『そうなの。先生、お願いね』
『任せなさい…』
先生と呼ばれ懇願(こんがん)されれば、小次郎も、そう悪い気はしない。そこへ互いに[ホ]の字となれば、これはもう小次郎としては、なんとかせねばならなかった。小次郎は、腰を上げるとその足で交番へスタコラと向かった。
みぃ~ちゃんの邸宅から小次郎の家までが車で約10分ばかりかかる。小次郎の足だと、早足でも20分以上はかかる行程だから、そう度々(たびたび)は足を運べなかった。ぺチ巡査が常駐する交番へは、家に着く時間と余り変わらず、ほぼ同じだった。
『フゥ~~おお、小次郎君じゃないか…。忙しいのかい? しばらく見なかったね』
ぺチ巡査は巡察から帰ったところか、完璧に疲れ、寝そべって小次郎を見上げた。
『お疲れでしたね。僕と入れ違いだったようで…』
『そうそう、みぃ~ちゃんが危なかったんだよ』
『聞きました。なにかいい知恵はありませんかね?』
『アソコまでは少し遠くなったな…。すっかり疲れちまったよ。新任のツボ巡査と交代しよう』
『異動ですか?』
『いや、そうじゃないんだ。本署に若手をお願いしていたんだよ。私一人じゃ、大変だからね。定年までは、もう少しあるしな、ははは…』
ぺチ巡査は鼻毛(はなげ)を震わせて笑った。