水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<22>

2015年05月05日 00時00分00秒 | #小説

 小次郎にはぺチ巡査が笑った意味がすぐ理解出来た。蛸(たこ)釣り漁に壺(つぼ)は欠かせない。壺にローブを巻いて海中へ沈めるのだ。すると、どういう訳か、蛸はいい塒(ねぐら)だ! とばかりに中へ入る。あとは、ロープを引き揚げるだけ・・という寸法である。タコ対策にツボ巡査を・・で、ぺチ巡査は笑ったのだ。
『その、ツボ巡査は、いつ頃、赴任(ふにん)されるんです?』
『本署で訊(き)いたところでは、数日中とか言っておったな、確か…』
 ぺチ巡査はべったりと古びたリンゴの木箱の中で横たわったまま欠伸(あくび)をした。本署は里山の家からそう遠くない神社境内にある拝殿下にあり、十数匹の猫が集まる。猫警察署員だけあって、辺りを徘徊(はいかい)する野良とは一線を画す。全てが飼われ猫なのだ。
『そうですか…。今回も一つ、よろしくお願いします』
『いやいや、与太猫のドラの配下だから、こちらとしても放ってはおけんよ。また、急ぎ働きをする危険性もあるからね…』
『火付け盗賊改め方ですか?』
 里山家のテレビで知った時代劇ドラマを思い出し、小次郎はニタリ! とした。
『そうそう、それそれ!』
 小次郎は一瞬、古いな…と思えたが、思うに留めた。ぺチ巡査もどこやらという家の飼われ猫で、古いリンゴ箱の交番まで日々、通勤しているとは、小次郎が直接、本人ならぬ本猫から聞いた情報だった。


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