現地人の給与は日当で約1㌦。日本では缶ジュース代程度ですが、彼らには十分すぎる額です。ある日、使い道を尋ねると、子供の学費とわずかな洋服を買ったら残りは寺に寄付するというのです。田畑も家畜もあるので食料には困りません。彼らにとってのぜいたくは、より多くを仏にささげ、涅槃(ねはん)の境地を目指すこと。お金の量が幸せの量ではないのだと、気づかされました。 . . . 本文を読む
子どもたちが、森をぬけて明るい場所にあゆみでようとする瞬間、ユージンは痛みをこらえてシャッターを切りました。「いい写真が撮れた」ユージンは、十分な手ごたえを感じました。ユージンが大好きなオペラの曲のタイトルをとって、この写真は「楽園へのあゆみ」と題されました。 . . . 本文を読む
その奥さんは誰からも好かれていただけに、通夜にはたくさんの人たちが詰めかけた。読経がすんで、親族が奥さんを棺に入れることになった。ところが、足がもう堅くなっていて動かないものだから、棺にうまく納まらないんだ。そのとき若い男がひとり、さっ、と立って遺体のそばへ行った。あ、ライバル社のMだ、とおれは気づいた。Mのやつ、なにをしたと思うかね。 . . . 本文を読む
結婚してこの方、妻を「おい」とか「お前」とか呼んでいましたが、この頃これが何となく言いにくくなって「あんた」に変えましたが、どうも照れくさいので「あんさん」にしました。「あんさん、われわれ金婚らしいが、記念に、どこぞ温泉にでも行きなはるか?」 . . . 本文を読む
1949年に、父は戦争から戻ってきた。家族との再会の喜びもつかのま、帰郷した父は悲しみに襲われた。父の母親が腎臓の病に倒れ、入院したのだ。医者からは、緊急に輸血をしないと今夜にも命が危ないと言い渡される。問題は、祖母の血液型が今日でも入手困難なABマイナス型だったことだ。 . . . 本文を読む
夫のダンは、あまり人が立ち入らないラグーナ・キャニヨンに登っていった。十数キロ入ったところで写真を何枚か撮り、トラックのところまで戻ろうとしたのだが、濡れた地面で足を滑らせた。木々にぶつかりながら、急な斜面を10メートルあまり落ち、ようやく岩だなで止まったが、すぐに左脚の異常を感じた。右脚に「あり得べからざる角度」で交差していたからだ。 . . . 本文を読む
昔、ネコとイヌとネズミと赤いメンドリが居心地の良い小さな家に住んでいました。ネコはふわふわのソファでごろごろ。イヌは日当たりの良いポーチで、ネズミは暖炉のそばのイスで寝てばかりいます。 . . . 本文を読む
「すいません!」4月6日、大川小学校近くの追波川河川運動公園に設けられた宿営地内を歩いていた第14戦車中隊(現・第15即応機動連隊の機動戦闘車隊)の石井宣広3等陸曹は、突如、背後から可愛い声に呼び止められた。その声の主は小さな少女だった。ワンピースを着た少女は、振り向いた石井3曹にこう言った。「これ、読んでださい……」そして、石井3曹に封筒を手渡した少女は、名前も告げずに走り去っていった。少女は、母親と思しき女性の運転する車でやって来て、偶然近くを歩いていた石井3曹に手紙を渡したのである。 . . . 本文を読む
「ひのなづけが食べたい……」と、突然母が言った。緋の菜漬は母がよく食膳にのせていた独特の辛みと香りがする京漬物である。食べ物は一切禁止されている母に酷かとも思ったがせめて香りだけでもと、京都から緋の菜の糖漬けを取り寄せ、母へ持っていった。 . . . 本文を読む
ある日、私は父以外の家族と花火大会に行きました。そこで、会場に酔っ払った不審者がいる、と沢山の警備員が集まっているのを見ました。少し気になって、怖がりながらも近付いてみると、大勢の警備員の中心で、力強い声で指示を伝える警察官が見えました。私は声をあげて驚きました。父でした。いつもの様な優しい顔ではなく、真剣で、真っすぐで、厳しい顔をした父がいました。 . . . 本文を読む
その年の冬、暮らしはさらに苦しくなった。ある日、母にミシン会社から督促状が届いた。月ぎめのミシン代金が期日までに支払われない場合は、翌日ミシンを回収するというのだ。母はその手紙を読んでも、取り乱したりしなかった。でも、幼かった私はおびえた。全員で飢え死にするのかと悲しくて、泣きながら眠ってしまったのを覚えている。 . . . 本文を読む
私は主人と義父の喧嘩を見るまで、家族の喧嘩というものを知りませんでした。チベットでは家族の喧嘩が一番の恥とされているのです。その時、私は主人に「喧嘩の理由はともかく、あなたが悪い」と言いました。
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あの時の母親の気持ちを考えてみたら、たぶんズタズタだったと思います。それでも「男なら一度決めたことは最後までやり通しなさい」と言いながら自転車の後ろに乗せて連れて行ってくれた。 . . . 本文を読む
表表紙、裏表紙それぞれをめくったところには、庭仕事をするリディアとおばあさんが描かれています。その穏やかで安定感に満ちた姿は、人間的な強さを感じさせます。大地に種をまき、大事に、丹念に育てているのは、きっと植物だけではないのでしょう。人そのものも育っているのにちがいありません。 . . . 本文を読む








