カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

推敲。

2023-11-13 07:04:48 | Weblog

今朝は、どういうわけだか、どこかの音大の学生として師匠の先生からレッスンを受けている夢を見た。自分を含めて3人の学生がその教室にはいて、師匠の先生がピアノで弾かれる曲を聴いて、それを譜面に書き取るレッスンをしていた。

 

 

短歌メモの推敲メモから。。

 

始まりは薄き青封筒ひとつ 夕べのポスト奥に沈みをり

 

封筒には〈出頭せよ〉とふ指令書と場所を記せる藁半紙一枚

 

したくても結婚できぬ独居者が招集されてゐるらしとは秋口からの噂

 

職場辞めて出頭準備せねばならぬ 課長には明日話さむと思ふ

 

万年課長はしよぼくれて茶色い鞄から愛妻弁当出しアルミ蓋開く

 

空席ばかりの広き職場は二三人 〈君もか〉と課長は天井仰ぐ

 

?????! 課長の〈もか〉に立ち止まる ま、いいサ。課長、お世話になりました

 

震へ気味の課長の右手は判探す わたしは黙つて頭下げるのみ

 

職場辞めアパート退去し駅へ向かふ 大きな青き鞄を牽いて

 

招集事務所とふ看板掛かるトタン小屋 高速下の日本橋河岸に

 

トタン小屋に引つ詰め髪の受付女性ひとり 分厚きトルストイ全集読みをり

 

受付女性はわたしを一瞥〈判をここに〉と指差しまた本へ目落とす

 

この紙はこの国からわたしの存在消す書類 青き太字で〈不存在届〉とあり

 

判捺したのち、お持ちの市民証をご返却くださいと告げられぬ

 

わたしとふ五十二歳の不存在が青きファイルに綴じられてゆく

 

この国に初めからわたしは居りませんでした 手続き済んで小屋を出でたり

 

日本橋河岸に繋留されたる青き船がわが住まひになるらし 乗船口へ行く

 

乗船口に先刻のトルストイ女史立つてをり え??!となる顔へ〈私、妹です〉と口尖らす

 

〈午後五時までに帰船下さい 、それまでは自由時間です〉と妹に言はれぬ

 

青き鞄船に預けてウィンナーつまみにビアホールへ呑みにゆく

 

 

トルストイ女史は齢(よはひ)三十位が通説となりぬ 妹よりも二つ上らし

 

日本橋河岸トタン小屋内に並びをり トルストイ全集全二十巻

 

第一巻からしまひまでを読み通しお遍路のやうに繰り返す女史

 

何故にトルストイなのかを妹に訊けども妹も〈知らない〉と言ふ

 

あの全集は姉妹の父親の求めしものらし 〈唯一の形見〉と妹笑まふ

 

父親は某省勤務にて母親と出先の事故でともに落命せりとふ

 

〈気付いたら此処で働いてゐた〉と妹はデッキブラシ手に屈託なく笑ふ

 

〈口惜しいのは、知らない方が幸せといつも大人たちから言はれてゐたこと〉

 

〈だから敢へて訊かなかつたのだけれど〉と妹は悲しさうに口尖らす

 

知りたきことを訊ける人皆ゐなくなりて日本橋河岸には風吹くばかり


歌誌『塔』11月号の拙作。

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