西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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サンドの名前について

2011年06月28日 | サンド研究
<「ジョルジュ・サンド」というペンネーム>
 「ジョルジュ・サンド」とは、筆名であり作家が公の場で使用した職業上の名前である。「スタンダール」(『恋愛論』『赤と黒』など)や『人間喜劇』の作者「バルザック」など、サンドと同時代の男性作家たちが自らにつけた筆名と同様、ひとりの作家のペンネームなのである。この筆名は当時の恋人ジュール・サンドーの名前から取られたもので、サンドをベストセラー作家にした処女作『アンディヤナ』に始まり、その後四十年近くにおよぶ作家生活でサンドが創作し続けた作品に署名された。

<サンドの私的な名前>
 他方、サンドの私的な名前には含蓄がある。
 サンドの旧姓名はオロール・デュドゥヴァンであり、結婚後はオロール・デュパンである。サンドはショパンに自分のことを「オロール」としか呼ばせなかったが、それはこの名前に特別な意味がこめられていたからでもあった。

 サンドの父方の四代前の祖先に当たるポーランド王フリードリヒ=アウグスト一世(ザクセン選帝候、後のポーランド国王アウグスト二世)の夫人アウローラ・ド・ケーニヒスマルクAurore de Koenigsmarkの発案によるものなのだが、彼女は自分の直系家族に誕生した女の子には自分と同じアウローラ(フランス語ではオロール)と名付けることに決めたのだ。

 サンドの祖先は、女系子孫の名の存続を画策したというわけである。

 サンドは、家族の歴史のなかで代々継承されてきたこの「オロール」という貴い名前をショパンに呼ばせたことになる。

 ちなみに、サンドの長男「モーリス」は、サンドの父親とその曾祖父の名前でもある。家系の存続を人類の進歩に結びつけ重視するサンドの思想は、『コンシュエロ』とその続編『ルードルシュタット伯爵夫人』の男性主人公アルベルトの思想にも反映されているが、その思想の源にはサンドの祖先の名前にまつわる「習わし」あるいは「意図」があったと考えうるだろう。
コメント (2)
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