ベン・ゴールドエイカー『デタラメ健康科学』は製薬会社やメディアを批判している。
たとえば化粧品。
化粧品には、いかにも効能がありそうな、しかし実は意味のない成分が何種類も添加されている。
やり方はインチキ健康商品と変わらない。
なのに高級化粧品が売れるのはなぜか。
たしかにブランドは品質がいいからというよりも、見栄で買うような気がするわけで、我々にも問題はあるのですが。
アメリカ最大手の製薬会社数社は、売り上げ2000億ドルのうち14%しか研究開発に回しておらず、販促費と管理費に31%もふり向けている。
マイケル・サンデル『それをお金で買いますか』によると、パトカーの車体を利用した広告や、刑務所で逮捕直後の被告に向けたテレビ広告(保釈金を貸す業者や弁護士の)があるし、高校の名称の命名権を売り出したりされているというすさまじい状況にいつの間にかなっている。
額に入れ墨で広告を入れる人がいるそうだが、ブランドのロゴ入りの服を着るのも、歩く広告塔という意味では同じかもしれない。
企業とメディアとの関わりという問題もあるわけです。
ベン・ゴールドエイカーはメディア批判に多くのページを割いている。
その中からイギリスでの新三種混合ワクチン(MMR)をめぐる騒ぎをご紹介しましょう。
1998年、新三種混合ワクチンの接種と自閉症は因果関係があるという論文が発表され、予防接種反対運動が起き、製薬会社を相手取って訴訟を起こした自閉症患者もいる。
新三種混合ワクチンの接種率は1996年までは92%だったのに、73%に下がった。
ロンドンのウェストミンスター地区では5歳までに二度の接種を終えた子供は38%だった。
接種率が下がったため麻疹とおたふく風邪が増えている。
この責任は論文を発表した学者だけでなく、メディアが足並みをそろえ、科学的な根拠に対抗してヒステリックな感情論をぶつけることで、MMR反対運動を成功させたことが大きい。
テレンス・ハインズ『「超科学」をきるPartⅡ』もマスコミ報道の問題を取り上げていて、アメリカ政府がUFOの隠蔽工作をしているという陰謀論者の説をマスコミはニュースにするが、冷静で否定的な見解はニュース価値がないとみなしていると批判している。
メディアは受けるかどうかが問題で、世間の不安をあおる内容なら大げさに報じる。
私はこうしたマスメディアの問題を読むたびに、弁護団への異様なバッシングが起き、弁護団を擁護するブログも炎上し、逆に弁護団を懲戒請求するよう煽った橋下徹氏が人気政治家にのし上がってしまった光市事件をいつも思い出す。
医師たちの発言を情報価値のないものにおとしめ、親たちの叫びと対立させる図式をつくって読者の感情をあおった。
これは新三種混合ワクチン(MMR)の接種と自閉症とは関係がないと説明する医師へのメディアの反応だが、「医師」を「弁護人」に置き換えたら光市事件での状況になる。