三日坊主日記

本を読んだり、映画を見たり、宗教を考えたり、死刑や厳罰化を危惧したり。

スティーヴン・レヴィット『ヤバい経済学』

2007年06月09日 | 

経済学なんてどこが面白いのかとずっと不思議だったが、スティーヴン・レヴィット『ヤバい経済学』を読んで、なるほど、これなら面白いと思った。

みんなが本当に気にしていることを疑問として立て、みんなが驚くような答えを見つけることができれば ― つまり、通念をひっくり返すことができれば ― いいことがあるかもしれない。


どういう「いいこと」があるのか。
たとえば、クラックの売人はどうしてママと一緒に住んでいるのか、という疑問。
街角に立っている売人の時給は3.3ドルで、最低賃金より低い。
売人では食べていけないので、親と同居せざるを得ないというわけである。
調査した4年間で、売人の4人に1人は殺される。
このことを知ったら売人になろうという人は減るかもしれない。

他にも「いいこと」がある。
アメリカでは白人と黒人の名前はかなり違っており、子供の名前トップ20を比べると、重複する名前はない。
しかも、親の教育水準や所得によっても子供の名前が違っている。

彼の名前は彼の行く末を決めるものではなく、映すものだ。


エイミー、ダニエル、エリカ、ジェニファー、ジェシカ、メリッサ、レイチェル、レベッカ、サラ、ステイシー、ステファニー、トレイシーなどはもともとはユダヤ人の名前で、それが1960年以降、非ユダヤ系にも広まった。
こういう知識は話のネタになるという「いいこと」がある。

専門家はマスコミが必要だし、マスコミも同じぐらい専門家が必要だ。新聞の紙面やテレビのニュースは毎日埋めなければならないわけで、人騒がせなことをしたり顔で喋れる専門家はいつでも大歓迎だ。マスコミと専門家が手に手を取って、ほとんどの通念をでっち上げている。

そういえば、事件や裁判があると必ずと言っていいほど新聞の「識者談話」に登場する元検事(厳罰を主張するあの方です)や、健康番組に出てくる大学教授がいる。
『ヤバい経済学』ではホームレス擁護派、女性の権利推進派、政治アドバイザー、そして警察が「専門家」としてあげられている。

凶悪殺人鬼。イラクの大量破壊兵器。BSE。幼児の突然死。専門家はまずそういう怖い話で私たちを震え上がらせる。そうしておいてアドバイスをするから、とても聞かずにはいられない。誰がそんな怖い話を売り歩く専門家に弱いといって、親ほど弱い人たちはいない。

養子に出された赤ん坊の研究によると、子供の個性と育ての親の個性はほとんど関係がない。
だから、「親が何をするか」は子供の学校の成績と相関しておらず、「親がどんな人か」ということが問題なんだそうだ。

寝る前に子供に本を読んでやるのは「親が何をするか」だから、子供に本を読むことと、子供が本好きになることは関係がない。
家に本がたくさんあるのは「親がどんな人か」ということ。
つまりは、親が子供の将来のためにと思って何かしたからといって、子供のためにはほとんど関係ない。

というように、知るということは大切なことである。
子供のころ、夜中に便所に一人で行くのは怖かったが、大人になっても怖いという人はいない。
病気についてもそうで、今は医者が説明するようになったし、我々もいろんな知識を持っているから、ガンを宣告されたからといって、以前のようにおびえることは少なくなった。
知ることによって、不安や怖れはなくならないまでも、少しは楽になる。

あるいは、詐欺の手口を知れば、だまされにくくなる。
事件が起きると、多くの人は治安が悪くなっていると不安に思い、厳刑を求めるが、犯罪はそれほど多くはなく、治安は良好だと知れば、ヒステリックも少しはおさまるのではないだろうか。

アメリカは犯罪が多くて怖いとこだと思っていたが、1990年代の初めに犯罪発生率が下がり始め、40年前の水準に戻るまでその傾向は止まらなかったそうだ。
なぜ犯罪が減ったのか。

投獄率の高さ、警官の増員は犯罪の減少に効果があった。
しかし、死刑や割れ窓理論といった取り締まり戦略は効果がない。
好景気や人口の高齢化が減少の原因ではない。

一番の原因はというと、中絶の合法化である。
1973年に中絶は全国的に合法になり、望まれないで生まれる子供が減った。
こういう子供たちは家庭環境が悪いから、生まれていれば普通より罪を犯す可能性が高い。
生まれてこなかった子供たちは犯罪予備軍になっていたはずであり、犯罪予備軍が劇的に減少したから犯罪が激減した。

若い男の子が一番犯罪者になりやすい年代は10代後半である。
1973年+17年は1990年。
実際に1990年ごろから犯罪発生率が下がり始めている。
オーストラリアとカナダを調査してみても、中絶合法化と犯罪に同じような関係があった。

もっとも、浜井浩一氏の話だと、犯罪が減少したのは中絶の合法化の影響だということは、犯罪学者の間では以前からささやかれていたそうだ。
しかし、そんなことは怖くて論文にはできなかった。
レヴィットは畑違いの経済学者だからあっさり発表して、物議を醸してしまった。

浜井浩一氏によると、日本でも中絶合法化と犯罪の減少とは関係がある。
昭和23年に優生保護法が実施されて中絶が認められるようになった。
日本では昭和30年代から犯罪が減少している。
それは犯罪のピークが15歳だからで、15を足すと昭和38年になる。

コメント (7)
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