水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<27>

2015年05月10日 00時00分00秒 | #小説

 その頃、久しぶりにブラつくか…と、タコは雨がやんだ灰色の空を眺(なが)めながら塒(ねぐら)を出た。塒はドラに譲(ゆず)ってもらった野原になっている空き地の土管だ。過去は米、麦、菜種、レンゲが植えられていた土地も、いまや耕作放棄され、荒れ放題だ。
『俺にとって住み勝手はいいが、恐らく建物か駐車場になってしまうのが落ちか…』
 タコは情けない国になったもんだ…と、野原を歩きながら思った。ゴロツキ猫のタコが思うくらいだから困った国だが、文明は勝手にどんどん進んでいき、どうしようもない。俺も人間に生まれていれば、もう少しいい社会に出来たかもな…と悪猫のくせに生意気を思いながらタコは小鳩(おばと)邸をスタスタとめざしていた。時を同じくして、ツボ巡査も小鳩邸をめざしていた。二匹は遭遇接近していたのである。サトイモの葉は雨がやんだから道端へ置き、また、帰りに持って帰るか…くらいの軽い気分のツボ巡査だった。タコがツボへ入るのか、ツボが先着してタコを取り逃がすのか・・は、神のみぞ知るだ。
 先着の結果はツボ巡査の方が、わずかに早かった。とはいえ、ほとんど鉢合(はちあ)わせで、タコはツボへ入る破目になったのである。
『お前が、この辺りを徘徊(はいかい)しているドラの手下だな!』
 タコとすれば、そのとおりだから神妙にするしかない。こりゃ、厄介(やっかい)なのに出会っちまったもんだ…とタコは軽く頭を下げ、黙んまりを通した。こうなっては仕方ない…と、ツボ巡査は強行策を取ることにした。


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