教科書執筆者たちが今の自分たちの体制派と反体制派を対立させる政治感情をそのまま歴史に反映させているだけである。それで歴史を描いたつもりになっていることはじつに困ったことである。明治時代はもっと複雑で、混沌としていた。否、明治時代に限らない、歴史はすべてこんな単純な図式を当てはめて分かるものではない。 . . . 本文を読む
シナ大陸の王朝が、とりもなおさず「中国」であり、その周辺の国は当然、その文明に従属すべきという発想なのである。宗主国に従属するのが「名分」なのだから、「日本が古来、名分を知らざる国であった」と批判されたのは、「日本は古来、精神的に独立意識を持っていた国だ」ということに等しい。何たる名誉なことであろうか。 . . . 本文を読む
『万葉集』は今日も一般人によって、翻訳なしに読まれている。中学生ぐらいでも『万葉集』に感激する。この場合も訳したものではない。『源氏物語』などはかえってむずかしいのに、和歌となると急に解(わか)りよくなるのは、やはり和歌が日本人にとって特別なものであるからであろう。いや、読むだけでなく、家庭の主婦などでも万葉調の歌などを作る人も少なくない。 . . . 本文を読む
いちばん売れ筋の本を堆(うずたか)く平積みしている箇所(コーナー)へ行って、どの本にいちばん力を入れてどっさり積みあげてあるか、その置き場所と仕入れ量を観察すればよい。そして現在もっとも盛大に売れているらしい本を敬遠する。一挙に大量に流行(ベストセラー)街道を直走(ひたばし)りする本には率直に言って紛(まが)い物が多いのである。 . . . 本文を読む
多少とも各人が規制し、コントロールしているさまざまな細かいできごとの積み重ねによって、人格は形づくられていく。よきにつけ悪しきにつけ、人格の色合いに左右されずに日々を過ごすことはできない。糸のように細い髪の毛でも必ず影をつくるように、どんなつまらないことでも、行動は必然的に結果を生じる。 . . . 本文を読む
レッテルに合わせて生きなければならなくなったとき、その人自身は存在しなくなるのだ。自分で自分にレッテルを貼る場合についても同じことが言える。これからの可能性よりも、自分のトレードマークのほうに気をとられていると、自分自身を否定することになりかねない。 . . . 本文を読む
今、自分も同じ大学の教壇に立ち、私にこの本を与えてくださった時の神藤先生とちょうど同じ立場になって振り返ってみると、もし人生について真面目に考えている人がいて、私に生き方、勉強の仕方に対する忠告を求めてきたとするならば、やはりトッドは、ぜひすすめたい大事な本の1冊になると思う。 . . . 本文を読む
“押しが強く厚かましい人間は成功するが、才能はあっても内気な人間はふりむきもされない”という説もよく耳にする。だが、これも当たり前の話だ。押しの強い人間には、機敏に行動できるという貴重な資質が備わっている。これがなければ、いかにすぐれた長所を身につけていても宝の持ちぐされにすぎない。往々にして、吠える犬のほうが眠っているライオンよりは役に立つ場合が多いものなのだ。 . . . 本文を読む
めくらさんは目が見えないのに、なかなかケガをしない。むしろ目の見える人のほうが、石につまずいたり、ものに突き当たったりしてよくケガをする。なまじっか目が見えるがために、油断をする。乱暴になるのである。 . . . 本文を読む
世の多くの人々は、理性だけを標準として、ああでもねえ、こうでもねえと考えて、心のもつれの一切を解決しようとする。また、そういう力を理性がもっているがために、人生の一切はこの理性に任せて生きることが、また生きてこそ一番安全だというふうに思い違いをしているんです。 . . . 本文を読む
芝居には傍役(わきやく)というものがある。傍役はいうまでもなく、主役のそばにいて主役のためにいる役である。その勤めは主役と共に芝居の運行をつくっていくのだが、また主役を補佐したり、主役をひきたてるためにもある。 . . . 本文を読む
1949年に、父は戦争から戻ってきた。家族との再会の喜びもつかのま、帰郷した父は悲しみに襲われた。父の母親が腎臓の病に倒れ、入院したのだ。医者からは、緊急に輸血をしないと今夜にも命が危ないと言い渡される。問題は、祖母の血液型が今日でも入手困難なABマイナス型だったことだ。 . . . 本文を読む
学生時代、故郷サンクトペテルブルクの映画館で黒澤明の監督デビュー作「姿三四郎」を何度も見た。大きくない体でも相手を投げ飛ばす三四郎と、体重70㌔で背負い投げが得意な自分とが重なった。
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まもなく、同行した一人からメールが飛び込んできた。「100年史をめくっていたら、郵船創立時14人の主要株主名簿の中に、『草刈隆一』なる名前を見つけた。まさか親戚(しんせき)じゃあないと思うけれど一応参考までに」とある。親戚も何も、この人、正真正銘の母方曽祖父なのだ。 . . . 本文を読む
古代の中国に屈原(くつげん)という人がいた。彼は乱世のなかで国と民を憂(うれ)い、さまざまに力を尽くしたが、それをこころよく思わぬ連中に讒訴(ざんそ)されて国を追放された。屈原のすぐれた手腕と、一徹な正義感、そしてあまりにも清廉潔白(せいれんけっぱく)に身を持(じ)そうとする生きたかが、周囲の反撥(はんぱつ)を買ったものと思われる。
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