駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

早期がんの矛盾

2013年11月23日 | 医療

                        

 最近は医療広告も多少表現が緩和され、医学博士だとか専門医だとかの表示が許されるようになった。それに乗じたわけでもないと思うが、「早期がん発見に努めています。某内科消化器科」。などという紛らわしい看板を見かけるようになった。

 まるで早期がんを見付けるのが得意のように読めるではないか、ひょっとして読ませようというのかな。臨床医は誰しも早期がんを発見したいと思っているのは確かだが、そう簡単には問屋が卸さない。**先生は大胆無謀の人らしい。

 素人には分かりにくいかもしれないが、早期がんというのは無症状なのだ。今朝も朝飯が旨い、駅の階段を駆け上って息も切れないギンギラギンのおじさんにも潜んでいる可能性がある。つまり早期がん発見は保険診療の対象にはなり得ない。人間ドックの宣伝とすれば納得なのだが、見逃しやすい早期がんを発見しますなどとドックは宣伝しない。ドックで見逃されている早期がんは五万とある。尤も、専門医でも六-七割の発見率の病変は見逃しとは言わないというのが医療側の見解で、私もそう思う。中には早期癌、そんなもの殆どががんもどきだと託宣する、医者の鑑?じゃなかった敵?のような某近藤先生も居られる。

 ちょっと脱線したが、早期がんは無症状なので、ドックで運良くあるいは他の病気の検査中に偶然運良く見つかることが殆どなのだ。但し、希に早期がんを狙って検査することもないではない。というのはある特定のがんができやすい一群の人達が居り、その人達の場合は最初から早期がんを狙って検査することがある。その場合は背景の疾患病名で保険診療としている。もうひとつ非常に鋭敏な腫瘍マーカーがあるがん、例えば前立腺がん、の場合には例外的に無症状でも疑い病名で保険診療が可能だ。

 実はここには医療のコペルニクス的転回点が現れている。いつ頃から医療と呼べるものがあったか定かではないが、数千年の昔から病気は症状を出発点として診断治療されてきた。ところが20世紀の末から症状ではなく、検査異常を出発点とする診断治療が始まり、健康診断や人間ドックの普及している日本ではそうして始まる医療がかなりの部分を占めるようになっている。このあたりは保険医療の絡みもあり微妙で大きな問題なので、これ以上立ち入らない。

 早期がんは無症状ということを申し上げたかった。

コメント (2)
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