三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

奥秋義信『残念な日本語』1

2012年01月07日 | 

私は敬語の使い方がよくわからないので、新聞の書評で知った奥秋義信『残念な日本語』を読んだ。
私が知らなかったこと、私も間違えていたことがたくさんあって、目から鱗でした。
『残念な日本語』には、敬語に限らず、間違った言葉遣いの実例が数多くあげられているが、すべて実際にテレビで放映されたものである。
新聞などの活字媒体と違って、テレビだと番組を録画して、どういうふうにしゃべったかを確認しないといけないわけで、これは大変な作業である。

間違った敬語を使うのは「弱者の心理」が働くからだと奥秋義信氏は言う。
「弱者の心理」とは「大勢の人が見ている、誰がいるかわからない、自分の能力以上の人がいるだろう、批判されたら困る、といった心の働き」である。
たしかにねえ、いい格好をしようと思って失敗しがちではあります。

現代敬語には二つの大原則がある。
1,敬語は人間関係を表す言葉遣いである。
2,二重敬語はどんな場面でも用いない。

「夏目漱石がおっしゃった」「象にバナナをあげようとした」とは言わない。
夏目漱石とは現実の人間関係がないからだし、象は人間ではないから。

普通に使っている言葉でも二重敬語がある。
「亡くなられる」がそうで、「亡くなる」は「死亡」の尊敬語で、それに「れる」をつけて二重敬語になっている。
「おっしゃられる」「ごらんになられた」も二重敬語。
「お亡くなりになる」は二重敬語ではないが、「お亡くなりになられた」だと三重敬語。

皇室報道でよく使われる「ご出産される」「ご静養される」もおかしい。
まず、二重敬語だから。
そして、「ご~される」は謙譲表現の変化だから。

「ご~する」は自分側の動作を低めて表す謙譲語である。
たとえば「ご協力できません」「本日中にお届けできます」というふうに。
ところが「ご利用できます」だと、客や利用者をへりくだりさせた表現になる。

「お~する」「ご~する」という謙譲表現と、「お~になる」「ご~になる」という尊敬表現とを取り違えてごっちゃにすることが多い。
たとえば「ご指導してくださる」も、「ご指導する」という謙譲語と、尊敬語の「ご指導くださる」が一緒になっている。

「ございます」は「ある」「である」の丁寧語なので、動作を表すには「おります」でなければおかしい。
たとえば「用意してございます」は間違いで、「用意しております」が正しい。
「とんでもございません」も間違い。
「とんでもない」で一つの言葉だから、「ない」を「ございません」に交換はできない。
たとえば「あぶない」を「あぶございません」にはしないように。
正しくは「とんでもないことでございます」である。

「日本語には主語がない」とよく言われるが、奥秋義信氏によると「主語がないのではなく、敬語によって、主語が暗示されている」
たとえば謙譲表現の場合、主語は自分側に決まっているので「私は」は不要となる。

間違った使い方だと思われがちだが、実は正しいのが「よろしかったでしょうか」で、現在完了の確認形なのでOK。
「させていただく」も正しいそうだが、私としては慇懃無礼な感じがして気に入らない。

気に入らないと言えば、買い物をしたときに「一万円からでよろしかったでしょうか」と言われること。
どうして「一万円でよろしいですか」と言わないのか。
「から」と「より」は似ているようで違っていて、「から」は起点を表す言葉で、「より」は比較を表す言葉。
だから、「心よりお礼申し上げます」は間違いで、「心から」にしないといけない。
ウィキペディアによるとバイト敬語というのがあって、「一万円からで」云々もその一例。
「一万円から」は計算の起点を表し、一万円から買った金額を差し引いておつりを出しますよ、ということらしい。

間違い丁寧語と言えば、「ら」抜き言葉、「さ」付き、「れ」足す。
奥秋義信氏は「ら」抜き言葉は日本語の進歩だが、「さ」付きはルール破りだと言う。

「さ」付きとは「乾杯の音頭をとらさせていただきます」で、ATOKだと「さ入れ表現」とある。
「送らさせて」「読まさせて」「乗らさせて」などなど。
使役形の「させる」と「いただく」を併用して、へりくだる言い回しになるという勘違いらしい。

「れ」足すというのは、「試乗車には誰でも乗れれますか」「すぐに住めれますか」「感じてもらえれる」「書けれる」「飲めれる」「泳げれる」などなど。
「れ」足すは私も使うので、ネットで調べたら、「れ」足すは西日本で生まれた言い方だとある。
「ら」抜きも方言だし、「れ」足すはちょっと丁寧な言い方の方言じゃないかと思うのだが。

コメント
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