水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<24>

2015年05月07日 00時00分00秒 | #小説

 その日、古いリンゴの木箱の中で、二匹が寝転んでいるところへ小次郎が通りかかった。
『へへへ…、今度、着任しましたツボです。以後、ご昵懇(じっこん)に…』
 ツボ巡査は寝転んだまま、片方の耳先を少し動かし、敬礼する仕草をした。小次郎は、ご昵懇とは…と、偉く古めかしい言葉を使う巡査だ…と思った。だが、よくよく考えれば、老いたぺチ巡査と相性がいいコンビのようだ。ただ、へへへ…は少し軽いぞ…と、小次郎が頼りなく感じたのも事実である。
『いや、こちらこそ…』
 小次郎は腰を下ろすと、背を伸ばして尻尾(しっぽ)をクルリと身体に巻きつけ襟(えり)を正した。そして、紋切り型の猫語でタコ巡査に挨拶を返した。
『つきましては、この前の一件ですがな。とりあえず、ツボ君に警らささせることにしました。手立てのいいのが、まだ浮かびせんでな…』
 ぺチ巡査は、寝そべったまま、警官らしくない緩(ゆる)みっぱなしの姿勢で言った。
『はあ…。とにかく、よろしくお願いします』
 自分の力ではどうしようもない以上、小次郎としては、全てを委(ゆだ)ねるしかなかった。いずれにしろ、タコがみぃ~ちゃんにチョッカイを出さなくなればいいのである。要は、小鳩(おばと)邸へ近づかなくなればいい訳だ。ぺチ巡査に有効手段が見つかっていない以上、タコがみぃ~ちゃんに近づかない対策としては、とりあえずツボ巡査のこまめな警らしかない。


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