西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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書評:『200年目のジョルジュ・サンド』

2012年09月21日 | サンド研究




日仏女性研究学会(仏女性資料センター)が、五月に出版した共著『200年目のジョルジュ・サンド』の書評を学会の定期ジャーナルに掲載してくださいましたので、御厚情に感謝しつつ、以下に紹介させて頂きます。

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日本ジョルジュ・サンド学会編『200年目のジョルジュ・サンド』(新評論、2012年5月)

 日本ジョルジュ・サンド学会はフランス文学に関わる研究会や学会のなかでも極めて活発な活動を繰り広げ、2000年の会の発足以来、次々に興味深いプロジェクトを実現してきた。本書の出版はそれらの活動の成果の一つで、12名の研究者たちがそれぞれ趣向をこらしたアプローチを展開している。2012年は奇しくもサンド初邦訳100周年にあたるが、これを機に様々な角度からの「サンド像」を模索し、それを鮮やかに浮かび上がらせた。壮大な企画の成功にまず拍手を送りたい。

 本書の成功はもちろん関係者一人一人の苦労の賜物なのであるが、その真摯な取り組みと工夫のあとが随所に見て取れる。
まずなにより、本書の構成の妙が挙げられよう。第一のセクションは、それを支える「ジェンダー」、「芸術」、「自然」といったキーワードを軸に、サンドの作品解釈に新しい視座を提供することを旨とする。サンドの描く「男と女」は、固定化されたジェンダー規範からの脱却の企てに満ちていること。また、音楽のみならず絵画にも造詣の深いサンドは、多くの芸術家たちとの交流の経験から「芸術全般」との関わりを深めていったこと。さらに、愛読のルソーをとおして「田園の人々」にルソー的な自然人の理想像を見出そうとしたこと。このように、第一のセクションでは、三方向からの視座が、サンドの作品の丹念な読みを経て具体的に示されていくのである。サンドの小説が巧みに読み解かれていくさまを目にするのはことのほか楽しく、実際、読者は数多いサンドの作品を横断しつつ、広くサンドの世界を俯瞰できるというわけだ。

 続く第二のセクションは、日本を中心としたいわゆるサンド作品の受容史である。1912年に日本で初めて翻訳書が出版されたことを出発点に、その後の日本におけるサンドの翻訳と研究の歴史と現状の概観を旨とする。
第二のセクションは資料集としてまず貴重であるけれども、それにとどまらず、日本での知名度や評価、イメージの現実を探ろうとしている点、さらに日本の文学研究者たちのサンドをめぐる関心のありようを探ろうとする点などが興味深い。その過程でサンドが持つ多面性や、伝記上のエピソードの特殊性が再度、浮かび上がってくるのもおもしろい。実際、第一のセクションと第二のセクションは決して別個のものではなく、互いに呼応し合い響き合っていつしか有機的に結び付いていくあたり、実に魅力的な構成となっているのである。

 本書はこれで終わらない。巻頭にはジョルジュ・サンド略史や用語の解説があり、巻末には作品解説や年譜などが付されている。いずれも、至れり尽くせりの細やかさで、編集責任者や執筆担当者の気配りと研究の姿勢がうかがわれる。

 隅々までサンドの情報にあふれた本書は、おそらく今後のサンド研究の進展に大いに貢献するであろうし、本書を実現した日本ジョルジュ・サンド学会は、異なる研究者同士が集い、異なる関心をぶつけ合う有意義な「場」として、今後ますます飛躍するであろうと思われる。そう願わずにはおれない。
                                                 (吉川佳英子)
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