水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

コメディー連載小説 里山家横の公園にいた捨て猫 ④<19>

2015年05月02日 00時00分00秒 | #小説

 通用門を開けておけば小次郎の出入りも自由になるのだが、小鳩(おばと)婦人がそれまで警戒していた野良猫達にもチャンスが巡ることを意味した。そして運悪く、みぃ~ちゃんがヒョイ! と通用門を出たところへ通りかかったのが泥鰌(どじょう)屋のタコだった。タコにしてみれば、オッ! 綺麗なのが出てきたぞ…といったところだ。当のみぃ~ちゃんの方は、そろそろ来るかしら? 先生…ぐらいの小次郎を待つ気分で出たのだ。このときは幸いにもそれで済んだが、吸盤のようなタコのシツコさはその後も尾を引いた。腕っ節(ぷし)は与太猫のドラほど強くはなかったが、タコはどうしてどうして、与太猫ドラの右腕と目されるだけあって、なかなか狡賢(ずるがしこ)かった。みぃ~ちゃんが出てきた頃合いを記憶して頭に叩(たた)き込んだのか、その時分になると、ちょくちょく顔を見せて通用門を窺(うかが)うようになった。最初のうちは窺うだけでよかったのものが、二匹の出逢いを目にしてから、タコの態度は豹変した。人間世界にもこの手合いはいるが、猫の世界も同じである。
『へへへ…綺麗なねぇちゃんよぉ~、俺とも付き合わねえかっ!』
 小次郎が引き揚(あ)げたのを見届け、タコはみぃ~ちゃんに近づいて、ニャゴった。人間だと凄(すご)んだ・・ということになる。
『フン! なによっ、あんたなんか!』
 みぃ~ちゃんがひと目でタコを袖(そで)にしたのも悪かった。
『なにっ!!』
 タコの闘争本能に火がつき、尻尾を居丈高に振り上げた。そこへヒョコヒョコと現れたのが交番猫のぺチ巡査だった。


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