『黙秘権か…。まあ、それも、よかろう。どちらにしろ、交番へ来てもらうことになるんだからなっ!』
『ち、ちょっと待って下さいよ、旦那…』
タコにしては珍しく、猫なで声を出した。
『聞いたとこによれば、お前、ここのお嬢さんに、ちょっかいを出しているそうじゃないか』
『誰が、そんなこと言ったんです。おいらが、そんなことする訳ないじゃないですか』
『ネタは上がってんだよ。隠そうたって、そうはいかんぞ!』
ツボ巡査は、声を少し荒(あら)げた。
『…参りました。旦那にかかっちゃ隠せねえや…』
タコは、うそぶいてツボ入りした。さすがに刑事を目指すツボ巡査だけあって、尋問(じんもん)は鋭(するど)かった。
『まあな…。なにも、ここを通っちゃいけないと無茶、言ってんじゃない。通るのは、大いに結構だ。天下の公道だからな。ただ、ちょっかいは、いただけない。ところで、そんなに綺麗なのか? ここの、お嬢さん』
『へえ、そらもう…』
タコは、すぐ肯定した。確かに、みぃ~ちゃんは小次郎がホの字になるほどの器量よしで、チンチラとアメりカンショートヘアーの混血ながら美人、いや、美猫だった。若いツボ巡査の関心を引かない訳がない。ツボ巡査の壺(つぼ)は横にひっくり返った。中に入って出られなかったタコは出口を得た。
『ともかく一度、会って、苦情内容を訊(き)いておく必要があるな…』
ツボ巡査は腰を下ろし、尻尾(しっぽ)の先を右に左にと振った。