齋藤潤一『平成ジレンマ』に、母親が娘(18歳の女子高生)をだまして戸塚ヨットスクールに連れてきたが、女の子は入校して3日目に屋上から飛び下りて死ぬ。
彼女は自傷行為をくり返し、精神科に通院して向精神薬を服用していた。
斉藤道雄『治りませんように べてるの家のいま』、向谷地生良・浦河べてるの家『安心して絶望できる人生』、向谷地生良『「べてるの家」から吹く風』を読んで、この女子高生を家族がべてるの家に連れていったら、少なくとも死なずにすんだのではないかと思った。
戸塚ヨットスクールには薬物依存だった訓練生もいる。
精神的に問題を抱えている子どもたちを戸塚ヨットスクールに預けても、戸塚宏氏たちが治せるとはとてもじゃないが思えない。
1978年、浦河赤十字病院を退院した患者が作ったグループが、べてるの家の源流である。
べてるの家のメンバーは100~150人、浦河町内の十数ヵ所で共同生活をしている。
統合失調症やアルコール依存症などの病気や生きづらさを抱えている当事者だけでなく、浦河赤十字病院の川村敏明医師たち、看護師、ソーシャルワーカーたち支援者も関わっている共同体である。
統合失調症など精神障害者の抱える問題と、非行・不登校・ひきこもり・ニート・家庭内暴力などの対処について同列に論じるのは間違っているかもしれないが、べてるの家と戸塚ヨットスクールの考え方は正反対であり、その違いは大きな問題を提起しているように思う。
それは「治す」とはどういうことかという問題である。
向谷地生良氏(浦河べてるの家理事)によると、日本の精神医療の現状は以下の状態である。
日本の精神医療の予算は年間1兆9千億円ほどだが、予算の9割は医療費に当てられ、福祉に向けられる予算は1割に満たない。
世界中の先進国がベッドを減らしてきたのに、日本の精神保健は、国がどんどんお金を注ぎ込み、病院やベッドを増やし続けている。
その結果、世界の精神科病床の約2割を日本が占めているのが現状である。
「今や入院患者33万人のうち、私の感触では六割以上の患者がいわゆる社会的入院――地域に受け皿があればいつでも退院可能な患者――という状況となり、病院は「医師、看護師付きの下宿」と化した。国際的にもWHOから改善を勧告されるほど、大きな社会問題となっている」
また、精神科の患者が飲んでいる薬の量は、世界の先進国の平均の5倍から10倍の投与量である。
ある当事者が、「このまま、ただ年をとっていくのが不安です」と主治医に話したら、抑うつ状態と診断されて、抗うつ剤を処方された。
別の統合失調症の患者は、毎日20錠ほどの薬を服薬しており、主治医に「薬を減らしたい」と相談したら、「君、大丈夫か?」と言われ、注射を打たれたという。
まさに薬漬けの状況になっている。
「統合失調症などの生きづらさをかかえた当事者は、どこで暮らしているのかといえば、家族がかかえ込むか、入退院をくりかえしているのである。全国各地の講演先では、そのような当事者をかかえた家族の悲鳴にも似た相談が数多く寄せられる」
こうしたことも戸塚ヨットスクールが必要とされる理由の一つだろう。
戸塚ヨットスクール訓練生たちの親は、学校や病院、児童相談所などに相談しても、問題は解決せず、見放され、最後に頼ったのが戸塚ヨットスクールなのである。
しかし、戸塚ヨットスクールが親の期待に応えているどうかは別の問題である。
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「こらーる岡山」かなと思いました。