水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<32>

2015年05月15日 00時00分00秒 | #小説

『蛸(たこ)を獲るには壺(つぼ)を仕掛けて、蛸入りを待つじゃないか。アレだよ』
 ぺチ巡査は自信あり気に口毛(くちげ)を動かした。人間で言う、口髭(くちひげ)を撫(な)でる仕草だ。
『それにしても、タコを追っ払ったのは拙(まず)かったです』
『いや、それはそれで仕方ないじゃないか。一度は、追っ払っておかんと、タコのやつ、またみぃ~ちゃんにチョッカイをだすかも知れんからな』
『それもそうですね。みぃ~ちゃんから被害届けが出てるんですから、とり敢(あ)えず、追っ払ったのは正解でしたか…』
『そういうことだ。ただ、タコの足が遠退いたのは否(いな)めないが…』
『根気勝負になりそうですね』
『ああ。海老熊がこの地へ早く渡ってこないことを祈るのみだ…』
 ぺチ巡査は疲れたのか、大 欠伸(あくび)を一つ打って、身を交番のリンゴ箱へグッタリと埋(うず)めた。
 ぺチ巡査の心配どおり、海老熊は丁度その頃、里山家の横にある公園を歩いていた。日も傾き、辺(あた)りを暗闇(くらやみ)のベールが覆(おお)おうとしていた。
『おっ! 久しぶりの公園だぜ。今日はここを宿にするか…』
 海老熊は、のっそりと歩きながら、一人ごちた。海老熊は公園に植えられた樹木の下へ入った。管理されていない公園は荒れ果て、貧相な佇(たたず)まいが広がっている。
『あい変わらずの荒れっぷりだが、俺の身体には合ってるぜ』
 嘯(うそぶ)くと、海老熊は片手で顔を撫でつけた。他の猫と違うのは、撫でつける方向だ。普通猫だと上から下へ・・なのだが、海老熊は下から上へ・・だった。


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