町山智浩『トランピストはマスクをしない』に、一時雇いの働き手による経済のギグ・エコノミーに触れています。
空いてる時間に働いてお金を稼ぐという働き方だともてはやされた。
しかし、正規雇用されないから仕方なしにやっている。
宅配業者の募集広告に「月に20万円から100万円稼げる」などと書かれているが、出来高制だから、1日100軒以上配達する必要がある。
1日8時間で100軒以上配るには、1回の配達を4分から5分でこなさないといけない。
仕事のために自分で車を買う必要があるので、仕事がないと赤字になる。
ギグ・エコノミーが増えたのは経営者がコストを削減するため。
残業代や有給休暇、労災、保険、年金を負担しなくていいし、怪我や事故は自己責任。
ノルマを課すだけでいい。
その実態がケン・ローチ『家族を想うとき』で描かれている。
カリフォルニア州のディズニーランドにはホームレスがいっぱいいる。
入り口でチケットをチェックする人、ゴミを片付ける人、アイスクリームを売る人などのうち、500人は家賃が払えなくて、友達の家や自動車に寝ている人、家を失う寸前の人たちだという。
ディズニーランドの従業員の最低時給はカリフォルニア州の最低賃金で、12ドル台、月給にすると2200ドル。
ディズニーランドがあるアナハイム市の2LDKの家賃の平均は月1835ドル。
ファストフード店やスーパーの従業員にもホームレスやホームレスぎりぎりの人が増えている。
全米に50万人以上いるといわれるホームレスの4割がワーキング・ホームレスだという。
ジェシカ・ブルーダー『ノマド 漂流する高齢労働者たち』によると、ノマド(放浪生活者)はホームレスと呼ばれるのを嫌い、ハウスレスを自称する。
自分たちをワーキャンパーと呼ぶ。
ワーキャンパーとは短期の雇用を求めてアメリカじゅうを車で移動する季節労働者。
仕事は農場での果物摘み、スーパーボウルの売店、パイプラインのガス漏れ検査員、キャンプサイトの管理などなど。
食事や電気、水、下水道つきの無料駐車スペースが仕事の対価で、時給を払うのは雇い主の一部。
体力的にきつい仕事なので、勤務が終わってもお互いに交流などできないほど疲れてしまう。
怪我をする人、病気になる人も多いが、福利厚生や社会保険をほとんど要求しない。
キャンプ場のスタッフは管理人、レジ係、清掃員、警備員、歓迎係などをこなす。
辞める人がいるのはトイレ掃除などの汚れ仕事が多いから。
時給は去年より20セントアップして9ドル35セント。(当時のカリフォルニア州の最低賃金は時給9ドル)
週40時間働く契約で雇われるが、長時間労働が前提。
45時間以上働かされることもあるが、超過勤務分が支払われないことがある。
予約が減ると勤務時間を減らされ、週給は290ドルを切ってしまう。
雇用契約では随意契約で雇われたにすぎないから、理由や予告なしにいつ解雇されても文句は言えない。
森林局が民間業者に営業許可を与えて管理を任せているが、森林局はスタッフの苦情が寄せられても、対処する権限も、調査する権限もないと言って、関与しない。
アマゾンの倉庫は荒野の中にあり、配送量が増える繁忙期、つまり3~4か月のクリスマスセールの間はノマドを雇う。
近くのトレーラーパークは早くに予約されるので、片道1時間半かかる遠方のトレーラーパークを利用する人もいる。
最低でも10時間は通しで働き、1回の勤務で24キロ以上歩く人もいる。
ある男性は週5日12時間の深夜勤務で、休憩時間(30分1回、15分2回)以外はほぼ立ちどおしで荷受けし、バーコードをスキャンして腱鞘炎になるので、鎮痛剤は無料。
繁忙期が終われば雇用は打ち切られる。
車上生活者はネットやキャンプなどのネットワークがあるそうです。、
ゴミやトイレの後始末方法、車を無料で停める駐車場探し、車の改造方法などを、ネットやコミュニティで情報を交換したり、初心者への指導と助言をする。
私は『ノマドランド』を見て、美しいアメリカの風景、最低限の物で一所不住の生活、助け合いながらも距離を保つノマドの生き方にいいなと憧れました。
とはいえ、ノマドの生活は厳しいです。
冬には車外の気温は氷点下になり、暑い時は40度を超す。
いつ病気になるかわからない。
いつ車の運転ができなくなるかわからない。
いつ仕事ができなくなるかわからない。
国や州の規制が強化され、ノマドは生きづらくなっている。
車上生活者の圧倒的多数は白人で、その理由は、黒人だと警官の人種差別的な取り締まりの犠牲になりかねないし、通行人とのいざこざもあるから。
『ノマドランド』は、高齢者がきつい仕事をしながら移動を続けざるを得ない政治や社会の問題に目を背け、美化しているようにも感じました。
ジェシカ・ブルーダーはこう書いています。
取材を始める前、ノマドの記事を手当たり次第にあさったが、見つかった記事の大半は、ワーキャンパーという生き方を、楽しく明るいライフスタイルか、変わった趣味であるかのように報じていた。
あるニュース番組は、車上生活のわくわく感と連帯感を強調するもので、多くの人に生き方を根本的に変えさせる原因となった困難については話題にするのを避けていた。
だけども、ジェシカ・ブルーダーは政治批判を書いていません。
トランプ大統領をノマドたちはどう思っているのでしょうか。
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