久しぶりに出会った大学同期の篠崎と下川は大学に向かって歩いていた。
「あれっ? ここは平塚ビルじゃなかった?」
下川が首を捻(ひね)った。
「ははは…、いつのことを言ってんだ。半年前から元山クリニックじゃないか」
篠崎は上手に出て笑った。
「あそこも変わってる…。嶽地(たけち)煙草屋だったけどな」
「ああ、今はメイド喫茶だぜ。こんな近くに出来て勉強できんのか? ははは…」
「だな…。あの世の冥土じゃなくメイドか、ははは…。よく、OKでたな」
「まあ、風俗系じゃない喫茶だからさ」
「そうか…。ご時世ってやつだ。まあ、二十五年前と今じゃな」
「ははは…そういうこと」
二人は笑いながら大学正門を入った。
「あれっ? 校舎は?」
「変わったって、この前、年報に出てたろ?」
「年報に? 見落としたか…。跡地は駐車場なんだ」
「ああ…。俺は大学職員だから、構内のことは何でも訊(き)いてくれ」
「そうだったな」
「付近も大部分は分かる!」
自慢げに篠崎は言った。
「そういや、お前も変わったな。単位ではあれだけ小心者だったお前がなあ~、ははは…」
今度は下川が笑って上手に出た。
「氷は溶ける。建物も変わるし、人も変わるさ…」
篠崎は危うく踏んばった。
「ああ…。変わって欲しくはないけどな」
「新しいものでも古いものでも、いいものはいいし悪いものは悪い」
「変わるのは、悪いものであって欲しい」
「そうだな…。飽くまで理想だが…」
二人は食堂の椅子へ座った。篠崎と目が合った賄いの寿子がニコッ! と笑って頭を下げた。篠崎も笑いながら会釈した。
「少し老けたけど、おばちゃんは変わらんな」
「ああ…」
気づいた下山も笑顔で会釈した。その瞬間、食堂から見た外の風景が一変した。黄色く色づいた銀杏(いちょう)の葉が、取り壊されたはずの古い校舎にハラハラと舞い落ちていた。二人は目を疑った。
THE END