インターネットの記事で事故を知りました。27日午後1時15分ごろ数学者、評論家、エッセイストの森毅(81歳)が自宅で卵料理を作っていた最中にガスコンロの火が服に燃え移って腕などにやけどの重傷を負いました。森は妻が数年前に東京都内の病院に入院してから京都の八幡市で一人暮らしでした。森の日常生活が突然私の目の前に開示されて戸惑いを感じました。手術がうまくいくことを祈ります。そして活字を通して再びお会いしたいものです。
正月明け早々に、NHK教育のETV特集で吉本隆明(84歳)の 「沈黙から芸術まで」 と題した講演の様子が放送されました。「これまでの仕事をひとつにつなぐ話をしてみたい」 と親交のあるコピーライター糸井重里に協力を依頼し去年の夏に開いたものだそうです。吉本は足腰も弱り、糖尿病を抱えているようです。この日は3時間にわたり休むことなく語り続けたそうです。喉の渇きを防ぐためほとんど天井を見続ける姿勢で話していました。糸井と自宅で対談した時には居間に吉本は這って現れました。終了して廊下を這って引き下がる吉本の映像もありました。老いをありのままに見て欲しいという意図だと感じました。
15年ほど前の5夜連続ETV特集 「埴谷雄高・独白『死霊』の世界」 を思い出しました。50時間に及ぶインタビューを編集したもので埴谷(1909~1997)は当時85歳、長編小説『死霊』を書き始めて50年まだ書き続けていました。自宅で浴衣に丹前姿の埴谷は実に柔和な翁顔でした。「あァたね、我々はイワシを食うけれども、食われるイワシは我々を見ている。恨んでいる。キングコングが我々をむしって食ったら我々は恨みますね。これが誤謬の生存在です」 などとハンガリー産のトカイワインを飲みながら答えていました。
この埴谷の番組について池田晶子(1960~2007)が書いています。その中でたとえばつぎのように述べています。「埴谷が社会革命を越える、存在の革命を言い出すと、わけもわからずついてきた人々は、いよいよもってわからなくなる。わからなさ余って教祖化するか、じいさんボケたということにする。処置なし」 池田晶子は46歳で亡くなりましたがこうして活字で会うことができます。いまだに気になる方です。活字の世界に遊んでいると人の生死などあやふやになります。