駅前糸脈

町医者をしながら世の中最前線の動きを感知、駅前から所見を発信。

動物園の旧友

2008年04月29日 | 診療
 不法侵入を防ぐため、個人識別に虹彩や指紋を利用する機器が出てきた。顔でないところが味噌だ。機械は顔では人を識別しにくいのだ(情報が不安定で量が多すぎるらしい)。人間は虹彩や指紋で、人を識別しないし、できもしない。人間は人を識別する時、顔を最大の手がかりにしているが、それだけではなく、雰囲気仕草話し方声音など、すべてを総合してその人らしさを抽出して瞬時に判定していると思う。
 30年ぶりに会った同級生。変わらない人もいるが見違える人や見る影もない人がいる。それでも数秒で99%は誰か当てることが出来る。面影を手がかりに、顔の変遷を類推することができるし、ただよう雰囲気、声音や話し方も30年前を一瞬にたぐり寄せてくれる。
 識別した個人には、それぞれ名前があるのだが、年を取るとこれが意外に思い出しにくい。名が体を表さないことが多いからだと思う。本のタイトルのように何か連想が働くようにつけてあると随分思い出しやすいと思うのだが。
 仕事がら千人近い患者さんをほぼ定期的に診ている。診察室に入って来られるとすぐ病歴が頭に浮かぶのだが、名前が出てこないことがある。最近少し増えてきた。町医者には定年がないので、こうした兆候を手がかりに引退時期を決めることになるんだなと覚悟している。
 名前に比べ雰囲気は内容に関係しているので、連想が働く。動物園へ行った時、もぐもぐ餌を食べている駱駝に会って、何だか急に懐かしい気持ちがこみ上げてきて、S君はどうしているだろうかなどと思うようなことがある。
 年古ると確かに名前は想起しにくくなるが、名前から想起される世界は広く深く味わい深くなるので、上手い具合に釣り合いが取れているとしよう。
コメント
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