「和田誠展に行けてよかった [前編]」のつづき、きょう東京展の千穐楽を迎えた「和田誠展」の見聞録です。
雑誌「キネマ旬報」でながらく「お楽しみはこれからだ」を連載されていた和田さん、相当な映画ファンであったことは想像に難くありませんでしたが、学生時代に書いていたという映画ノートが、まぁ… 几帳面な、きれいな、小さな字で、ビッシリと感想が書き連ねられていました。
私も、年間100本ほどの映画を観ていた学生の頃の私も映画メモを書いていましたけれど、とてもとても足元にも及ばないどころか、いわゆる「レベチ」です。
ときにはイラストやロゴ入りで書かれた和田さんの映画ノートは、和田さんの「芸(術)の肥やし」になったんだろうな… 後で読み返して記憶を呼び覚ますことはもちろん、頭の中を整理して文章にまとめること自体が、記憶に刻み込むには効果的な手段ですから。
和田さんは映画好きが高じて、ついには映画監督まで務めることになったのですが、「麻雀放浪記」の脚本がいかにも和田さんでした。
「絵コンテ」入りの脚本
図録から引用しますと、
根っからの映画ファンだが、自身が映画を監督するとは考えていなかった。きっかけは角川春樹。次にやりたいことを聞かれ「映画のシナリオが書きたい」と何気なく口にしたことから『麻雀放浪記』の脚本を書くことに。イメージした場面の絵も合わせて角川に見せたところ、ここまでイメージができているなら自分で監督をやったらどうかと勧められる。
という経緯だったのだとか。
会場では、「麻雀放浪記」と「怪盗ルビイ」の1シーンづつが流れていました。「麻雀放浪記」では加藤健一さん演じる「女衒の達」が渋かったよなぁ~
1977年5月から2017年7月までの40年間にわたって和田さんが描きつづけたのが、週刊文春の表紙。
それがどばぁ~っと並ぶと、壮観 以外のなにものでもありませんでした。
2017年の通算2000回目をもって新作の掲載は終わりましたが、その後は「アンコール企画」として過去作品を再使用している週刊文春、和田さんが亡くなった今も、和田さんのイラストを表紙に使い続けています。
ここまで来ると、表紙が変わったら週刊文春が週刊文春でなくなってしまうのでしょうなぁ
私の大好物の画家の一人にベン・シャーンがいます。
和田さんもベン・シャーン好きだったことは知っていましたが、こちらの作品(「アラビアンナイト」挿画)なんて、それっぽい
「芸術新潮」のベン・シャーン特集(2012年1月号)に載っている和田さんへのインタビューによれば、
初めてベン・シャーンを知った学生時代にはずいぶん影響されて、それが絵に現れちゃったことがあるんだけれど、それはよくないとすぐに気がつきましたから、離れようとする。それはベン・シャーンから離れるんじゃなくて、ぼくの描くものがベン・シャーンのスタイルに似ることから離れようしただけであって、あの人の作品や人柄に対するリスペクトが変わることはないでしょう。これからも。
だそうです。
和田さんは、ベン・シャーンにファンレターを書いたら、ベン・シャーンから返事とクリスマス・カードをいただき、そのお礼として和紙と民芸品を送ったら、その民芸品(土人形)を描いたイラストが、ベン・シャーンが挿画を担当した絵本「OUNCE DICE TRICE」(私も持ってます:記事)に載ったとか。
和田さん曰く、
びっくりするやら嬉しいやらで、またまた有頂天(笑)。
うんうん、気持ちが判る…
和田さんが、奥様の平野レミさんのためにデザインしたセーターが、これまたイイ 和田さんらしくて (特にキングコングのやつ)
牛肉の部位が色分けされたデザインのセーターも展示されていましたが、写真を撮り損ないました
デザインついでに書けば(失礼)、コンサートのポスターにも和田さんのセンスが光ります。
これとか、
会場で和田さんの膨大な作品たちを観ていると、自然と顔がほころび、いつまでもこの幸せな空間に居続けたい気分になってきます。
こんな絵(原画)を前にしたら、ちょっとした悩みなんて吹き飛びますって
だんだん話がとりとめなくなってまいりました
そこで最後は「和田文字」のこと。
展覧会では「装丁に見る和田文字」というコーナーが作られていました。
私の書架の丸谷才一コーナーの写真を載せますと、
和田さん以外の装幀の本もありますが、背を見るだけで、和田さんが装幀した本とそうでない本とが一目瞭然じゃないですか?
独特の手書き文字=和田文字を見るだけで、その本の内容が楽しそうに思えてくるのが不思議です。
この記事を書いていると、もう一回、「和田誠展」を観に行きたくなってきます。
でも、きょうが千穐楽ですし、既に昼下がり。これから出撃しても、私が出かけた4日前とは比べものにならないくらい入場待ちの列が伸びていること必至です。
機会があれば、巡回展に行ってみたいもの
巡回展の日程は、
2022 春 熊本市現代美術館
2022 夏 新潟 (調整中)
2022 冬 九州市立美術館 分館
2023 秋 愛知
だそうです。
ふと思ったけれど、和田さんの個人美術館があってもいいのではなかろうか?
そこまでいかなくても、どこかの美術館に和田さんの作品を常設展示(しょっちゅう展示替えあり)する部屋があってもいいのではなかろうか?
そんな勝手なことを考えながら「和田誠展」の見聞録を終了いたします。
あ、そうだ
この展覧会の図録は、4,400円(税込)とお高くて、展覧会に出かける前には購入する気はなかったのですが、展覧会を観て、この図録の現物を見たら、ついつい購入してしまいました
判型こそA5サイズと図録としては小ぶりながら、
和田誠を知るうえで欠かせない約30のトピックの特集と、83年に及ぶ膨大な仕事量を伝えるビジュアル年表を、520ページの大ボリュームで紹介します。展覧会で紹介しきれなかった参考図版も含め約2000点の図版を掲載した決定版です。
というものですから
この図録は一般書店でも購入可能だそうです。ご参考まで。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます