西尾治子 のブログ Blog Haruko Nishio:ジョルジュ・サンド George Sand

日本G・サンド研究会・仏文学/女性文学/ジェンダー研究
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ロマン主義時代の作家たちースタンダールと結晶作用

2011年06月14日 | 十九世紀の文学
スタンダール(1783~1842)
フランスの小説家。本名はマリー・アンリ・ベール。冷徹な心理分析と同時代の現実のリアルな描写によって、バルザックとともに近代写実主義小説の先駆とされる。

スタンダールには『赤と黒』という不朽の名作がありますが、『恋愛論』という恋愛心理を分析した作品も書いています。

スタンダールは恋愛を次のような型に分類しています。
「情熱的恋愛」「趣味的恋愛」「肉体的恋愛」「虚栄恋愛」。

恋愛は次のような経緯を経るが、その恋の過程で有名なスタンダールの「結晶作用」が起こります。

1.感嘆
2.自問
3.希望
4.恋の誕生
5.第一の結晶作用
6.疑惑
7.第二の結晶作用

スタンダールによれば、第一の「結晶作用」とは、いわゆる「あばたもえくぼ」の状態を指します。

《ザルツブルクの塩坑では、冬、葉を落とした木の枝を廃坑の奥深く投げこむ。ニ、三ヵ月して取りだして見ると、それは輝かしい結晶でおおわれている。山雀の足ほどもないいちばん細い枝すら、まばゆく揺れてきらめく無数のダイヤモンドで飾られている。もとの小枝はもう認められない。/私が結晶作用と呼ぶのは、我々の出会うあらゆることを機縁に、愛する対象が新しい美点を持っていることを発見する精神の作用である》(「第二章」14頁)

第二の結晶作用とは、疑いと確信の相互作用により、より愛が高められていくというものです。

《疑惑の発生に続く夜、おそろしい不幸のひとときの後、恋する男は十五分ごとにつぶやく。「そうだ、彼女はやっぱり私を愛している」。結晶作用は転じて新しい魅力を発見しはじめる。と、またものすごい眼をした疑惑が彼の心をとらえ、急に彼を立ちどまらせる。息が詰りそうだ。彼はつぶやく。「しかし彼女は本当に私を愛しているだろうか」。こうした心を引き裂く、しかし快い交互作用の中で、哀れな恋人ははっきりと感じる。「彼女が私に与える快楽は、彼女のほか誰も与えてくれはしない」/この真理の疑う余地のないこと、片手は完全な幸福に触れながらたどるこの恐ろしい絶壁の路、これこそ第二の結晶作用を第一の結晶作用よりはるかに重大なものとするゆえんである。》(「第二章」16-7頁)

スタンダールはまた、恋人を次から次へと替えるプレイボーイには、この高貴な恋愛の結晶作用を経験することはできず、一途に一人の女性を愛し続ける男性こそが真実の恋をするのだとも言っています。

                『恋愛論』(新潮文庫、1970年)より


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