水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<33>

2015年05月16日 00時00分00秒 | #小説

 いつの間にやら季節は進み、秋風の冷たさが身にしみる夕暮れ時となっていた。これからの季節、飼い猫達は別として、野良や渡り猫には厳(きび)しさが増す季節となるのだ。海老熊もそれを考え、出来るだけ暖かく冬を過ごせる地へ渡っていた。それが今回は、候補地の一つとして小次郎が住むこの地となったのだ。与太猫のドラやその配下のタコなどは、この地に居つくごろつきの野良だったが、風来坊猫の海老熊には一目(いちもく)置いていた。
 里山家横の公園には、野良にとっては格好の場所がいくらもあった。すでに使われなくなった公園でもあり、荒れ放題が返って野良猫達を住み易(やす)くしていた。のっそりと現れた海老熊は辺りを見回した。人気(ひとけ)、いや猫気(ねこけ)は感じられない。海老熊は適当に寛(くつろ)げる場を物色し始めた。野良猫がまったくいなかったのかといえばそんなことはなく、彼等は息を潜(ひそ)め、気配を消していたのである。海老熊は彼等にとっては恰(あたか)も台風の襲来だった。
 辺りは、すっかり暗くなっていた。海老熊はフゥ~~っと一つ溜め息を吐(は)いて、重そうに腰を下ろした。
『こういう夜は、演歌が似合うぜ…』
 海老熊は偉(えら)そうに呟(つぶや)いた。人間なら寒さに襟(えり)を立てて、格好よく言うところだが、海老熊は長旅ですっかり疲れ、格好をつける余裕がなかった。加えて、そんな男前猫、今で言うイケメン猫でもなく、はっきり言えば不器量だから、まったく様(さま)にならない。そんな海老熊が目を閉じたとき、里山家を抜け出た小次郎が公園へ入ってきた。毎日、ジョギング代わりにやる夕食後のひと周(まわ)りだ。


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