先だって地域の中核病院の「退院に向けての打ち合わせ会」に参加した事を記した。その方は入院中に切り替えがあり、介護度が4から5(最高度)となって退院され、デイケアを再開されている。5ということは殆ど寝たきりを意味しているに等しい。今その方にやっていることは、経管栄養は当然として、ナースとして可能な全ての技術(座位時間の延長・立位保持・移動動作(トランスファー)・歩行・口腔機能改善(咀嚼・嚥下・痰切り・保清)・経口摂取・排泄のコントロール)の総出しである。
これらは全て自宅で生活させたいと願われる奥様のご意向に沿ったケアーである。私と半々その任に当たるナースが心配げに秘かに「医師の許可は?」と私に問う。言下に私は言った。「入院中なら必要ね。在宅の場合コチラで試してみて可能そうだったら妻と相談するべき。医師に問えば無難な返事をするに決まっており、仮にダメといわれたら”経口摂取”させることは禁を犯すことになる。だから敢えて質問しなかった」と。デイ再開から一ケ月弱の昨日、奥様をお呼びして経口摂取と、私が両手を添えただけで少なくとも100mは可能となっている歩行の様子を見て頂いた。これ迄も記録や送迎時に様子は伝えていたのだが、奥様は感動の面持ちでご覧になっていた。ケアー全般に著明な改善がみられ、半日程度なら背もたれなしの椅子でも座っておれるようになっていたからだ。しかし進行性の難病ゆえ限られた改善しか望めないかもしれないし、改善したら改善したで低い介護度に戻されるから痛し痒しという所でもある。
かねがね私の位置は、職員にとっては距離があるとされているように自覚させられていた。この手の施設では、ひたすら優しい事が最優位にあるようで、完全に同一歩調をとれない私は常にジレンマを抱えてもいた。今迄も何度か、幾種類かの利用者さんにとって私自身の思考と実践を経て、それなりの結果と評価を得ては来ていたが、年月を経る内にヘルパーも順次変わる。今回の事例を通して久しぶりにナースの面目を保ったということになろうか。しかし何よりも、奥様の「希望がもてました」とおっしゃた輝いた笑顔が嬉しかった。(写真は川合玉堂の作品)