インド後期密教、そしてチベット仏教では、敵対する人間を度脱(呪殺)することが行われていた。
日本でも調伏法と息災法という度脱にかなり近い発想にもとづく修法が行われてきたし、太平洋戦争末期にはルーズベルト大統領を調伏させたという話がある。
呪殺については正木晃『性と呪殺の密教』が詳しい。
正木晃氏はキリスト教やイスラームにも、まったく同じといっていい論理が存在したと言う。
人が呪い殺されるなんてことはあり得ない、オウム真理教のポアのように、弟子が密かに殺していたのではないかと、私は考えていた。
ところが、ケヴィン・ネルソン『死と神秘と夢のボーダーランド』に、生理学者のウォルター・B・キャノンの「ヴードゥー教の呪い」という論文を紹介されていて、まじないや魔術で人は死ぬことがあるそうだ。
占いや遠くから送られてくる呪いの念は、本当に人の命を絶つことがあっても不思議ではない。
ハイチや西アフリカなどで信仰されているヴードゥー教では、人を呪術によって殺すことができるといわれている。
たとえば、殺したい相手の人形を作って魂を吹き込み、針を刺すとか。
そんなアホなことを真に受けるなんてと思うが、ウォルター・B・キャノンによると、真綿で首を絞められるような強い恐怖状態がいつまでも続くと、人は身体的に消耗し、死んでしまう。
ヴードゥー死の犠牲者は、わなにかかった動物のように、自分は絶体絶命、命運が尽きたと納得してしまう。ならば、飲食を断ちもするだろう。そこに、〝明らかな、あるいは抑圧された恐怖〟が引き金となって容赦ないアドレナリンの分泌増加が起きれば、やがて血液中の貴重な液体成分が枯渇し、危険なレベルの低血圧からショックに至る。
これはキャノンの考えで、ケヴィン・ネルソンによると血圧の破綻はそんな形で起こるわけではない。
ヴードゥーの呪いが引導を渡すのは血圧ではなく心臓だ。脳は副腎と交感神経系を介して心臓の拍動を不規則にし、停止させることができるのだ。アドレナリンの増加が著しいと、心臓の細胞がいきなり破壊される恐れもある。たとえば、突然の激しい情動ストレスが心臓に衝撃を与えて、その細胞を死に追いやる場合だ。
というのがケヴィン・ネルソン説。
呪殺(度脱)やヴードゥーの呪いを信じている人にとって、○○が自分を呪い殺そうとしているということだけで強い衝撃になるのかもしれない。
でも、丑の刻参りは人に知られてはいけないわけで、それじゃ効き目はないことになるのか。
それとか、ルーズベルト大統領の死はどうなのかとか気になってきました。
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