女性患者さんの話好きも時に困るが、これは診断遅れに繋がることは少ない。男の患者さんの中には、殆ど話をしない人が十人に一人くらい居られる。今はどうか知らないが、昔は男はペラペラしゃべるものではない、やたらとニコニコするものではないとされていた。三年に片頬位が宜しいという表現もあったくらいだ。
今も躾かある種の男性の特性か、無駄話をしない一群の男たちが居る。どういうものか物作りに携わるあるいは携わっていた人に多いようだ。
「お変わりないですか」。
「はい」。
「調子はどうですか」。
「いい」。などという会話に安心していると、
受付に、Nさんこの頃変です。何度言っても保険証を忘れたり、採血検査の約束を忘れたりで、認知じゃないですかと昼休みに言われる。家族に連絡すると、この頃物忘れがひどくなったとか、車の運転が危なくなったという証言が挙がってくる。慌てて、専門医に紹介すると、アルツハイマーですなどと言う返事が返ってきておやおやと冷や汗を掻く。
「はい」。とか「いいえ」。だけでない話をさせた方がいい訳だが、この人たちは口が重く、話題にしやすい仕事の話や昔の話は矛盾なくできるので、初期の認知を見逃してしまうのだ。
Nさんはアルツハイマーの診断がされ、家庭ではそうした目で保護されているが、実家に帰ると昔話ばかりなので実家の人達は認知に気付かずこの頃ちょっと服装がだらしないと奥さんにお小言が回ってきてしまう。実は・・とまだ言いだせないのですと奥さんが悩んでおられた。