駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

病気、ほろ苦いひとつの現実

2015年02月25日 | 医療

                              

 万病と言われるが、万はないと思う。勿論、間違いなく千以上の病気がある。まあ、実際には同じ病気でも個体差があるから、病態としては遙かに万を越えるだろう。

 中で死に至る病ではないが、痺れ感、眩暈感、耳鳴り・・といった自覚症状が主な病態は多彩で、患者本人を悩ませなかなか辛いようだ。残念ながら、こうした病態には良い治療法がないことが多く、治りにくいため勢いしつこい訴えとなり、医者も悩まされる。

 Nさんは私と同年配の男性、数年前心筋梗塞で入院、幸い一命を取り留め、そちらの方の経過は良いのだが、退院後味覚に異常が出て悩んでおられる。よいと言われる薬を試してみたのだが、なかなか良くならない。半年に一度の心臓検診でも訴えてみたが、専門でないということだろう、よく分からないと対応して貰えない。

 ある日新聞の診療欄に、某総合病院の部長が味覚異常の最先端治療をしていると書いていた。切り抜きを持って受診したNさん、紹介状を所望、勇んで遙々新幹線に乗って出かけた。

 「どうでしたか?」。

 「ダメダメ、碌に話も聞いてくれない」。

 数行の返事には年齢的なもので、改善は難しいと認めてある。私はすぐ成る程と思ったが、わざわざ期待して出かけたNさんはがっかり憤懣やりかたないようである。Nさんには申し訳ないが、このことによってNさんのしつこい訴えが減ったので、私としては有り難いといってはなんだが、毎回同じ訴えを聞く悩ましさが軽減されて負担が減った。

 

コメント (2)
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