駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

緊箍帯

2019年05月10日 | 診療

     

 

 緊箍呪というのは西遊記で三蔵法師が唱える呪文で、これを唱えると孫悟空の頭に嵌まった輪が締まり、頭の痛さに耐えられない孫悟空は許してくださいと三蔵法師の言いつけを守ることになる。この緊箍呪に似せた緊箍帯というものが出来ないものだろうかと思うことがある。つまり例えば血糖が250mg/dlを越えたり腹囲が100㎝を越えるとピーと言う警報音が鳴るような腹帯だ。

 昭和には死刑の宣告に等しかった癌も平成の終わりには五年生存率も上がり死病ではなくなった。これは主に診断治療の進歩に依るのだが、メタボの方は色々診断治療が進歩しても、落ちこぼれる患者さんも多く、最前線では苦戦することもしばしばだ。糖尿病や脂質異常症には癌ほど人を恐れさせる力はなく、患者さんによっては飯は旨いしどこも痛くないと、医師や看護師の食べ過ぎないようにを馬耳東風に聞き流す方が居られる。勿論、言葉だけでは不十分なので食品見本を見せながらこれくらいとか参考献立もお渡ししているだが、明日からとか今日は例外が何年も続いてしまうようだ。確かにいったん大台に乗ると、さほど食べなくてもそれが維持できるようで、そんなに食べていないと不満そうな患者さんも多い。

 そんなに生活指導が守れずうるさく感じられるなら、いっそ医者に来なければ良いのにと思うことも時々あるのだが、孫が遊びに来たから旅行に行ったから食事会があったからと言い訳を並べられながら通院は辞められない。まるで通院が免罪符と思っておられるようだ。「努力しています」「結果を出してください」の遣り取りが何年も繰り返される。さすがに石の上にも三年で、三年もすると多少は効果があることは多い。しかし不動の七十キロのおばさんや100キロのおじさんも居られる。五年を超えるとつい注意する方も根負けして増えなければいいですと言うようになったりする。

 そこで緊箍帯などというものが出来ないかと夢想してしまう。尤も折角できても、今日は締めないでおこうという患者さんも多そうで管理が難しそうだ。そして極めて遺憾ながら真っ先に緊箍帯が必要なのは私自身かもしれない。食いしん坊の両親から生まれ、ついもう一品は遺伝子のせいにしているのだが。

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