今日のひとネタ

日常ふと浮かんだことを思いのままに。更新は基本的に毎日。笑っていただければ幸いです。

「B面昭和史」を片手に「ブギウギ」を

2023年11月07日 | ブックレビュー

 

 朝ドラ「ブギウギ」は東京編に入りました。ヒロインのスズ子が東京に行き、服部良一をモデルとする作曲家と出会い、いよいよ歌手として活躍する話になりそうです。ただ、物語は現在昭和13年。世の中が段々キナ臭くなるところですが、この頃の世間はどんな感じだったかを知るのに絶好なのがこの「B面昭和史」」。

 ご存じ歴史探偵こと半藤一利先生の本で、正調で昭和の歴史を語った「昭和史」がありますが、これは「B面」というだけあって世間の風俗や流行りもの、庶民の生活などに焦点を当てたもの。

 私なんぞは、戦前というともう昭和の初めから暗い時代であったような感覚ですが、これを読むと結構東京あたりの庶民は浮かれ騒いでたのがわかります。「東京音頭」のレコードが発売されたのが昭和8年。翌9年には「さくら音頭」というのが出て、これは競作でありしかもコロムビアは松竹と、ビクターは日活とタイアップ。さらにポリドール、キング、テイチクが加わっての大騒ぎだったとか。この当時、既にそういう横文字のレコード会社がいっぱいあったのですね。

 そして、この頃エロのカフェーが下火になり、代わりに喫茶店とかミルクホールが盛り場に登場。カフェーに行くようなお金のなかった学生たちを喜ばせるようになったとか。

 さらに驚いたのが「パパ・ママ論争」。当時の文部大臣が「日本人はちゃんと日本語を使って、お父さん、お母さんといわねばいかん。舌足らずのパパ・ママを使うのはいかがなものか。」と言って、世間では「パパ・ママ禁止令」が出るかもという噂も。

 日本の家庭でパパ・ママと言うようになったのは戦後もずっとたってからかと思ってたら、昭和10年にこんな話があったというのも驚きです。

 もっとも、これらは半藤先生がいた東京を中心とした話であって、昭和9年あたりは東北の農村ではコメをはじめとする農作物の不作で大不況でした。当然、そこでは娘の身売りもあるわけで、その窮状を見て黙っていられなかった青年将校が起ち上って…ということが二・二六事件などにも繋がるので、B面とはいえこの本も段々とA面の話が多くなってきます。それだけ庶民があれこれ楽しめなくなっていったということでしょう。

 そんなこんなですが、ドラマの背景にある世間はどんな感じだったかというのを理解しながら「ブギウギ」を見ると、さらに楽しめるかも。ただし、この本は文庫とはいえ650ページ以上あります。愛読書と言いたいところですが、私はまだ3回しか読んでおらず。もちろん読むたびに新たな発見があります。興味ある方は是非どうぞ。


陽眠る/上田秀人

2023年11月05日 | ブックレビュー

 これは新しい本でハルキ文庫から今年の8月に発売されたもの。タイトルだけ見るとなんのこっちゃわかりませんが、帯には「幕末海軍から見た佐幕派激闘史として出色のスケールを持つ傑作である。」ということで、主役はほぼ開陽丸。開陽丸が何かわからない人は、さらに「なんのこっちゃ」かもしれません。

 人物としては榎本武揚、澤太郎左衛門が中心とはなりますが、物語の始まりが鳥羽伏見で幕府軍が初戦敗退し慶喜がトンズラするところからですので、これらの人物がそもそもどういう生い立ちであったかという詳細はありません。

 上田秀人というと、私は奥右筆秘帳シリーズが大好きで最新刊が出るたびにハラハラしながら、時にはモリッとしながら読んでました(?)。その作者による幕末物ということであれば、これは読まねばならんということですぐ買ったと。

 感想はというと、さすが上田秀人で特に登場人物の会話部分は映像が浮かんでくるように生き生きしてて面白かったです。勝海舟の描き方も王道といえばそうですが、佐々木譲の「武揚伝」のような悪役にはしておらず、林隆三でも松方弘樹でも武田鉄矢でもオッケーな感じ。(なのか?)

 ほぼ主役の開陽丸についても、悪天候で座礁してしまうのは史実通りですが、そこに至るまでの傷み方とちゃんと修理できないもどかしさはこれまで読んだものの中で一番わかりやすかったかも。

 そういう風に面白い事は面白いのですが、さすがに全部で327ページなので江戸から出て行って函館まで行く間の戦いの詳細や、函館での戦いも私のような幕末オタクには物足らない部分はあります。土方歳三も出てきますし大鳥圭介もいるし永井尚志もいますし、これがドラマなら「ワシらのセリフ増やせや。」と役者さんが文句言いそうなレベル。

 とはいえ、面白かったのは間違いないです。榎本武揚は大河ドラマの主役にもなりそうなものですが、なかなかそういう話はないですね。とはいえ、この人が出てくる小説は佐々木譲の「武揚伝」、司馬遼太郎の「燃えよ剣」、童門冬二の「小説 榎本武揚」など色々ありましたが「抱かれたい幕末維新の人物」のランキング入りする雰囲気はないので、エリートといえる人であって破天荒なところがないのがドラマにはしにくいのでしょうか。そういえば、このこの小説もお色気シーンは一切なかったです。奥右筆秘帳シリーズはその辺が満載でしたけどね。

 なんにしてもすぐ読める話なのでこれはお勧めです。ドラマにするんだと榎本武揚は誰がいいでしょうね。


「水谷豊自伝」 水谷豊 松田美智子

2023年11月03日 | ブックレビュー

 今年7月に出た本ですがようやく読みました。考えてみれば、この人のインタビューとか過去を振り返る記事などは雑誌では見たことなかったかもしれません。とはいえ、特に水谷豊に関心があるわけではなく、タレント本が結構好きなのでつい買ってしまいました。別に蘭さまとの話を見たかったわけではありません。

 実は私は「相棒」をほとんど見たことなく「熱中時代」も見てなかったので、この人については「バンパイヤ」「傷だらけの天使」「男たちの旅路」などでの印象が強いです。

 萩原健一の自伝「ショーケン」では、「傷だらけの天使」の話でこの人のこともちょこっと出てきたのですが、この人は松田優作とすごく仲が良かったのですね。今回のロングインタビューを担当した松田美智子という人は、松田優作の前の奥さんだった人。まだ夫婦だった頃に交流があって、今も仲良しなのだとか。

 それでこの本がどうだったかというと、中盤がほとんど「相棒」の話で、スタッフや共演者、ゲストなどの話が満載。当然私はついていけず。

 そういう事ですので、この本は「相棒」や水谷豊ファンが読むべき本かと思います。(当たり前)


佐藤剛さんの本を3冊読みました

2023年10月24日 | ブックレビュー

 

 「上を向いて歩こう」を読んだのが昨年11月で「黄昏のビギンの物語」は最近読みました。これは新書なので軽く読めます。そして、ようやく「美輪明宏とヨイトマケの唄」を読みました。これは結構なボリュームでした。

 「上を向いて歩こう」は昨年レビューしましたが、すごく読み応えありました。そもそもあの曲がなぜ海を渡って全米でナンバーワンヒットになったのかというのをちゃんと理解してる人は少ないように思います。中村八大の才能、坂本九のスター性など要素はいろいろあるとしても、それだけなら他の曲もアメリカでヒットするでしょうし、そういう単純なことでは語れないですね。

 「黄昏のビギンの物語」については、この曲をちゃんと知らなかったので、色々と目からウロコでした。Spotifyでざっと見ただけでも本当にたくさんの歌手がカバーしてます。この本も中村八大についての記述が多いし「上を向いて歩こう」と重なる部分が多いのですが、レコード大賞が始まった時の事情を知って色々思うところがありました。創設の頃の理念が今はあるのか?とか。

 「美輪明宏とヨイトマケの唄」は、当時のことはもちろん知らないので、そういう世界もあったのだと初めて知る事も多かったです。美輪明宏についても知らない事だらけですが、それよりも三島由紀夫の事が気になりました。

 あの人は最後があれだったし、私もそこは興味を持って盾の会事件の本を読んだり、最近だと井浦新主演の三島の最後についての映画も見たのですが、実は小説は読んだことなし。映画の主演をしたりしてたのは知りませんでした。

 佐藤剛さんが亡くなったのは今年一番ショックな出来事なのですが、存命のうちにこれらの本を読んでおかなかったのも不覚。もっともっといろんな事を教えて欲しかったです。もし生まれる時代が違って、いま自分が学生だったとしたら、これらの剛さんの本を読んで「こういう本を書ける人になりたい」と思ったかもしれません。なれるわけはないにしても夢の存在として。それくらいパワーのある本だと思います。もし、関心を持った人がいれば是非お読み下さい。どれもお勧めです。

 さて、次は「ウェルカム! ビートルズ 1966年の武道館公演を成功させたビジネスマンたち」を読まねば。


昭和40年男「俺たちのお笑い黄金時代」

2023年05月16日 | ブックレビュー
 
 発売中の「昭和40年男」は、特集が「俺たちのお笑い黄金時代」。どういう感じかは、表紙の二人を見ればおわかりいただけるかと思います。興味ある記事が多すぎてまだ全部読めてませんが、私は凄く楽しんでます。

 なにしろ今回インタビューで登場するのは以下の方々。

せんだみつお&湯原昌幸
井上順
関根勤
木の葉のこ
伊東四朗
清水国明(あのねのね)
江藤博利(ずうとるび)

 また、記事で紹介されているのは、堺正章、藤村俊二、セントルイス、球児・好児、キャンディーズ、三波伸介などなど。

 さらにテレビ番組の話題も豊富で、せんださんと湯原さんの記事では、当然「うわさのチャンネル」「せんみつ湯原のドット30」、関根さんは「ぎんざNOW」「カックラキン大放送」などが出るわけで、関根さんについてはラビット関根の名付け親の事とか、あのカマキリ拳法の秘密もわかりました。

 あとは、特筆すべきことは私にとっての二大男性アイドル「あのねのね」と「ずうとるび」の両方が取り上げられていること。お笑いとしては「あのねのね」では清水さんより原田伸郎さんの方が面白い事を言うイメージがありますが、清水さんがプロデューサー的だったのですね。この人は凄く頭のいい人だと思います。ちなみに私にとってはお二人は大学の先輩なので、あらゆる面で尊敬しております。フォークギターを始めたのはあのねのねがきっかけで、エレキギターはずうとるびに憧れました。

 また、こういう特集に出てくることが珍しい木の葉のこさんも懐かしかったです。今は舞台を中心に活動されてるのですね。あの「うわさのチャンネル」の「ワシじゃ!」というのはよく覚えてます。うちは家族一同あの人のキャラが好きで、当時家に来た小犬に「のこ」という名前をつけたくらい。今回当時の写真も見たら、あの可愛かった小犬も思い出してキュンとしました。

 これは永久保存版ですね。興味のある方は是非どうぞ。面白いです。

「キャンティ物語」/野地秩嘉

2023年04月09日 | ブックレビュー
 
 1994年刊行の本で、紹介文によると「三島由紀夫から松任谷由実まで、'60年開店以来、きらめく才能が集う伝説のレストラン「キャンティ」。そのオーナーにして希有な国際人と言われた川添夫妻と客達の青春を描いたノンフィクション」というもの。

 キャンティは、知ってる人は誰でも知ってるでしょうが(当たり前)、私が意識するようになったのは10年ほど前。「安井かずみがいた時代」という本を読んだ時でした。

 その後、磯前順一さんの「ザ・タイガース 世界はボクらを待っていた」や、瞳みのるさんの「ロング・グッバイのあとで ザ・タイガースでピーと呼ばれた男」でも、そのキャンティと経営者の川添夫妻のことがよく出てきたので、大体どんなところかというのはわかってきました。

 そして、極めつけというかその川添夫妻の長男で音楽プロデューサーの川添象郎さんの「象の記憶」を読んで、ますます興味を持ったと。そこで読んだのが今回の「キャンティ物語」。

 読んでみたら、これまでぼんやりと思い描いてた部分がかなり具体的にわかった気がします。川添夫妻の実像についてはかなり踏み込んで書かれてて、確かにすごい人たちではあったわけですが、別にスーパーマンでも非の打ち所の無い人格者だったわけでもないということで。

 私の場合は1963年生まれの一般男性なので「キャンティ」には時代的にも地理的にも人脈的にもまったく接点はありませんが、もしその時代に東京にいて誰かに誘われたとしても「ケッ」と言って関わらなかったような気はします。というか、いくらかかるかもわからないし、どんな格好をして行ったらいいかも悩むし。

 当時も加橋かつみさんやGSのファンの間では有名な存在だったでしょうが、そのファンが彼らを目当てに大挙押し寄せたという話は聞かないので、ある種一般人は近寄りがたい場所だったのかもしれません。(もしかしてファンはちょこちょこ行ってたのかもしれませんけど。)

 それで、ここでもロックミュージカル「ヘアー」の話題が出てきて、それについては後半のかなりの部分が割かれてて、またまたこれへの関心が高まりました。あとは、加賀まりこさんが当時いかに特別な存在だったかというのも強調されてますが、その辺はあの時代を体験してないとわからないでしょうね。

 そんなこんなで、ある程度関心を持って読むと面白い本だと思います。文庫なので入手しやすいので気になる人は是非どうぞ。

大いなる助走/筒井康隆

2023年03月05日 | ブックレビュー

 

 先日「旅のラゴス」のレビューを書いたら、フォロワーさんからこの本を薦められたので早速読んでみました。私の勝手な思い込みで80年代後半の作品だと思ってたら、これが1977年から「別册文藝春秋」に連載され、1979年に刊行されたものでした。1989年に佐藤浩市主演で映画化されてて、私はその当時の記憶が残ってたのかもしれません。(ただし映画は見ておりません。)

 実は私は筒井先生の本は高校生の頃によく読んでて、それが1979年~81年なので当時既に発刊されてたのですね。その頃に読んでなかったのは、お金なくて文庫本しか探さなかったせいでしょう。

 それでこの本ですが、筒井先生が文学賞を目指し、のたうち回って小説を書きあげる話だと思い込んでたのですが(こればっか)、あんなにとんでもない話だとは知りませんでした。序盤を読んだ時は、同人雑誌の人間関係のドタバタを描くものかと思ってたら、まあ中盤から思いがけない方向に進んで行って、最後はまったく予想外で衝撃でした。

 直木賞をもじった文学賞の審査員や審査会の様子も出てきますが、そりゃまあ実際の審査員の人が騒ぐのもわかります。が、ここまで極端なドタバタにしたのならスルーするのが大人というものではないでしょうか。ただ、当時の文壇という世界が案外狭くて実際に閉塞的であり、おちょくられた方もその取り巻きも黙ってはいられなかったのかもという気もします。それこそ筒井先生の思うつぼのようにも感じますが。

 小説として決して読後感の良い話ではありませんが、同人雑誌のメンバーのキャラクター設定とその内面とそこからの行動に至る描写などはさすがで、読んでるだけで編集会議や飲み屋さんでの様子が見えるようでした。あの辺の人間の描き方はまさに筒井!というところです。

 今更ながらですが、読んでよかったです。薦めていただいた方にはここで感謝申し上げます。おかげで筒井作品への関心が再燃しました。調べてみたら、これまでに読んだ長編、及び作品集として発刊されているものは以下の通り。

緑魔の町
筒井順慶
脱走と追跡のサンバ
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人
虚人たち
朝のガスパール
わたしのグランパ
愛のひだりがわ
にぎやかな未来
馬は土曜に蒼ざめる
将軍が目醒めた時
おれに関する噂
あるいは酒でいっぱいの海
笑うな ショート・ショート集
狂気の沙汰も金次第
旅のラゴス
大いなる助走

 高校生の頃に読んだ短編集やショートショートもあらためて読むともっと味わえるかと思ったのですが、書店で見たら新潮文庫のはすごく字が小さかったので断念。大きめの文字で文庫の新装版が出ることを期待します。なので、まずは新しめの長編から始めましょうか。筒井を今読まなくてなんとするという気がしております。


大塩平八郎に負けそうです

2023年02月26日 | ブックレビュー

 

 大塩平八郎と聞いて、一般女性の七割は「抱かれたい」と思い、残りの三割は「しょっぱそう」というイメージを持っているという話はさっき思いつきました。もちろんデタラメです。

 それで、「大塩平八郎の乱」を知っている人は多いでしょうが、実際に彼がいつの時代の人で、そもそもなぜ乱を起こしたのかというのを正しく理解している人はどれくらいいるでしょう。

 私はというと幕末オタクを自称しておりますが、この人の事は詳しくありません。その「大塩平八郎の乱」は1837年なので、幕末というよりは江戸時代後期の事件ですが、どのような背景で起こったのか、これが実際に幕府瓦解の一因ともなったのか、などは大人として知っておかねばならんと思った次第。そんな時に本屋さんで目に付いたのがこの本。

 書店では結構目立つ場所に置いてあったので、もしかしたら世間は既に大塩ブームなのかもしれません。うちの妻なども大塩に抱かれたいと思ってるのかも。(まだ言うか) なんにしても、そこは乗り遅れてはならんと思い早速買ってきたのでした。

 がっ、大塩平八郎というと役人だったので家柄はちゃんとしてるし、仕事についての記録や本人が書いた手紙などもかなり残ってる様子。この本はそのあたりを詳細に検証し、なおかつ過去に大塩について書かれた本、文献などとも照らし合わせながらその人物像に迫っているもので、私としては「細かすぎてじれったい」という世界。

 乱当日のドタバタやその鎮圧劇、そしてそこに至る本人の心の内をドラマ仕立てで綴るものかと期待した私が浅はかでした。一応三分の二ほどは読みましたが、何しろ1ページ読むごとに意識がフッと遠のく感じの学術的なものなので、いまだ乱当日には辿り着きません。このまま負けてしまうかも…。

 しかし、逆に考えれば乱当日の大坂の様子をドキュメンタリータッチで描き、そこから大塩の人物像に迫って、最後は包囲網の中で本懐を遂げようとする大塩親子の潜伏劇を「仁義なき戦い 広島死闘編」のように仕上げればヒットするのではないでしょうか。大河ドラマの原作にもなるかも。タイトルは、「Oh塩! キャッホ乱乱!」でどうでしょう。ま、私は買いませんが。

 それはそうと、この本はちゃんとしてるといえばそうなので、世の大塩ファンの方は是非お読みいただいて、どの辺がどう面白いか私におせーて下さい。


これは凄く面白い>「最後の角川春樹」伊藤彰彦

2023年02月25日 | ブックレビュー

 

 図書館で借りてきたのですが、凄く面白かったです。出版社による情報では「『人間の証明』、『セーラー服と機関銃』…活字と映像を交錯させて、表現の力で社会を揺り動かした戦後最大の出版人、その魂の軌跡。」というもの。

 内容はというと、全編著者の伊藤彰彦さんによるインタビューです。その目次は以下の通り。

序章 敗れざる者
第1章 少年時代(~二十二歳)
第2章 編集者時代(二十二~三十三歳)
第3章 映画プロデューサー時代(三十四歳~)
第4章 俳人と映画監督の間(四十歳~)
第5章 収監そして復帰へ(五十一~六十二歳)
第6章 最後の監督作品
終章 それでも敗れざる者


 私の年代だと角川春樹の名前を知らない人はいないと思いますが、なんか知らんけど逮捕されたとか会社追い出されたとか、そういうヤバイ人という認識だけで、実際どうだったの? 今はどうしてるの?というのはちゃんと知られてないと思います。

 この本はとにかく伊藤彰彦さんが事前に収集した情報が凄くて、それについて角川氏が答えるという流れなのですが、お互い本当に深いところまで話し合ってるので、色々スッキリしました。

 私としては、やはり映画と文庫の話に興味があるのですが、なぜあの人を選んだのか、あの宣伝コピーはどういう経緯で作られたか、映画に関して訴えたり訴えられたりはどうしてだったのか?など、全然知らなかった話や、ぼんやりと聞いたような話をすべて当事者の言葉で理解しました。

 とにかく、この人は編集者としての力量が圧倒的で物凄い量の本を読んでは、これぞと思った本はすぐ作者に会いに行って、過去の作品を文庫に入れさせて欲しいとか、どういう本を書いて欲しいとか、行動力の一言では言い切れないものが溢れてます。

 あとは若い頃の企画力、発想力で詩集を出したり、それに女優のナレーションをつけたり、その辺の話も凄く面白かったです。

 実際借りてきて読んだのですが、これは手元に置いておきたいと思いましたので買う事にします。角川氏ももちろんすごいのですが、とにかく著者の伊藤さんにアッパレです。角川映画に興味のある人は一度読んでみることをお勧めします。


「象の記憶」 日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー/川添象郎

2023年02月24日 | ブックレビュー

 

 こちらは川添象郎さんの自叙伝です。なんとなく名前は知っている人ではあったのですが、実際は物凄くいろんなことをやってます。

 この人の両親の川添夫妻は、あのイタリアンレストラン「キャンティ」を作った人でそれぞれ有名人ですが、知らない人はWikipediaででも調べていただければわかります。私は、ザ・タイガースの本とか安井かずみさんの本などで、やたらとこの店の事を目にしてました。それで、「ああ、あの店の夫婦の息子さんか。」と。

 著者は、自分自身もフラメンコのギタリストであったのですが、アメリカで演劇とかミュージカルに関わったりして、帰国後はまたさまざまなお店のショーをプロデュースしたり、店の立ち上げに関わったり、音楽プロデューサーとして活動したり、YMOの海外公演を仕掛けたり、「え? あれも、それも?」と、とにかく驚きっぱなしでした。

 私生活では結構困った人でもあるのでしょうが、物凄く才能とひらめきに溢れた人なのだろうと思います。安井かずみさんの本を読んでた時も思ったのですが、一般男性である私とはまったく別世界の話なので「ほぉ~」と思って読むしかないです。

 そういうことで大変面白かったのですが、さすがにこれだけ色々やってた人なのでちょっと言ってることの時系列がおかしかったり、疑問な部分もあります。特にハイファイセットのデビュー曲は、「フィーリング」じゃないよなあとか。

 細かいことは抜きにして、とにかく面白いのは確かなのでこの本はお勧めです。