがあの時の一番の迷いでありました」 その言葉を聞いて主が大きく溜息をつくと

「それにしても・・・あの時の風狼の姿・・・」 情けないを通り越してただただ、笑えたが、それを押し殺して主が平太に問うた。

「平太、そなたから見て風狼はどんなもんじゃ?」

「オチオチしておられませぬ。 明日にでも抜かれそうです」

「そなたほどの気を感じることはまだまだじゃし、ガーガーと寝ておって体力もまだまだじゃが・・・やはりそなたから見てもかなり伸びてきておるのが分かるか?」

「はい。 風来が居なくなってからは特に感じます」 話が落ち着いた時、主に聞きたい事があったが 「風来」 と言って思い出した事があった。

「そうじゃなぁ」 と目の前にある火を見つめる主。

その主の顔を覗き込むように 「主様、お山ですが」 そう切り出す平太の顔を見る。

「この愛宕のお山に来る前、いつも風来が獣を癒していた所に行ったのですが、なにやらおかしな気があるようで・・・」

「おかしな?」 眉間が寄る。

「はい。 その気に合わそうと思ったのですが、掴みきれないと言いましょうか・・・」

「風来が留守にしておるから、おかしな者が入ってきたのであろうか? じゃが、風狼が出入りしておるはず・・・あ、風狼には気が分からんから姿を隠せばよいだけか・・・」 

「いえ、誰かが入ってきたという風ではないようです。 余りにも薄い気なのです」 訳が全く分からないと言う。

「そうか。 お山に帰ったら行ってみようかの」 低い声で言い、また火を見た。 だが、さっきとは違う目つきだ。

その主にそっと平太が問う。

「あの・・・主様一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」 

「なんじゃ?」

「ここのところ勝流が一緒でないのは何故でございましょうか?」 

「勝流な・・・。 暫くの間、勝流は浄紐(じょうちゅう)に任せておこうと思うてな」

「浄紐兄様にですか?」 何故? でもどうしてかそれが聞けない。

「うむ」 と返事をする主に次の言葉が出てこない。




≪勝流≫

木ノ葉がやってきたときには、平太と共に大層可愛がった。

その後にやってきた風狼と風来。

気の強い風狼と違っていつも下を向いて風狼の袖を持ち陰に隠れている風来。 その姿を誰よりも気にかけていた。

修行が進むにつれ、風狼と風来の差が勝流の目にも充分にわかる。 

それ故、木ノ葉と同じように風来も大層可愛がっていた。

「風来は風狼より背が低いだろ? その分、どうしても追いつかないところが出て来るんだ。 背が伸びれば風狼と同じくらい出来るようになるさ。 気にするなよ」


だが、時は流れる。

木ノ葉も風来も成長した。 勝流がいなくとも、支えがなくとも一人で立っていられる。

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みち  ~満ち~  第247回

2015年10月27日 14時57分13秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第247回




風来からの文は最後にこう書かれていた。


<まだまだ新しい事を教えていただいても、なかなか思うようには出来ませぬが、そんな時はいつも更が励まして下さいます。
これの様に強くなりなさい、と立派な獅子の根付を更が作ってくださいました。 
そして己の間が抜けているからと、落としてもすぐに分かるよう、鈴を付けてくださいました。 とても涼やかな音の鈴でございます。 
更は、まるで本当の姉様のようなお方でございます>


と。



「・・・この文は木ノ葉には聞かせられませぬな」 文を見終えた浄紐(じょうちゅう)がイタズラな目をして文を畳むと、主がそれに一言添えた。

「風狼にもな」 主と浄紐、二人が目を見合わせ笑った。



時は過ぎ行く。



≪平太≫

以前、主が平太の様子を見ていて、もしや? と思い峻柔(しゅんじゅう)に話した事があった。

それを聞いて峻柔が嬉しそうに「はい」 と答えた。


いつも峻柔の薬草作りの様子をチラチラと見ていた平太が主の目についたのだ。

父から頼まれた『一人で生きていける子に・・・』 知識を身につければ町で働けるやもしれぬ、峻柔のように声を掛けられるやもしれぬ、お山を降りて一人で生きていける材料になるであろう。

主が平太に言うと

「薬草のことは覚えたいです。 でも、修行を止めるつもりはありません」 ハッキリと言った。

だが、それを聞いた峻柔が

「なら、修行のないときに手伝わんか? 主様、宜しいでしょうか?」 そう言ったのだ。

それからは、峻柔が自分のその知識を平太に教えようと、時間があるとすぐに平太をかりだし、薬草を採ったり干したりと、何がしかの手伝いをさせ始めた。

勿論、薬草の説明をしながらだ。

薬草を採る時には、修行を積んでいる平太の方が身軽に採る事が出来る。 峻柔のように落ちて足を挫くことなどないであろう。

が時々、根が必要な薬草を根から採らず、葉だけを採ってくる事があった。

葉だけを持って崖から「峻柔兄様!採れたました!」 と喜んで降りてきた平太を責めることはしないが、今にも涙が出てきそうな顔をしている。

そんな事が何度かあった為か、平太はそれまで以上に覚えたいという心が芽生えてきた。 もっと知りたい、もっとちゃんと。 手伝いの間、質問攻めにする事が増えてきた。




この日は主が深堂(しんどう)を連れ里へ降りるということで、早朝だけの修行であった。

「ちぇっ、主様が居ないんだったら浄紐兄様が教えてくれたらいいのに、相手にもしてもらえないってどういう事だよ。 
いーっつも勝流兄ばっかり相手して。 ああいうのを贔屓って言うんだよな」 文句を垂れながら風狼が獣に癒しの手を施している。

だったら自分一人で励めばいいのだが、日頃から絶対に一人では何もするなと言われていたのだ。

預かっている大切な命、万が一にも何かあったらすぐに誰も気付かないからである。 

その時

「風狼、やっぱりここに居たのか」 座っている風狼の後姿に話しかける。

風来がいつも癒しを施していた場所である。

「あ、平太兄(へいたにい)。 峻柔兄(しゅんじゅうにい)の手伝いは終わったのか?」 振り返った風狼は平太と話しながらも癒しを施している。

「おい、お前何度も言ってるだろ」 溜息をつく。

「なに?」

「なにじゃないよっ! 峻柔兄様だろがっ!」 腰に手を当てる。

その言葉を聞いてペロッと舌を出すと

「だってなぁ・・・兄様って言ったら、浄紐兄様しか浮かばないんだよなぁ・・・」

「っとに! 兄様方が何を仰っているわけじゃないからいいものの・・・。 で、どうだ? 癒しは出来てるのか?」 近づくと腰を折り、風狼の手元を覗き込む。

「そのつもり。 んで、こいつがまた怪我をしたみたい。 いっつも同じ切り傷ばっかりして、本当にお前は鹿か? 生まれ間違ったんじゃないのか?」 鹿の顔を見て話しかける。

獣は獣、獣に人間の言葉が分かるもんか。 と言っていた風狼が獣の顔を見て話しかけるとは随分と変わったものだ。

正に主の思惑にスッポリと、はまったようだ。

「ははは、そんなことを言ってやるな。 って、お前がちゃんと癒せてないんじゃないのか? それに、先に腹をどうにかしてやったらどうだ?」 

「腹?」 何を言い出すのかと平太を見た。

「お前なぁー、分からんのか? 腹の気が弱いだろうがっ。 やっぱ出来てないな」 折っていた腰を伸ばすと、それを聞いた風狼が頬を膨らます。

「何言ってんだよ、ちゃんと出来てるよ。 ・・・と思うよ」 頬が萎んだ。

「怪しいもんだ」 半眼でそう言うと辺りを見回す。

少々自信のなくなった風狼が話をずらしてきた。

「まぁ、こいつだけじゃなくてここのお山の獣たちはみんなトロいみたいだけどな。 きり傷やどっかで打ったのかなぁ? 足を引きずっていたり、いったい何をやってんだか」

「そうなのか?」 驚いて風狼を見る。

「この前は鳥だっただろう? で、その前が・・・あんまりにも多すぎて忘れた。 風来が甘やかしてばかりいたから、みんなトロくなったんだろうな」

「はは、そうかもしれんな。 どの獣にも分け隔て無く優しい奴だったからな。 ・・・だけどこの辺り・・・おかしいな・・・」 もう一度辺りを見回す。

「え? 何が?」

「う・・・ん。 他に何か変わったことはないか?」

「変わったこと?」

「ああ。 この気・・・感じないか?」

「気?」

「・・・薄くて分かりにくいけど・・・何だろう・・・」 どこかに焦点を合わそうとするが、そのどこかが分からない。

「薄い?」 こちらは何のことだか分からない。

「あ、そう言えばお前はまだこっちの気も苦手だったな」 諦めて風狼を見た。

「大分、マシになったつもりだけどなぁ・・・気かぁ・・・」 癒しの手をほどき立ち上がると、平太を真似て辺りを見回すが

「分っかんねぇなぁ」

「あん? お前、目で何かを判断しようとしてないか?」

「え? だって、平太兄だってあちこち見てたじゃないか」

「お前なぁー・・・」 思わず膝に手をつき、しな垂れてしまった。

「な・・・なんだよ」 横目で平太を見る目が伏目がちだ。

「主様も大変だ・・・」 そう言うと勢いをつけて身体を起こすと

「まだまだだな。 って、そんなことを話しに来たんじゃないんだ。 主様が帰ってこられた。 で、明日から愛宕のお山に行くぞ」

「やったー。 今度はどれくらい行けるんだろ?」

「今度はそんなに長くないみたいだ。 それと、俺とお前だけだ。 とにかくそれが終わったら帰ってこいよ」

「へーい」 座り込み、今度は鹿の腹に両手を沿わせ気を送り続けた。

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みち  ~満ち~  第246回

2015年10月23日 14時15分44秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第246回



時間をかけ台所、囲炉裏のある部屋、畳の間を箒で掃いたり拭き掃除をする。

「あら? 今、住庵様の声がした?」 手を止め耳を澄ますが、何も聞こえない。

「気のせいね」 窓を拭きあげると

「うん、気持ちがいい」 額の汗を腕で拭くとチラッと風来が寝起きしている部屋を見た。

「風来の居る部屋、どうしようっか・・・」 障子は閉められている。 勝手に入るのは気が引ける。 

少々乱暴な口ぶりで喋るが、やはりこういう所は女子のようだ。

「・・・」 障子をじっと見る。 と、そろっと近づいていきゆっくりと障子を開けた。

少し開けたところで顔をヒョイと覗かせると、風来が最初に入った時とさして変わらなかった。

しいて言うなら、衣文掛けに着替え用の着物が無造作に垂れているだけだ。

「あ、なんだー、気にする事ないじゃない」 すると大きく障子を開ける。

「あーあ、なんと殺風景な」 そう言って窓を開け、箒で掃きだそうとした時、先に風来が背負っていた網袋を隣の畳の間に置こうと持ち上げた。

コロン。

「え?」 何かを落としてしまったのかと下を見ると、小さなものが目に入った。

手に取ってみると

「根付?」 かなり傷んでいる。

「確か、お山で暮らしてるだけなはずなのに、一人前に根付なんて持ってるんだ」 ふーん、と目の前にぶら下げてみる。

「何に付けてたんだろ?」 目の前でブラブラとさせる。

「でも、これじゃあちょっと重いものにつけちゃうと落ちちゃうんじゃないの?」 そう言うと更の方眉が上がった。

「根付師並みの腕を持つ更様が作ってやろうか」 片方の口元がクイと上がる。

網袋と根付を隣の畳の間へ置くと、箒で掃きながら

「さて、どんな物にしようかな」 根付の形を考える。

「女子みたいだから、花にでもしようか?」 箒を動かす手を止め、その柄の上に顎を乗せ悪い顔をしている。

「苛めちゃ可哀相か。 それに苛めた事が住庵様にばれたら怒られそう」 舌をペロッと出し、さっさと掃いた。

今度は雑巾を持ちながら

「うーん、何がいいかなぁ」 雑巾を動かしたと思うとすぐにその手が止まってあれやこれやと考える。 

そしてまた雑巾を動かす。

「金子が入って欲しいなら・・・俵? って、風来がそんな事考えてるはずはないっか・・・」 またまた、うーんと考える。 よって、手が止まる。

「獣の傷を治したい。 ・・・獣かぁ」 雑巾を持った手を動かす。 

今度は長く手を動かしていたが、ブツブツと 犬? 猫? 鼠? 等と口にする。 

「どれもピンとこないなぁ」 決まらぬまま一通りの掃除を済ませると、無造作に掛けてあった着物をきちんと掛けようと手に取った。

「・・・何とも言いようのない着物・・・」 そう言ったかと思うと

「風来が自分で洗ってたから気付かなかった・・・」 更が洗うと言っても譲らなかったのだ。


最初は 「・・・いいです。 あの、これくらい・・・」 と、煮え切らない返事をしていたから、更がもぎ取ろうとしたらてこでも離さなかった。

「洗うって言ってるでしょ! 離しなさいよ! それに言いたい事があったらはっきり言いなさいよ!」 すると

「あの・・・飯の・・・飯の用意をしてもらっているのに、これくらい・・・己でやります」 と言ったのである。


「あ、そう言えば今日も外に出るにはちょっと残念な着物だったわ・・・」 



お山では滅多に着物など着ない。 そんなものを着ていては山を駆け巡るに邪魔なだけだ。

ただ、時折 里や町へ出かけるときには着物を着る。

その着物は兄様たちが着ていた着物を背丈に応じて皆で着回している。

この度の風来の旅ではあまりにも着古した着物では住庵に失礼だろうと、これでも浄紐(じょうちゅう)が気を回してお山の中では一番傷みの少ない着物を持たせたのだ。



「やって来た時より背も伸びたものね・・・。 そう言えば裾も短くなってきてたっけ。 ・・・住庵様に言って、風来の着物を用意してもらおう」 そう言うと、着物は衣文掛けに掛けず、丁寧に畳んで網袋の横に置いた。

その時

「おーい、更 帰ってきたぞー」 住庵の声がした。 慌てて迎えに出る。

「お帰りなさいませ」 手をついて迎える。

「おや? 襷掛けとな?」 

「はい、久しぶりに畳の間の掃除をしておりました」

「そうか、ご苦労であったな。 走るは、声を出しすぎるはで喉が渇いた。 茶を淹れてくれるか?」

「はい、只今」 台所に行き、茶の用意をすると盆に載せ畳の間に座っている住庵の前に置く。

「住庵様、走ったり声を出しすぎたりとは、いったい何があったのでございますか?」

「ああ、そこいらの犬猫を捕まえようとすると逃げるのでな。 待てー! と走りながら叫び倒しじゃ。 三匹しか捕まえられんかったわ」

「そういう事でございましたか」 あのとき聞こえた声はまさしく住庵だったのか。 と思い、その姿を想像してクスッと笑う。

「どなたかの家の犬でも猫でもをお借りしたらようございましたのに」

「あ・・・あ、言われてみればそうじゃったな。 それに気付かんかったー」 己の額をペシリと叩いた。

更がそのへんの犬猫を・・・と言ったものだから、ついつい野良の犬猫を追い掛け回していたようだ。

その様子を見てまたクスリと笑い、住庵の前に座る風来の方に体を向けると、茶を持った手が止まり、声を掛けようとしてしていた口が途中で止まった。

(あらまっ、驚いた! 背が伸びているとは思っていたけど、こんなに背が伸びてたの? これじゃあ着物の裾も短くなってきてるはずだわね。 
って言うことは、このまま伸びていったらもしかして、ここにいる間に抜かれるの!? ・・・女子みたいだと言っても女子じゃないんだから。
その内に見おろされたりするのかしら。 
・・・そんなことをしたらぶっ飛ばしてやる)

「更? あの・・・どうかしましたか?」 声をかけられ我に返る。

「え? あ、ああ。 何でもない。 それより、三匹捕まえたんでしょ? どうだった?」 すぐに風来の前に茶を置き、さっき言おうとした言葉を続けた。

「それが・・・」 また怒られる・・・。

下を向いて言い淀んでいる風来の姿を、更が小首を傾げるようにして見ている。 そして

「いいのよ」 あっけらかんと言う。

「え?」 思いもよらぬ言葉に目を見開く。

「今日は出来なくても明日は出来る。 明日出来なくても明後日は出来る。 昨日出来たことは今日も出来る。 違う?」 

「・・・更?」

「風来はやれば出来るんだから」 

「更?」 風来のその視線の高さに合わせようと、更が少し背を丸める。

「それにもし何度やっても出来なかったら・・・無理だったら他のやり方を考えればいい。 風来には風来のやり方があるんだから、一緒に考えよう」 

更のその目の奥にお山で腹を括った時を思い出した。

(そうだ・・・出来るのかもしれないじゃないんだ。 出来るんだ。 そのために来たんだ) 腹を括った筈だった。 だが、教えを請ううちに思うように出来ない己が居た。 いや、考えが甘かった。 
だんだんと想いが削られていった。 そのことに気付いた。


その様子を見て住庵が嬉しそうに茶をすすっている。


風来にとって更は良き心の支えとなってきていた。

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みち  ~満ち~  第245回

2015年10月20日 14時14分39秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第245回





翌日もいつもと同じように文机に片肘で頬杖をつき、母屋の様子を見ながら昨日の事を考えていた。

「住庵様の教えは厳しくあられるって、脅して言った時にはピクリともしなかった。 それどころか、日頃はっきりとものを言わないのに、あの時はキッパリと言い切った・・・」 もう片方の手も頬に添えて考える。

紙に筆をおく。 スッと筋を引けばいいのに少し迷いがあるように見えた。

「どうしてそんな簡単な事に迷うの?」 筆を動かせばいいだけの話。 ・・・更にとっては・・・。 目を文机に落とす。

「字を知らないとか? ・・・そんな事はないわね。 ちゃんと書いてたもの」 考える。

「あと考えられるのは・・・人の目があるから? 住庵様や私が見てたから? うううん、別に凝視してたわけじゃない・・・うーん、これも違う・・・」 昨日の事を思い出しながら更に考える。

「あ、・・・もしかして?」 昨日だけではないことに気付いた。

「うん、きっとそう。 それしかないわね。 ・・・そんなことくらいで・・・」 中庭の向こうの風来を見て、一つ大きな溜息をついた。

「自信のなさが原因かぁ・・・」 毎日それなりに頑張っているように見えるけれど

「だから出来るはずなのに、出来ないのよね。 言いたい事をはっきりと言わないだけじゃなくて、自分に自信が無いんだ。 それが迷いとなってしまうのね。 
で、昨日出来ても今日は出来るだろうかなんて要らない事を考えて、へこむ結果になってるのね」 ふぅと一つ息を吐き 

「不安なんて必要ないのに。 頑張ってるのに・・・もったいないなぁ」 チラと横を見、そこに置いてあった根付を手に取ると、目の前に垂らし根付けに付いている鈴をチリンと鳴らす。

「途中で投げ出したりはしませぬ。 か」 風来のいった言葉。

「お優しい住庵様が厳しく出来るはずがはないし・・・」 住庵の教えは厳しいと言ったのは嘘の様だ。

「仕方ないなぁ・・・仏の更様が住庵様のお手伝いでもしようか」 風来を見る更の目が変わってきた。

それからは朝に昼に夕に、更が口酸っぱく風来に言ってきかす。


朝餉の時には

「昨日は出来て今日が出来ないってことはないでしょうね。 今日は昨日以上に出来るように。 失敗なんか恐れる必要は無いのよ。 思い切ってやりなさい」 と、てんこ盛りにされた飯碗を目の前に置く。 

昼には

「朝のあれは何? もっと自信を持ちなさいって言ってるでしょ!」 ドン! と茶を置く。

夕餉の時には

「迷っていては何もできないでしょ。 しっかりと、自分の出来る事をやるだけやりなさい」 目の前に芋の煮っ転がしが乗った椀を差し出す。


心がしぼんでいく。



早朝、風来が外の枯葉を箒で掃いている。 集めた枯葉を手に取り何やら座りこんでいる。

「蟻・・・葉からおりなさい。 葉を離れた所に置くのだから、迷子になるぞ」


朝餉の用意をしながらその姿をチラリと見た更。

「住庵様、いつまでも部屋の中や、中庭の木や草相手ではなくて、そろそろ外に出らてはいかがですか?」

「まぁ、そうかのう」 のんびりとした返事を聞いて目を吊り上げ住庵に顔を向けた。

「そうかのう、ではございません! さっさとお二人でその辺の犬猫を相手にしてきてください! そうでないといつまでも風来がピシリとしませぬ!」

「だがなぁ、まだ風来には無理なんじゃ」

「は? そんな事はございませんでしょ?」 毎日見ている。 そんな筈はない。

「いや、出来ぬ事はないが・・・時間がかかると言おうか・・・」 困り顔の住庵。

「時間がかかる事がいけないのでしょうか?」 漬物を置く。

「いや、思うような感覚でやってみて完全に癒せねば、風来が傷つくであろう?」

「はぁ!?」 手が止まる。

「あの子は傷つきやすいのじゃ。 傷つくと内に篭ってしまう。 芯はしっかりしておるのだが強さが無い。 まず、そこの強さを養わんと。 それに己の自信のなさに向き合・・・」 ここまで言うと更がその先の言葉を打ち消した。

「朝餉が終わり次第、お二人ですぐ外に出てください! 宜しいですねっ!」 止まった手が続けて朝餉の用意をしだした。

「更、急いては・・・」

「は? 何も聞こえませぬが?」 味噌汁を置く手は止まらない。

「あの子は心に傷をつけると・・・」 住庵がここまで言うと

「分かりましたか!」 

「・・・はい」 どちらが此処の主であろうか。


朝餉が終わり、更の目つきが厳しくなる。 椀を片付けながらジロリと住庵を見る。

「・・・風来、今日は外に出ようかの」

「え? 外でございますか? あの・・・己にはまだ・・・」

「住庵さまがそう仰っているのだから、さっさと行きなさい」 目は椀しか見ていない。

すると住庵が風来の横へ行き、小声で言う。

「いいから、雷が落ちる前に外に出ようぞ」

「は?」 意味の分からぬ事を言われ、風来が住庵に頓狂な目を向ける。

「住庵様、今なんと仰いましたか?」 椀から外された目は住庵を捉えている。

「そ、それでは行ってくるからな。 風来、早く来い」 そそくさと外に出る住庵の後を風来が追った。

「ったく、住庵様は甘すぎる!」 誰にも厳しい更であった。 

「さて、久しぶりにあっちこっちの掃除が出来る」 朝餉の片付けをし、張り切って襷掛けをすると雑巾を手に持った。

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みち  ~満ち~  第244回

2015年10月16日 14時15分09秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第244回



「更・・・だけでございますか?」

「そう。 姉様とか、更姉様とかって呼んだらブッとばす!」

「こ、これ! 更!」 片眉を上げ、チラと住庵を見る。

「それに、その着物の裾、何度言ったら分かるのだ」 

「短い方が動きやすいのです。 奥の間へ通すと良いですか?」 怒られている気はないようだ。

「あ、ああ。 案内してやってくれるか」 何度言っても無駄なのかとこれ以上は言うまい。

「こちらへ」 時々言葉は悪いが物腰は柔らかい。

通された部屋は広く、畳が敷かれている。 この部屋までに二間通った。 板間で、続き間などないお山とは全然違う。



お山では必要に応じて小屋を建てるが、板間の一間。 寝るだけの小屋。 その一間の小屋に茣蓙(ござ)を敷いて寝ている。

幼子や風来達が寝る小屋、兄様達が寝る小屋、それぞれが一つの小屋。 二間の板間で主の住む小屋だけが大きく、そこに囲炉裏も台所もある。

寝る以外は皆この主の居る小屋に来て食をとる。

最近では子達が増えた故、もう一つ小屋を建てようかと深堂(しんどう)が木を集めだしている。



「ここを好きに使うといい。 お腹空いてるでしょ? 準備をしてあるから荷を置いたら腹ごしらえ・・・分かった?」 ポカンと部屋を眺めている風来。

「聞いてるの!」

「あ・・・はい」 慌てて荷を部屋の隅にやる。 その後姿に更の声が掛かる。

「癒しの手を教わりに来たんだってね」 思わず振向くと、腕組みをして障子にもたれている更と目が合った。 

さっきの物腰の柔らかさとは打って違った姿。

「何が切っ掛け? おっ父さんか、おっ母さんが病か怪我で亡くなったとか?」

「・・・いえ・・・」 一言返事をし、向き直り荷を解く。 

荷の中から峻柔(しゅんじゅう)が持たせてくれた手土産の茶の葉を出す。

「そっ。 住庵様はお優しいけれど、教えは厳しくあられる。 途中でヘタれるなら食べる物食べて帰ったほうがいいわよ」 更のその言葉に振り返りもせず瞬時に答えた。

「途中で投げ出したりはしませぬ」 懐を握り締める。

懐には山を発つ日、木ノ葉から手渡された手作りのお守りが入っている。 お守りに付いている鈴がチリンと小さな音を鳴らせた。

「ふーん」

「おーい、更、何をしておる。 早く来んと味噌汁が冷めてしまうぞ」 続き間の向こう、囲炉裏のある部屋から住庵の声がする。

「あ、いっけない! 住庵様に用意をさせてしまった。 ほら、早く行くよ」

更との最初の出会いはこんな風に始まった。



お山の修行の様に野山を駆け回るわけではない。 それ故、懸命に取り組む風来の姿を更は見る事が出来る。

「ふーん、見た目はチビでヒョロッコイのに意外と頑張るんだ」 中庭の向こうに見える風来の姿を文机に頬杖をついて見ている。

「顔も・・・どっちかって言ったら女子みたいだし・・・うん、きっと着物を着せて髪をちょっと結ってみたら完全に女子に見えるな」 一度着せてみたいなと、恐ろしい言葉も口にする。


更は離れで寝起きをしている。 その離れからは中庭の向こうの母屋の様子を毎日見る事が出来るのだ。


目に見えるものを手で右から左へ動かすわけではない。 なかなか思うように出来ないようである。 

時が経つにつれ、上手く出来たような表情を見ることが少なくなってきた。 それどころか、頭を垂れる姿を見受ける時が多い。

「あーあ、完全にへこんでる。 でも、どうしてかしら。 昨日の様子じゃ、もう出来なきゃ可笑しいのに」 時には中庭に出て教えを乞うこともあったが、毎日毎日その様子を見ていた。


ある日のこと、いつもの様に頬杖をついて見ていると中庭の向こうの母屋から、住庵が手招きをするではないか。

すぐに立ち上がり、住庵の元にいくと

「墨の用意を」

「はい」 すぐに部屋を出て墨の用意する。 更のその後ろ姿を見送ると、顔を住庵に向け

「墨・・・でございますか?」 今、癒しの手を教えていただいているのに、どうして墨なのか。

「そう。 字を書こうかの」

「え?」 匙を投げられたのだろうか・・・。

用意したものを大きな盆に載せていそいそと更が入ってきた。 盆を住庵の横に置く。

「お? 三人分とな?」

「久しぶりに私も」

「ほほ、そうか。 そう言えばとんとしておらなんだの」

「あの・・・どうして・・・」 風来のその言葉を聞いて盆から硯を一人づつに置きながら更が言う。

「どうして字の練習などするのですか? って、ちゃんと聞きなさい」

「これ、更!」

「あ・・・はい・・・」 また怒られた。 今日までに何度、更に怒られただろうか。

「言いたいことは言いなさいっていってるでしょ!」

「・・・はい」 しょぼんと下を向く。

「字を書くのはよいのぞ。 出来る出来ないという事を考える必要はないのだからのぅ。 その筆先に集中することだけでよいのだからのぅ」 チラと住庵を見る更。

「私は集中などという事はありませぬ。 ただ、気が休めます」 筆を配る。

「人それぞれじゃな。 さて、風来はどう考えるのかのう」

「そんな風に考えて書をかいた事はございませんでした」

「無理に考えろとは言わん。 息抜きと考えるくらいでよい」 風来がコクリと頷き更に問う。

「さ・・・更・・・は、字を書くことで気が休めるのですか?」 まだ、更と呼びにくい。

「墨の匂いが大好き。 筆で一本筋を引くとすごく心が満ちて落ち着く」

「・・・へぇー・・・」 用意された硯で墨をする。 シュッシュ・・・部屋の中は墨をする音だけがする。

(匙を投げられたわけではないのかな・・・)

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みち  ~満ち~  第243回

2015年10月13日 14時32分18秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第243回




山の上から村を見下ろす。

「ここが、住庵様の居られる村」 やっと着いたかとホッと一息つくと、気合を入れ替えザザザと滑るかのように山を駆け下りる。

村の中を歩き、子供に声を掛けると 「あれ」 と言って指差す先には、屋敷とも思えるほどの大きな家がある。 

「これは・・・お山の小屋とは随分と違う・・・あそこに住庵様が・・・」 暫く見入っていたが、目を瞠っていても埒が明かない。
 
指差された方へ歩き出し、屋敷とも思えるそれを囲う為の木の枝沿いにゆっくりと歩いていく。 

そして屋敷とも思えるその前に立つ。 

「ここが住庵様の・・・」 やっと着いた安心からか、ほぅと息を吐く。 途端、

「よく来たの」 聞き覚えのある声、その声に振り返る。

茶色の縞模様の着物を着ている小振りの体格。 そして記憶にある顔。

「こ、これは住庵様!」 振り返った風来の姿に今度は住庵が目を瞠って驚く。

「あの幼かった風来がこんなに立派になって、背も高くなって・・・そうか、そうか、大きくなったのう。 うん、うん」 風来の姿を見て何とも満足げな顔である。

風来が身を正して住庵を見、

「この度は、急な申し出に・・・」 そこまで言うと

「おお、そんな挨拶も出来るようになったのか」 目を瞠って喜ぶが、風来はもう13歳である。 

どうしても幼かった頃の印象が強いようだ。

「だが、よい、よい。 硬い挨拶などよい。 それより疲たであろう? さっ、中へ入ろうぞ」 余程嬉しいのか笑顔が絶えない。

風来が発つと分かってすぐに主が住庵に文を出していた。 住庵は全てを知っている。


木の枝の囲いを入り、屋敷とも思えるその中に入るまでに「一人でよくここまで来た」「恐ろしいことはなかったか?」「誰にも傷をつけられなかったか?」 風来の身を案じ住庵が質問攻めにする。

確かに、物取りが当たり前にある。 物取りだけならまだしも、命までも取られることもある。 

だが、風来は偶然か、何かが動いたのか何の障害にもあわずやって来ることが出来た。 

「そうか、何もなく無事に来たか。 なによりじゃ。 だが、初めての一人旅ゆえ、寂しかったであろう?」 話していても、やはりまだどこか幼い印象は抜けないようだ。

そう聞かれて風来の心の中はただ一つ。

「住庵様のところに来る事だけを考えておりました」 その言葉を聞いて嬉しさが心に広がる住庵。

屋敷の中に入るとすぐに土間があったが、お山の小屋にも土間がある。 だが、お山の小屋とは比べ物にならないほど大きい。

「桶の用意を!」 家に入るやいなや、腹に力の篭った隙のない太くもあり、澄んだような声で誰かに言っているようだが、そんな話は聞いていない。 

住庵は一人で暮らしていると聞いている。 

「はい、ただいま」 中から声が聞こえる。

(女子?) 

「すぐに来るからな。 先に荷を下ろすとよいぞ」 はい、と背負っている荷を下ろす。

土間の横から桶を持って出てきたのは女子であった。 風来より三つほど年上であろうか。 まだ背に伸び悩んでいた風来よりずっと背が高い。

桶には水が張られていた。

「座って足の疲れを落としなさい」 優しい笑顔、ゆっくりとした口調で、汚れを落としなさいとは言わない。

「有難うございます」 草鞋の緒を解き、板間に腰を下ろし桶に足を浸ける。

疲れた足、火照りが引いていくようだ。

用意された手ぬぐいで足を拭くとすぐに手が出てきた。 桶を持ってきた女子の手だ。

チリン

「あ・・・」 懐から落としてしまったのかと下を見たが何もない。

チリンチリン

手を出している女子がもう一方の手で帯の中に鈴を仕舞いこんでいる。 柔らかな仕草。

自分の鈴ではなかったのかと出された手に、柔らかな仕草をする女子の手に、ギクシャクと手ぬぐいを渡す。

なぜか緊張する。 お山には己より大きな女子は居ないからか。 

「風来、分からぬ事があればこの姉様に聞くと良いからな」 すると、その女子が口を開いた。

「住庵様、姉様と呼ばれるのは好きではありませぬ」 少し裾を短く着た涼しげな色の着物。 綺麗な顔立ちに長い髪を後ろで一つに結んでいる。 

「あ・・・の・・・では、なんとお呼びすれば・・・」 

「更(さら)って呼んで」

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みち  ~満ち~  第242回

2015年10月09日 14時25分15秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第242回




~~~~~~~~~~~


(久しぶりだな)

「こんな奥まで簡単には来られないからな」

(ここまで来ぬと我にも少々不都合がある故な)

「いい加減、いったい誰なんだ?」

(くくく・・・)

「気持ちの悪い・・・そろそろ姿を現してもいいんじゃないのか?」 いつもの如く、どこからともなく聞こえてくる声の主を探す。

(どうだ? 指の弾きは楽しかろう?)

「・・・ちっ! どこかで見てたのかよ」

(くくく・・・だが、その程度ではそろそろ飽きてきたのではないか?)

「な? ・・・何を言ってるんだ?」

(もう少し力をやろうか?)

「え?」

(どうだ?)

「・・・とにかく・・・姿を現せよ」

(あの程度では葉や、皮一枚といったところかのう)

「・・・」

(そうか・・・力は・・・要らぬか)

「・・・力を・・・くれるのか?」

(・・・だー・・・く(諾) ) 木の葉がガサガサと大きな音を立てて揺れる。 風が頬をかすめる。 髪が揺れる。

掌を見た。 

コクリと頷く。

(承・・・知) 


空が歪む。


~~~~~~~~~~~



風来が主の元を発ち半年が過ぎた頃

「主様! 主様! 風来兄ちゃまから文が来たー」 小さな子が文を持った手を大きく振り上げ、草履を脱ぎ捨て囲炉裏の傍に座っていた主の膝に走ってやってきた。 

その後を追って木ノ葉(このは)が走って来る。

もう幼い頃の木ノ葉ではない。 静かではあるが、芯のある面倒見の良い姉様となっている。

「主様すみません。 風来兄からだと聞いて歩音(ほのん)が喜んでしまって・・・」

「よい、よい。 兄様からの文じゃ、嬉しいのじゃろう」

「歩音こっちにおいで」 主の膝に手を置き、膝元に座り込んでいる歩音を呼び寄せた。 

後から他の子供達も走ってやってきた。

散った草履を履かせ、他の子供たちの立つ入り口近くまで下がると木ノ葉は自分の前に歩音を立たせ、後ろから肩に手をかけ、二人でその場に立った。 

皆、風来からの文が気になるようである。

「風来からとな。 どれ」 文を読み出した主を皆で見ている。

「主様、主様。 風来兄ちゃまはなんて書いてきてるの?」

「静かに」 木ノ葉が歩音を制した。

暫くじっと読んでいた主が文を畳み

「風来は励んでいるようじゃな」 感慨深く一言いうと、隣に座していた浄紐(じょうちゅう)が

「そうでございますか。 みんな、安心せい。 風来は励んでいるようだぞ」

「風来兄ちゃまはいつ帰ってくるの?」 間髪居れず、歩音が聞くと

「そうじゃな・・・いつとは書いておらんが必ず帰ってくるからいい子にして待っておれと皆のことを気にかけて書いておるぞ」 歩音のほうを見て主が言うと

「ほら、歩音のことよ。 いい子にしてなきゃ、風来兄帰ってきてくれないかもしれないわよ」 その言葉を聞き、顔を後ろに向け木ノ葉を見る。

「歩音いい子にしてるもん」 それを聞いていた周りの子供達が

「嘘付けー。 さっきも木ノ葉姉ちゃまが持ってた風来兄ちゃまの文を取り上げたじゃないかー」

「歩音、いい子だもん!」 言った相手に言葉を返す。

「これこれ、風来は皆の事も心配しておるのだから喧嘩をするのではない」 浄紐がそう言って制し

「木ノ葉、皆を外へ」 絶え間なく続いていた修行、今はその一時である。 疲れているであろう主の身体を気遣って言った。

「はい。 ほら、みんな外に行こう」 小さい子達を連れて外に出た。 それを見届けた主が

「字も上手に書いておる。 住庵殿は達筆じゃから教えてもろうたんじゃろうな。 よくよく大切に可愛がって下さっている様子がこの文から充分、窺い知れる」

「そうでございますか。 住庵様の静。 風来には動より静が合いますからなぁ」

「誠にもってそうじゃなぁ。 ・・・それと、住庵殿の所に女子が居るようじゃが聞いておるか?」

「は? 女子でございますか?」

「うむ。 風来の身の回りの世話をしてくれているようじゃ」

「それは・・・女子とは初めて聞きましたなぁ。 ・・・まず、女子どころか住庵様はお一人でいらっしゃるとしか知りませんでしたし・・・」 考えるが、思いあたるところがない。

「なにやら風来の文によるともう数年、住庵殿のところにいるようじゃ」

「数年でございますか? うーむ・・・風の噂にもございませんでしたな・・・」

「どうも、しっかり者の様じゃな」

「ほほう。 しっかり者であれば風来には丁度良いかもしれませんな。 して、名はなんと?」

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みち  ~満ち~  第241回

2015年10月06日 14時22分49秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第241回




主の言葉を聞いていたのは平太だけではない。 勝流も聞いていた。

「え? あ、それで滑稽な顔を作れと言われたのですかー!」 主がどうやって泣き止ませればいいのか手に余り、こっちへお鉢が回ってきたと思ったのだ。

「こ、これ。 大声を出すでない。 また起きて泣くではないか」

「・・・それなら、私に任せてください」 平太が言う。

「そなた・・・にか?」 幼子の事は朝から気になっていたが故、平太のその言葉は勝流も気になる。 だから平太が何を言い出すのかと耳を澄ます。

「妹がいましたから・・・童女の扱いは慣れております」

「・・・そうは言うてもなぁ・・・いつまでも童女ではないからのう」 なかなか踏ん切りがつかないようだ。

主が思っているのは年頃になったときだ。 女子は年頃になると月のものがやってくる。 その時にどう対処してよいか女子にしか分からないこと。

主の歪める顔を見て勝流が平太に問うた。

「平太、さっきおっ母さんが来ないって言ったよな。 なんでだ?」

「ああ、文に名前とお願いしますと書かれていた」

「そうか・・・捨てられたのか・・・」 足元ですやすやと寝ている童女を見る。

握飯を持たせたと言えど、殆ど誰も通る事のない道。 こんな所に置かれても誰も気付きはしない。 

勝流は我が身と同じかと、いや、少なくとも我が身は人のいる所に捨てられた。 誰かに見つけてもらえるように。 

だからと言って許せぬ母だが・・・。 それに見たこともない童女の父母にさえ恨を覚える。

そして平太は別れた妹を影に見る。

妹は今頃どうしているのか、自分を覚えてくれているだろうか・・・もしや、妹も父母の元にはいないかもしれない。 色んな思いが頭をよぎる。

「主様、お願いします。 そ・・・その、女子が難しいというのは分かりませんが、遊ぶくらいだったら・・・お山に来る前には妹とも、近くに住む童女とも遊んでいましたから」 その言葉に乗って勝流も願い出る。

「主様、お願いします。 もし、他の所に預けて苛められたら・・・また捨てられたら・・・この童女は二度も捨てられる事になります」

平太と勝流に懇願するような目を向けられ溜息をついた。

「ふー・・・仕方あるまいか・・・」



木ノ葉(このは) 四歳。 お山に初めての女子。


平太、勝流とも大層 木ノ葉を可愛がった。

二人に懐く木ノ葉。 おきゃんなお袖と正反対で大人しすぎるくらいだ。 それ故、悲しみを胸に秘めているのではないかと皆が気に留める。


木ノ葉にとっては遊んでくれる兄様が一度に二人も出来た。 いや、他にも木ノ葉から見れば大きな兄様が三人もいる。 

一番大きな兄様は抱っこをしてくれる。 高い所から見下ろす風景はいつもと全然違う。 
二番目の大きな兄様は何でも器用に作ってくれる。 兄様たちが居ない間は、一人で遊べるようにと玩具も作ってくれる。 
三番目の大きな兄様は怪我をすれば薬を塗ってくれる。 とても優しく塗ってくれる。

母のぬくもりは感じられないが、兄様たちの優しさや温もりが心にジンと伝わる。


時折 木ノ葉の口から言葉が漏れるようになった。

元は話せていたようだった。 ただ、あの時、握飯と文を持たされ「ここで待っているんだよ」 と一言残して去っていく母の後姿を無言で見送った。 何かが違う。 幼心に不安が走る。 
そして待てど暮らせど母が迎えに来てくれない。 えも言われぬ不安や寂しさから声が出なくなっていたのだ。


===========



夜になり主と風狼が里から帰ってきた。 

主の気を感じ、外で出迎えたのは浄紐(じょうちゅう)一人だ。 他の者は小さな子達を寝かしつけている。

木ノ葉がやってきた翌年から、主の住むお山の麓に何故か時折 幼子が置いていかれた。


『七つまでは神のうち』 七歳になるまではまだ神のうちにある。 神にお返しするだけ。
ただ、腹を痛めて産んだ子。 どこかで希望は捨てたくなかったのであろうか。 優しいと聞く主に見つけて欲しかったのであろうか。



「お帰りなさいませ」 松明を受け取る。

「うむ」 小屋に入り、囲炉裏の傍に座る。 

風狼は疲れて眠い身体を引きづり、何とか帰ってきた様子で板間に上がり、礼の品を小屋の隅に置くとそのままバタンキューだ。

「如何でございましたか?」 茶をすっと出す。

「うむ。 あの娘・・・邪に取り憑かれておった」 出された茶を手に取り、一口飲む。

「やはりそうでしたか」 風狼をチラと見た。

「気付いておったのか?」 

「勝流が主様をお探ししている間、話を聞いておりましたらそうではないかと・・・それと父御からも少々・・・」 

「そうか、やはりそなたはそちらの道に敏感なようじゃな」

「いえ、とんでもございませぬ」 そう答えると、小屋の隅に置かれたあった布団を風狼に掛けてやる。

「そうじゃ、バタバタしておってそなたにまだ話しておらんかったな」

「何でございましょうか?」 主の斜め前に座った。

「朝、風来と話したんじゃが、風来を住庵殿のところに預けようと思うてな」

「それはようございます。 風来も行きたがりましたでしょう」

「ははは。 そうなんじゃが、風狼が寂しがってのう」

「え?」 一瞬驚いた顔をして

「くくく・・・」 笑いを押し殺すようにして大口を開けて寝ている風狼を見た。 そして息を整えてから言葉を続けた。

「あれだけ一日中一緒なのですから・・・それにしても風来では無くて風狼の方が寂しがるとは、くくく・・・風来がよく成長しましたな」

「まったくもってそうじゃ。 来た時はずっと風狼の袖を掴んでおったのになぁ」

「早いものでございますな。 それで、発つのはいつでございますか?」

「うぬ。 風来は明日にでも行きたいようじゃが、それでは子達が可哀想であろう?」

「みな、風来に懐いておりますからあまりに急では寂しがるでしょう」

「それに初めての一人旅ゆえ、そなた、色々と揃えてやってくれるか?」

「はい。 承知いたしました」



三日後、握り飯と浄紐が用意をした網袋を肩から掛け、風来がお山を後にした。

風来の後姿に背を向けていた風狼の目には大粒の涙が次から次へこぼれた。 その陰で一人寂しげな顔がある。

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みち  ~満ち~  第240回

2015年10月02日 14時56分27秒 | 小説
『みち』 目次



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『みち』 ~満ち~  第240回




「勝流のヤツなにやってんだ・・・」 待たされている平太が文句を垂れる。

「まだ急がんでもよいからのう・・・とは言え・・・見に行ってみるかの」 勝流が走っていった方にゆっくりと主が歩き出す。

勝流が見えなくなったところに行くと

「ほぅ、こんな脇道があったのか」 脇道は坂になっている。

坂を上って行くと勝流が見えたが、主の後をついて歩いていた平太が思わず主の前に出て目をこすってよく見る。

こすってみても、何やら勝流が膝をついて木に話しかけている姿が少し遠めに見える。 

「わわ・・・主様、勝流めが阿呆になった。 団子を食べ過ぎたんでしょうか!」 砂糖が身体に良くないと主が言っていたのを思いだした。

「そんな事はあるまい。 木の陰に誰かおるの」 坂の上り口で不自然に握飯が置いてあるのを見た。 

もう食べられる状態ではなかったが。

「え? そうなんですか?」 そう言う平太を抜いて主が歩き出した。

足音に気付いた勝流が振り返る。

「あ、主様・・・」

「どうした?」

「この幼子が・・・」 胸元で袖を握り締めている小さな姿があった。 

急に人が増え不安でいっぱいの顔をしている。

「童女か・・・」 眉間を寄せた主の顔を見て怖くなったのか口元がヒクヒクと動く。

そしてどうしていいか分からなくなったのか、涙をポロポロと流して泣く。 

口を一文字に結んで泣く。 

たとえ一文字に結んでいても泣く声が漏れ出る。 

漏れ出る筈の泣き声。

「お・・・お前・・・もしかして声が出ないのか?」 勝流のその声に主の後ろからヒョイと平太が覗き込む。

「平太、今来た道の坂を下がったくらいに握飯がある。 その辺りに文があるやしれぬ。 見てこい」

「はい」 すぐに駆け出し坂を下りキョロキョロと握飯を探す。

「泣かずともよいぞ。 耳は聞こえるな」 勝流が場所を譲る。 

声なく涙をポロポロと流す童女。

「怖がらずとも良いぞ」 膝を落とす。 

コツンと小石に膝が当たった。

「おや、これはそなたが積んだのか? 上手に積めておるなぁ」 「泣かずともよいのぞ」 「そんなに袖を握り締めては袖が痛いと泣くぞ」 何を言っても泣き止む様子がない。 

困り果てた主。

「そうじゃ、この兄じゃは滑稽な顔を作るのが得意なのじゃ。 見てみるか?」 え? という顔をしたのは勝流だ。

「ほれ、勝流、見せてやらんか」 言われて思わず指で鼻を上に向ける、頬を引っ張る、舌を出して目だけ上を向く。 

一文字にきつく結んだ口元が少し緩んだ。

後ろから平太が走ってきた足音がする。

「そのまま続けておれ」 立ち上がり走ってきた平太を見ると、紙を手に持っている。 

すぐに紙を受け取ると拙い字で 

『このは といいます おねがいします おねがいします』 と書かれていた。

漢字が入っていないので平太にも読めた。

「主様・・・もしかして・・・」

「うむ、そのようじゃな」

「どうするのですか?」

「・・・女子はなぁ・・・」 困ったように拳を額に当てる。

「ぬ・・・主様・・・いつまでしていれば良いのですか・・・」 勝流が頬を引っ張りすぎたのか赤くなった頬で主に助けを求める。 

そしてすぐに耳を引っ張り頬をすぼめ、口を尖らす。

童女の緊張が随分と解けているようだ。

「あと少し」 口に指を突っ込んで左右に引っ張りながら「あい」 と返事をする。

「里の誰かといっても・・・皆、無理じゃな。 今から町に出るのも遅うなる・・・うーむ、どうしたものか・・・」 平太がじっと童女を見る。

「一晩だけでも里の誰かに頼み・・・後の事はそれから考えようかのう・・・」 童女に目をやる。 

童女の前ではまだ百面相をしている勝流がいる。

その勝流の目からジワリと涙がこぼれている。

顔を引っ張りすぎて痛いようだ。

「勝流、もうよいぞ」 その声に顔を引っ張っていた手が止まり掌で顔を覆い、ころげ回る。

「いったーいっ!」 その様子が一番面白かったようで、童女の口元から笑みがこぼれる。

「加減というものがあるじゃろう」 呆れた様に言いながら、童女の前に膝を落とす。

「どうじゃ、面白かったか?」 コクリと頷く。

「握飯を食べんかったんか?」 下を向いて小さく頷く。

「腹が減っておるじゃろう?」 首を横に振る。

「・・・いつからここに居ったのか・・・」 それを聞いた勝流がやっと転げまわるのを止め、まだ掌で顔を覆いながら

「朝、ここを通った時にはもう居りました」

「見たのか?」 

「はい」 胡坐をかいて座り込み、頬をさする。

「朝からずっと一人で居ったのか?」 再び向けられた視線に童女は頷く。

「そうか・・・」 少し考え

「暗くなっては危ないからの、どこかに泊めてもらおうか?」 童女は首を振る。

主の後ろからずっと様子を見ていた平太。

「おっ母さんは来んぞ!」 急に大きな声で言った。

「こ、これ、何という事を言うのじゃ。 せっかく泣き止んだというに!」 また泣きそうな顔をしたが今度は少し違う。

勝流の横にくっついて泣くのを我慢している。

「勝流が気に入ったか・・・では、この兄じゃと一緒にどこかに泊めてもらおうかのう?」 主の言葉に思わず勝流が言う。

「え? そんなのイヤです。 お山に帰ります」 その言葉を聞いて童女がちらりと勝流を見た。

「主様、お山には連れて帰らないのですか? 童女は駄目なのですか?」 平太から見れば同じような事で勝流を連れ帰ったはず。 何故、童女は連れ帰らないのか・・・それに連れ帰りたい。

「うーむ・・・」 腕組みをして考え込む。

「・・・あの・・・主様・・・」 考え込む主に勝流が助けを求めるように呼んだ。

見てみると、胡坐をかいた勝流の膝を枕に童女が寝ている。

「朝から一人で・・・疲れたのじゃなぁ・・・」

「主様、泊まる所を探しているより、お山に連れ帰った方が・・・」 平太が言う。

「じゃがなぁ・・・」 いつもの主とは違って切れの悪い言葉が続く。

「何故に童女は駄目なのでしょうか?」 もう一度、平太が聞く。

「・・・幼子とはいえ・・・女子。 ・・・女子は難しいであろう?」

「は?」 平太にとって主とは思えない、思いもしない言葉であった。

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