三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

ベン・ゴールドエイカー『デタラメ健康科学』(2)

2014年03月18日 | 問題のある考え

ベン・ゴールドエイカー『デタラメ健康科学』は製薬会社やメディアを批判している。
たとえば化粧品。

化粧品産業は宝くじと同じで人々の夢につけ込んでいる。

化粧品には、いかにも効能がありそうな、しかし実は意味のない成分が何種類も添加されている。

やり方はインチキ健康商品と変わらない。
なのに高級化粧品が売れるのはなぜか。

こういう商品はぜいたく品であり、その人の地位を示す品物であり、ありとあらゆる興味深い理由で買われるものなのだ。


たしかにブランドは品質がいいからというよりも、見栄で買うような気がするわけで、我々にも問題はあるのですが。

アメリカ最大手の製薬会社数社は、売り上げ2000億ドルのうち14%しか研究開発に回しておらず、販促費と管理費に31%もふり向けている。

マイケル・サンデル『それをお金で買いますか』によると、パトカーの車体を利用した広告や、刑務所で逮捕直後の被告に向けたテレビ広告(保釈金を貸す業者や弁護士の)があるし、高校の名称の命名権を売り出したりされているというすさまじい状況にいつの間にかなっている。

額に入れ墨で広告を入れる人がいるそうだが、ブランドのロゴ入りの服を着るのも、歩く広告塔という意味では同じかもしれない。
企業とメディアとの関わりという問題もあるわけです。

ベン・ゴールドエイカーはメディア批判に多くのページを割いている。

いかにメディアが科学に対する誤解を広めているかだ。メディアは重要でもなんでもない話を熱心に追いかけ、統計や根拠の意味を根本からとり違えている。


その中からイギリスでの新三種混合ワクチン(MMR)をめぐる騒ぎをご紹介しましょう。

1998年、新三種混合ワクチンの接種と自閉症は因果関係があるという論文が発表され、予防接種反対運動が起き、製薬会社を相手取って訴訟を起こした自閉症患者もいる。
新三種混合ワクチンの接種率は1996年までは92%だったのに、73%に下がった。
ロンドンのウェストミンスター地区では5歳までに二度の接種を終えた子供は38%だった。
接種率が下がったため麻疹とおたふく風邪が増えている。

この責任は論文を発表した学者だけでなく、メディアが足並みをそろえ、科学的な根拠に対抗してヒステリックな感情論をぶつけることで、MMR反対運動を成功させたことが大きい。

責められるべきは大勢の記者やコラムニスト、編集者やメディアの幹部である。(略)ひとつの研究をもとに想像をふくらませ、ばかげた話をつくり上げた。その間、ワクチンの安全性を再確認するデータも危険性を否定する研究結果もいろいろあったのに、ぜんぶことさら無視をして、科学的な内容を説明するかわりに「専門家」の言葉を引いて振りかざし、過去の事例から学ばず、無能な記者に記事を書かせ、「怒れる親」対「冷淡な学者」という図式をこしらえて研究者を叩く。何より呆れるのは、ところどころで話をでっちあげていることだ。


テレンス・ハインズ『「超科学」をきるPartⅡ』もマスコミ報道の問題を取り上げていて、アメリカ政府がUFOの隠蔽工作をしているという陰謀論者の説をマスコミはニュースにするが、冷静で否定的な見解はニュース価値がないとみなしていると批判している。

UFOや擬似科学あるいは超常現象の話題になると、ほかの点では申し分のない新聞やテレビ番組でさえ、扇情的な低いレベルに陥ってしまうようだ。

メディアは受けるかどうかが問題で、世間の不安をあおる内容なら大げさに報じる。

私はこうしたマスメディアの問題を読むたびに、弁護団への異様なバッシングが起き、弁護団を擁護するブログも炎上し、逆に弁護団を懲戒請求するよう煽った橋下徹氏が人気政治家にのし上がってしまった光市事件をいつも思い出す。

医師たちが説明しようとしても、その声が怒号にかき消されることもままあった。(略)
医師たちの発言を情報価値のないものにおとしめ、親たちの叫びと対立させる図式をつくって読者の感情をあおった。

これは新三種混合ワクチン(MMR)の接種と自閉症とは関係がないと説明する医師へのメディアの反応だが、「医師」を「弁護人」に置き換えたら光市事件での状況になる。

メディアは物事を見抜く力がないし、責任を取ろうともしないからきっとまた同じ過ちをくり返す。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする