カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

物語のメモ。

2011-07-01 13:00:15 | Weblog

 物語のメモ。


 東から昇ってきた赤い太陽と、北からのぼってきた白い太陽とが宙天で交差をする時刻は、ぎらぎらした光の眩しい昼間である。銀色に光るトウモロコシが赤い大地の上空にゆっくり現れて、5分ほどゆらゆらと一箇所で静止した後、しずかに降下を始めた。それは、ストンともスコンとも一切音を立てることもなく、山道の始まる地点付近へと着陸した。
 20個体数ほどのタコ足の団体がトウモロコシから出て来て、荒れ果てた山道を登リ始めた。先頭のタコ足は旗らしきものを掲げている。一行が山の上に着くと、そこにはドアの付いた白いボックスがあり、ドアの脇に小さく「エレベーター」と書かれてある。先頭のタコ足が一団に説明を始める。
「それではこれから、私たちの星の歴史書にわずかに書き残されている(※)ブルネグロ飛行男爵のお城跡を見学します。このエレベーターで地下20000ウォルトまで降りていただくとそこが飛行艇墜落事件で有名な西塔跡のあるブルネグロ城になります。」
 一行はぞろぞろとエレベーターに乗り込む。中は全員が楽に乗り込めるほどに結構広い。操作パネルの類はまったく見当たらなくて、先頭のタコ足が「では皆様、参りましょうか」と言うと、入ってきたドアがすうと消えて壁になり、箱は動き出した。
 箱が底にぴたりと到くと、先頭のタコ足が「出ましょう」と声を出す。すると先ほど入口のあった壁に出口が現れ、一行は箱から降りた。そこはくるんとくり抜かれた小さな盆地状になっていて、黄色い草地が広がっている。その真ん中に石造りの瀟洒なブルネグロ城が見える。盆地の天井はやけに高く、底からはおよそそこに天井があることが窺えない。まるで地上の空がそこにそのままあるのではないかと思われるほどだ。辺りは全面、やわらかな卵色の光に満たされている。

 (中略)
 
 お城跡からさらに下った麓の町跡までは、盆地を囲む山腹にトンネルが掘られ、見学者がゆったり歩けるようにとかなり幅の広い、煌々とラムプの灯りに照らされた地下道になっている。一行はぞろぞろと地下道を下り始める。ちょうどそのとき、麓の町跡から駆け上がってきた影がある。8次元の姿の王女アスフィータと、大きな白い老犬である。しかし、タコ足の一団はいっこうに気が付かない。というか、彼らには一切見えないのである。

 (後略)

(※)「歴史書」の記述より。
(前略)この日、老齢のブルネグロ飛行男爵は、飛行艇を操作していて自分のお城の西塔から誤って墜落してしまった。200年もののブルネグロ家伝来の飛行艇は直ちに修理にまわされ、老飛行男爵はベッドの中から周囲に隠退を告げた。(後略)

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