大福 りす の 隠れ家

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僕と僕の母様 第30回

2011年03月01日 14時09分16秒 | 小説
僕と僕の母様 第30回



その日は掃除当番で少し遅くなってしまったが いつもの如く音楽室に入っていった。

もう見慣れた光景だ。 グランドピアノの上に おやつがズラッと並んでいる。 誰かれなくおやつを買ってきては みんなでそれを食べながら喋っているのだ。

だから集中して練習したい者は 渡り廊下なんかに出て行って練習するのだが めったに見ないことだ。 

ちょっと吹いてはおやつをつまんで、と 言い方を変えれば和気藹々という感じだ。

そんな雰囲気になかなか慣れなくて 渡り廊下でずっとサックスを吹いていたのだが その日は部室に入り机に鞄を置くと 三年フルート先輩が

「陵也君も一緒に食べようよ」 と、声をかけてくれた。 

「あ、いいです」 そう言って 部室の端においてある ケースに入ったサックスを取りに行ったのだが 何度か声をかけてくれたので あまり断ってばかりしててもなあ、と思いながら 持ってきたサックスケースを机において 椅子に座った。

すると三年フルート先輩が「チョコ食べない?」 と、僕の横に座って アーモンドチョコの箱を差し出した。

僕は母様の影響でチョコが大好きだ。 だからと言って そのチョコに釣られたわけではないが「あ、ありがとうございます」 と言って その箱から一つ取って口に入れた。

しかしよく考えると 口の中がチョコだらけになる。 ということは 何かを飲むか口を洗いに行かなければ 僕の大切なサックス君が チョコ風味になってしまいそうで どうしようと思い悩んでしまった。

この席を立って口を洗いに行けば せっかく持ってきてくれた先輩に 悪いような気がするし、何かを飲むにも その日家から持ってきたペットボトルのお茶も もう全部飲んでしまっている。

それに このシーンとした先輩と僕の間の空間を どう埋めればいいんだろう。 汗が出てきそうだ。

そんな事をいっぱい考えていると 先輩が話しかけてくれた。

「陵也君って髪の毛長いよね 伸ばしてるの?」

母様が長いのが好きで その辺の女の子と そう変わらない長さなのだ。 

「そういう訳ではないけど」 そう言うか、言い終わらないかのタイミングで 先輩が急に僕の後ろに立って「ミツ編みしていい?」 と髪を触りだした。

それを見ていたほかの先輩たちも「私、今日カワイイゴム持ってきてるから これでくくろう」 とか「こっちは私にやらせて」 とかみんなが集まってきだした。

確かに長めではあるけども 十分にミツ編みが出来るほどは長くないから すぐに出来上がってしまった。

そうすると今度はそれをほどいて 頭の上でくくりだしたりと 完全に女の子の先輩たちの退屈しのぎになってしまった。

その日をきっかけに 僕は女の子先輩たちのヘアーモデルになってしまった。 早い話しが遊び道具なのだが・・・。 

知らない間に同級生フルートも交じっていた。 でもそれがきっかけで 部活の日は 先輩たちと一緒に帰ったりするようになった。

始めのうちは 何を話せばいいのか分からず 早くバラバラにならないかなあ とかって考えたりして 一人になる時間がくるのを待ち望んでたりしたし 話題に困ったりもしていたが よく考えると楽器の話をすればいいんだ ということに気づき 時々僕から色んな質問なんかもするようになって 少しずつ慣れていった。

そうやって部活の帰りには 皆で帰るということを 繰り返していくうちに 駅から乗る電車が 僕とは反対方向に向かって帰る三年フルート先輩とは ずっと改札を入ったところで喋ったりと 僕もなかなかのものになっていった。



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