駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

不思議の国の電話

2013年11月10日 | 診療

                               

 昨日の夜はコントラクトブリッジの定例会で、同年配の前期高齢者のおじさんおばさんとゲームを楽しんでいた。8時半頃私の携帯が鳴った。「*下ですが、ご相談したいことがあるのでお電話下さい」。という不可解な留守番電話の転送だ、といっても私には*下*子さんの息子さんからだとピンときた。*子さんは89歳の認知症でほぼ寝たきりの頑固なお婆さんだ。

 電話してくれって電話番号を言わない患者から電話だと言うと、みんなはこの時間に非常識な患者だと非難囂々だった。留守電からの転送なので、掛けてきた電話番号が分からない。大体の住所とお母さんの名前は分かるが息子の名前はわからない。104に電話して調べると**町五丁目には六軒*下があるという。申し訳ありませんが、それを全部教えて下さいと頼んで、順番に電話をかけ始めた。電話を受けた方も迷惑だったろう。「*子さんいらっしゃいますか」。「居ません」。「申し訳ありません」。四軒目に「はい」。といって*子さんを呼びに行った様子、「歩けるわけないんだがなあ」。と言うと固唾を呑んで聞いていたみんなが笑う。案の定、若い声が出てきた。「申し訳ありません、人違いでした」。と平謝りに電話を切る。五軒目は十数回呼び出し音を鳴らしても出ないので切った。六軒目は呼び出し音が途中で変わったので、これも近くに居ないのだろうと切った。

 住所が五丁目でなく四丁目だったのだろうか、いずれにしても埒があかないので捜すのは止めた。本当に困ればまた掛けてくるだろう。自分の電話番号を入れるように留守電に指示してあるのに、いい大人がなぜそれを忘れるのだろう。妻は電話番号を二回ゆっくり録音して下さい、電話番号を忘れると返事が出来ません、と指示しておけという。そうまでする気にはなれず、妻のアドバイスには従っていない。考え直すか。

 十時に帰宅し、*下さんの電話番号を履歴から探し出して掛ける。「ああ、すいません。床ずれの所から血が滲んできて止まらないんですが、大丈夫でしょうか」。出血量を聞いて、ガーゼで圧迫しておくように指示し、来週往診した時に診せていただきますからと電話を切る。病人を身近で診たことのない人がうろたえるのは分かるけれどもなあ・・・。訪問看護師の導入を何度ども勧めたのだが、婆さんが嫌がるからと導入されていない。もう少し頭を使って欲しいと思わぬでもない。

 この電話はかけ方に問題があるにしてもちゃんとした医学的な用件があるからいいのだ。時間外に掛かってくる電話の八割は砂利のつぶてのような、朝は何時からやっているか、インフルエンザの予約を取ってくれ、マンションを買ってくれ・・・と血圧が上がるようなものばかりだ。こうして王様の耳はロバの耳とブログに書いて、鎮静している。

コメント (2)
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