水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<34>

2015年05月17日 00時00分00秒 | #小説

 小次郎の第六感がいつもと違う何かを感知した。小次郎は公園の前の歩道を歩きなが、おやっ? と、公園をチラ見した。運が悪いことに、海老熊は本腰を入れて眠ろうと大 欠伸(あくび)を一つ打ったあと、一度、鈍(にぶ)く瞼(まぶた)を開けた。その視線の先におやっ? とチラ見した小次郎の姿があった。
『そこのお若けぇ~~の、お待ちなせぇ~~』
 海老熊は最近、覚えた歌舞伎の台詞(セリフ)で、ひと声、大音声(だいおんじょう)を発し、歌舞伎役者が見栄を切る動きを思い浮かべながら尻尾(しっぽ)を右に左にと振った。
 小次郎は、文句なく驚いた。まさか、この夜更けに大声で呼び止められようとは…といった心境だ。それに今は、言われるまでもなく立ち止っていたから、待てと言われても、その先、どうすればいいのか分からない。小次郎は仕方なく、その場へ腰を下ろした。木影に加え、暗闇だから海老熊の姿は小次郎からは見ない。
『くるしゅうない! 近(ちこ)う近うぅ~~!』
 今度は殿さま語りで海老熊は小次郎を招き寄せた。小次郎とすれば、なんだ? いったい誰だ? という気分になりもする。仕方なく、座ったばかりの腰を上げ、ノソリ・・ノソリと声がする方向へと歩き始めた。自分が捨てられていた公園だけに、暗闇でも臆(おく)することはなかった。小次郎とすれば、なんだ? いったい誰だ? という気分になりもする。仕方なく、座ったばかりの腰を上げ、ノソリ・・ノソリと声がする方向へと歩き始めた。自分が捨てられていた公園だけに、暗闇でも臆(おく)することはなかった。それにしても、歌舞伎とは…と、小次郎はその何者かに近づきながら考えた。猫で歌舞伎を知っているとなれば、相当、人間世界で場数(ばかず)を踏んでいるベテランに思える。それに声自体が若猫風ではなく年配っぽい。


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