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「深海の使者」吉村昭

2020年08月08日 | ブックレビュー
 

 私は不勉強だったので、太平洋戦争中に日本の潜水艦がドイツまで行ってたなんて知りませんでした。文庫のカバーにあった「太平洋戦争が勃発して間もない昭和17年4月22日未明、一隻の大型潜水艦がひそかにマレー半島のペナンを出港した。3万キロも彼方のドイツをめざして…。」という紹介文に関心を持ったわけですが、アフリカ大陸の南側を回って行くわけですから、片道に2ヶ月くらいはかかることと、途中で敵艦に発見されて攻撃されてしまう危険も大きく、この本は読んでて驚きの連続であったとともに、あまりにも犠牲者が多く結構辛いものがありました。

 ドイツ側では生ゴムや錫、モリブデン、ボーキサイト等が欲しくて、日本側もドイツの最新のレーダーなど軍事技術情報が欲しいという利害関係が一致し、これが計画されたとか。何回チャレンジしてそのうち成功したのはどれだけだったかというのは、「遣独潜水艦作戦」としてWikipediaに項目もありますから、関心のある人はそちらをご覧いただければわかりやすく記載されています。

 危険なのは敵の攻撃だけじゃなく、喜望峰の沖では海が荒れる大変な難所があるそうで、「潜水艦だから深海に潜れば荒波は関係ないんじゃないの?」と思ったりしてたのですが、そんなことはありません。(当たり前)

 それこそ命がけの作戦ですが、本当に命を落とした人も多かったわけで。明確に相手側の記録により撃沈が確認されたのもあれば、未だにどこで攻撃されたか、単に遭難して沈没したのかもわからないケースもあり。

 この本は、当時の関係者の証言を基に書かれているだけにその苦労が具体的にわかって、「潜水艦というものだけには絶対乗りたくない」と思ってた私の気持ちをより一層強くしました。

 敵機に発見されないようにと長時間水中航行を続けていると、当然酸欠になるわけで、酸素の消費量を抑えるために運動どころか身体を動かすことも禁じられ、船内で体育座りでじっとしていなければなりません。船内の二酸化炭素濃度が上がってくると、もう頭はガンガン痛くなると。トイレも始末が面倒なのでできるだけ行かないようになり、ほぼみんな便秘。水も大事なので2ヶ月以上風呂には入れず、体は垢だらけで頭も痒いという状況を想像すると、いつでもトイレに行けて、思いっきり空気を吸えて風呂にも好きなだけ入れるという生活がいかに幸せであるかというのを感じます。

 なお、潜水艦では往復4ヶ月くらいかかるので、向こうから持ってきた軍事技術も既に古くなってたりして、そこをなんとかしようと飛行機での往来も検討されたそうです。その話も出てきますが、航続の飛行実験の結果「可能である」という判断の元、要人も乗って出発した第一号機は消息不明。撃墜されたか、乱気流に巻き込まれ空中分解したのかもいまだにわからないということで、恐ろしい話満載ですが、この本は大人なら読んでおかねばと思います。まぁ楽しくはないのですが、知らない話ばかりでした。

 で、実はこの本は図書館から借りてきたのでした。吉村昭先生、ごめんなさい。他の本はいっぱい買ってますのでご勘弁を…。って、今更ここで言ってもどうしようもないのですけど。