水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<25>

2015年05月08日 00時00分00秒 | #小説

『巡回しなくてもいいんですか?』
 リンゴ箱の中から動きそうにない怠惰(たいだ)な二匹を見て、小次郎は催促した。これじゃ、僕の方が、おまわりじゃないか…と小次郎には思えた。
『気持は動いとるんですがね、ははは…身体が』
 ぺチ巡査は気楽そうに笑った。笑ってる場合じゃないだろうがっ! と、少し怒れた小次郎だったが、そこはそれ、ぐっと我慢した。
『それじゃ先輩(せんぱい)、私、回ってきます』
 先輩? と小次郎は疑問に思った。ぺチ巡査は巡査長だから、片方の耳先を少し動かす敬礼はともかく、巡査長、回ってきます…と言うのが相場だ。
『ぺチさんの後輩なんですか?』
 小次郎は徐(おもむろ)にぺチ巡査に訊(たず)ねた。
『ああ…竹下村塾のね』
『竹下村塾? 長州藩みたいですね』
『ははは…。こちらは今もある、あの竹林の中の塾(じゅく)だよ』
 ぺチ巡査は器用に尻尾(しっぽ)を曲げ、その方角を示した。猫交番から少し離れたところにある竹林は、小次郎も知っていた。ただ、その中に塾があることを小次郎は知らなかった。最近、住み着いた風来猫が始めた塾だそうで、野良も含めてたいそう人気があるという。ぺチ巡査は巡回中に知り、最初に入門したようだった。しばらく遅れでツボ巡査が入ったらしい。ツボに入るのではなく、ツボが入ったのだ。


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