なぜ霊性進化論がはやるのか、つまりニューエイジ・スピリチュアルがブームになるのか、大田俊寛『現代オカルトの根源』によると、こういうことらしい。
大田俊寛氏は、霊性進化論はダーウィンの進化論に対する共鳴と反発によって生み出されたと言う。
なるほど、シュタイナー教育で有名なシュタイナーも神智学の流れを汲んでいて、ダーウィンの進化論を否定しているのもそのためか。そういえば、以前読んだ幸福の科学の雑誌にマンガが載ってて、地獄で苦しむダーウィンとマルクスが出てきました。
ダーウィンの進化論が及ぼした広範な影響についての大田俊寛氏の説明をまとめました。
キリスト教の世界観は地動説によって最初の打撃を受け、地球は宇宙の中心としての地位を追われた。
そして進化論によって、人間は神によって地上の支配者として創造された特別な存在という地位から追われることになった。
そのために人は自己のアイデンティティの基盤を見失うことになる。
マックス・ウェーバーは『職業としての学問』において次のように述懐している。
現代の文明は「無限の進歩」を前提としているため、現代人は必然的に、進歩の過程の途中で死を迎えざるをえない。ゆえに、彼にとって自己の生は、常に不満足で無意味なものに映ってしまう、と。
このような状況に置かれた現代人にとって、霊性進化論はほとんど唯一の福音とも思われるほどに、魅惑的に響く。
肉体が潰えた後も霊魂が存在し、輪廻転生を繰り返しながら永遠に成長を続けることによって、人間は世界の進化と歩みをともにすることができると考えられるからである。
日本ではキリスト教的世界観の崩壊はともかくとして、アイデンティティの崩壊が霊性進化論への共感を呼ぶという指摘にはうなずかされる。
山崎行太郎『保守論壇亡国論』です。
霊性進化論では、生まれてきた目的は霊性を向上させることだと「わかりやすい答え」を提示する。
おまけに、死んでも死なないのだから、死の恐怖もなくなる。
大田俊寛氏は霊性進化論のプラス面とマイナス面を次のように指摘している。
霊性の進化・向上が正の側面とは思えない。
負の側面について、大田俊寛氏は三点を述べている。
霊性進化論においては、人間の有する霊性が実体的なものとして捉えられ、しばしばその性質に対して、レベルや種別の区分が設定される。そして霊性進化論の信奉者たちは、その思想に慣れ親しむうちに、自分こそは他の人々に先んじて高度な霊性に到達した人間であると考えるようになる。また、その集団においては、最高度の霊格の持ち主と見なされる人物が「神の化身」として崇拝され、他の成員たちは、彼の意思に全面的に服従することを要請される。それとは対極的に、集団の思想を理解しない者、その体制や運動を批判する者に対しては、「霊性のレベルが低い」「低級霊や悪魔に取り憑かれている」「動物的存在に堕している」といった差別意識が向けられ、しばしば攻撃が実行される。
霊性進化論の基本的な考え方は、霊格の高い者が低い者を教え導くことにより、世界には正しい秩序が形成されるというもので、つまり上から目線。
霊性進化論の諸思想は、その端緒においては、目に見えない世界の法則をついに探り当てたという喜びと昂奮によって、楽観的な姿勢運動を拡大させる。しかし、その思想や団体が社会的に認知され、一定の批判を受けるようになると、彼らの思考は急激に「被害妄想」へと反転する。すなわち、目に見えない闇の勢力によって自分たちは攻撃・迫害を受けており、真理を隠蔽されようとしていると思い込むのである。その論理はしばしば、闇の勢力が広範囲にわたるネットワークを形成しており、人々の意識を密かにコントロールしているという、陰謀論の体系にまで発展する。
陰謀論者の妄想は本人にとっては真実なのである。
自分たちの主張が社会から認められないのは陰謀のせいだというのは、陰謀論者の常套文句。
霊性進化論は、「人間の霊魂は死後も永遠に存続する」というプリミティブな観念を、近代の科学的な自然史や宇宙論のなかに持ち込もうとする。その結果、地球上に人類が登場する前から、さらには地球が誕生する前から、人間の霊魂がすでに存在していたという奇妙な着想が引き寄せられることになる。そしてこのような論理から、人類は地球に到来する前に別の惑星で文明を築いていた、あるいは、有史以前にすでに科学文明を発達させていたなど、超古代史的な妄想が際限なく膨張してゆくのである。歴史は、光の勢力と闇の勢力が永劫にわたって抗争を続ける舞台となり、両者の決着が付けられる契機として、終末論や最終戦総論が説かれることもある。
ムーとかレムリアとか。
もう一つ、レイチェル・ストーム『ニューエイジの歴史と現在』に指摘されているこういう問題もある。
科学、そして科学的思考の否定。
大田俊寛氏は結論としてこのように述べる。