水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<30>

2015年05月13日 00時00分00秒 | #小説

 タコが駆け去ったことで、事は終息したかのように見えた。が、しかし、みぃ~ちゃんの一件はややこしくなる序章に過ぎなかった。
 新(あら)たな事の勃発(ぼっぱつ)は、その二日後である。気まま一人旅の風来坊猫、海老(えび)熊の出現だ。海老熊は数年かけてアチコチを旅する風来坊猫で、ひと周(まわ)りして最初の地へ戻る習性がある猫だった。風来坊猫といっても、いつぞやの老いた俳猫、股旅とは一線を画す風来坊猫で、与太猫のドラと肩を並べる悪猫だった。その海老熊が現れたという情報が猫警察署に入ったのである。十数匹の猫暑員は、こりゃ、おおごとだ! と、色めいた。その情報が本署を訪れた交番猫のぺチ巡査の耳へ入った。
『ツボ君、こりゃ偉(えら)いことになったぞ。君の出番だ!』
 ぺチ巡査は意気込んで言った。
『えっ? どういうことです…?』
『いや、なに…。蛸(たこ)伏せ漁だよ、ははは…』
 ぺチ巡査は海老の天敵である蛸を利用した漁を、ふと思ったのだ。ツボ巡査にタコを獲(と)らせ、その蛸を利用して海老熊を釣ろうと…。なんとも馬鹿げた発想である。年でボケた訳ではないのだろうが、何を思ったのかぺチ巡査はツボ巡査とタコで壺に入った蛸を連想し、その蛸で海老を威嚇する蛸伏せ漁を頭に浮かべたのだった。海老の天敵は蛸・・という単純な閃(ひらめ)きである。
『蛸伏せ漁?』
 ツボ巡査は言葉の意味が理解できず、尻尾(しっぽ)を下げた。人間で言えば、首を傾(かし)げた・・となる。


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