西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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「ハイブリッド・リーディング―紙と電子の融合がもたらす〈新しい文字学〉の地平」

2017年02月21日 | 新刊書(国内)

日本記号学会編『ハイブリッド・リーディングー―新しい読書と文字学』新曜社 2016

読むこと、書くこと、そして書物の未来に向けて
かつてあらゆる書物が消滅し、電子情報に置き換えられる、と危惧された時期もありましたが、SF的空想にすぎないことも明らかになってきています。ただ、「メディアはメッセージ」だとすれば、デジタルメディアの進展とともに、「読書」という行為も以前の「サラブレッド」な読書とは変わってこざるをえないでしょう。スティグレールなどの「デジタル・スタディーズ」をも援用しつつ、「読むこと」がもともと持つハイブリッド(混淆)性を解き明かしていきます。さらに、1970年代からずっと書物のかたちをラディカルに問い、ブックデザイン界をリードしてきた杉浦康平氏に、書物と文字についての考えと実践活動をお訊きします。新時代のハイブリッドな「読書」から、新しい図書館計画、文字学などまで、「よむ/かく」をめぐる冒険的思索満載の特集です。 

目次
刊行によせて 吉岡 洋

はじめに ハイブリッド・リーディング 阿部卓也

Ⅰ部 [実践編]ブックデザインをめぐって
一即二即多即一──東洋的ブックデザインを考える 杉浦康平
対談 メディア論的「必然」としての杉浦デザイン 杉浦康平×石田英敬(阿部卓也)
杉浦康平デザインの時代と技術 阿部卓也

Ⅱ部 [理論編]ハイブリッド・リーディングとデジタル・スタディーズ
新『人間知性新論』 〈本〉の記号論とは何か(抜粋) 石田英敬
器官学、薬方学、デジタル・スタディーズ ベルナール・スティグレール
極東における間メディア性の考古学試論
  ──人類学・記号論・認識論のいくつかの基本原理 キム・ソンド
「かくこと」をめぐって──記号・メディア・技術 西 兼志

Ⅲ部 [実験編]これからの「リーディング」をデザインする
デジタルアーカイブ時代の大学における「読書」の可能性
  ──東京大学新図書館計画における実験と実践
                 阿部卓也・谷島貫太・生貝直人・野網摩利子
もう一つのハイブリッド・リーディング
  ──ワークショップ「書かれぬものをも読む」をめぐって 水島久光

Ⅳ部 記号論の諸相
スーパーモダニティの修辞としての矢印
  ──そのパフォーマティヴィティはどこから来るのか? 伊藤未明
日本という言語空間における無意識のディスクール
  ──折口信夫の言語伝承論を手がかりに 岡安裕介
「意味」を獲得する方法としてのアブダクション──予期と驚きの視点から 佐古仁志
自己表象としての筆致──書くことと書かれたものへのフェティシズム 大久保美紀

資料 日本記号学会第三四回大会について
執筆者紹介
日本記号学会設立趣意書

装幀―阿部卓也
(シリーズ装幀原案 岡澤理奈)

<ハイブリッド・リーディング はじめに>より
あらゆるテクノロジーは、人間の能力を広げてくれる人工器官であると同時に、人間を縮こまらせるものでもある。
メモ帳が、人間の記憶力を増大させると同時に、脳だけで記憶する力を弱らせるかもしれないように、技術はつねに原理的に薬にも毒にもなるものである(スティグレールの言う「薬方学」の問題)。だからこそ、人類の活動の基盤がデジタルという新しい記号技術へと移行しつつある今、私たちは、それが人間の記憶、知、意味生活、社会を破壊するような方向にではなく、豊かに伸ばしていくような形で使われる可能性を模索しなくてはならない。そのために、記号技術をブリコラージュし、使い方を提案し、社会における意味を作り出していくような実践活動こそが、語義本来の意味でのデザインである。

スマートフォンが急速に普及し、一四年末の総務省調査では世帯保有率六五パーセント(二〇代では九五パーセント)に迫るいっぽう、ディープラーニングに基づく第三世代のAIが商用利用の段階に入り、ビッグデータの活用と結合することで、機械の「よみ」は人々の日常生活をすでに基底で支えつつある。同時にヘッドマウント型VRシステムやウェアラブル・デバイス、ARコンテンツやプロジェクション・マッピングなどの技術的ブレイクスルーや低廉化にともなって、今やわれわれの視界は丸ごと情報紙面で覆い尽され、現実世界のあらゆる間隙が本の頁となるような世界の完成が間近に迫っている。「ハイブリッド・リーディング」は、ますますアクチュアリティを増し、より切迫した未解決の「記号論的問い」として、われわれの眼前に立ちはだかっているのである。


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